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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯前。
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第8話 茶番と報告。

「では────始めましょうかスカルス君?」

「あ〜〜ご自由に」


訓練場に立つジークとクロウ。

最初に切り出したクロウが片手を上げると、それが合図となって戦いが始まった。


「最初は小手調べに─────『火球(ファイア・ボール)』」


詠唱破棄で魔法を発動させるとクロウの周囲から、十数発の火の球体が出現する。

全て砲弾サイズの火の球。クロウの指示を待つように周囲で、揺らめくように浮いていた。


「そちらはどうしますか?」

「……ちっ」


人を小馬鹿にするような笑みを浮かべるクロウにムカついて、小さく舌打ちをしたジーク。

言葉での返答は一切なかったが、彼の中心にクロウが出している火の球と同じ数の無色に光る矢──────『零の透矢(ノーマル・ダーツ)』が円を描くように出現し出した。


「ほうほう? 魔法式ではなく(スキル)ですか。予選会でも使ってましたが、随分お得意ですね?」

「……」


観察の目でジークが出している魔弾を見つめるクロウ。間近で見て見るとなかなかの物だと彼には見えたようだ。


「では、こういうのはどうでしょうか?」


首を傾げて尋ねたクロウ。その動作と一緒に周りに浮く火の球が一斉に飛び出した。


「……」


ジークは無言のまま微動だにせず、飛んでくる火の球に待機させている魔弾を迎え撃たせた。

火の玉はジークの魔弾を掻い潜って彼に迫ろうとするが、魔弾の方は意思を持つかのように侵攻を阻んで的確に当ててみせた。


クロウから飛んできた火の玉はジークの魔弾によって、全て撃ち落とされたのだ。


「───敵を撃ち抜く炎よ『火球(ファイア・ボール)』」

「『零の透矢(ノーマル・ダーツ)・一斉乱射』」


互いの攻撃が止んでも、再度攻撃を続ける両者。

強化詠唱を加えクロウは更に火の球を増やしてジークに襲い掛からせる。

ジークもそれに倣い魔弾の数を増やして迎え撃つ。


─────遠距離からの互いの攻撃は均衡して続く。


クロウが次々と火の球を増やして放ち続け、ジークがそれら全てを魔弾で落としていく。

大きさ的には強大な火の玉を操るクロウが有利に最初は見えたが、ジークの魔弾を負けず劣らずであった。


放たれるの矢のような長い細い物であるが、質が違うのか直撃すると相手の玉を相打ちで霧散してみせたのだ。


スピードも大差なく、このまま続ければ魔力量で誇るジークが勝つのは明らかであった。


「なるほど」


だが、納得顔の頷きつつ攻めるクロウがその未来を遮った。思案顔となって魔法を整えると素早く次なる手を発動してみせた。


「────『火の壁(ファイア・ウォール)』」


クロウは手をジークに向けて火の防御魔法を発動した。


「? なんのつもりだよ?」


発動してすぐ、ジークの四方を囲むように火の壁が出現した。

怪訝そうに自分を囲む火の壁を見て、壁越しにクロウが立つほうへ顔を向けるジーク。


「もう一度いきますよ? 『火球(ファイア・ボール)』」


怪訝そうに感じるジークに対し、楽しそうな声音でクロウが言うと向けていた手を、軽く彼に向かって振るい、火の球を再び発動させ放ってみせた。


しかし、今度の火の球は前よりも遥かに大きい。数こそは先ほどと同じか少し少ない程度であるが、それに比べても一つ一つの火の球が巨大であった。


人間一人ぐらいは簡単に呑み込んでしまいそうな、火の球に対してジークは回避することができず────────


「熱いな。────『碧水の遮蔽布(ブルー・テーラ)』」


唯一空いてる上から降り注いでくる火の球に見向きもせず魔力を練ると、ジークの体が水色に輝く。すると体全体を覆うように水色に輝くマントが生まれた。


「───ッ!」


彼がマントを翻すと水属性のオーラが彼の体から弾け飛ぶ。翻されたマントはジークの何倍もの大きさまで広がり、火の壁が水のマントよって吹き飛ばされた。


「ふッ!」


ついでに降り注いできた火の球もマントで弾くように飛ばしてみせた。大量の火を一気にかき消したことで、彼の周囲から煙が巻き起こる。


「……詠唱や魔法式がなく効率が良さそうですが、その分複雑な操作や変化ができない筈……」


自然に魔力技で魔法を弾くジークに、クロウが観察眼で見つめる。


とても魔法式によって作られてない。単純な二〜三工程のみでできた技とは思えないほどの物にクロウは少しばかり目を見開いて驚いていた。


先ほどの放たれた無属性の魔弾もそうだが、どれもこれも通常の魔法以上とは言わないが、性能が同じくらいかそれに近い物であったのだ。それこそ魔法と取られてもおかしくないほどに。


(散々練習したからな。この分野については)


腑に落ちない様子のクロウにジークは苦笑気味に、過去の修業時代を振り返っていた。


『オレは邪道なんだ。戦い方がよ』


戦闘方面の修業を受け持ってくれていたバルトからそう言われたジーク。


言葉の意味はなんとなくであるが、理解できた。

その頃の彼は自分の魔法────というより魔力を上手く扱えず、途方に暮れていた。


そんな時であった。バルトが突然修業を放っぽり出し、ジークにアレやコレやと遊びを教えたりして来たのは。


道楽の遊びなどしたことがなかったジーク(村にいる女の子達の遊び相手をしたことはあるがそれは除外で)ルールも分からずもう自己流で熟すしかなかったが、全てを終えた頃バルトから話が持ち出された。


『要は常識が合わねぇんだよ。オレもおめぇもな?』


改めてバルトから遊んだ物のルールを聞いたジークはそうだなと納得してしまった。


ルールに合わせては自分を活かせない。

遊びのルールも魔法の常識(ルール)同じであった。


世界の常識は自分達のような特異な存在には最初から合わなかったのだ。


だが同時になんとも回りくどいやり方な気もしたが、バルトなりに彼の心身を休ませるのも理由だったようだ。


当時に楽しさも知って彼の生き甲斐の一つにでもなればと考えたのだろう。


『常識が合ねぇなら変えればいい。自分流にな?』


そこからはバルトが言わなくてもジークには理解できた。


セオリー通りに取り組む必要などない。

自分のやり方で極めればいいのだと。



(複雑な魔法()よりもこうして(手動)で魔力操作した方が楽になった)


それ以降、魔法修業の大半を己の(スキル)に注ぐことにしたジーク。


師匠からは渋い顔をされたが、一緒に通常魔法も覚えることを伝えて了承得た。


その結果、最近使用している『零の透矢』などではないが、色々と編み出すことに成功したのだ。その代わり通常魔法の魔力制御が壊滅的であったが、それでも多少はマシにはなった。



そして比例するようにもう一つの彼の原初魔法(チカラ)も着々と成長していった。



◇◇◇



─────とそこで回想が終えた頃には。


「ははは…………凄い光景ですね」

「そうかな?」


ジークが発現し尽くした無数の『零の透矢』がクロウの魔法弾を全てを落とし切り、彼の周囲に数センチのところで止まって全てロックオンしていた。


「発動スピードが早過ぎますね。手が数が全然足りない上、追い付きませんよ?」


既に両手を上げて降参の意思を見せるクロウ。困ったのような微笑でそれらを操るジークを見るが、とうのジークは胡散臭げな口調で魔弾をを消さない。


「胡散臭い顔ですね? 全然本気じゃなかったでしょう。何ですかこの茶番は?」


いつになく冷たい顔で彼のことを睨んでいるジーク。普段は見せない彼の態度。もしトオルやサナ、アイリスが居れば驚愕するであろう。


「誤解ですよ。私はずっと本気でしたよ?」


笑みを絶やさず崩すこともなくクロウは答えてみせる。だがその心の内を隠すような彼の笑みをジークはかなり短で知っていた。


(なんか俺にも似てるが、これは学園長に近いものを感じる……)


そう考えると何故か不安を覚えるジークであったが、時間も経って他の学生達が訓練場に入ってきたのを見て思考を切り、クロウとの模擬戦を終えることにした。



◇◇◇



「以上がジーク・スカルスと戦闘して関して報告となります。学園長(・・・)

「そうですか。ご苦労様でしたバルタン君」


とある夜の学長室での会話である。


ジークと戦ったクロウ・バルタンが学園長のリグラ・ガンダールに模擬戦での感じたことを報告していたのだ。


「慣れないことをさせてしまってすみません。なにぶん今は人手が不足ですから」

「相手は学園長の自慢の先輩方の監視を掻い潜った者です。仕方ありませんよ。……ですが、流石に疲れました」


と済まなそうに言うリグラにクロウは肩を竦めて小さく息を吐く。


「だから君に頼んだんです。私が信頼できる数少ない君にね?」

「ありがとうございます」


そう。彼は学園長が誇る調査員の一人であるのだ。以前ジークを監視していた外で仕事をしている学生達とは格が違う。学生でありながら既に裏の仕事をも受けている学園長の持つ数少ない優秀な手札であった。


「学園長の仰った通りSランク以上の実力はありましたね。こちらも本気でなかったので底までは把握できませんでしたが」


下級魔法での接戦のみであったが、クロウはジークがSランクは確実にあると確信を持てた。


戦闘中ジークが口にしたように本気ではなかったので、何処までの実力なのか分からなかったが、それでもSランクレベルである自分が負けるとは思ってなかった。予選会であったジークの戦いを見た後でも。



最もジークが冒険者最強クラスのSSランクであると知れば、即座に態度を百八十度変えて前言撤回するであろうが。


「彼女の方にもそれとなく彼の接近するように言ってあるので。彼女の方は既に彼の側で自然に溶け込んでますから、以降の調査は彼女に委ねますから大丈夫ですよ?」

「彼女? ああ、彼女ですか」


一瞬誰かと首を傾げたが、すぐに誰なのか察したクロウ。一年時に不審な行動をしていたジークに対してリグラは密かに監視役を付けていたのだ。ただし仕事の合間程度の監視でいいと言っていたのであまり情報はない。


だがリグラの言う通り、彼女であればジークに自然に近づいて内情を探るのも無理ではないだろう。


クロウは納得顔で頷きながら話を終えるのであった。


次回の更新は来週の土曜日です。

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