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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯前。
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第10話 淡緑色の魔剣と空気の読めない邪魔者。

「驚いた……! アレを躱せるなんて……」

「ギリギリですがね」


斬り刻まれた地面に立つジークは抉れて、段差ができた上に立つシオンを苦笑顔で見上げている。彼女が持つ刀は青く輝き、花びらを舞ってるように見えた。


(間一髪だった。つい短距離移動(ショートワープ)を使いかけたが、なんとか『跳び虎』で避けきれた……)


魔力と気による斬撃。ジークは自身の魔力の影響で他者の魔力に強い耐性を持ち、尚かつ阻害することが可能である。しかし、それ以外の力、気や精霊の力に関しては全く意味をなさいのである。


(いくら魔力が含まれた斬撃でも気が混じってるようじゃ、避けるか防御しかないか)


もしモロに受ければジークであってもただではに済まない。……無意識であるが、彼が発する空気を一段重くなった。……生徒が相手である中、少しであるジークは本気の戦いをする気になったのだ。


「……逃さない」

「恐ろしい人だよホント」


表情の薄い瞳に見つめられ、肩を竦めるジークは両手に魔力を集めていく。二種類の属性魔力で風と無を彼は掌を重ね合わせる。


「……次で決める」

「そう簡単にはいかないかな?」


シオンの刀はさらに輝きを見せる。彼女の周囲から青く輝く花びらが無数に舞っていく。


対するジークも重ねた魔力を増幅させていく。重ねた二種類の属性魔力が混ざり合い彼の体を覆っていく。

───────緑のオーラと無色のオーラが渦のように立ち上る。


「──舞散れ『青桜・青花乱れ桜』」

「……!!」


見下ろすシオンが先に動き出した。青く染まった刀を振って斬撃の桜花を、彼に向けて放った。


──────しかし


「『融合』」


その青き桜の花びらに覆われる前に、ジークの魔法が完成した。



◇◇◇



「やった……?」


再び煙舞う訓練場の中でシオンは気配を探って様子を見ていた。


シオンもこれで仕留めたとは思っていなかった。

今までの試合を見ていてもジークにまとも魔力攻撃が、通ったことは彼女が知る限り皆無であった。


……だから対策の一つとして先程や今放った水属性の斬撃に気を重ねて放った。予想通り彼は受けようとせず、瞬間的な歩行術で避けてみせたのだ。……なのでこの攻撃も避けている可能性があるとシオンは警戒している。


「……」


刀を構えたまま不用意に動かないシオンの視界で煙が晴れていく。その先に映るものによってはすぐさま攻撃を再開しないといけないので気を抜かず警戒するシオン。


「っ……!」


─────そして遂に煙も晴れる。刀を握り締めて待っていた彼女の視界に映ったのは


「ここから逆襲ですよ。シオン先輩」


薄い緑色のオーラ、淡緑の閃光を体から放つジークが立つ。

服は汚れてはいるが、彼女のように破れてはなく、彼自身に傷らしい傷はなかった。


「────────『空天の皇嵐衣(スカイ・テンペスト)』っっ!!」

「融合……!」


風属性と無属性の融合によって生まれた混合属性を纏うジーク。淡緑のオーラを疾風のように吹き荒らして、立ち塞がるシオンを見据える。


「『空喰いの魔剣(スカイ・イーター)』」


右手で空を握るとその空間から抜かれたように、淡緑の輝きをした魔力の剣が発現される。

……ジークは軽く振るって感覚を確かめて後、剣先をシオンに向けて微笑を浮かべる。


「ふ!!!」


シオンが放出して舞っている無数の青桜に向けて一振り。


ジークが剣で周囲を横薙ぎで振った瞬間、辺りに飛び舞っていた花びらが一斉に死滅したように霧散していた。


「────!!」

魔剣(コイツ)ならあなたの斬撃も飲み込んでみせますよ?」


剣先を彼女に向けてジークが告げる。

今までにないあり得ない状況にシオンは冷汗をかき、臆してしまったかのように半歩程、後退ってしまう。


剣技で負けているとは彼女は思ってない。だが、勝てる気もしない。少なくともあの魔剣が



「これからが逆襲劇です。────覚悟はいいか?」

「っ……!」


その言葉に両手で刀を握り締めて闘気を飛ばすシオン。


尖った刃のように飛んでくる闘気だが、ジークは笑みを絶やさず剣をクルリと一回転させると、淡緑の閃光を放ちながら地を蹴って


「シァアァーーーーーーっ!!」

「つっ!!」


走法『跳び虎』を発動させて、身構えるシオンに飛び掛かろうと──────


「そこまでっ!!」

「「────!!」」


─────しようと仕掛けて足を止める。声に反応して互いに動きを止めて固まっていると、彼らの間に遮るように光の壁が出現する。


「この魔法は……」


呆然とした様子で壁を見つめたシオンがボソと呟く。対してジークは何故このタイミングで邪魔が入るのかと、少々イラついた眼差しで障壁を作った相手を探した。


「お二人共、少々派手に戦い過ぎではありませんか?」

「あなたは……」

「ルーシー……」


しかし、ジークが探すよりも早く彼女の方が観戦者の中から出てきた。


「ウルキア高等部、生徒会長のルーシー・ライブです。ジーク・スカルス君、それとシオンさん。二人共これが模擬戦だということを、本当に理解して戦ってますか?」


サナやリナと似た黄色髪三つ編みの女性ルーシー・ライブ。端麗な横顔に目を奪われる男性がいる中、ジークは面倒臭そうに深い溜息をついた。


(なんでこう対面したくない人ばかりがやってくるんだ?)


初めて生徒会長と対面するジーク。

だが他の男性陣のように彼女に見惚れることもなく、嫌そうな顔で持っていた剣を捨てて、纏っていた融合属性を解除し、もう一度溜息をつくのであった。


────どうやらこれ以上この戦いはできそうにない。


ジークは横目で生徒会長とその後ろからやってきた男性を見ながら嘆息した。



◇◇◇



「少し調子に乗ってるのではないかジーク・スカルス。いったいどんな卑怯な手を使っているか知らないが、手品をそう何度も披露しているとネタがバレてしまうぞ?」


副会長のメドルフ・ペンシルが先に口を開いた。蔑むような眼差しでジークを睨んでいる。


(手品? 何を言ってるんだ? この人は?)


視線についてはジークはどうでもいいと思っているが、どうやら彼はジークの実力はズル、イカサマだと信じ込んでいるようだ。


その彼の言葉に周囲の者から呆れ声が飛び交うが、本人は気にしていない表情でジークを睨んでいた。


元々ジークを学園から追い出そうと企んでいた生徒の一人。というよりも首謀者の一人である彼にとって、現在の学園でのジークの評価は、とても認められない心境であった。


さらに貴族としてのプライドもあってか、あの予選会の後も何度も学園側に進言して彼のありもしない不正行為を理由に学園から追い出そうとしている。……当然だが相手にはされてないが。


(そういえば以前老師から生徒会側に俺を退学させたい奴がいるって言っていたが)


そんなことを言われたなと思い出した後、ふと黙ったままでいるシオンの方へ目を向けた。その際、メドルフからよそ見するな、こっちを見ろなど言われるが面倒なので流してしまうジーク。


「む……」


やはりというか、刀を持ったままでいるシオンの表情は大変ご立腹な様子であった。二本目の短刀──────妖刀を抜こうとした状態で待機している。


彼女もやはりこれからだという状態であったようだ。もし口数が多い方であれば不完全燃焼で待機させられて文句の一つや二つ叫んでいたであろう。


ジークの予想通りすっかり模擬戦どころではなくなってしまった。だが────


「貴様も馬鹿なのかミヤモト委員長? これだから脳筋の風紀は──────」


副会長のメドルフが口にしかけた暴言によって、一瞬で緊張が走ってしまう訓練場。


向けられたシオンは特に気にした様子ではなかったが、この場にいる風紀委員は彼女だけではなかった。彼の暴言と同時に観戦者の中から殺気が飛び出してきたのだ。


「それは僕のことを言っているか? メドルフ」

「少々聞き捨てなれませんね? 今の一言は」


観戦者の中から風紀委員会の副委員長クロウ・バルタンとジル・ガルダ。他にも風紀委員と思われる男女数名が乱入してきてしまった。そしてそれに合わせて生徒会側の者達も集まってきてしまっている。


(おーおー集団抗議というか、全面対決になりそうだよこれは)


呆れた顔のジークの前で生徒会と風紀委員会が、一触即発の状態で集まってしまった。


「訂正してもらおうか。今言った暴言を」

「事実だろジル・ガルダ。特に貴様など何かあればすぐに拳を振るうではないか。まったくこの脳筋共が」

「───なに?」


メドルフの言葉にピキと額に青筋を立てるガルダ。殺気を飛ばして火花を散らす二人。

今にも激突しそうな張り詰めた空気を纏う二人に慄き、下がってしまう風紀委員と生徒会役員。


「退きなさいメドルフ君。ここは私が話します」


そこで割り込んで止めに入ったのは、生徒会長のルーシーであった。ガルダと同じくらい殺気を飛ばして睨みつけるメドルフを、一瞥して下がらせようとする。


「しかしっ、会長!」

「会長命令です。退がりなさい。……ごめんさないシオンさん。こっちの役員が勝手な暴言してしまって」

「別に……?」


特に怒らずルーシーの謝罪を受け入れるシオン。というよりも本人は気にしてないようで首を傾げてガルダとクロウを見ている。


「はぁ……。僕はもういいですよ」

「こちらもお騒がせして済みませんでした会長」


どうにか場を抑えることが成功したようだが、ジークはもう長居したくなかった。

戦いもしょうがないと考え、皆が集まる中、訓練場を出ようとこっそり出口へ足を向ける。


「おい! ジーク・スカルス! 貴様何処に行くつもりだ!?」


ところがそこで副会長のメドルフに邪魔されてしまう。目ざとく見張っていた彼にジークは面倒臭そうに振り返って、メドルフを見据えた。


「教室に戻るんですが。なにか?」

「これだけのことをして何を言っている!?」

「ん? ああ……」


これだけと言われて何のことかと疑問に思ったが、すぐに訓練場の惨状を見て理解したジーク。

これだけ訓練場を破壊しておいて無視して帰るのかと彼は言いたいのだろう。


しかしそれは不要であった。


「この訓練場の使用際、壊れた箇所については学園側が責任を持って対処してくれるって前に言われたんで問題ありませんよ?」

「そ、そういう問題ではないっ!」

「ではどういう問題ですか?」


いい加減鬱陶(うっとお)しく感じてきたジークは笑みを消して、冷めきった表情で話していた。


「何だその態度は!? 先輩に対してその態度は何だ!?」


だがそれは結果としてメドルフの神経を刺激することとなった。


次回の更新は来週の土曜日です。

ゴールデンウィークに向けての連続更新のお知らせがあります。

詳しいことは次回の後書きと活動報告に上げます。

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