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破滅済み公爵令嬢に転生したので全力で借金返済し新聞王を目指します!

作者: 英 慈尊
掲載日:2026/08/23

 大人気乙女ゲームのライバル役……はたまたヴィランである悪役令嬢へと転生し、ドッタンバッタンと大騒ぎする。

 前世において、ネット小説界隈で大流行した一大ジャンル――悪役令嬢転生モノの筋書きがそれだ。

 オーケイ、ここまではいい。


 そして、このわたし――テレサ・ヴィリヤ・ケラネン公爵令嬢(16)は、つい数秒前、前世地球の記憶が蘇ったところ。

 つまり、「わー! これ、ネット小説で見たやつだ!」という状況に、今まさに陥っているわけである。

 オーケイその二。まあ、ここまでもいいとしよう。


 いや、本当は全然よくない。自分がどういう状況に置かれているのかを、こと細かく検証したい場面だ。

 しかしながら、悪役令嬢転生モノにおける主人公の多くがそうであったように、わたしが今置かれているこの状況も大変にのっぴきならなく、なぜ(ホワイ)を考察している場合ではないのであった。


 はい、現状説明……あるいは、現場(げんじょう)説明に入りまーす。

 具体的に、何がどうしてのっぴきならないのか?

 答えは簡単。

 目の前にある両開きの分厚い扉が開いた先……。

 両親の寝室がある部屋に、両親がいるからだ。


 いや、これは()()いるというのが、日本語的に正確な表現。この世界、日本語は存在しないけど。

 では、なぜこうも間近であるというのに、両親の存在が推定形で語られているのか?

 それは、開かれた扉の前に立っているわたしからは、彼らの下半身しか見えないからであった。


 ああもう、ハッキリ言ってしまおう。

 両親、扉くぐった先で首吊って死んでます。

 上半身が隠れてるおかげで、グロいの見なくて済んでラッキーという感じ。


「あー……」


 なんとも言えない気持ちで、なんとも言えない声を漏らす。

 ラッキーと言ったの訂正。グロいのは見なくて済んだけど、人体の構造もあって、シモいものは今生の両親だったモノから垂れ流しあそばされていた。


「これは……!

 いや、そうか……悪は滅びたということだな」


 はい、わたしの隣にイケメン登場ーっ!


「公爵ご夫妻が……!」


 はい、わたしの隣に登場したイケメンの隣に純朴そうな美少女登場ーっ!

 えー、まとめて紹介しますと、こちら原作(?)ゲームにおける攻略対象と主人公になります。

 そして、彼らが、がく然とするわたしと一緒に、公爵夫妻の首吊り死体を目撃するというCEROにケンカ売りまくったこのシチュエーションは……。


「ケラネン家も、これで終わりだな。

 テレサ……。

 あらためて、僕は君との婚約を破棄する!」


 まるで、謎を全て解き明かした名探偵のごとくわたしに宣言するイケメンさん。

 ここまでくれば、もう、のっぴきならない理由がお分かりですね?

 そう……。

 わたしが記憶を取り戻したこの状況は、まさに、ケラネン公爵家が断罪され、わたしことテレサの未来が閉ざされた場面なのである。

 つまり、大体何もかもがネット小説で予習した通りでありながら、前世の記憶を取り戻すタイミングだけは、テンプレ展開から外れていたというわけであった。


 ハッハッハ……!

 アッハッハッハッハ……!

 …………………………。


 どうせなら破滅する前に戻らんかい! 前世の記憶ウウウウウゥゥゥゥゥ!




--




「売り払うわ! 何もかも!」


 両親の葬儀が済んでから大体一時間後くらい……。

「ボク、中世ファンタジー世界におけるお金持ちの書斎!」といった感じのインテリアで彩られた亡き父の書斎において、わたしは筆頭執事のゼバスティにそう宣言していた。


「何もかも、でございますか……?」


 中世『風』ファンタジーなこの世界であるが、『風』はあくまで『風』。

 前世の記憶を思い出したわたしの目から見ると、どうにも嘘くさいというかコスプレっぽいというか、あまりに現代的な執事服を着用した白髪の老執事が、ハンカチで汗を拭いながらわたしに聞き返す。


「そう! 何もかもよ!

 二言はないわ!」


 わたしを断罪あそばした王子や主人公的にはどうでもよすぎる立場ゆえか、原作ゲームにおいては立ち絵すらなかった彼に向けてうなずく。


「お父様が収集していた美術品は当然として、この屋敷と土地……それから、わたしが着ているドレスに至るまでね」


 言いながら、部屋の片隅に置かれた姿見の前へ歩み、そっとドレスの仕立てを確かめる。

 素材は、ナンチャラとかいう魔法繊維。

 見た目はフリフリとした超絶少女趣味のドレスで、やや小柄で細身……猫科の幼獣を思わせる愛らしい顔立ちの金髪縦ロール美少女であるわたしに、よく似合っていた。

 しかし、その実は、安物のナイフくらいなら余裕で止める防刃能力や、ちょっとした魔術くらいならたやすく弾く対魔能力まで備えた逸品だ。

 売れば、相当な値がつくだろう。


 ただし、売ったそのお金がわたしの懐に入ることはない。

 なぜならば……。


「そうして何もかも売り払って、父が遺した莫大な借金の返済に充てるの!

 あ、もちろん、あなたたちのお給料を支払った上でね」


 パチンとウィンクなんぞしつつ答えた。

 そうなのである。

 今生における父ことケラネン公爵は、事業に大失敗してとんでもない額の借金をこさえていた。

 その借金をどうにかするため、ケラネン公爵が考えた方策こそ政略結婚。

 政略結婚の駒であるわたしは、つい先日まで、あのイケメンとの婚約関係を維持するため、悪役令嬢ムーブの限りを尽くしていたのだ。


 まあ、前世の記憶を取り戻した今となっては、死ぬほどどうでもいい。

 今のわたしにとって問題なのは、これから。現世利益に他ならない。

 なお、原作ゲーム内において、わたしはこの後、両親の後を追って自決する最期を遂げる。


 前世の記憶を得る前……純悪役令嬢だったわたしにとって、父の命じたこの政略結婚こそ人生の全て!

 それを成し遂げられないならば、生きる意味なし! うおりゃあっ! ……という具合で、喉をグッサリやるわけであった。


 が、前世の記憶を得たわたし……すなわち、ニュー・テレサ・ヴィリヤ・ケラネンからしてみれば、笑止この上なし。

 うおりゃあっ! して自殺する気概があるなら、うおりゃあっ! と生き抜けばよかろうなのだ。

 まあ、教育の重要性というか、公爵令嬢として半端なく偏った教育を受けていた旧・テレサ・ヴィリヤ・ケラネンには、自死以外の選択肢が思い浮かばなかったということであるが。


 冗談じゃねえ! どこまででも、足掻いてやる!

 死んで花実が咲くものかよ!


「やるわよ……!

 全力で借金を返済し、第二の人生エンジョイしてみせるわ!」


「お嬢様のお人が、変わってしまわれた……!」


 力強く宣言するわたしに対し、ゼバスティはまたも冷や汗を拭いながらつぶやいたのである。




--




「テレサが、ケラネン公爵家の財産を売りに出した?」


 ヴィンガネッサ王国第一王子――アルク・ロシュナン・ヴィンガネッサは、友から告げられた言葉に眉をひそめながら、甘くゆるやかに広がる自身の金髪をいじった。

 身を包む純白の装束も、腰に差した細身の長剣も、見事というしかないこしらえであり、見る者が見れば、強力な魔力を付与されているのが分かる。

 一流の品々を超美形男子が隙なくまとった姿は、まさしく貴公子の中の貴公子。

 婦女子たちから『星の王子』とまであだ名される絶対的美少年の彼こそ、前世の記憶が戻ったテレサに『イケメン』の一言で呼称されていた人物である。


「ああ、俺も話に聞いただけだがな。

 それはもう、いっそ見事と言えるくらいの売り払いっぷりだったらしいぞ?」


 木漏れ日に照らされた王城バルコニー……。

 ティーテーブルを挟んで、足を組みながら肩をすくめてみせたのは、こちらもスゴ味すら感じさせる超美形男子である。

 艷やかな黒髪は下手な婦女子よりも長く伸ばされているが、それが軟弱な印象を与えないのは、オールバックで額を露わにしたその容姿が、狼じみた精悍さであるからだろう。

 それでいて、黒曜石を思わせる輝きの瞳には、深い知性を感じさせた。

 ルーペルト・ハーラルト・ノイマイスター。

 ノイマイスター侯爵家の嫡子であり、アルクにとっては無二の友と呼べる人物である。


 なお、賢明なる読者諸兄はお察しの通り、このルーペルトもまた、原作ゲームにおける主人公の攻略対象。

 テレサに言わせれば、『イケメンその2』であろう。


「確か、テレサが様々な悪事を働き、僕との婚約関係を盤石なものにしようとしていたのは、そもそも、ケラネン公爵家の背負っていた莫大な負債が原因だったか?」


「そうとも。

 あのお嬢さんは、歴代のケラネン公爵が蓄えてきた財産の一切合切を放出することによって、それを補填しようと考えたらしい。

 いや、驚いたな。

 知らない人間ではないが、てっきり、両親の後を追って自殺でもするかと思っていたぞ」


 ルーペルトが口元に浮かべているのは、小さな笑み。

 この男がこういった顔になる時というのは、心底から状況を面白がっている時で、そのようなことは滅多にない。

 ゆえにアルクは、二度と意識すら向けまいと思っていた元婚約者のことを、詳しく問いただしたのである。


「それで、負債の方はどうなったんだ?」


「これも聞きかじりだがな。

 利息も含めたうちの八割ほどは、返せたらしい。

 八割にしか、届かなかったともいうがな」


「魔鉱山開拓失敗による公爵家の負債は、信じられぬほどの巨額だったというからな……。

 では、結局、破滅は免れなかったわけか」


 理由のない罪悪感を感じながら漏らす。

 救う義理や義務はない。

 しかし、救おうと思えば救えたのは、事実。

 それに対し引け目を感じてしまうのが、アルクという少年の気質だった。


「いや、免れた」


「――何?」


 ゆえに、ルーペルトがこともなげにそう答えた時は、急に気負いが取り払われたゆえの肩透かしを受けた気分になってしまったのだ。


「どういうことだ?」


「言葉通りだ。

 テレサ嬢が受け継いだ借金に対し、これ以上の取り立てはされないことになったのだ」


「なぜ?」


「金貸しも人の子、ということだな」


「分からんのか?」とでもいうかのように薄く笑むルーペルト。

 悔しいが、白旗を上げるしかないアルクは、目線で続きを促した。


「利息も含めた八割ほどを返したと言っただろう?

 つまり、元金はきちんと返した上で、ある程度の利息も上乗せしたということ。

 その上で、財と呼べるものは一切合切売り払っているのだ。

 それこそ、身にまとっていたドレスから、長く伸ばしていた黄金の髪に至るまでな」


「断髪を?」


 これには、驚く他ない。

 確かに、テレサの髪ならば、相応の値がつくことだろう。

 しかし、女の命とも呼べる髪を切ってしまうとは……。

 テレサ・ヴィリヤ・ケラネンという娘の性格を思えば、あり得ないことであった。

 そのようにみじめな思いをするくらいなら、いっそ、死を選ぶのが彼女なのである。


「ある程度以上の利益は得られたし、もはや取り立てられるものは何もない。

 これは言い方を変えれば、父親の負債を受け継いだテレサ嬢が、金貸したちに対し誠意を見せたということ。

 誠意を見せられたならば、誠意で返すのが人の(ことわり)

 ごうつくばりな商人たちもそれを思い出し、借金を帳消しにしたということだ」


「ふうん……。

 なるほど、な」


 そう言われれば、納得するしかない。

 実際、アルクが商人の立場でも、そこまでされれば慈悲を見せるだろう。

 となれば、気になることが一つ。


「では、テレサは今、どうしてるんだ?

 借金こそなくなったが、無一文ではあるんだろう?」


「これさ」


 親友が、懐から数枚の紙片を取り出す。

 質の悪い植物紙を使ったそれは、どうやら版画の類のようであり……。


「“薔薇のつぼみ(ローズバッド)”紙?

 これは……!?」


 最初に紙片の右上……これなる紙切れの名前と思わしき部分を読んだ後、次いでやたらにデカデカと踊っている文字を見たアルクは、思わず眉をひそめたのである。


「『ゼーン伯爵に秘密の恋人!? 三番街アパートメントは元オペラ歌手との秘密の愛の巣』!?

 なんて下世話な文章と……挿絵だ!」

 

 純情なアルクが顔を赤く染めたのは、致し方がない。

 最もでかい文字の下に刷られているのは、麗しい女性とまぐわうゼーン伯爵らしい人物を描いた版画で、さらにその下には、細かな文章が刷られていたのであった。

 文章の内容はハレンチを極めたようなもののため、ここでは割愛する。


「他のも面白いぞ。

 『あの伯爵夫人に愛人疑惑! 夜ごと現れる黒衣の騎士』『犬猿の仲は嘘だった? 男爵令嬢と令息、二人きりの舞踏会』『徹底追跡! あの有名冒険者はなぜ毎週同じ花屋へ通うのか?』」


「どれもこれも、他者の……それも、名が知られている人間の醜聞を暴き立てる内容じゃないか!」


 もう目を通すのも嫌なので、渡された数枚の紙片を放り投げた。

 そうすると、バルコニーの床に安っぽい版画紙が散乱することになる。


「だが、その醜聞が民衆に受けている。

 これらは1枚につき5ルイスで販売されているがな。

 毎日、飛ぶように売れているよ」


「……まさかとは思うが、この版画紙を作っているのが?」


 恐る恐る尋ねるアルク。

 ルーペルトはそれに対し、涼しい顔で答えたのだ。


「この流れで、他の答えが返るはずもあるまい?

 これらは、テレサ嬢が設立した“薔薇のつぼみ(ローズバッド)”社で刷られたものだ」


「なんと……」


 親友の言葉に、アルクはうめくような声を漏らすことしかできなかったのである。




--




「さあ! 焦らず! 急いで! 丁寧に!

 今日も王都の民に、極上のニュースを届けるわよ!」


 新聞社の朝は早い。

 まだ陽も昇らぬ深夜、“薔薇のつぼみ(ローズバッド)”社の版画工房の中で、わたしは自身も本日の新聞を刷りながら周囲の人間に発破をかけていた。

 このような作業をしていると、あの長ったらしくて重い縦ロール髪を売り払ったのは、正解だったと思う。

 ドレスを売り払った際、代わりとして受け取ったツギハギ入りのスーツも、なかなか頑丈でかつ、動きやすくていい感じだ。インク汚れも気にならないし!


「社長は今日も元気だなあ」


「そりゃそうだ。

 王子さんとの婚約は破棄されて、屋敷も家財も家臣も全部なくなって、それでもアルベーツ組の後ろ盾を掴んだようなお人だ。

 おれたちみたいな親なし子とは、元々の力ってやつが違うさ」


 彫り上げた版木に紙を乗せ、バレンというスタンプみたいな道具でこすりつけながら会話を交わす子供たちは、皆、我が社の社員。

 なお、前身は、たった今話に出てきたアルベーツ組のシマでスリなどをしていた浮浪児たちだ。


 父が遺した負債を帳消しにした代償として、わたしの手元に残ったのは、靴下の中に隠し持っていた一枚の金貨だけだった……。

 しかし、わたしはそれを元手にして元ボロ小屋、現版画工房を手に入れ、こうして“薔薇のつぼみ(ローズバッド)”を刷りまくり、売りまくっているのである。

 なお、アルベーツ組というマフィアには交渉してケツ持ちを頼んであり、特典として彼ら社員を集めてもらっていた。


「ククク……ファーッハッハッハ!

 人生とは、一旦終わったように見えても第二部第三部が速攻で始まる小説のようなもの!

 第二の人生、破滅程度でなかったことにしてなるものですか!」


 休むことなく手を動かしながら、哄笑する。

 そう、たかだか一回破滅したくらいで何よ!

 トランプ大統領なんて何度も破産申請しているし、牛丼の吉野家だって一回倒産しているんだから!


「わたしの戦いは、まだ始まったばかりよ!」

 お読み頂きありがとうございます。

 「面白かった」「続きが気になる」と思ったなら、是非、評価やブクマ、いいねなどをよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
この王子とヒロイン、好きになれない予感がするw 悪役令嬢こと主人公はエネルギッシュで大変良いですね!!
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