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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【前編】。
131/265

第6話 脅威を超えた危機と彼の決断。

三日目の魔導杯である。

ジークは試合の為、サナとミルルと一緒に移動していた時であった。……トオルはまだ試合時間ではない為、拠点で待機している。


「……」

「「……」」


普段浮かべている笑みすらなく、どこか重苦しい雰囲気を醸し出して歩いているジークにサナとミルルは不審そうに横目で見ている。


いつものジークと違う様子に、二人とも少なからず困惑していた。


「……ねぇジーク」

「ん? なに?」


だから気になってしまって、しょうがなかったのだろう。

なんだか声がかけにくいジークに対しても、サナは普段と殆ど変わらない態度で声をかけたのである。


「何じゃないわよ。朝から変な顔して、気が散ってしょうがないのよ……」


接し方も普段と変わらないが、どこか声音に勢いがない気もする。……それだけ今のジークはおかしかったのだ。


(ホント信じられないわ。こんな顔、アリスの前でもなかったじゃない)


───────酷く思い詰めている。いつもお気楽そうに笑ってばかりのジークから想像もできない。


いつも敵対意識を持っているサナですら、少々心配になってしまっていた。……だがそれもアイリスが出てくるようになり、彼と戦ったことによる変化かもしれない。


少しずつだが、まだ完全に決別してなかった頃の二人の関係に戻りつつあるようにも見られた。


「……何かあったの?」


そしてその変化は僅かだが、ここに確かにあった。少しだけ不安げな顔でサナが顔をジークに寄ってきている。……以前の彼女ならありえなかった表情と仕草だ。


(……サナさん、少し変わった気がする)


二人に並んで間近で見ていたミルルにもその彼女の変化は見られた。……が口に出すと怒られそうなので、サナと同じようにジークを心配そうに見つめている。


「サナさんの言う通りだよ、今日のジーク君は何か変だよ?」

「……」


ミルルもサナに賛同してジークに顔を向けてくる。こちらの方が寧ろ素直である。心配げな顔を隠そうとしない。


だが、そんな二人に対して当のジークはどこか、困ったような顔で二人を見ると。


「う、う〜〜ん、ちょ、ちょっと詳しくは言えないが、昨日の夜に色々あってな。……たとえで言うなら、蒔いたつもりのない種がいつの間にか成長して、でこれまた狙ってないのに変な芽として出てしまった…………ような?」

「「………………」」


本人も言葉が思い付かないのか首を傾げた様子で、意味の分からないたとえで答えてしまう。……なので真面目に聞いていた二人と顔を合わせ難く、見ていられなくなって途中で顔を逸らしてしまった。


あと沈黙が地味に辛いようだ。


「…………ごめん、ちょっとよく分からないのだけど」

「私もちょっと、ジーク君の言ってること分からないかなぁ……」

「……いや、こっちこそ、なんかゴメン」


────────女性達には荷が重過ぎたのだ。ジークはそう自分に言い聞かせて、三日目の最初の試合に向かうのであった。



◇◇◇



「……はぁ、やっぱ俺の責任だよな。奴らが俺の魔力を手に入れたの」


午前の試合も完勝で収めたジークであったが、その心境に勝利の喜びは一切なく、昨日の一件のことで頭がいっぱいであった。


試合相手は妖精国の一年の女子生徒で、決着風系の専用技『翠風の音爆(グリーン・ボム)』と『零の衝撃(ノーマル・インパクト)』を連続使用して、強烈な爆風と衝撃波で相手を吹き飛ばして気絶させた。


少々乱暴な決着であったが、今のジークにそんな気遣いをしている余裕がなかった。

それよりも昨日の事態について整理をつけたかった。……狙っている《雷槍》との試合が始まる前に。


(結局昨日は混乱して全然思考が回らなかった)


ようやく落ち着いた時には既に日が差しており、ジークは一睡もせず試合場にやって来たのである。


疲れたような深い息をついたジークは、会場内のロビーにある適当なソファーに座ると、気を落ち着かせようと体をもたれ掛ける。


(奴の主人というのは誰か分からないが、……奴の言葉と俺の予想が同じなら恐らく教祖ではない。……誰なのかまったく予想できないが、俺の力を手に入れたのは鬼神戦の時か(・・・・・・)あの時くらいだ(・・・・・・)


その時のことを脳裏に浮かべるジーク。俯いて辛そうにしているが、あの頃の自分の行いを否定することは彼にはできない。


帝国に乗り込んで彼が(おこ)っなた、大魔法の嵐である。

その頃の彼には戦うこともできない一般人にも遠慮などなかった。一切考慮することなく、まとめて攻撃し続けたのである。


国内にある拠点を次々と破壊し、攻めて来た者達や守りに入っている者達、また非戦闘員で隠れている者達をジークは超広範囲の殲滅魔法で仕留めていった。


次々と破壊していったジークはその夜にも、帝国最大の拠点でもある帝都に攻め入ってみせた。


そして三日間、ジークは加減せずフルに魔法を行使し続けたのだ。

だからその地には彼の魔力が多量に含まれている筈なのだ。


(恐らく魔石などで吸収させた後に取り込んだというところだが、……いや、本当に信じられない。俺の魔力を死人を使って受け入れさせるとは)


死霊の墓荒らし(ネクロマンシー)》が言っていた実験という単語をジークは思い返す。


死霊の墓荒らし(ネクロマンシー)》、そして配下にしていた二人にはジークの魔力が確かに宿されていた。……が《死霊の墓荒らし(ネクロマンシー)》自身は調整して、脅威と思えるレベルの魔力を大量に身に宿していた。


(その為の禁呪なんだろう。俺の魔力を取り込ませて利用する為に……だとしてもビックリだな)


実験とは恐らく、自分の魔力を体内に取り込むことであるだろうが、異質な力であるジークの魔力は普通の人間では決して受け入れられない────────不可能な物だったのだ。


ジークの師達もそうだが、大戦時、ジークの魔力を調べようと戦場に漂っている彼の魔力をランクの高い魔石などで採取して、調べようとした組織や国はいくつもあった。


しかし、その全てが虚しくも失敗に終わった。謎の多い彼の魔力を解析出来る者は、誰にもいなかった。


(カムさんもすごい悔しがってたな。……あと何度も謝られて困ったけど)


……なのに危険を承知でその力を取り扱おうとした、命知らずな者も当然いた。

武器などに流用したり、彼らのように体内に取り込む実験も強行したが。


(一人残らず死んでいった……)


その全ての者達が死を迎えて、この世を去っていた。……武器利用した物も耐えきれず、崩壊していった。


そもそも何故、ジークが魔法を本気で使用するのを躊躇い続けているのか、全ての理由はここにあったのだ。


彼の魔力はあらゆる属性の波長に変化し、この世の全ての属性(・・・・・)を操り、他者の魔力の干渉をまったく受け付けず、逆に支配して思うがままに暴れ尽くしてしまう暴王の魔力(・・・・・)だ。


そしてジークの魔力にはもう一つ、彼が使うのを恐れてしまう厄介な力が含まれていた。……それは。


(……冗談抜きでこの星を殺してしまいかねない、魔の毒だ)


この事実が判明し──────いや、ジークが理解したのはまだ、師に拾われてなかった頃、既に一人で生きて目的もなく、ただ世界中を回っていた時のことだ。


本人も自覚がない、無意識程度で魔力を漏らしていた。……本当に無意識でジークが寝ている時にも魔力が溢れ続けて、長く居ついた地には彼の魔力が満たされていることもあった。


が……ジークも分かる時には、既に手遅れであった。


最初は自然災害が何かかと思ったが、それが何度も続けば、自覚せざる負えなかった。……次第に腐り落ちていく、木や草、剥き出しになる地や近寄ってきて勝手に絶命して骨なるまで腐り落ちていった。


死んでいった多数の魔物を眺めて、自分の魔力が他の存在を苦し殺させる猛毒を持った物だと、初めて認識した。


(ああ……完全に俺の身勝手な行動の結果だよな……。あのじいさんの主人という奴が何を企んでいるか分からないが、絶ッ対! ロクでもないことだっ!! ────────……はぁあああああああ……心が折れる。やっぱり来るんじゃなかった!)


改めて事態を把握して挫けそうになるジークであるが、いつまでも落ち込んでられなかった。


まさか扱えれる者が現れるとは思ってなかった。……その主人がどうなのか知らないが、さらに抜け道として死んだ者に取り込ませて、扱わせるという裏技まで見つけられてしまった。


(ハッキリ言うなら脅威だな。……間違いなく国規模どころか大陸規模で)


もし万が一《死霊の墓荒らし(ネクロマンシー)》のオリジナルによって大量の傀儡体が存在しており、その全てにジークの魔力を取り込ませていたとしたら……。


そしてもう一つジークが危惧していることがある。


自身の体質か、それもと魔力が原因なのか判断つかないが、彼の体内にある魔力は消費すると異様な速度で超回復を行われる。


普段は殆ど影響はでないが、『神隠し』を使用する際や最上級の通常魔法の時などで、その効果の異常性がハッキリ分かる。


たとえば、プロの魔法師が最上級魔法を使用した場合、消費した魔力分を回復しようとすれば半日以上は確実にかかるが、ジークの場合は十分もかからず回復してしまう。


ちなみに『神隠し』はその十倍以上の消耗であるが、それも一時間程度である。……しかも、その回復の反動が思ったよりも辛く。ジークの悩みの一つであった。


一気に腹が強引に満たされるようなもので、その超回復に体がついていかない。


体内で自由が利かない魔力を扱えれるようにする《消し去る者(イレイザー)》の場合などは特に酷く、日に三回までというの制約がある。


それに比例して、体内に保有できる魔力量も上がっていく。


最近では殆どないが、幼少期の頃は魔力量がまだ少なく消耗してなくなる度に超回復して溜まる量が増えていった。……だから大戦時の頃は一番この変化が激しかった。最強の魔法使いにまで上り詰めたのは、これらも要因の一つとも言えた。


ここで本題であるが、これはあくまで可能性の話だ。


超回復と保有量の拡張。この二つの要素が組み込まれたジークの魔力を、傀儡あるいは魔物などをに取り込ませた時、消費した魔力を超回復させて、体内の保有量を拡張させる。


これらを繰り返し何度も行わせて成長させられた……規格外な怪物へと成長を遂げた存在がいたとしたら。


(あのじいさんも言っていた実験だと、もしその実験で俺の魔力を完全に耐え切れる存在を生み出していたとしら)


脅威というレベルではない。───────明確な危機がそこにはあった。


(もし俺の予想通りに俺のチカラが使われてたら……やはり試合どころじゃないか。これはもう早急に動くべき案件だ)


今回ばかりはジークものほほんと笑っている余裕はなかった。……もし仮説が当たっていた場合、このまま放っておけば果てしなく魔力を上げていき、彼自身でも手に負えない怪物が生まれるかもしれない。


もう事態はどう転がるか分からない以上、こうして大会に出ている場合でもない。……相手が自分の力を使える者を何人か控えさていると考えるなら、早めに処理すべき事案である。


────────しかし


(俺が招いたようなものだから、できればカタをつけたい。……だけど追跡ができない。昨日はアイツの魔力の気配を感じ取ったが……)


眼をつぶって思案顔で俯いていると、ジークは瞳を薄く開けて魔眼─────────『千夜魔天の瞳(シェラザード・アイ)』を発現する。


魔力、魔法に対して探知力と解析力を持ったジークの第二の魔眼だ。彼は魔力を探し当てる為、眼の範囲を広げて対象の魔力を探るが……。


「っ」


視界内を埋め尽くしている濃い霧によって阻まれてしまう。肉眼では何もなく、普通の魔力探知の眼でも何もないように見えるが、ジークの魔眼には彼の魔力らしき霧が街全体を覆っているのが、ハッキリと見えていた。


(く、鬱陶(うっとお)しいっ!)


魔力量事態はそれほど多くはないが、払うことができず、しつこく街にへばりついた自分の魔力にジークは不安感を隠せずにいた。


聖国内でも一番の人口を持つ王都の広い街を余裕で覆い尽くしてしまったのだ。……驚かずにはいられない。


先程話したようにジークの魔力は有害な猛毒で周囲の物を腐らせて、侵食していく厄介なものだ。


それが量的には少ないとはいえ、霧となって街全体に漂っているんだ。……これだけの規模の街が一斉に腐り落ちていく光景が思うと、ジークの目には来るかもしれない未来の廃墟となった王都の姿が映ってしかたなかった。


……幸いまだ目立った事態は起きておらず、ジークが見た限り魔力の霧も不思議と安定しているが、いつ暴れ出すか予想がつかないので焦ってしまう。


(『透視眼(クレアボヤンス)』の視覚だけじゃ捕捉できない! この霧をどうにか払わないと探すのは不可能だ!)


漂っている霧を解析しても分かるのは、自分の魔力でできた霧であることだけ、詳しい魔法式が組み込まれてない以上、発生地点を探し出すことができない。


(いっそシャリアやティアに伝えて裏で動くか? 試合自体はヘタに中止しても混乱を与えるだけだし、……《雷槍》とか他のオリジナル持ちとの試合を抜けるのは痛いが、仕方がない……仕方ない)


どこか自分に言い聞かせているように聞こえるのは、大会前夜にあった少女との話が原因だろう。


──────────これがあなたの願いが叶う最後の機会かもしれません。


──────────ですが、その過程で必ずあなたは再び重い選択をしなくてはならなくなります。


──────────目的の為に見捨てるか、それとも目的を棄てて護り抜くか。……生かすも殺すも選ぶのはあなたです。


「……くそ」


舌打ちしたい気持ちである。事態を収拾する為に動けば、本来の目的を失い、動かずに目的の為に進めば、別の何か大事な物を失ってしまう。


彼女の言葉と今起きるかもしれないことを照らし合わせると、そう結論が着いてしまう。

重く乗しかかる彼女の言葉を一つ一つを思い出しながら、ジークは─────────


「……」


懐から取り出した紙に目を通して、また深い溜息をつくと宿にいた時から感じる視線に(・・・・・・)意識を合わせた。


「取引したい。今夜いいか?」


次回は土曜日です。

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