勇者様はふたなり娘に突っ込まれたいそうです
「マーレ、”ふたなり”になってくれないか?」
実家で荷物を纏めた私は、身売りするしかない私を買い取って下さった勇者様の宿泊している宿の一室に行きました。
ええ。行っていきなり、こんな言葉をかけられたんです。
しばらく話していてとかじゃありません。
いきなりです。
第一声です。
「”ふたなり”ってなんですか、勇者様?」
都か大きな街で流行っているものなんでしょうか?
生まれてから、この村を出たことのない私には聞いたことのない言葉です。
「”ふたなり”っていうのは、男でもあり女でもあるもので・・・簡単に言えば両性具有?」
「何ですか、それ? ”リョーセーグユー”とは何ですか?」
「男の性器を持っている女の人」
私は早まった決断をしたようです。
この村の周辺で魔物退治をしたり、依頼をこなしたりして、修行していた勇者様とは顔馴染みでした。異世界から召喚されて来て、私たちのために戦って下さる勇者様。私の止むに止まれぬ身売り話を聞いて、買い取って下さった勇者様。娼館で体を壊して一生を終えるかもしれなかった私を救って下さった勇者様。大金を払ってまで見ず知らずの私を買って下さった勇者様。
その勇者様のためならどんなことでもすると一度は誓った私ですが・・・
「無理です。私、そんなもの持ってません。なれそうもないです。見世物小屋で探してきて下さい」
「頼むよ、マーレ。マーレの顔がタイプだったから、あとは”ふたなり”になってもらって、突っ込んで欲しいだけなんだ」
突っ込むってどこに?
敢えて聞きません。聞きたくないです。
「勇者様の故郷には”ふたなり”という方はいらっしゃったんですか?」
「会ったことはないけど、いるはずだよ」
勇者様の故郷は聞いているだけですごいところのようです。
”ふたなり”と呼ばれる男女(女男)?さんが存在するようです。
異世界、怖い・・・。
何でもありって感じです。
勇者の輸出もしているんじゃないかと密かに思います。
「会ったことはないんですね?」
「ああ」
「興味があるだけなんですね? 体験していないんですね?」
「残念だけど、そういった機会がなくて・・・」
大変喜ばしいことに、勇者様にはそういった機会はなかったようです。
ここはご恩返しのためにも勇者様をまともな道に戻さなくては。
「男には興味ないんですよね?」
「ない!」
まずは異性愛者だということが確認できました。
「女には興味あるんですよね?」
「”ふたなり”なら」
「・・・」
私は自分の目が据わったのがわかりました。呆れた顔をしているに違いありません。
何なんでしょう?
何でそこにこだわるんでしょう?
わかりません。
私には勇者様がわかりません。
「マーレ。”ふたなり”になる魔法って知らない?」
「私、村娘ですよ。魔法のことなんか知りません。魔法使いに聞いて下さい」
◆◇
私は勇者様が真っ当な道に戻ることを願って祈りを捧げるようになり、何故か治癒術が使えるようになったり、聖女マーレと呼ばれるようになりました。
取り敢えず勇者様は真っ当な道に戻せたので、更に感謝の祈りを捧げました。この世界の神様は勇者様の願い以外は聞いて下さるようです。
◇◆
勇者召喚されて、俺TUEEE!!!と言うわけでもなく、俺はコツコツレベルを上げるしかなかった。
無駄に金だけは貯まったけど、使い道を探す前に魔王討伐に行くだろう俺。
そんな時に滞在していた村に住むマーレ・ルチアの身売り話を耳にし、俺は気が付いた時には買い取っていた。
マーレはいつも声をかけたり、食べ物や飲み物をくれたり、怪我を手当してくれたり、優しくしてくれていたから恩返しできないかと思っていたから、ようやくその時がきたって感じだった。
ただ・・・うん・・・まあ・・・色々あって迷惑かけた。
そのせいでマーレは冒険者の間ではツッコミのマーレと呼ばれるようになってしまった。
治癒術が使えるようになったりしたけど、それがマーレらしくて、彼女はまだまだ奇跡を起こしまくった。本人は気付いていないが、魔王を倒せたのもマーレのお陰だと思う。そんなマーレの善意と優しさが巡り巡って、世界を救う奇跡へと繋がった。
あの時マーレがああしなかったら、こうしなかったら、誰々を助けなかったら、そんな”たられば”がなかったら、世界には今も魔王が君臨し、俺の代わりの勇者が召喚されることになっていただろう。
一方通行の召喚で戻れない俺も、マーレの起こした奇跡のお陰でこの世界に骨を埋める心の折り合いがついた。
ありがとう、マーレ。
全年齢で、すみません。




