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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【前編】。
129/265

第4話 ゴスロリ冥女と雷槍とかつての敵。

一日目の試合は順調に終わりを迎え、二日目へと移っていく。

特に誰とも接触を受けなかったジーク。今度は寝坊することなく、試合会場に余裕で着いて学園陣地で待機していた。


「三年が二人負けて、一年が四人、二年が一人ですかぁ」

「うむ、ハッキリ言うと幸先は悪い。特に一年がのぉ」


暇を持って余していたジークは、設置しているトーナメント表を眺めていた、ガーデニアンと立ち話をして試合結果を見ていた。


「一年が負け過ぎてるのも問題だが、生徒会のペンシルが中立国の《霜剣》と当たって負けるとはな」

「別にあの人が負けるのは想定内ではありませんか? そこまで強くありませんし」

「バッサリ言うのぉ、ぬしは。言葉に全然遠慮がない」


難しげな表情でいるガーデニアンの言葉に、ジークは特に疑問も持たずに戦力外だと告げる。……目が本気で言っているのが分かるので、ガーデニアンもリアクションを取り難くしていた。


「他のメンツは大丈夫みたいですね。……先生が言っていた相手側の二つ名持ちもどうですか?」

「全員難なく進めおったようだ。ぬしの知ってる奴でこのままいけば、二日目で二年のミヤモトが妖精国の《矢弾》と、三日目の午前でガルダ風紀が帝国の《剛腕》とあたるな。午後以降はまだ分からんのぉ」

「……ちなみに俺の場合は?」


目的である相手達といつ当たるのか気になるジークが、ガーデニアンに問いかけてみる。


「ぬしか? ぬしがこのまま進めば……おそらく三日目の午後で───────────《雷槍(・・)》とあたるかもしれん」


なのでガーデニアンから狙っている相手との対戦を予想され、出さないようにしても喜びの笑みを零してしまう。


「……そうですか」


どうやら順調に試合は進んでいるようだと安堵し、勝ち進めて決勝トーナメントに行けばさらに対象の者たちとも当たれるのだと、らしくなくやる気になっていた。


(どうせ時間もある、……観戦してみようかな?)


時間はたくさんあるのだし、とジークはうなずくと自分の試合前に、トーナメント表を見て他の選手の試合を観戦しにいくことにした。



◇◇◇



「他のメンバーがいなくて良かったよ」


移動を終えて目的の人物の試合が始まるのを待ってる間に、ジークはいつもの面子が側にいないことにホッとしていた。


普段やる気のない男が何を見ているんだと、奇異な目で見られかねない上、ヘタに怪しまれるのは面倒なのだ。


「お、あれがそうか」


時間も経ち試合が始まろうとしたところで、試合区画に目的の人物が入って来た。


『ふふふ』

『っ』


改造服なのかゴスロリのような黒の制服を着ている、小さな女性が対戦相手に不敵な笑みを浮かべる。……対戦相手は中立国の男性であるが、視線が彼女の体格には不釣り合いな豊かな胸部へと向いている。


「アイツが《冥女》で帝国の第三王女か」


王族が学生であるのは別に珍しくはない。王族であっても適正年齢であれば、社会性を学ぶ為、学生として生活を送らなければならない。


聖国の王族達も学園に在籍している者もいた。たとえば第一王女カトリーナ・エリューシオンと亡くなっているが、ライン・エリューシオンも王都の学園の卒業生である。……次女のティアはまだ忙しく学園には在籍していないが、勉学への取り組み精神が強く既に卒業資格を持っているそうだ。


と話がズレてしまったが、試合へと戻る。


『カァーーー!!』


開始ともに風魔法の身体強化で、相手が地を蹴って駆け出してくる。接近戦に自信があるのか迷いなく突進している。……それに対し。


『ふっ』


悪戯そうな余裕ある目で《冥女》は相手を見据えて、パチンッと相手に向けて指を鳴らしてみせる。


するとどうしたことか、迫ろうとしていた相手選手を覆うように、無数の闇の太線が素早く出現して囲ってしまう。


「はやい……!」


闇系統のBランク魔法『常闇の檻(ダーク・プリズン)


無詠唱で発現してみせた彼女に見ていたジークから驚きの声が零れる。……一瞬のうちに無詠唱で魔法を発現させた彼女に、素直に驚嘆していた。


オータン学園二年 《冥女》ルカ・ネフリタス。

妖艶な笑みで闇魔法を発現させた彼女は、いとも容易く相手の男子を闇の檻へと閉じ込めると、檻越しに相手を眺めて楽しげに告げる。


『っ、し、しまった……!』

『降参をオススメするわよ?』

『な、舐めんな!』


挑発的な声音のルカに激怒して、風魔法で槍を発現させる男子生徒。檻を破ろうと槍で突いてみせるが、ビクともしない。魔力を解放させて衝撃で吹き飛ばそうともするが、干渉を拒むように弾かれてしまう。


『っ……!』


何度も突いてみせヒビが入る気配すらしない。……魔力の量や濃度、操作力が完全にルカの方が上なのであろう。


そして檻に閉じ込められ続けている相手の表情に異変が……。


『……くっ』


片膝をついて目眩でも起こしたように手で顔を抑えている。

……その表情を見ただけで彼に身に何が起きているのかを理解するジーク。


(混濁か、ま、拘束系の闇魔法ならそんな物だろうな)


──────闇属性の特徴である精神干渉であろう。


ジークが見ている中、精神干渉が強くなってきたのか相手の男子が苦悶の声を漏らし、崩れ出していた。


『っ、っ! あ、ああああ!!』


本人も自分が置かれている状況を遅れながら気付いたようである。どうにか抵抗を、と魔力を全力で放出して、彼女の干渉を振り払おうとしている。


『迷いて狂え『迷走へ誘う闇曜(フィンスタニース)』』


しかし、彼が立ち上がろうとする前に追い打ちをかけるルカ。


彼を包んでいる檻の上から闇の光の輪が出現すると、檻ごと狙い撃つように闇の光を真下に照射させた。


『──────』


光が到達した際、破壊音などはなかった。

代わりに檻越しでその闇の光を受けてしまった男子生徒は目を白眼にし、口を開けた状態で静かに崩れ落ちてしまった。


次に聞こえたのは審判の終了と勝者の名で、すぐに見ていた多数の観戦者から歓声と拍手が響き渡った。



◇◇◇



「凄まじいな、魔力操作技術じゃ、あっちが上かもしれん」


使われた通常魔法は一つだけで、呆気ない終わりであったが、ジークは短な試合の中でも《冥女》の力量に感嘆して、拍手を送りたくなった。


「特に印象に残ったのは、魔法発現の際にある筈の予備動作の無さだな」


あれはもうSランク技術と言ってもいいな。ジークは興味深そうに頷いていた。


魔法発動までの速度にも驚いたが、それ以上にまったくと言っていい程の乱れのない自然な魔力の予備動作の無さである。


その時は魔眼を使用してなかったが、素の状態の魔力察知でも気付くことができなかった。……魔法を手足のように扱っている様は、ジークも目を細めて思案する程の技術力があった。


「最後のはオリジナルだが、たぶん切り札じゃないな」


最後に彼女が見せた魔法がオリジナルだと見極めると、第二の魔眼『千夜魔天の瞳(シェラザード・アイ)』で能力解明にあたっていたが、……目的の魔法ではなく、また興味が唆られるような物でもないと、少々ガッカリしていた。


「特殊幻覚の一つのようだが、結局のところそれだけだな。アレに似た物ならいくつか持っている」


あの程度のオリジナルが切り札であるとは、考え難いとジークは予想する。

まだまだ、奥手があるのだと考えてジークはすぐ始まろうとしている、《雷槍》の試合を見に行くことにした。……寧ろこちらの方がジークの本命に近かった。



◇◇◇



『ふん!』


闘技場内の一角で試合している中立国の男子生徒が、手に持っている槍を振るうと、太く山型な三刃の刃先から雷の渦が巻き起こる。


地面まで行き渡る雷導に臆して、盾と棍棒を持つ相手の男子学生が竦んでしまっていた。


『ハッ!!』

『ぐあああああっ!!』


そして待ったなしに迸らせる雷球を纏わせた槍を振るい、咄嗟に盾で守りに入ったが、横薙ぎで切り裂かれた盾と共に雷球が直接、彼の胴体を薙伏せた。


『おおおおお!!』


男子学生から勝利を収めて、槍の主は高々と槍を掲げて雄叫び上げてみせた。


「中立国の三年シムラ・サナダか、強敵だな」


彼についてはジークも注目している。

既に現役を引退しているが、中立国の元Sランク冒険者 《炎槍》の弟子であるのだ。


また、これは明確な情報ではないが、現役時代《炎槍》は人や魔物を灰燼へと化して貫いてみせる─────────槍の原初魔法を保有していたと聞いている。


「継承してる可能性があるな。『グングニル(・・・・・)』、必殺の一槍を何処までも貫き溶かす、炎神の槍を」


少なくとも先程の《冥女》よりも注目する相手であった。


「最初のターゲットはアイツでいいな」


近い目標を心の中で立てた後、ジークは自分の試合時間までのんびりと観戦に務めていた。



◇◇◇



「へぇ……《矢弾》に勝ったのか」

「ギ、ギリギリだったがな───────っ、っ」


二回戦を無事に勝利したジークがウルキア拠点へ戻ってくると、肩や足を抑えて座っているトオルの周りに人が集まっていた。


「ケガとかは魔力ダメージ、精神ダメージに変化されてるんじゃなかったか?」

「されてても痛みは来るんだよ。あの優男、ポンポン魔法の矢を放ってきて近付かせてくれなかったんだ」


憎々しげな顔で試合の時のことを思い出しているトオル。


「試合は見てないから分からんが、ま、二つ名通りなら遠距離タイプだろうしな。……予想通りの戦法だが、トオルには相性が悪いな」

「次やる時があったら、今度は速攻で攻めに行ってやる。……オレも今のままじゃ終われない」


どうも勝った気になってない様子のトオルは次回に向けて、謎のリベンジを誓い少しでも回復する為、学園側が設置している保健テントと移っていた。


……その際、顔付きが少し険しい気がしたが、ジークは特に気にせず、自分の試合へ意識を向けた。



◇◇◇



「ふぅーー食った食った」


本日の試合も終わって、外で夕食を済ませたジークが夜の街を歩いている。


サナ達も無事に勝利したようで、女子達は集まって女子会を開いているようだった。……冗談で男性陣も男子会などでも開こうかと、トオルに声をかけて(はた)かれたが。


「明日は重要な相手だし、早めに寝ようか……───────っ」


明日の午前の試合に勝てば、次は《雷槍》である。寝坊などは本当に笑えないので、このまま宿に戻ろうとしたところだった。


普段からジークが張っている警戒網が何かを察知してみせた。


「……」


一度立ち止まり口を閉ざすジークだが、何事もなかったかのように歩き出すと、自分の寝床である宿には向かわず、何故か街の外へと出て行こうとする。


天空界の掌握者(ファルコン)》が常時、目を光らせている監視網の外へ。……ジークは無言のまま街の外へと歩いていく。


「そろそろ出て来いよ。ここまで来れば隠れる必要もないだろう?」


そうしてひと気のない場所まで来たジークが振り返り声をかけてみる。……夜の草原の奥を彼は見据えていた。


微笑を浮かべて余裕そうな表情をしているが、内心はかなり警戒している。


(なんだ、この魔力は……。近付かれるまで気づけなかったが)


───────俺に似ている……ような気がする、とジークは捕捉した対象の魔力を探りながら、疑問を浮かべていた。


あくまで自分に似ているような、ジークはその程度にしか考えてなかったが、それが(のち)に彼自身を苦しめることになることを、この時の彼には気付けるはずもなかった。


「ほほほっ、いやはや、流石───────英雄殿(・・・)ですな?」

「──────」


老人の声が暗闇の奥から小さく響いたが、───────英雄(・・)、その単語とその声を聞いた瞬間、ジークは浮かべていた僅かな笑みも消して─────────


「何しに来た───────《死霊の墓荒らし(ネクロマンシー)》ッ!」


冷めきった殺意を込められた眼差しで素早く手を振るうジーク。暗闇の奥へと無数の魔弾が放ってみせた。


属性も様々、特に加減もされてない魔弾は静寂な地に着弾して、轟々と爆音を巻き起こし周囲を大きく穿った。

次回の更新は来週の土曜日です。

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