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Hitorijanaikara ~I'm not alone~

 るり色の記憶の欠片の一つが一つ割れ、また一つ割れて行く


 最後に残った一つは今までで一番小さくて、誰もそんな小さな欠片の事など気にしては居なかったけれど


 どんなに小さくても、どんなに目立たなくても、どんなに不格好でも


 その欠片は砕けない、何があっても輝きを失わない




 「おっはよ~ございますっ!!!!!」

 「「うわぁあああっ!!!!!!?」」


 まだ日も上がるか上がらないくらいのあけぼの。手を握りながら寝てしまっていたらしい二人は天地の陽気な掛け声に飛び起きた。非常にばつが悪い。まあ今日も学校なんだし戻ってくるのは当然か。


 「ほらほらせんせ、今日も平日なんだから早く帰って着替えて出勤しないと。私も自主練しないとだし…弥生、体調は大丈夫?」

 「う、うん…大丈夫、ちゃんと授業出る」

 「そうか、じゃあ俺はこの辺で」


 俺は半ば逃げるようにその場を立ち去ろうとした。弥生の事が気がかりで殆どまともに仕事してないし。シャツはぐちゃぐちゃだし。

 脱ぎ散らかした皮靴を履いて彼女らの部屋を後にする。エレベーターが上がってくるのを待っていると天地が裸足でやってきた。


 「何だ天地。別に昨日は何も無かったぞ」

 「知ってますよ、ヘタレですから」

 「あのな……まあ、認めるけど」


 煙草持ってたらこの辺りで吸うのだろうけど、生憎そう言う嗜好品は持ち合わせていない。多分煙草は一生吸わないだろうと思う。寝煙草怖いし。


 「……弥生に告白されたよ」

 「……良かったです、あの子にずっとそうしてほしかったんですから」

 「まあ……彼女の事も考えて丁重にお断りしたけどな」

 「……ま、私も先生の事好きだったんですけどね~」


 にまっと笑う天地。衝動的に俺は彼女の頭を撫でていた。普段はセクハラだの何だの言う彼女だったが、今だけはされるがままになっている。


 「……ごめんな、お前はお前で幸せになってくれ」

 「分かってますよ、付き会いたいわけじゃ無かったんで。幻想は幻想のまま、墓まで持って行きます」

 「捨てちまえそんなもん」

 「……………」

 「……………」


 「「……ふふっ」」


 二の句が告げずに硬直する二人が可笑しくて、笑ってしまった。と同時に周囲が少しばかり明るくなっている事に気が付く。太陽が顔を出し始めていた。


 いつだって、陽はまた昇る。


 「じゃ、俺は帰るぞ」

 「はい、また数時間後学校で」


 エレベーターに乗り込み、わずかばかりの別れを告げる。天地は両目に涙を浮かべながら手を小さく振ってくれた。


 「さてと……」ドン

 

 「やよいっ、体調戻ったんなら早く行こっ!!!」

 「う、うん……」



 涙がほろり、こぼれちゃうけど。


 顔上げて、前を向き。


 未来見つめ進もう。


 そして……



 輝く日々が始まる。



Hitorijanaikara ~I'm not alone~



 パチパチパチパチパチ………


 拍手と歓声がこだまするホールの中。俺は約束通り吹奏楽部のコンサートに来ていた(結構早めに来て並んでいたので真ん中の一番良い所に座れた)。今メインである所の『ウェスト・サイド・ストーリー』が終わり、勅使河原先生の合図で全員が起立する。

 確かにシンフォニック成分多めのコンサートだったけれど、老若男女問わず楽しんでもらえたんじゃないかと思う。それにしても、少しばかり羨ましい。

 プログラムを見るとこの曲で終わりだが……と、二列目の一番手前に立っていた弥生がおもむろに前へと進み出る。彼女は、マイクも使わず大音量で客席に向かって叫んだ。


 「皆さんっ!!!! 今日は私達の演奏会にお越し下さり、本当にありがとうございますっ!!!!! 今日は皆さんの温かな声援の感謝として、あと一曲演奏させて頂きます!!!!!!」


 よりいっそうの拍手と歓声が巻き起こる。その喧騒にも似た激しい気迫に勝るとも劣らない迫力で、弥生は叫ぶ。


 「演奏します曲は、2011年度全日本吹奏楽コンクール課題曲、『南風のマーチ』です!!!!!!」


 一礼して、他の生徒と一緒に着席する弥生。ステージ上の全員が楽器を構えなおした。すごいな~、俺にストーカー言うた時よりも更にでかい声が出てる。


 勅使河原先生の指揮に触発され、直管群の強烈なファンファーレと共に曲は始まった。天地の力強く高らかな響きがホール全体を埋め尽くす。

 ただただ嬉しかった。自分の原点となった地で、原点となった曲が演奏されるなんて。そして懐かしかった。一心不乱に音楽の事ばかり考えながら生活していた日々が瞬時に思い起こされる程に。

 客席中が手拍子に包まれる。俺も夢中で手を叩き続けた。


 (先生……先生……)

 (………………)


 中間部を抜け、Flのソロが弥生の手により挿入される。当時は緊張でミスの多かった彼女だが、彼女の目にもう迷う余地は無い。物悲しくも繊細な旋律が観客の手拍子を止めさせる。この瞬間だけは静寂が波及した。


 (……行け、皆!)


 静寂を突き破る再現部。管弦打の三つが高次元に組み合わさり一つのレールの上を突き進む。

 音は一次元の波だ。それも三つ合わされば三次元の立体に昇化する。それが10,20,30,40,50…と合わさったら。それはもう無限の可能性を秘めているんじゃないか。

 ……下らない評論は止めにしよう。必要なのは一つだけ。心を動かされるかそうでないか。そして答えは既に出ている。


 ブラボーーーーーーー!!!!!!!!


 曲が終わり、全員が一斉に起立する。誰かが言った。俺だった。それに続いて一人、また一人と声が上がる。席を立ち惜しみない拍手を送る。気付けば席に座りふんぞり返ったオーディエンスなど一人も居ない。


 無限大の喧騒に包まれて、その場はいつまでもいつまでも光り輝いていた……

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