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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯前。
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第7話 緋色の雷導と二人目。

『融合』とは『一体化』に並ぶSランク技法の一つである。一つ違うのはこの『融合』に関しては特殊資格が必要されていないことだ。


『融合』は、『一体化』のような身体に影響を及ぼすのではない。


『一体化』は魔法を体の一部に加えるものだが。────『融合』は魔法と魔法、属性と属性を合わせるものだ。


以前『七罪獣』、『魔境会』の幹部やジーク自身も使用した技法────混合魔法も、その技法に含まれている簡略化されたものだ。こちらの場合は二つの魔法を基準にしており、リスクがかなり下がるが……。


その上の技法である『融合』は───── 『一体化』とまた別の大きな問題があった。


「『融合』とはあれか? 『一体化』に近いレベルで魔力操作が必要な上、使い難い割りに暴走し易いから使い手が殆どいないことで有名な……あの技法か?」

「まぁ、確かに使い辛くて本気で使おうものなら、消耗も激しいから使用者が全然いないのは事実ですが……」


────それでも中にはいるんだぞと言いたいが、ガルダの言い分も最もなので仕方ないことであった。


『一体化』は一つ以上(・・・・)の魔法を身体に組み込む為、魔力の消耗は最低魔法一回分で留まるが。


『融合』は最低でも二つ(・・)の魔法を用意する必要がある。属性同士にせよ消耗は二回分くるのだ。加えて魔力操作も『一体化』と同じくらい重要になる。


さらにこれが一番のリスクだが、この技法を使用する際二つの魔法、あるは属性を融合させる場合、操作を誤るとどちらかが消滅するか両方が消えてしまう可能性があるのだ。せっかく大量の魔力を消費しても、その苦労が水の泡になりやすい。


(無駄に消耗が激しいくせに操作も『一体化』程じゃないが、結構難しいんだよな)


だから二種類の技法のどちらかを取得しようと考えるなら、資格取得が大変でも間違いなく『一体化』の方を選ぶであろう。

ジークのような魔力の化け物でもない限り、選択の余地はないのだ。────ただ。


「魔力操作がそんなに得意じゃないから、魔法同士の融合の方はあまり得意じゃないんですよ」


魔法融合は今回必要なかった。

告げると体から火の紅いオーラだけでなく、別のオーラが噴き出し始める。……黄色の光が身体中に駆け巡った。


「その色は……雷属性か!」

「当たりです」


その色を見たガルダが叫ぶ。身構えて先制攻撃を仕掛けるか迷ったが、溢れ出ている属性オーラの量が異常である。不用意に踏み込まず、とりあえず様子を見ようと構えたままでいた。


「いくぞ─────『融合(・・)』」


十分に満たされた二つの魔力を操作するジーク。

右手には火属性の紅いオーラを。

左手には雷属性の黄色オーラを。


「ッ!」


─────二つの属性魔力を胸の中心で合わせた。



「─────『緋天の皇蕾衣カーディナル・サンダー』」



するとジークの体から紅き雷が(ほとばし)る。

この瞬間、ジークの発する魔力のオーラが融合属性の緋色の雷へと変化した。


「『身体強化・緋雷の型(ブースト・スプライト)』ッ」

「──ッ!」


身体中を走り渡る紅き雷。融合魔法による身体強化だと瞬時に察したガルダ。警戒レベルを一気に引き上げてつつ、ジークが動く前に先に仕掛けた。


「『純黒の拳撃(グラファイト・ブロー)』っ!」


一気にジークに迫ると、拳に灰色のオーラを乗せた純黒の一撃を打ちつける。


『オイオイ……!』

『本気か!?』


先程よりも明らかに巨大なオーラを見て、観戦している者から息を呑む気配がする。ガルダが本気になったのだと、見ただけで感じ取り戦慄している。それだけガルダの魔力圧が周囲を圧倒していた。


「吹き飛べぇぇぇぇぇぇッッ!!」


凍り付く観戦者が見守る中、ガルダの一撃はジークの大ダメージが、確実に彼の頭部へ────


「───何処を狙ってる?」

「───っ!?」


届く前にガルダの拳はその場の空のみを射抜いた。

気が付けばジークの姿は、ガルダの視界から消えていたのだ。


「こっちだ」

「────なっ!?」


背後だと気付いて振り返ったが、その先にも誰もいない。

咄嗟に魔力を探るが、彼の魔力が感知できないことを思い出し、困惑しながらも気配を探ろうとしたが。


「───っ!?」


気がつけば目の前で、紅き雷が彼の視界を埋め尽くしていた。

視界が晴れた彼の前には、身体から紅き雷を発し拳を構えたジークが立っていた。


「フッ!」

「───アッ!?」


ジークの拳から繰り出した膨大な紅き雷の奔流は、ガルダを─────


「ガ、ガアアアアア!?」


彼が一体化している『純黒の装鎧(グラファイト・アーマ)』を貫いてみせた。


(な、なんて一撃……! 装鎧(アーマ)が全く効かないだと……!?)


火属性の火力だけではない。雷属性の貫通力も含まれていた融合属性は、ガルダの強固な鎧の肉体内部まで通してみせた。


「が、あああ……!」


物理的な衝撃があまりなかった為、飛ばされはしなかったが、体内に暴力的に駆け巡った強烈な融合属性。モロを受けてしまい、ガルダの思考が定まらなくなっていた。


「ッぐ……! 魔力が……練れない……!?」

「雷の特性の一つ“放電”だ。鎧や魔力層を貫いて魔力体も痺れたようだな」

「く、クソ……」


体内まで受けてしまった雷の影響で痺れる。身体の反応が鈍ってしまい魔法を発動させようするが、魔力自体が上手く練ることが出来ない。


(クッ、僕の魔力が、奴の魔力に圧迫されている感じだ……! 肉体も魔力の制御も利かなくなってる!)


不甲斐ない自分に舌打ちをする。痺れながらどうにか拳を構えて、ジークに歩み寄ろうとするが……。


雷と火のダメージが残っている中では、出来ることは限られている。身体はプルプルと震わせていて、今にも倒れてしまいそうであった。


「やめた方がいいですよ?」

「ク、クク……断る!」


紅き雷を身体から発して警告するジークだが。

ガルダは獰猛そうな笑みを浮かべて拳を向けてくる。


────まだ戦える。言葉で発しなくても、その拳しで返した。


(いや、どう見ても無理だろう。最初に“緋天”の一撃を受けたんだ。しばらくはまともに戦えない筈だ)


既に倒れる寸前であるが、本人は全く諦める気がない。ジークは無言でため息を吐くと、緋色の雷を鳴らして彼に向かって地を蹴った。


「ラァッ!」

「がはっ!?」


雷速となって接近したジークから繰り出される回し蹴り。

既に一体化が解けて、硬化魔法も解けているガルダは、まともに動くことも出来ず、肉体だけ防御するしかなく、その攻撃をもろに腹へ受けてしまう。


「ぐっっ!?」


受けると同時に彼の受けた腹から身体中にかけて、紅き雷が暴れ回る。焼けるのような痺れるような、いくつもの痛覚が刺激れて彼の思考を混濁させて、最後に意識を落とそうとする。


「かっ、あ……!」

「これでトドメだ……」


身体中から煙を出して膝をつくガルダを見て、もうこれ以上続けるのはマズイと考えたジーク。


次の一撃で仕留めようと、両手の魔力オーラを合わせて魔力を集中させ始める。

身体中を巡らせていき、最終的に右手一つに込められた。


(“緋天”───解放)


完全に無防備となっているガルダへ、莫大な魔力が込めれた手のひらが腹部を触れると……。


「『緋蕾降臨』」


ガルダの身体を呑み込むほどの巨大な紅き雷が、ゼロ距離で放出された。



◇◇◇



「「やり過ぎだ(よ)っ!!」」

「おっしゃる通りです」


模擬戦終了後、当然であったが怒られてしまった。

大量の緋雷を浴びて、ボロボロとなったガルダを慌てて介抱する生徒達を置いて、トオルとミルルがジークに叱りつけていた。……あとジークは正座中である。


「なんだあの赤い雷は!? 明らかに危険なモノに見えたぞ!!」

「特に最後のアレはなに!? もう倒れかけてる先輩に向けるにしても、過剰過ぎるでしょう!!」


二人とも憤慨した様子で彼に詰め寄っている。……思わず、腰が引けたジークが弱々しく抗議のような言い訳を口にするが。


「だ、だってあのまま続けたらそれこそ危なかったと思ってさ? 俺だって色々と悩んだんだよ? だから……その…………トドメのつもりで一発強いのを打てば先輩も止まると思って……」

「「本当にトドメになってどうするんだ(のよ)っ!!」」


その後、念の為に保健室にもガルダを連れて治療もしてもらったが、もともと頑丈にできているのか、痺れが取れるとすぐ動けるようになっていた。……タフである。


ただ、あの二人の戦いを見た所為か、その日はもう誰も挑もうとはせず、日が経つ毎にジークに挑む人数も減っていった。……思わぬ形でジークの願いが叶った瞬間であった。



◇◇◇



「やぁスカルス君おはよう。朝から訓練とは真面目だね」

「……おはようスカルス君」

「ど、どうも、おはようございます?」


とある朝の出来事であった。

本日も真面目に学園に来たジークは、午前の授業がない為、一人で訓練場にやって来ていた。

時間は割と早い方であった為、訓練場にまだ人が居らず、とりあえず大会で使いそうな技の練習でもしようとしていたところだった。


彼の元に二人の先輩がやって来たのだ。


「風紀委員のトップ二人が来るとか、嫌な予感を感じさせますね」

「おや? 随分な言われようですね?」

「まあ、色々とありましたから一年の頃」

「ん……そうかな?」


眼鏡を掛けた黒髪の男性の方は、微笑を浮かべるだけで、同じく黒髪の女性は不思議そうに首を傾げる。


風紀委員長のシオン・ミヤモト。

副委員長のクロウ・バルタン。


学園のトップクラスが二人が一緒に現れた。

朝、人がいない中、こんな光景を目撃したら嫌そうな顔もしたくなる。ジークは表情を隠そうとせず、ため息を吐きながら現れた理由を訊いてみる。


「……ガルダ先輩からは一人ずつ順番に来るような風に言われたんですがね? まさか二対一がご所望ですか?」


戦う前にガルダからそう言われたのを思い出した。イヤイヤそうな声音で、クロウに睨みつけながら吐き捨てるように言うが。


「いえ、最初はそのつもりではありましたが、少々問題がありまして」


そのつもりがあった時点で、彼にとっては十分問題であるが。


「問題?」

「実は────」


苦笑いをして話すクロウに、ジークが不審そうに睨む。どうもジークはこの男のことが嫌い……苦手なようだ。


クイと眼鏡を動かして説明するクロウだが、その説明を聞いたジークは『はぁ?』と言いたげな顔して口を挟んだ。


「つまりあれですか、順番が決まったけどアンタがごねていると?」

「ごねてるというと言うと訂正したくはありますがね。概ねその通りです」

「……はぁーー」


やれやれと肩を竦めるクロウにジークは、イラつきを抑えるように深い息を吐いて落ち着くことにした。


(くだらない。ホントーーーに、くっだらねぇ)


話を聞いたところによると、順番は一応決まったそうだ。……結果的にシオンの方が先にジークと戦うことになったが、それに異議を問えたのがクロウであった。


なんでもシオンよりも劣る自分が後から挑むなど、風紀のメンツや個人的なプライドに傷がつくという、ジークには全く意味が分からない理由だった。ふざけているのかと睨み付けたくなる。


(心底どうでもいいわ! お前のプライドもお前らのメンツも!)


「で、そちらの委員長さんは?」

「……見に来た」

「……そうですか」

「……?」


短めに返答する彼女にジークは、難しげな表情で視線を逸らしてしまう。

無表情なところがフウに似ているのもあるが、そんなフウ以上に感情が読み取りづらく困ってしまう。フウの場合は短くても付き合いがあったので、少なからず読める部分もあったのだ。


さらにもう一つ。ジークが彼女と視線を合わせ辛い理由があったが。


「まあいいですよ。やりましょうか」

「もう、よろしいのですか?」

「あんまり時間が経つと人が来ますし─────なにより」


一度間を空けてクロウをそしてシオンを見据えると。


「風紀委員のトップの一人が無惨にやられる姿なんて……アンタの言うプライドが許さないんじゃないのか?」


不敵な笑みを浮かべて挑発的な発言をしてみせる。

その言葉に一度ポカンとした顔するクロウだったが、少ししてプっと吹き出すように笑うと微笑を楽しげな笑みに変えた。


「……ふっ、その通りですね。ですが───」


学園でもトップクラスであるクロウ・バルタン。

風紀に厳しく、風紀委員の中でも腹黒い副委員長だが。


「私も風紀を背負う者の一人です。簡単に勝てると思ったら大間違いですよ?」


その彼が今、普段は見せない嬉しげな顔をしている。少し離れたところで見ているシオンには不思議な光景であった。


(あんなに……楽しそうなクロを見るのは初めて……)


心の中で感想を述べるシオンの先でクロウは眼鏡を光らせる。目の前に立つジークを射抜くような鋭い視線でぶつけた。


「油断すれば即座にその首、狩り取ってあげますよ」

「ハッ!」


ナイフのような鋭い視線をぶつけられて言われたジークは面白げに笑い出してみせる。何がツボに入ったかは分からないが、その笑い声はクロウと同じく嬉しげな感情の発声であった。


「あははは……やってみろ?」


笑うのをやめると浮かべていた笑みを消して、クロウと同じ鋭い視線で彼を射抜いていた。


次回の更新は来週の土曜日です。


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