表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さくらの風  作者: Meg
1/1

坂の上の公園

 ひこうき雲が、ぐんぐんと伸びていく。

 坂の上にある公園からは、引っ越してきたばかりのこの町の景色が見える。

 僕はジャングルジムに上って、その両方を眺めていた。日に暮れていく町。夕日が直接目に届いたので、僕は顔をしかめた。

「春日井くーん」

 間延びした声で、名前が呼ばれた。この町で僕のことを知っている人はいない。ふり向くと、制服を着た女の子がひとり、こちらに手を振っていた。同じ学校の制服を、僕も着ている。彼女は公園のなかに入り、ジャングルジムのところまで近付いてきた。

「春日井くんだよね、今日転校してきた。あたし、クラスの香川なぎさ。よろしくね」

「……よろしく」

「うち転校生って珍しいからさ、ちょっと今日は騒がしかったの。春日井くんすごい見られてたでしょ。ごめんね、いつもはもう少し大人しいクラスなんだけど」

 クラスメイト。

 僕はいくつものそれに入ったことがある。二年に一度、ひどければ毎年一回は転校を転校を繰り返している。そのたびにいたクラスメイト。彼女もそのひとりになる。

「いや、あんなもんだよ。転校生がくるっていうのは」

「そう?」

「うん。どこいってもあんな感じ」

「春日井くん、何回も学校移ってるの?」

「うちは転勤族だから」

彼女はふうんと頷き、僕が見ている町の方へ目を向けた。都会ではないけれど、家や建物がいくつも並び、夕日に照らされていた。ここの公園からは町の様子がよく見える。 みつけて良かった。ここが僕のこの町での居場所になる。

「あたしはずっとこの町なの」

彼女は町の景色に目をやったまま言った。

「生まれてからずっと。この町を出たことがない。特別好きではないけど、出たいとも思わない。多分、他を知らなさすぎるんだと思う」

ジャングルジムの上から見下ろす彼女は、確か教室でも僕に話し掛けてきた。時間割りと移動教室の場所の紙を渡してくれた子だ。こんなところにいるときまで声をかけてくるなんて、面倒見がいい。

僕は足をあげ、地面に飛び降りた。

「僕は好きだよ。この町の景色」

「え?」

「他のことはこれから知ればいい。変わらず居られる場所があることの方が貴重だと思う」

放っていた鞄を手に取り、公園の門に向かった。また後ろから彼女の声が飛ぶ。

「春日井くん!学校でわからないことあったら聞いて!あたしクラス委員だから!」

予想外の大きな声を出されたので、思わず振り返って彼女を見てしまった。目が合うと、それがわかったのか口を閉じてうつ向いた。そんな彼女の様子が子供みたいだったので、僕は笑ってしまった。

「今日はありがとう。さよなら」

そう言って公園を出た。

夕暮れのなか歩く帰り道は、なかなかいいものだ。町に流れる雰囲気もいい。親切な人もいるし、この町はやはり当たりかもしれない。

春になれば咲くのだろう桜の木が並んでいる。坂の上から舞う花を想像しながら、僕は家へ帰った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ