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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯前。
119/265

おまけ編 過去の記憶と老魔導師の邂逅。

二回目となりますが、間のおまけ編となります。

入学した頃の行われた実力テストのお話です(テストといっても筆記の方でありません)


「む、もうこんな時間か……」


王都に到着した夜。

ガーデニアンは宿の自分部屋で書類整理を行っていた。……大会前で学園の外であるのに仕事をしている老師。


時計を見て深夜になっていることに気付き、しまったように頭を叩く。……ツルツルの頭を。


「明日は早いしのぉ。早めに寝ようと思ったのだが」


歳を取って随分時間の感覚が遅くなった気がするガーデニアン。困ったような顔をするが、特に慌てず資料を畳んでいた。……そんな時であった。


「む、この紙は……」


カバンの中に仕舞おうとしたところ、中から見慣れぬ資料の紙が見えて手が止まった。

どうも最近の物ではない紙だと気づいたガーデニアンは、一度書類を置いてどんなものか内容を読んで見る。……といっても一秒にも満たず分かってしまったが。


「随分懐かしいのぉ……あの馬鹿モンのか」


それはテスト結果であった。それも最近の物でない一年前の実力テストの結果であった。──────それもジークの。


「あの模擬戦か……」


ふと内容を読んでいるとその日のことを思い出してしまう。

そう。あれはまだ色々な不名誉な通り名が付いてない、彼が入学したばかりの頃であった。



◇◇◇



「おい、そこの者たち! さっきから騒がしいぞ!」


訓練場で模擬戦の実力テストを行っていた時であった。

まだ浮かれて少々騒がしい一年の中でも特に騒がしい者達がおり、ガーデニアンが注意していた。


注意した先にいたのは二人の女子と一人の男子。


どういう経緯があったかガーデニアンも知らないが、どうやら女子の一人が男子に怒鳴っていたようだ。男子の方は興味なさげに無視しており、もう一人の女子は慌てた様子でこちらに向かって頭を下げていた。


「実戦に近い戦闘を行うんだ。ちゃんと聞かんか!!」

「す、すみません!」

「……すみません」


水色の髪をした女子が謝罪して頭を下げると、もう一人の女子も渋々といった様子で頭を下げる。……その代わり男の方を思いっきり睨んでいたが。


「おい、ぬしはどうなんだ?」

「……」


女子二人が頭を下げる中、男子の方は特に反応がなく我関せずといった感じで謝罪も述べない。


「まあいいわ。すぐに始める。ぬしらは特別にみっちりシゴいてやるわ」


どうやら生意気なガキのようだと判断したガーデニアンは、ふんと鼻で息を吐くとそう告げて模擬戦の準備に入った。……その言葉に女子二人は青ざめていたが、男子の方は


「……」


これといって表情も変えず、退屈そうに訓練場の天井を見ていた。



◇◇◇



「次は……ぬしだな。ジーク・スカルス、来い」


実力テストが開始してから次々と生徒をダウンさせていくガーデニアン。


例の女子二人も手厚く歓迎して、他の生徒と同じようにダウンしていた。……少々荒っぽいやり方にはなってしまったが、ガーデニアンはしっかり彼女らの力量を図り、頭の中で一人ずつ評価していた。


「用意はいいか」

「……はい」


そして遂にあの生意気そうな生徒とのテストが始まる。

ガーデニアンの問いかけに適当な声音で返事するジーク。……その態度にガーデニアンの血圧は少しばかり上がった。


(ボロ雑巾でもしてやろうかのぉ。この小僧)


髪の()もない頭からキレ気味に、血管を浮き出しているガーデニアン。

ゲンコツでも入れてやろうかと思ったが、今はテスト中であると堪えて、咳払いし合図を出した。


「では……始め!」


─────うむ、とりあえず押し潰そうかのぉ。


グラサンとハゲ頭をピッカーンと光らせて、ガーデニアンは開始の合図とともに手始めに手をかざして無色の魔力オーラを放ち、超重圧をジークにかけた。……のだが


「なぬ?」

「……」


超重圧をかけた位置にいた筈のジークが消えた。


いや、正しくは違う。ガーデニアンの指定した位置にいた筈のジークが、その僅か隣に移動している。……座標に魔力の超重圧をかかった時には彼はその位置にいなかったのだ。


(先読みして躱したのか? ……む)


少しばかり思案するガーデニアンは今度は手もかざさず、ノーモーションで魔力の超重圧をかけた。




──────そして結果は


「ほう……これも躱したか」


また超重圧がかかる前に躱されてしまった。

ここにきてガーデニアンは目の前の学生が、ただの生意気な小僧ではないと理解した。


大抵の学生は最初の一撃で失神しているか、ギリギリ防御する程度であるからだ。


「そうか……では、こちらも遠慮せずに行こうかのぉ」

「────!」


ガーデニアンが纏う空気が一段上がった。ジークもそれに反応して、眉をピクリを動かす。


「ほほ、あまり警戒せんのぉ……経験者(・・・)か?」

「まさか、ただの学生です」

「……そうかぁ」


少し距離を取る程度で反応も特に変わらないジークに対して、ガーデニアンが尋ねた後、微笑みながら手首を軽くて振るって見せる。


振るった空間から火の玉が豪速球で放たれた。


「────!」


ジークも少しだけ目を見開くが、球が来るのを予期していたのか、横に素早く移動し避けてみせた。……その際、容易く豪速球を躱してみせたように見えた為、訓練場にいた者から驚きの声があちらこちらから上がり始めていた。


「ほう! これもか!?」


続けてさらにガーデニアンは水や風の球を無詠唱で、疾風の如く放ってみせている。……初級系のランクの低い魔法であようだが、放たれた球はどう見ても中級クラスの威力、そしてBランク以上の速さがある球であった。


「────!」


砲弾のように飛来していくる魔法球に身体強化の魔法を発動しているのか、ジークはただただ避けるだけであるが、……その避けるだけの行動だけでも周りの者から、先程以上に驚嘆の声が巻き起こっている。


どうもガーデニアンの攻撃が読めているか、先にその場で軽く飛んで躱している。……余裕がない時もあるが、その場合は転がって避けるか滑り込むように躱していた。


「よく避けるな小僧─────ふ!」


攻撃の手を止めたガーデニアンが、パチンと指を鳴らした。

訓練場を覆うようにガーデニアンの魔力が霧のように覆い尽くした。


「魔力の結界……」


包み込む魔力の霧を見てジークは動きを止めて呟く。……敵魔力の影響をダイレクトに受けてしまうエリアのようだ。


咄嗟に霧内部から脱出を考えたが、霧は訓練場内の隅々まで行き渡るように侵食しているのが分かる。……脱出は不可能だった。


「逃げられはせんわ。……ふん!」

「!」


ガーデニアンもそれが分かっているのか、エリアを有効利用しジークを追い詰める。


「……」

「気づいたかのぉ? 超魔力の重圧檻じゃ」


─────体が動けず、膝をつきそうになる。

重りでものしかかったような錯覚を覚えるジークに、ガーデニアンは手を振って笑みを浮かべる。


「どうするか見せてもらうぞ」


ガーデニアンの頭上に光と闇の小さな槍が無数に浮かんでいる。恐らく光と闇の中級の槍魔法であろう。


「────ふ!」


勢いよく手を振り下ろしたガーデニアン。その動作が合図となって、無数の小型の槍がジークに向けて飛来する。


「────シっ!」


魔力の超重圧によって身動きが取れずにいるジーク。……このままやられてしまうのかと思った時であった。


鋭い空気を出したと思えば、何か引き剥がずように両腕両足を開いたジーク。

超重圧を感じていないような身軽な動きで、黒と光の槍の攻撃範囲から脱出したのだ。


(なんじゃと!?)

「……」


狼狽の原因は放たれた槍を、彼が全て躱したからではない。

グラサン越しのガーデニアンの瞳に映り込んだのは、無といってもいい彼の魔力が体から少量であるが洩れ出し、まるで生き物のように動いたのが見えたと思えば、波のように吹き荒れて超重圧の檻を剥ぎ取ってみせた。


(魔力が漏れない体質じゃと思っておったが……。だが変じゃ、これは魔力なのか?)


ガーデニアンの瞳にはしっかりと漏れているジークの魔力が視える。王都の国王専属の魔導師で歴代最高クラスと呼ばれたガーデニアンであっても、視えていてもそれが魔力のか自信を持てずにいた。


(視覚的な感知はしっかりできているが、それ以外は全く反応せずか。……これは明らかに異常だのぉ。それにあの動きは……)


ガーデニアンが特に注目したのは自身が発動していた、魔力の超重圧を魔力そのもので剥ぎ取ってみせたところだ。


魔力を魔法として使わず、魔力そのものを利用して対象の魔力を掴み剥ぎ取ってみせる。……しかも少量であることが驚きであった。


(先程の超重圧は魔法ではなく(スキル)だが、それでもあの程度の量の魔力で破れる程、脆くはない。……あれは力といより、互いの魔力の優劣による絶対干渉(・・・・)……)


「いや、それはあり得んか」


少々深読み過ぎたと頭を小さく振るうガーデニアン。

どうにも珍しいタイプとの戦いに、年甲斐もない興奮してしまったと恥じる。


「どちらにせよ」


叩き潰すことに変わりないがな。……ガーデニアンは楽しげな笑みを浮かべて次の魔法を発動させた。



戦いはその後さらに続いた。……正確は二時間ほど、騒ぎを聞きつけた他の教員が止めに入るまで。


どういう訳か一切攻撃をしようとしないジークはひたすら、ガーデニアンの攻撃を避けるか魔力で逸らすなどして逃げ続けたのだ。


……これは裏事情だが、この時のジークは久々かつ苦手になってしまった対人戦に、軽い拒絶状態に陥っており戦闘に集中できなくなってしまっていた。


攻撃をしようとすると過去の戦いの記憶が蘇って吐きそうになり、戦うのを諦め必死に避けることだけ、逃げることだけを考えていたのだ。


そしてこれもガーデニアンは知らないが、その僅か一ヶ月後には彼はその状態のままある試練を受けることとなった。……裏切り者との戦い。彼は自分の過去の負と向き合わなねばいけなくなる。


そうして逃げ切ることに成功するのだったが、この実力テストの所為でガーデニアンから目を付けられ、噂を聞き彼に興味を持ち出すこととなった学園内の猛者達とも接点も持つこととなった。



◇◇◇



「ククク、今にして思うとワシも暑かったのぉ久々に。ついつい最後なんぞついAランク(上級)魔法どころかSランク(最上級)魔法まで使用してしまうところだったわ」


回想も終わりとなり、思い出し笑うガーデニアンはその紙をカバンに大事そうにしまう。……仕舞終えて、ふと懐を探ると一枚の写真を出した。


「お前さんのように、生意気なガキだ。ワシの言うことなんぞちっとも聞かん」


古そうな写真に写るのはガーデニアン本人、そしてもう一人、隣に立つのは騎士の姿をした若い男性。……笑顔でガーデニアンと並んでいた。


「だからかのぉ……、皆が放ってもワシは放っておけんのは……のぉ。スーマン(・・・・)


グラサン越しで彼を見るガーデニアンの瞳はどこか哀しみの色があった。


なぜガーデニアンがジークにこだわっているのか、その一部分のお話となりました。

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