身代わり聖女
この作品は、短編として投稿していたつもりが連載として投稿していたので、再度投稿し直した作品です。
壮厳な神殿、大勢の参列者、少ない身内
目の前の男はニヤニヤ笑っている。
「汝、健やかなる時も病める時も彼を愛し助け、生涯愛し続ける事を誓いますか?」
「はい、誓います」
今日は私の結婚式だ。
誓いたくもない誓いの言葉を例え形だけとはいえ言わなければいけないなんて苦痛だ。
それに、こんな男を夫に持つなんて御免被りたい。
「汝、健やかなる時も病める時も彼女を愛し助け、生涯愛し続ける事を誓いますか?」
「誓います」
ニヤニヤ笑いながら男は誓う。
よっぽどこの状況が楽しいのだろう。
死ねばいいのに。
「この結婚に異議のあるものは今のうちに申し立てなさい。異議なき者は沈黙をもって応えなさい」
司祭が両手を広げ、参列者達に呼び掛ける。
「いませんね、では「異議あり」」
「えっ」という声があちこちから上がり、ざわめきが広がる。
当然だ。この結婚は絶対に成功させなければいけないものであり、皆が祝福している結婚なのだから。
参列者達は異議を唱えた者を探す。
「この結婚は無効だ!彼女は僕の婚約者だ!」
異議を唱えた者が壇上に上がり、皆驚愕する。
当然だろう、何せ異議唱えたのは隣国の王太子だ。
この状況で異議を唱えられたその精神の図太さは尊敬に値する。
「くく、へぇー僕の婚約者ねー」
目の前の男が私を見ながら笑っている。
きっとこの茶番の筋書きを想像して私が何をしたのかに気が付いたのだろう。
無駄に頭の回る男だ。
「何を言っておられるのですか?
私の婚約者はルゼ様お一人。私が愛しているのもルゼ様ただ一人だけです‼︎」
だけど、私が何をしたのかこの男以外に知られる訳にはいかない。
面倒だが、この男を好きだとアピールしておこう。
きっと、後々役立つ。
「だ、そうだぞ。自称婚約者殿?」
「なっ、ジュリア様!何故⁉︎」
こいつ馬鹿だ。
普通この状況で私が乱入して来た王太子を好きだと言ったらどうなるかぐらい想像出来るだろうに。
この馬鹿の発言の所為で余計騒がしくなり、此処まで参列者の声が聞こえる。
「ああー、本日の聖王女様と黒皇子殿下の結婚式は一時中断、いや延期します。
お集まりいただいた皆様、誠に申し訳ありません」
何処からともなく現れたチェリア国の宰相がこの軽い修羅場状態の脱却と混乱を収める為そう宣言した。
とても素早い行動だった、まるで初めからこの事態を予測していた様な、そんな行動だ。
「ルゼ様、ジュリア様、部屋の方にお戻り下さい」
その言葉と共に周りに現れたメイド達に部屋まで引っ張られる。
場のざわめきは引かないうえに、何も解決してないがどうやら私達が此処にいる事で余計に事態が悪化しているとみたお偉いさんの処置だろう。
部屋に着くと、メイド達はすぐに居なくなった。多分あの騒動についての話し合いを私達がするとでも思ったのだろう。有り難迷惑だ。
部屋に2人だけでとても気まずい。
「おい、シア。あの馬鹿を此処に連れて来たのお前だろ」
「何の事でしょう?」
やっぱり、気付かれてたか。
「別にとぼけなくてもいい。此処には俺とお前しか居ないからな」
「…じゃあ言うけど、別に連れて来てはいない」
そう、連れて来てはいない。
来るように仕向けただけだ。
「へぇ、じゃあ誘導したのか?」
「さぁね」
「ジュナのストーカーを公的に断罪する為と自分の保身の為に本当にやるとはな、恐れ入ったよ」
「…私に協力してくれるって言ったのに、結婚を阻止してくれないからでしょ」
協力してくれるって言ったのに…、明らかにこの状況を楽しんでたし。
「お前が何かすると思ったからな。それに面白かったし」
「なっ」
この男、マジでふざけてる。
とそんな事を思っていると、背後から突然ガタッと音がした。
「へぇ、やっぱりジュナじゃなかったんだね」
「……⁉︎」
な・ん・で・い・る‼︎
「よう、ナナギ」
「ルゼ⁉︎どういう事!」
「見たまんまだよ?アリシアちゃん」
もうここまでくればお分かりかと思うが私はジュリアではない。
が、この事がこんなに簡単にバレていいはずがないと言うのに……。
何故こうなった⁉︎
需要があれば、暇な時に続きを書くかもです。