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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯前。
115/265

第9話 神速の剣士と邪道な魔法使い。

『『……!!』』


この日、訓練場にいる多くの観戦者が息を呑み、光景に目を大きく見開いていた。


重苦しい訓練場の中心にジークと……そして刀を携えた女性剣士が立っていた。


「……逃さない」

「恐ろしい人だよホント」


戦う二人の足場は何かに斬られたように、無数の大きな亀裂ができていた。

地盤も抉れて大きな段差も所々にでき、女性は青く染まっている刀を携えて、ジークを見下ろしていた。


その刀は青色の花びらのオーラを微風の如く舞っている。

感情の乏しい瞳でジークを見据える彼女に対して、ジークは困ったように肩を竦めていた。


「……次で決める」

「そう簡単にはいかないかな?」


学園最強の剣士で風紀委員長のシオン・ミヤモトとジーク・スカルス。

なかなか見ることがない組み合わせに、観戦者たちは緊張の面持ちで見ているしかなかった。


「──────舞散れ『青桜・青花乱れ桜』」

「……!!」


見下ろしているシオンが先に動く。青染まった刀をジークに向けて振るうと青き斬撃の雨が、無数の桜の花びらとなって彼を包み込もうとした。



「─────『融合』」


その瞬間、ジークの体から風属性の緑よりも薄い、淡緑の閃光を巻き上げた。



◇◇◇



「……勝負」

「せ、先輩?」


訓練場で女子学生に迫られるジークがいた。ギョっとするほど近付くで。


「勝負」

「あ、あの」

勝負(しょうぶ)

「お、落ち着いて……っ!? 落ち着いてくださいミヤモト先輩……!」


訓練場にやって来たシオン・ミヤモトに迫られ狼狽するジーク。無表情でありながら凄味ある顔を近付かれてアタフタしていた。


「ミヤモト先輩近いですよ!?」

「そ、そうだよ危ないよ!? ジーク君が鼻の下伸ばしてる!?」

「……そう?」


(伸ばさないから助けて!?)


訓練場に来ていたサナとミルルの会話に、顔を動かせないながらも必死に訴えかけるジーク。


あんまり不用意に顔を動かすと、キスしてしまいそうな恐ろしい状況であった。……もしアイリスがこの場にいたら卒倒してしまいそうな光景である。


「いや近いからな? シオン姉」

「う……?」


そんな姉の暴走を止めるのは、やはり弟のトオルしかいなかった。


いつものように訓練場に来たトオルはジークに迫っている姉に、頭痛を覚えながら迷惑行為を止めようと、彼女の襟首を掴んで引きずり戻した。


引っ付きそうになっていたシオンが離れたお陰で安堵するジーク。一息をついてトオルに礼を述べた。


「悪い、助かった」

「いや、こんな姉だしな。フォローがいるだろ?」

「……ひどい言い方」

「事実だろうシオン姉?」


二人の会話を聞いてふて腐れる姉に両断するトオル。あっさり姉に言うあたり慈悲などは一切ないようだ。


(……あの男の子供達か)


彼ら兄妹を見てジークはふとかつて、自分が殺めた男のことを思い出す。


激戦ともいえる帝国のSSランクの《最凶の鬼神(デーモン)》との戦いに辛うじて勝利し、戦争もほぼ聖国の勝利が確定していた時期であったが、当時のジークの心は荒んでいてひたすら戦争終結のために戦いに続けていたのだ。


そのため中立国の残党狩りをしていた際に、そんな彼に遭遇してしまった幼いトオルと父タツマの運命は不幸としか言えなかった。


「一年の頃から変だと思ったけど、やっぱおかしいなお前の姉」

「本当にすまん」


どうもこの女性は色々と抜けてる部分があるなとジークは思った。視線を移して彼女が持つ二本の刀を見る。

一本は長刀でもう一本は短めの短刀である。


(一つは使い古された感じのある刀だが、……もう一本はトオルが持つ妖刀の半身か)


ジークが注目したのは二本目の短刀。おそらく彼らの父の遺産で自分が折った刀のだろうと予想する。


(トオルの方は妖刀に呑まれ掛けて危うかったが、彼女はどうだろうか……?)


どうなるのか興味はなくもないが、できれば知らない方がいい気がするジークを他所に、兄弟の会話が進んでいく。


「で勝負ってことはジークと模擬戦をしに?」

「……(コクコクっ)」

「だ、そうだ?」

「……」


色々とツッコミたいこともあったが、断れそうにない空気にジークも頷くだけして、シオンからの挑戦を受けることにした。


(この兄弟……やはり二人共変人だな)


だがその際、内心二人に対して呟いたジークであった。



◇◇◇



「じゃあ始めますかミヤモト先輩」

「……シオンでいい」

「分かりましたシオン先輩」

「ん、行く……!」


トオルと同じで長刀と短刀を腰に差すシオン。長刀の方を抜いてみせた彼女を見て、ジークも手に魔力を込める。


「『零の籠手ノーマル・ガントレット』」


無属性の籠手を作り両手に装着する。強度を高めてシオンの刀に迎え討つつもりだ。


「!」


ジークが籠手を装着したのを確認して、シオンが駆け出した。


身体強化も発動させているのか、神速で接近して長刀を横に振るいに来る。

ジークも裏拳で拳を振るいシオンの刀を弾くと、顔などは狙わず剣を持つ腕やスピードを殺すために足を狙いにいく。


「……!」


が、シオンも学生でありながらも激戦を潜り抜けていた猛者だった。


ジークの的確な攻撃を左右に動き避けて、彼の懐に滑り込むように入り斬りにきた結果────────


「っ」


最初にペースを握り出したのは、シオンであった。

鋭い太刀筋がジークを腕を取ろう幾千も迫り来る。


「まだ……!」

「はやっ!?」


神速の剣戟を咄嗟に籠手を盾にして、ガードするジーク。籠手の防御でシオンの斬撃をどうにか防ぐが、彼女の方は神速で刀を振るい続け、剣戟の嵐を打つけてくる。


「───っっ!?」


速く鋭い斬撃の数々に流石のジークも押されてしまう。防御に徹してるので攻め回るべきであろうが、学生とは思えない刀術に防御から攻撃に転じづらいのだ。


「おっ!? 鋭過ぎでしょう!? 鬼ですか!?」

「そう……っ!?」

「────っおわ!?」


とうとう防御し切れず、避けねばならい程になるシオンの剣速からの太刀に、ジークは少しずつ後退してしまう。


そして決して攻撃の手を休めないシオンは、徐々にジークを追い詰めていく。


だが、剣戟の嵐を受ける中でも、ジークは戸惑いつつ打開案を模索していた。


(仮に思いっきり後退しても、このスピードなら容易に追いつくか!?)


ヘタに後退しても戦況の悪化しか想像できなかった。

ならばと魔力を片手の籠手に込めて形状を変化させて、盾に変えてみせる。『零の透盾(ノーマル・シールド)』だ。


「シッ!」

「っ……!」


変化させた盾を大きく振ってみせて、剣戟を浴びせてくるシオンを無理矢理引き剥がした。


さらに追撃として盾を持つ片手を横回転投げで、後退したシオンに向けて投げてみせる。……魔力を込めるのも忘れずに。


「行け。『零の手裏剣(ノーマル・ダード)』」

「───! っ!」


飛ばされた瞬間、盾から手裏剣となったジークの攻撃。シオンは長刀に魔力を込めて受けて立つ。


込められた魔力はジークと同じ無属性、シオンは無属性を纏った刀で飛んでくる手裏剣を叩き切ってみせた。


「マジですか……」

「……なかなかのお手前。……もっと来ていいよ?」

「あははは……そ、そうですか」


斬ってみせた後、無表情でジークに感想を述べるシオンに、ジークは苦笑浮かべて困ったような顔をする。無表情でも少しだけキラキラとした、楽しそうな目で見つめられてる所為で余計にやり辛い。


(あんまり無垢な瞳でこっち見ないでください)


予想はしていたが、やはり強敵であった彼女に、ジークは自分の中にあった認識を変える必要があった。


手裏剣(アレ)を両断するとか……。やっぱり女性だからって手加減とか考えたら危険な相手だな。ティア程じゃないが、間違いなくAランクの実力はある)


厄介な相手だと分かった以上、こちらもそれ相応の対応を。ジークは両手に魔力を込めて技へと変化させた。


「これでいこう」


右手には無属性の剣『零の透斬(ノーマル・ブレード)』を。

左手には風属性の鎌『翠風の斬鎌(グリーン・デッサイズ)』を


「……!」


その光景を見てシオンが歓喜の気配を発した。


まさか彼が魔法とはいえ武器を出すとは。感情の殆どは明らかに攻撃的になった彼に対する喜びであったが、一部今まで武器系を使ってこなかった彼がまさか武器を出すとはと、驚いているのだ。


─────しかし、そんなことはどうでもよく。


「面白い……!」


握る刀から鋭い魔力の刃を研ぎ澄ましてジークに向かい飛び掛った。


「見せて……! あなたの力を……!」

「ああ、久しぶりに見せますよ」


対してジークはニヤリと楽しげな笑みを浮かべて、左右の魔力武器をクロスして構える。


戦いはまだまだこれからと言うように、二人は再び激突した。



◇◇◇



左右の魔力で出来た武器を振るうジーク。


「久々だ。……この戦い方は」

「?」


修業時代に戦闘訓練をして貰ったバルトから得たのは、体術以外にも武器を使った訓練も受けたが、指導者である彼の武器の扱いはかなり特殊であった。


『ん〜〜できればオレが教えるのは避けたいんだがなぁ』


と最初は渋々であったが、他のメンツでは武器関連の指導は難しく彼しかいなかったのだ。その為、指導を受けたジーク自身の武器の扱い方も少々特殊となった。


「はっ」

「……!」


斬りにくるシオンにジークは鎌を振るって叩き、剣で突き刺そうとする。そして彼女が素早く距離を取られれば─────


「シッ」

「っ……!?」


一回転の要領で鎌をブーメランのように振り投げてみせたジーク。

目を見開き驚くシオンは咄嗟に魔力の刃でガードするが、風属性の特性で切れ味が上がった彼の鎌は、彼女の刀こそ切れなかったが魔力の刃を切って削ってみせる。


その間に身体強化で駆け出して、剣を振りかざそうとする。


「く……『火閃』」


接近してくるジークを見て力づくで鎌を弾いたシオン。火の型で刀に火属性を纏わせて素早く刀を構える。


予選会でトオルが見せた剣技よりも遥かに鋭い火のオーラを纏わせて。


「シッ!」

「っ……!」


無属性の剣と火属性の刀が交差する。激しい互いの魔力が削れ合い、二連三連と交差を繰り返していくうちに、互いの武器の魔力が火花のように散っていく。


さらに剣と鎌をクルクルと回して扱うジークに追い付こうと、シオンも剣速を上げていく─────が。


「ん……!?」

「ハァッ!」


次第に今度はシオンの方が押されていく。変則的な剣戟に加え鎌によるジークの攻撃回数が多くなりドンドンスピードが上がってきている。


竜巻のように鎌と剣を回しいくスピードも徐々に上げていき、シオンの刀が追い付けなくなっていく。荒ぶる彼の剣戟が刀に打つかる度に、大きくグラついて魔力の火花の散っていってしまう。


音速に近い速度で放たれている剣戟回数が百を超えたあたりで、彼が動いた。


「────魔力解放『零の透斬ノーマル・ブレード』『翠風の斬鎌グリーン・デッサイズ』」


無属性の剣と風属性の鎌に込めていた魔力を解放させた。

彼の持つ左右の武器から無色のオーラと緑色のオーラが迸る。


「ハァァァァ!!」


ジークはシオンにその二つのオーラを斬撃にして解き放ってみせた。

大質量となって放たれた二つの斬撃は、刀を構えるシオンの奥まで走り抜いた。



「……どうかな?」


大質量の斬撃で抉れた地面から発つ煙で視界を奪われながら、ジークはヘタに踏み込まず様子を見ていた。両手の魔力武器は解放の影響で既に無くなっていた。


(んーー、どうも手応えが怪しいし─────っん!?)


そうして観察していた。その時であった。

煙の向こうから鋭利な魔力の波動を知覚した。

認識したと同時に煙から無属性の斬撃を飛んできたのだ。


「っ! ───『零の透盾(ノーマル・シールド)』ッ!」


認識した瞬間、ジークの方も無属性の盾を形成させて咄嗟に防御体勢を取る。そして煙から飛んできた斬撃以外にもさらに幾つもの斬撃が飛んでくる。


「く……」


手に付けた盾でどうにか斬撃を弾くジークだが、それ以上に多くの斬撃を彼に襲いかかっていく。左から右からカマイタチのように。


「……!」


そして斬撃を放ちながら煙からシオンが出てきた。先程のジークの斬撃で服のあっちこっちが破けて切れているが、本人に怪我などのダメージなく顔には闘気が満ち溢れていた。


「……! ……!」

「───っ! シッ!」


ジークに向かって駆け出しながら斬撃を放ち続けるシオン。それに応えるように盾で弾きながら彼女に迫った。


攻撃を交え二人の距離がゼロになろうとしたところで、二人の技が激突した。


「『雷鳴』……!」

「『翠風の音掌波(グリーン・ヒット)』っ!」


シオンの雷の剣技とジークの風の専用技。

雷の震動波と風の浸透圧波動が押し合い、左右に波のように逸れた。


互いが解き放った風と雷のオーラはそのあまりの強大さに周囲へ溢れて出してしまい、訓練場を駆け巡ってしまった。


その結果、騒ぎ出した言うまでもなく見ていた観戦者達であった。


「やり過ぎだあの二人!」

「早く止めないと会場が壊れるぞ!?」

「そうだな───ってどうやって!?」


そのあまりの規格外な模擬戦を見て、観戦者から止める声が上がる。


しかし、止めたくてもそれは不可能に近かった。

予選会のジークとティア戦程ではないが、十分生徒達(彼ら)の常識を凌駕していた。割り込めるなど最初から不可能だったのだ。


「無理だ! こんな戦い、割り込めれる生徒なんか一人もいねえよ!?」

「誰か先生を呼んで来るんだっ! 急げ!」


慌てた様子で騒ぎ立つしかなかった。腰も引けている者も多数いる中、強張った顔でミルルがトオルに問い掛けていた。


「トオル君でも無理なの?」

「悔しいがレベルが違う。ジークもシオン姉も。特にシオン姉なんか滅多に見せないくらい楽しんでやがる。……とても割り込めねぇよ」


と悔しげに言うトオルをよそにジークとシオンの戦いは、次のステージへと移ろうとしていた。



◇◇◇



「本当に面白い……。トオルがあなたに興味を持った理由が分かった気がする……」

「ははは、そうですか」


お互い手を休めず、刀と盾で交戦しながら会話する二人。

隙を狙い刀で斬りにくるシオンに盾で防いで叩きにいくジーク。


「『零の衝撃(ノーマル・インパクト)』!」

「っ、っ……」


刀を振り下ろしたシオンにジークは腹部を狙い、種類を変え無属性の衝撃波を与える。苦しげに攻撃の手を止めるシオンにさらにたたみ掛けようとするジーク。──────しかし


「……!!」


キッとシオンに睨まれた瞬間、ジークは背筋に恐ろしい程の寒気が走った。


次に起きたのは彼女の刀である。

無属性や火属性、雷のオーラを度々出していた刀が一変。純色の青のオーラを溢れ出すと刀身まで青く染めてみせた。……冷たい剣気がそこから漏れ出していた。


(これは、魔力だけじゃない……気も混じってる! ────マズイ!)


その変化を見たジークは直感した。

まともに受けてはいけない。防御するか避けないと危ない攻撃がくる、と直感が訴えたのだ。


だがジークは何かしらの対処をするよりも早く、シオンが動いた。ジークの攻撃を躱してその場で高く跳躍した。


「……!」

「やばいっ!?」


すぐさま魔弾の準備をするが、シオンの方がずっと早く彼に気と魔力の剣技を放ってみせた。


「舞散れ『八式改 青桜・青花乱れ桜』」


上空から降り注いでくる鋭利な斬撃の桜花。

ジークはそこまで認識したところで戦闘に回していた思考を中断させてしまった。


次回の更新は来週の土曜日です。

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