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123 not hi water love not〜超然なき世界の少女――〜

作者: 絢香redeyes
掲載日:2026/02/05

日本にほん 通過上天北海道つうかじょうてんほっかいどう 札幌さっぽろ

令和れいわ八年 夏

朝 晴れ


平らな砂漠は暑くも寒くもない。砂漠は歩きやすい。砂はアスファルトのように固まっている。砂は砂として触らせてくれない。彼の場合もそうだ。誰もいない砂漠を裸足で歩く、白銀の着物にレインボーの帯をした、黒髪で色白の彼――服の色合いはともかく、一般的な男性の身なりをした若者――でさえ。

やがて、彼は背後から呼ばれた。振り返ると、緑色の着物に赤い帯の若者――同性――がいた。

「ホカゼ、今何をしている?」若者は彼に聞いた「キミに話したいことがある。会話をしてくれるか?」

「もちろんだ、ハナカワ。しかしこうやって姿を見せてくれたということはだいぶ調子がいいようだな?」

ハナカワはうなずく。「キミはどうだ?」

「もちろん大丈夫だ。――話というのは?」

「それは……」

「どうした?」

「仕事についてだ」ハナカワは恥ずかしそうに言う「公務員試験も受けようと思う」

「そうか。アナウンサーはどうしたんだ?」

「もちろん目指している。公務員試験はそれが受からなかった場合を考えてのことだ」

「なるほど。だがなぜためらった?」

「……親の言う通りにしているからだ」

ホカゼは微笑する。「気にするな。良い男だな、キミは。同じ道民として尊敬するよ」

「ありがとう。――今日も付き合ってくれるか?」

「もちろん。なめらかな口にしないとな」ホカゼは快諾した「じゃ会話するか」

「ここで話すのか?」ハナカワは躊躇する「場所を変えないか?」

「怖いか? 私と一緒にいれば大丈夫だ。私はキミと一緒にいたい。けれどこの砂漠にもいたい」

ハナカワは苦笑した。「わがままだな。良いよ、キミと砂漠にいよう」

「ありがとう。歩きながら話そう」

「好きだな、この砂漠」

ホカゼは微笑する。「キミもだろ?」

「ああ、もちろん。そうじゃなきゃありえない」と、ハナカワは寂しそうに笑いながら言った。

二人は歩き始めた。

だがすぐに立ち止まる。

着物も帯も灰色の格好をした若い男が行く手にぱっと現れたからだ。

「ホカゼだな?」

彼はうなずく。「キミは? 何か用?」

「私と戦え」男はなにげなく言った「慣れているだろう?」

「ああ。けれどキミの戦う理由は?」

「戦うな」と、右から声がした。見ると、警察官か、とホカゼは思った。

その制服を着た若い男は、「忠告しておく」と、灰色の服の男に言う「ホカゼは既に戦う状態が整っている」

「どういうことだ?」

「知らないか。なら教えるが――いや、実戦したほうがいいな」ふと制服の男はホカゼを見る「私はタカツジ。警察官だ。ホカゼ、キミと戦いたい」

「なぜそんなにその男に戦いを見せたいんだ?」

「それはついでだ。一度キミと戦ってみたかったんだ」

ホカゼは呆れた。「日本警察と戦う気はない」

「キミは戦ってもらう」と、タカツジは灰色の服の男を指差す。タカツジはホカゼを見ながら、「こいつへの暴行罪でキミを逮捕することもできるぞ? 私と戦わない場合」

「公務執行妨害罪は?」

「見逃す。さぁ戦おう。戦いたいはずだ、たとえ私がキミのことを知っているとしても」

「――ああ」と、ホカゼは左手の指先をタカツジに向ける。と、その先から紺色の光線が放たれた。それは一瞬でタカツジの胸の直前で止まった。

「速いな」と、タカツジは落ち着いた様子で言う「だがどういうことだ? そのまま貫けばいいだろ? できるはずだろう?」

「なぜ動かない?」ホカゼは警戒している「それなりに知っているんだろう?」

「ああ、キミは主に光線を胸に当てる。分かっていたが、動けなかっただけさ」と、タカツジは苦笑して答える「シンプルにさ」

(本当だろうか――?)

「撃たないのか?」タカツジは聞く「撃てよ」

(誘っている? やはり何かあるのか?)

(まぁいい。やってやる)

と、光線はタカツジに当たる。光線は相手の身体をただ通過した。その瞬間光線は消えた。

と、タカツジは倒れた。

「なるほど」灰色の服の男は言う「ホカゼ、キミの攻撃は見させてもらった。どうやらなんとか対処できそうだ」一つ聞かせてくれ、と灰色の服の男は付け加えた。

「なんだ?」

「その警察官はどうなった? 死んだのか?」

(なぜそんなことを聞く? まぁいい)

「死んではいない。――こちらからも質問したい。なぜ私と戦いたい?」

「スポーツがしたいんだ」

「スポーツ?」

「この場所でな。だが今のここはそれをするのにふさわしくない。だからキミと戦う。そして好きなスポーツをするんだ」

「それでどうして私と戦いたい?」ホカゼは呆れる「分からないな」

「とぼけなくてもいい。さぁ、やるか」

「ああ」と、ホカゼは左手の指を相手に向ける。と、また紺色の光線が出る。直撃した。と、相手は倒れた。

(何? 倒れた?)

と、ホカゼは不思議に思う。

「ホカゼ、罠なんじゃないのか?」と、ハナカワは言う。

「罠じゃない」と、タカツジの声がした。見ると、彼はすっと立ち上がる。と、彼はホカゼを見て、「そいつはやられたよ。――しかししょうもなかったな、理由。好きなスポーツをやりたいなんて」と、肩をすくめる「そう思うだろ?」

ふと灰色の服の男はぱっと消えた。

「分からない」ホカゼは答える「理由、それだけじゃないと思う。そうじゃないと納得できない」

「納得? スポーツをやるヤツだぞ? それだけで十分じゃないのか?」しかし嬉しいな、とタカツジは付け加えた。

「何が?」

「普通に会話してくれることがさ」

「それくらい普通にするよ」

「私は敵だぞ?」

「だとしてもだ。私はけっこうポジティブだから」

「なるほど。――では帰るとするか」ふいにタカツジは真剣な顔になる「次に戦う時はもっとバリエーションを見せてほしいものだな」

「考えておく」

「また会おう」

と、タカツジはぱっと消えた。

「大丈夫か?」と、ハナカワ。

ホカゼは微笑する。「大丈夫だ、ありがとう」

「敵は久しぶりか?」

「別に久しぶりってわけじゃないな」

「本当に大丈夫か? 少し休めば?」

ホカゼは笑う。「心配症だな。大丈夫、必要ない」

「怖いのか?」ハナカワはなにげなく聞く。

ホカゼはふっと笑う。「まさか」

「そうであってほしいものだね、キミには」

と、左から声。見ると、赤くて長い髪の若い女――着物も赤く、帯は黒。一般的な女性の例に洩れず色白――がいた。

「アマキ先輩、どうしてここに?」と、ホカゼが聞く。

「キミと一緒にいたいんだ」彼女はさりげなく答えた。ホカゼはびっくりした。

すると彼女は微笑して、「いけないかな?」

「まったく問題ありませんよ」ホカゼは即答した「一緒にいましょう。歓迎します」

「ありがとう」ふとアマキはハナカワを見る「キミも来ていたのか。強くなったね」

「はい、叶えたいことがあるんで」

「叶えたいこと?」

「職業のことです」

「……そうか。キミは優しい子だね」

「まぁ……」

「アマキ先輩」ホカゼが呼ぶ「キミは今戦えるんですか?」

「戦う? どうして?」

「気になったんです。どうなんですか?」

「戦えると思う。でも戦いたくはないな」

「ならアマキ先輩、キミも私が守りますよ」

彼女は微笑する。「ありがとう。頼もしいね」

「ホカゼ」ハナカワが呼ぶ「さっきの話だけど」

「話?」

「リンゴゼロファイブのこと。その品種を生み出したのはカワセって人らしい」

(リンゴゼロファイブ? なんで今急に?)

と、ホカゼは不思議に思う。

「それがどうかしたか?」

「思い出したんだ。もしかしたら彼女もここに姿を現すかもしれないって」

「へぇ、それは面白いな」

「ホカゼ」アマキが呼ぶ「これからどうする?」私は予定ない、とアマキは付け加えた。

「ホカゼ」

と、後ろから呼ばれた。見ると、灰色の着物に黒い帯の若い男がいて、「ボクはウミノ。ホカゼ、キミに聞きたいことがある」と、話しかけてきた。

「聞きたいこと?」

「ああ。札幌は全部砂漠か?」

「ああ、そうだ」

「田舎は? 道北も札幌と同じ感じ?」

「ああ」

「ありがとう。ボクは旅行者なんだ。この北海道のことはよく分からなくてね」

さようなら、とウミノはぱっと消えた。

「道北へ行ったのかな?」と、アマキはホカゼに聞く。

「どうでしょう?」

「行ったならすごいね」


すごかった。ウミノは一瞬で札幌から道北の名寄なよろにいた。彼は平らな風景を見渡す。

(なるほど、ここも砂漠だ)

(さて、やるか――)


「そうですね」と、ホカゼは言った「でも、私もすごいですよ?」

「すごい? どんなふうに?」と、アマキは楽しげに聞く「見せてよ」

「ええ。なら歩きましょう」

「なるほど。うん、歩こう」と、アマキは左手を差し出した。その手をホカゼは右手で握る。

「キミも」と、アマキはハナカワにもう一方の手を向ける。

「結構です」と、ハナカワはなにげなく言って断った。アマキは首をかしげる。

ホカゼを真ん中にして三人は歩き始める。

しかし、すぐに歩行は終わった。眼前に男がぱっと現れたからだ。

(何?)

と、ホカゼは驚く。現れたのはさっき倒した男だからだ。

(どういうことだ? なぜ姿を見せることができる?)

「ホカゼ」アマキが呼ぶ「手を放してくれないか?」

「大丈夫ですよ。このままでも戦えます」

「ホカゼ」と、男は呼ぶ。

(声が違う? さっきの男じゃないということか)

そう思わせた男は、「私はキミと戦いたい。じゃないと私の目的は達成できそうにないからな」

「分かった。戦おう」

「楽しみだ。いったいどんな具合かな?」と、男はにやりと笑う。

「具合?」

「私の目的はその女だ」と、男はアマキを指差す「美人だな、楽しみだ」と、舌なめずりする「一生の経験になる」目的を変えて正解だな、と男は付け加えた。

ホカゼは眉をひそめる。「そんなことはさせない、彼女は私が守る」と、左手の指先を男に向ける。と、その先から光線が出て男を貫いた。

(――効いていないか)

(やはりさっきの男とは違うな)

「どうした? もう終わりか?」と、男は笑いながら言う「今度はこっちから行くぞ」と、右手のてのひらをホカゼに向ける「私のビームはキミのよりずっと遅い。けたいなら避けろ」

「避けない」ホカゼは断言する「キミの攻撃なんか。私にはプライドがある」

「ふーん。後悔しても知らないぞ?」と、男の掌から赤い光線が放たれる。それは真っすぐホカゼを胸を貫いた。それはホカゼの光線と同じく、貫いた相手の外見に変化を与えない。

「ホカゼ大丈夫か?」ハナカワが慌てて聞く。

「大丈夫だ。まったく効いていない」

「ホカゼ」と、アマキが呼ぶ「ならハズレということかな?」

「違いますよ」ホカゼは断言した「まったく効いていないだけです」

(――私の攻撃はハズレだったのか?)

ホカゼは思い当たる。

(だが、それなら男のあの余裕は? まぐれでそんな態度を取れるか?)

(もう一度やってみるか)

「どうやらハズレのようだな」と、男はなにげなく言う「今度は当ててやる。さぁ、撃て」

「何?」

「私は撃った。次はキミの番だ」

「どうしてそんなフェアなことを言う?」ホカゼは分からない。相手はゲスだからだ。

「さっきのキミの言葉が気になったからだ。私にもプライドがある」と、男はなにげなく答えた「もっとも戦う理由は変えないがな。さぁ、撃て」

「ああ」と、ホカゼは左手の指から光線を撃つ。

撃たれた瞬間、男は消えた。

(やはりさっきの攻撃はハズレだったのか? それかやっぱり――)

「ホカゼ」と、アマキが呼ぶ「よくやった。私を助けてくれてありがとう」と、笑いながら感謝する。

ホカゼも笑う。「はい。――怖かったですか?」

「怖い? 全然。キミがいるからね。――ホカゼ、キミはどうだった? 一度目の攻撃駄目だったけど?」

「全然ですよ。私にはキミとハナカワがいますから」それに言ったじゃないですか? 私はすごいって。そんなんじゃすごくないですよ、とホカゼは付け加えた。

「そうだね。キミはすごい男だよ」

「いやまだまだですよ、その判断は」

「ホカゼ」ハナカワが呼ぶ「キミはまだまだ戦う気か?」不満げに聞く。

「ああ。不満か?」

「うん。それしかないのか? キミは」と、ハナカワは呆れたように言う。

(なんだと?)

ホカゼはかちんと来た。

「そんなわけないだろう? よし、やってやる」と、ホカゼはアマキを見る「すいません、ちょっと、いや一瞬いなくなります」と、彼女の手を放す。

「分かった。でも私のことを忘れないようにね」

ホカゼは微笑する。「分かってますよ」

と、彼はぱっと消えた。


同時刻、ホカゼは札幌市中央区にある駅の南口広場――高層ビルが立ち並ぶ都会の中にいた。少し人が多いな、と彼は思った。

「ホカゼ」

後ろから呼ばれた。彼は振り返る。ハナカワがいた。

「おいおい、キミも来たのか」

「当たり前じゃないか? いけなかったか?」

「アマキ先輩はどうするんだよ?」

「大丈夫だろう。一瞬で戻るんだろ?」

「まぁな」

(まったく……)

と、ホカゼは心の中で苦笑した。

「カフェに行かないか?」ハナカワは誘う「喉が渇いたよ」

「良いよ」

二人は札幌駅コンコースのカフェへ。混んでいるが向かい合って座ることができた。

「何にする?」と、ハナカワはメニューをホカゼに差し出す。

「キミと一緒のでいいよ」

「ならコーヒーにしよう」と、ハナカワはメニューをテーブルに置いた。

さっきの男のことなんだが、と注文後にハナカワは言う。

「さっきの男? なんだ?」

「別に目的があるようだったな。なんだろう?」

「さぁな、見当もつかない。どうしてそんなことが気になるんだ?」

「なんとなくさ」

「そうか。でもあんなヤツの話はもういい。もっと面白い話をしよう。――そうだな、最近読んだ本の話でもするか」

「本?」ハナカワは意外そうな顔をする「本を読めるのか?」

「おいおい、ずいぶんと失礼なことを言うじゃないか?」と、ホカゼは苦笑しながら言った。

「ああすまない。つい」

「まぁいいさ。話してもいいかな?」

「もちろん」


一方、アマキは思った。退屈だな、と。

(ハナカワも行っちゃうし。まったく仲のいいことだ。――しかしハナカワも行けるのか。やるな)

「そこのお嬢さん」

背後から呼ばれ、アマキは振り返る。四人の若い男――全員、着物も帯も灰色の格好――がいた。そのうちの一人はさっきの男だ。それに気づき、アマキは嫌な予感がした。

「私に何か?」

「リトライだ」さっきの男が答えた「私はキミがほしい」

アマキは眉をひそめる。「私はいらない。キミなんか」

「ほう、つれないな。ますます楽しみになったよ」と、男は笑いながら言う「ホカゼはどうした?」

「さぁね」

「いてもいいんだがな。こっちは四人だ。キミのために用意したんだ」と、男は手を挙げる「私は一番手に戦う」

「なら二番手」と、男の一人が手を挙げる。

「三番手」

「じゃ四番手」

残りの二人も手を挙げた。

「だが忘れるなよ」と、四番手の男が一番手の男に言う「勝ったあとは同時だからな」

「分かってるよ」

アマキはぞっとした。

「さて、じゃ戦うか」と、一番手の男がアマキに言う「戦うよな?」と、右手の指全てをアマキに向ける。と、その先から赤い光線が放たれる。

その瞬間、アマキの目に男の背中が現れた。

そして、その前で光線が消える。

男は振り返る。「大丈夫ですか? アマキ先輩」

ホカゼだ。

アマキはほっとした。「ありがとう、助かったよ」ハナカワは? とアマキは付け加えた。

「その話はあとで」と、ホカゼは前を向く「また姿を現したのか」と、一番手の男を見て言う「懲りないヤツだ」と、呆れる。

「そこのお嬢さんが悪いのさ」と、相手は笑いながら答える。

「彼女は悪くない。キミが悪い。――ひょっとして四人ともキミと同じ理由か?」

「そうだ。これならいける。そうは思わないか?」

「思わないな」ホカゼは断言する「今度も私が勝つ」

次の瞬間、四人の男それぞれの胸の前に、動かない紺色の光線が姿を現す。それは男達の至近距離の虚空から出ている。その光線の前で、四人の男は愕然としている。

「こ、これはどういうことだ?」と、一番手の男がうろたえながらホカゼに聞く。

「何もおかしいことはない。これはキミ達を倒すビームだ」ホカゼは答える「またな」

と、ビームは全て当たった。

その直後、四人は消えた。

「ホカゼ」と、アマキは呼ぶ「さっきの『またな』って何?」

「えっ?」

「あんなヤツらにまた私を会わせようとしたいのかな?」と、彼女は怒ったように聞く。

「まさか! すいません。そんなつもりで言ったわけじゃありません」ホカゼは慌てて謝る。

アマキはふっと笑う。「分かっているよ、キミの言いたいことは。冗談だよ」

「そうですか……」ホカゼはほっとした。

アマキは苦笑する。「見抜いてよ。――ハナカワはどうしたの?」

「すぐには来ませんよ。別に問題が起きたわけじゃありませんけど。そういうもんです」

「そうか。彼が戻るまでどうする?」

「歩きましょう」

「そうだね」と、アマキは左手を差し出す。ホカゼはその手を右手で握る。


「その必要はない」

と、右から声が聞こえた。ホカゼ達はそちらを見ると、若い男――着物も帯も灰色の格好――がいて、「歩く必要はなくなった。ホカゼ、戦おう」と、話しかけてきた。

「ああ、分かった。けれどその前に戦う理由を教えてくれないか?」

「よくぞ聞いてくれた。我々は動物園を創りたいんだ」と、相手は誇らしげに答える。

「動物園?」

(この砂漠に?)

と、ホカゼは不思議に思う。

「そうだ。この砂漠の地にな」

「――我々?」

相手はうなずく。「ほかにもいる。動物を愛する者達が。私は特にライオンが好きなんだ。キミは好きか? ライオン」

ホカゼは一瞬考えて、「別に普通だな」

「普通? いいことだ。我々の仲間にならないか?」と、ライオンの男は提案する「一緒に動物園を創ろう」

「遠慮する。興味ない」

「そうか、残念だ。――なら戦おう」

「ああ」

「行くぞ」と、ライオンの男はホカゼへ走り出す。

(向かってくる? 何を考えている?)

(とりあえず)

と、ホカゼは左手の指を素早く相手に向ける。と、指先からビームが出る。それはすぐさま相手の胸に直撃する。だが相手は止まらない。

(そういうことか)

と、ホカゼは相手の作戦が分かった。

(ならまた撃つ)

そう思った時、ライオンの男は左に跳んだ。そして立ち止まる。

(なんだ?)

ホカゼは相手の様子をうかがう。肩で息をし、辛そうな表情を浮かべている。

(二発目を撃つと思っての行動か。なら次で終わりだな)

その瞬間、ライオンの男――その胸の前に止まったビームが姿を見せる。

(ライオンか)

ふと思う。

(全然見てないな。――見たいな)

と、ホカゼはぱっと消えた。


その瞬間、ホカゼは席に戻った。

「おかえり」と、向かいの席に座るハナカワは言った。ホカゼが消えてまたここに戻るあいだはやはり一瞬だった。

「アマキ先輩は無事だったか?」と、ハナカワは聞く。

「もちろんだ。――ハナカワ、一緒に動物園へ行かないか?」

「動物園? 良いけど急になんだ?」

「今戦っている最中なんだが、その相手は動物が好きなんだ。特にライオンが。それでなんか見たくなったんだ」

「最中っていいのか? ここに来て」

「ああ、もう終いだった」

「それならいいが。――動物園へ行こう」

「ありがとう。――札幌だと確か――」

「いや、旭川あさひかわの動物園にしよう」と、ハナカワはさえぎった。

「旭川? どうして?」

「それは……ライオンがいるからだ」

「ライオン? ライオンなら札幌にもいるだろ?」

「いやいない」

「いない? ――まぁいないなら仕方ないな。旭川へ行こう」

「ああ」

そう決まると、二人はカフェを出た。特急列車の切符を買い、ホームへ行った。特急は数分後に来た。自由席の切符を買ったが、始発だから余裕で座れた。

「動物園に着くのは三時間後くらいかな?」窓際のハナカワが言う。

「そうだと思うよ」

「そうか。――アマキ先輩のところへ戻らなくていいのか?」

「戻る? 心配なのか?」

「やることを残したまま観光できるのか?」

「そういうことか。できる」ホカゼは即答した「言っただろ? もう終いだって」

「キミってヤツは」と、ハナカワは苦笑して言う「ならゆっくり観光できるな」

「ああ、ゆっくりしよう」

――二人は動物園に入った。

「ホカゼ、ライオンだ」と、その檻の前でハナカワは言った。

「ああ、ライオンだ。オスだな。かっこいいな」

「ああ、男らしい」

「好きか?」

「ああ」

しばらく二人は眺めていた。

「――そろそろ戻ろうかな?」と、ホカゼは言った。

「もう? まだライオンしか見ていないぞ?」

「ふいにちょっと気になったんだよ、アマキ先輩のことが」

「そうか……なら仕方ないな」

「悪い」

「私も戻ろうか?」

「いやまだいい。もっとゆっくりしていろ」

と、ホカゼは消えた。


ホカゼはアマキの手を握っている。彼はこの砂漠から移動する瞬間の状態で戻る。彼が消えてまたここに戻る間は一瞬だった。

戻った瞬間、ライオンの男にビームが直撃する。と、相手は膝をついた。

「終わりか?」ホカゼは聞く「まだ戦うなら戦うが」

「いや、終わりだ……」ライオンの男はかなり辛そうに答える。

「分かった」

「だが覚えておけ……我々は必ずキミを……倒して動物園を創る……」と、ライオンの男は倒れた。と、その身体がぱっと消える。

「ホカゼ」アマキが呼ぶ「どこへ行っていたの?」

「動物園ですよ」

「動物園?」アマキはぽかんとする。

「はい、ハナカワと一緒に。見たくなったんですよ、ライオンが」

「そうか。でもなぜ戦いの最中に? 終わってからでいいだろう? 分からないな」

「見たくなったのでつい」と、ホカゼは苦笑して言う「すいません」

アマキはふっと笑う。「まぁいいけどね」

「ありがとうございます」

「ライオンはどうだった?」

「かっこよかったです」

「それはよかった。――ハナカワはどうした? 戻ってこないのか?」

「まだです。ゆっくりさせてあげたいんです」

「優しいね。――さて、行こうか?」

「はい」

「待って。ちょっと聞きたいんだけど」

「はい、なんですか?」

「ここは札幌の中央区で合っているんだよね?」

「はい、そうです」

「ありがとう。見渡すばかり砂漠だからちょっと自信をなくした」と、アマキは苦笑する「いけないね」

「分かりますよ、それ。けれど私がいるから大丈夫ですよ」

「ありがとう、頼もしいね。――どの方角へ歩こうか?」

「決めていいですよ」

「じゃ北」

「はい。――その理由は?」

「なんとなく」と、アマキは笑って答えた。

ホカゼも笑う。「なるほど」


一方、札幌の東区――その砂漠の上には二人の若者がいた。

「どうやらライオンきがやられたようだな」

「ああ。しかも戻ってこない」

「ホカゼのビームはかなりの威力らしい。心してかからねば」

「ああ。――そういえば彼女はどうした? 遅刻か?」

「どうやらそうらしいな。だがいずれ来るだろう。そして愛する動物のため尽力することだろう」


「次はどういう相手が来るかな?」歩き始めてすぐアマキは言った。

「若い男でしょうね」ホカゼは答える。

「分かるの?」

「はい。ほとんどそうですよ。服装もさっきの男と同じです」

その予測は当たった。すぐにぱっと現れた。

「キミは? 私と戦いたいのか?」ホカゼは聞く。相手はうなずく。

ホカゼは、「聞いていいか? 戦う理由」

「動物のためだ。我々は動物のために動物園をこの砂漠に創りたい」

(さっきの仲間か)

「さっきキミの仲間と戦った。彼はライオンが特に好きだと言っていた。キミは何が好きなんだ?」と、ちょっと気になってホカゼは質問した。

「よくぞ聞いてくれた。私はチーターが好きだ」相手は誇らしげに答えた。

(チーターか)

(速い動物だな)

(――こいつも速かったりするんだろうか?)

(さっさと倒すか)

と、ホカゼは左手をチーターの男に向ける。と、その先からビームが出る。その瞬間直撃した。

「効かないぞ」と、チーターの男はにらりと笑う。

(なら撃つか)

(いや、一度にまとめて食らわせたほうがいいか?)

(チーターか)

ふいに気になる。

(そういえばチーターも全然見てないな)

(見るか)

と、ホカゼは姿を消す。


「おかえり」ライオンの檻の前でハナカワはホカゼに言った。

「ああ。ハナカワ、チーターを見に行かないか?」

「チーター? ――まさかまた戦いの最中に来たのか?」

「ああ」

「呆れるよ」と、ハナカワは肩をすくめる「チーターを見に行こう」

「ああ」

チーターの檻の前でホカゼは思う。チーターもかっこいいな、と。

「かっこいいな」と、ハナカワも彼と同じ気持ちのようだ。

「ライオンとどっちがかっこいい?」

「そりゃライオンかな。キミは?」

「難しいな」

「迷うかな? ――まぁスピードはチーターの圧勝だからな、それを加味するなら私も迷うかな?」

「詳しいな」

「アナウンサーを目指しているからな。色々知らなくちゃ。――でもスタミナはあまりないんだぞ? チーター」

「へぇ」

(あのチーターの男はその逆か?)

ホカゼはふいに思う。

(だから効かないのか?)

(試したいな)

「悪い、ハナカワ、戻るよ」

「分かった……早く戻って来いよ?」

「うん」

と、ホカゼは消える。


ホカゼは砂漠に戻った。彼が消えてまたここに戻る間は一瞬だった。戻った瞬間、止まったビームがチーターの男の前に現れる。さらにホカゼは左手の先からビームをチーターの男へ撃つ。と、止まったビームが動く。二発のビームは同時に命中した。と、チーターの男は消えた。

「ホカゼ」アマキが呼ぶ「また姿を消したね。動物園かな?」と、呆れた様子で聞く。

「はい、すいません……」

(――次はちゃんと決めよう)

と、ホカゼは思った。

「別にいいさ。聞いただけ。チーターはどうだった?」

「かっこよかったです」

「それはよかったね。――ライオンとどちらがかっこよかった?」

「ちょっと待て」

と、右からそう聞こえた。チーターの男に引き続き、ホカゼの予測は当たった。

「その中にゴリラも加えてくれ」

(この男はゴリラが好きなのか)

「キミも動物園を創りたいんだな?」ホカゼは聞いた。

「そうだ。キミはゴリラ好きか?」

「興味ない」

「そうか、残念だ。――戦おうか?」

「ああ」と、ホカゼは左手の先からビームを撃つ。

と、ビームの先に人影が現れる。と、ビームが消える。

タカツジが現れた。

(ビームが消えた? なぜ?)

「ホカゼ、こいつを倒すのはやめろ」タカツジは言う。

「どうして?」

「私は警察官だぞ? いいヤツは守らなくちゃいけない」

「いいヤツ? そいつは私と戦おうとしていたんだぞ?」

「それならキミは悪いヤツなのか? キミも戦うだろ?」

ホカゼは答えられない。

「こいつと戦うな」タカツジはそう言い、振り返る「キミもだ」

「どうして止める?」ゴリラの男は聞く。

「聞いてなかったのか? キミがいいヤツだからだ。動物なんかのためにエネルギーを使うんだからな。悪いヤツにはそんなくだらない真似はできないだろうから」

「動物なんか? くだらない?」

「どうした?」

「倒す!」ゴリラの男は怒鳴った「キミは動物を見下している。許せない!」

「落ち着けよ。私は警察官だぞ?」

「そんなこと関係ない!」と、ゴリラの男は右手をタカツジに向ける「喰らえ!」と、右手の指先から赤いビームが撃たれる。

と、タカツジは消えた。

ビームはホカゼに向かう。と、彼は消えた。ビームが彼のいた空間を通過する。その瞬間、左手を前に向けたホカゼ――アマキと手を繋いだまま――が現れる。と、その先からビームが放たれる。ビームはゴリラの男に直撃した。と、ゴリラの男は消える。

と、ホカゼの目の前にタカツジが現れる。

「倒したか。別にいいけど」警察官はさりげなく言った「動物が好きなヤツはまだいるようだしな」

「ならまた邪魔しに来るのか?」と、ホカゼは不愉快だ。

(迷惑なヤツだ)

「悪かった」と、タカツジは謝る。

ホカゼは面食らう。「どうして謝るんだ?」

「今度戦う時にいがみ合ってちゃ嫌だろ?」

「なるほど。そうだな。――でも戦いの邪魔はしないでくれ」

「それは約束できないな。警察官だから。もっとも、動物好きへの考えは外したけどね」と、タカツジは肩をすくめる「介入するにしてももっとよく把握してからにするよ」

ホカゼはふっと笑う。「お願いするよ」

「またな」

と、タカツジは消えた。

「ホカゼ、彼は警察官なのか?」戸惑いながらアマキは聞く。

「そうですよ」

「驚きだ」

「そうですね」

「でももっと驚いたことがあるよ」

「なんです?」

「悪いヤツなのか警察官に聞かれてキミが答えられなかったことだ」と、アマキは真剣な表情で話す「どうして答えなかった?」

「それは……」

「今もおかしい。さっきなぜ『違う』と答えなかった? キミは悪いヤツじゃないんだから」と、アマキは断言した。

ホカゼははっとした。「そう思いますか?」

「うん」

「――分かりました」と、ホカゼは微笑して言う。ふと彼は手を放す。

「どうしたの?」

「いや、別に……」

「握って?」

「は、はい」

「――よし。行こう」

「待ってください」

「どうしたの?」

「ハナカワのところへ行きます」

アマキはふっと笑う。「ゴリラ見に行くの?」

「違いますよ……」

「別にいいんだよ? 行っておいで」でもすぐに戻ってきてね、とアマキは付け加えた。

「はい」


「おかえり」チーターの檻の前でハナカワは言った「今度はどんな――どうした?」

「えっ?」

「ちょっと様子がおかしい気がする。何かあったのか?」

「何もないよ。――園内を見て回らないか?」

ホカゼはちょっと落ち着きたかった。

「うん」


ホカゼは砂漠に戻った。「お待たせしました」と、彼はアマキに言った。

「うん。――一瞬のうちに何をしていたの?」

「動物園を見て回ってました」

アマキは笑う。「やっぱり動物園じゃないか。ゴリラはいた?」

「いました」

「どうだった?」

「かっこよかったです」

「ふふふ、そうか。――今何時くらいだろう?」

ホカゼは一瞬考えて、「――くらいですね」

「ならお昼ごはんにはまだか」と、アマキは呟く。

ホカゼは首をかしげ、「お昼ごはん食べたいんですか?」

「えっ? うん、やりたくなった」と、アマキは苦笑しながら答えた。

「分かりました、なんとかします」

「できるの?」

「なんとかします」

アマキは微笑する。「頼もしいね、ありがとう」

(さてどうしよう?)

ホカゼは考える。

(――やはり何も思いつかない。困った)

「どうやらお困りのようですね!」

と、ホカゼの後ろから明るい声が聞こえた。ホカゼは振り返る。にこにこした、長い金髪の少女――十代半ばか後半。黒い和服にワインレッドの帯をした身なり――が立っていた。

(女? しかも少女? 珍しいな)

「かわいいね、キミ」と、アマキは少女に話しかける。

「ありがとうございます! 嬉しいなー!」

「お困りってなんのこと?」

「お昼ごはんのことですよ」と、少女はホカゼを見る「ですよね?」

「あ、ああ。キミは?」

「ワーちゃんです!」少女は元気よく挨拶した「キミはホカゼさんですね、知っていますよ」

「知っている? ――ならキミも戦いに来たのか?」

「まさか。戦いなんてつまらないもん!」と、ワーちゃんは笑って否定する。

「この砂漠へはどうして?」と、アマキは聞く。

「何か楽しいことをしたいんですよ。分かりませんか?」

「大いに分かるよ」

「嬉しいです」と、ワーちゃんはホカゼを見る「どうですか? 私と協力しませんか?」

「協力?」

「はい、お昼ごはんゲットできるかもしれませんよ?」私は楽しめるかもしれません、とワーちゃんは付け加えた。いや、きっと楽しいですね、とワーちゃんは言い足した。

「アマキ先輩、どう思いますか?」ホカゼは聞く。

「私はいいと思うよ」

ふとホカゼは消えた。


ハナカワは動物園の出口にいた。その隣に現れたホカゼは、彼に相談する。

「私もいいと思うよ」ハナカワは答えた。

ホカゼはうなずく。「分かった」

と、彼は消えた。


彼が砂漠に戻ると、「うわっ、びっくり!」と、ワーちゃんははしゃぐ。

「分かった、協力する」ホカゼはワーちゃんに言った。

「やった! 嬉しいです!」

「お昼ごはんの当てはあるのか?」

「あります!」ワーちゃんは自信満々に答える「任せてください!」

(あるのか)

と、ホカゼは安心した。

(でもどうして知っているんだろう? 不思議だ――)

(まぁいい。頼ろう)

「ならさっそく行こう」

「はい。――でもその前に!」

「どうした?」

「私にビームを撃ってください」ワーちゃんはなにげなく言った。

「えっ?」

「ビームです。どうぞ」

「なんで?」

「とにかくです。撃たないと先に進めませんよ?」

(そうなのか?)

(じゃ撃つか)

と、ホカゼはワーちゃんに左手を向ける。

「――何!?」

「ホカゼ? どうしたの?」アマキは聞く。

「出ないんです、ビームが」

「えっ?」

(出ない? どういうことだ?)

ふとホカゼはワーちゃんを見る。

(こいつのせいか?)

そう思った時、「教えてあげました」と、ワーちゃんはホカゼを見て言った。

「ワーちゃん、どういうことだろう?」と、アマキは聞く。

「ホカゼさんがビームを撃てなくなったこと、教えてあげたんです」

ホカゼは、「キミの仕業か?」

「違いますよ。もしそうなら協力しようなんて話しませんよ」

(そうだな)

「じゃ誰が?」

「忘れました」ワーちゃんはなにげなく答えた。

(知ってはいたのか)

と、ホカゼは少女を怪しむ。

(本当に忘れたのか? 覚えているんじゃないのか?)

「ホカゼ」アマキが呼ぶ「ビームを撃てなくなったようだけど、これからどうする? ほかに攻撃手段はあるの?」

(攻撃手段――)

「殴る蹴るですね」ホカゼは答えた「それくらいです。でも大丈夫ですよ。アマキ先輩、キミは私が守ります」

「ありがとう。でも心配はしていないよ? キミがいるんだから。そう見えるだろ?」

「はい」

「ホカゼさん、大丈夫ですよ」と、ワーちゃんはにやにやしながら、「それだけじゃありません」と、リボルバーを手にぱっと出す「キミにあげます」と、ホカゼに差し出す「どうぞ」

「いいのか?」

「はい、私は戦いませんから。戦いなんてつまらないですから」

「ありがとう、助かる」と、ホカゼは受け取る。

(嘘はついてなさそうだな)

と、ホカゼはリボルバーに弾が入っているか確認する。

「――一発も弾が入っていないじゃないか」と、ホカゼはワーちゃんに抗議する「これじゃ戦えない」

「大丈夫ですよー、弾がなくてもビームが撃てますから」

「ビーム?」

「はい、何発でもどうぞ」

「そうか」

(ならよかった)

と、リボルバーは消えた。

ホカゼは、「ワーちゃん、出発しよう」

「はい。――でも出発ってどこを考えてますか? 札幌にはお昼ごはんありませんよ?」

「そうなのか? じゃどこに?」

「ついて来てください」と、ワーちゃんはホカゼに右手を差し出す「どうぞ」

「どこへ行くんだ?」

「それは行ってからのお楽しみです。――あっ、アマキさんは駄目です」と、ワーちゃんは彼女を見る「ここで待っていてください。一瞬ですから」

「そうか、分かったよ。――ホカゼ」

「はい」

「すまないね、私のために」

「全然ですよ。期待していてください」

「うん」

そしてホカゼは少女の手を左手で握る。

と、二人はぱっと消えた。


ホカゼは平らな砂漠を見渡す。

「ここはどこだ?」と、彼は隣のワーちゃんに聞く。

「旭川ですよ」

ワーちゃんが答えた時、ホカゼは背後から呼ばれた。二人は振り返る。

「私に何か用か?」と、ホカゼは若い男に聞いた「戦いたいならあとにしてくれ。することがあるんだ」

「お昼ごはんを探しているんだな?」

「なぜそれを知っているんだ?」ホカゼは驚く。

「奇特なことだな。なら私と戦え」

(何? どういうことだ?)

と、ホカゼは思う。

(『なら』――?)

「分かった、戦おう」と、ホカゼの右手にリボルバーが現れる。そして彼は撃つ。

(赤いビーム?)

それが銃口から出た。

(しかし遅いな)

相手は右に跳んでかわした。

「やはり速いな」相手は言う「だがかわせないことはないな」と、にやりと笑う「今度はこちらからいかせてもらう」

「ストッープ!」と、ワーちゃんが楽しそうに声を上げた「二人とも、足動かせる?」

(何?)

(何!?)

ホカゼは驚く。足が動かせない。

(どうして? ――相手は?)

と、ホカゼは見る。相手も同様らしいと表情で分かった。

「これはどういうことだ?」ホカゼはワーちゃんに聞く。

「チャンスですよ?」

「チャンス?」

「はい、今なら撃ち放題」

(確かにそうだが――)

(とりあえず撃つか)

と、ホカゼは撃つ。その瞬間、ホカゼは相手の表情に違和感を覚える。新たな動揺が見えたからだ。相手は動かない。赤いビームは直撃した。

「しまった!」その瞬間、ホカゼは叫んだ。

と、相手は消えた。

(やはりか……)

「どうしたんですか?」と、ワーちゃんはホカゼに聞く。

「撃ってしまったからだ。もし倒してしまったらお昼ごはんについて聞けない。聞けなかった……」

(しまった……)

「あはははー!!」と、ワーちゃんは大笑いしながら「アホですねー」

ホカゼはむっとした。「足が動かなくなったのはキミの仕業か?」

今は動かせるのか? 彼はふと気になった。

(――駄目か……)

「えっー? 私じゃないですよ?」ワーちゃんは楽しそうに答える。

「じゃ誰が?」

「たぶんこの土地のせいじゃないですか?」

「土地?」

「それくらいしか答えることができません」

(土地のせいなのか?)

(なら考えても仕方ないな)

(それよりどうする? 足が動かせないならお昼ごはんを手に入れることができない……)

「ホカゼさん、何を考えているんですかー?」

「お昼ごはんについてだ」

「あっ、そのことですか。だったら心配ないと思いますよ? これからやって来るキミの相手が知っているかもしれませんから」

(知ってるかな?)

(まぁそうあってほしいな)

「ホカゼさん、相手はすぐに来ますよ。私、分かるんです!」と、ワーちゃんは得意げに言った「キミの正面に来ます」

「分かるのか?」

「はい」

「どうして?」

「来ますよ」

(何?)

と、ホカゼはふと前を見る。と、人が現れた。

「ホカゼだな?」

「そうだ。戦いに来たのか?」

「ああ。――足が動かない!?」

(何? 彼も?)

「旭川の洗礼ですね」と、ワーちゃん「例えるなら」

(戦う前に聞くか)

「お昼ごはん、どこで手に入るか知っているか?」と、ホカゼは敵に聞く。

「お昼ごはん? 知ってるけど?」

(知っているのか!)

「どこで手に入れることができる? 教えてくれ」

「教えてやってもいいが、まず私に負けを認めさせることだ。そうだろう?」

「ああ」と、ホカゼはリボルバーは構える。

(頼む、耐えてくれ)

そう願いながら撃つ。

(また?)

ホカゼはまた同じ違和感を覚えた。と、敵はビームを食らう。と、敵は消えた。

(またか……)

と、ホカゼはうつむく。

「ホカゼさん、次がありますよ」ワーちゃんは励ます「それとも諦めます?」

「諦めないよ」即答し、ホカゼは顔を上げる。

と、人が現れた。

「戦いたいのか?」ホカゼは聞く。

「ああ」

「その前に教えてくれ。キミはお昼ごはんがどこで手に入るか知っているか?」

「お昼ごはん? 知っているよ。私のほかに四人」

(四人も。ならもしまた失敗して大丈夫だな)

「教えてくれないか?」

「勝負のあとでならいいよ。――足が!?」

(悪いな)

と、ホカゼはリボルバーを撃つ。その瞬間、まただ、とホカゼは思う。足が動かないことに加えて何か相手に起きているようだ。相手は何もせずビームを食らった。

(どうだ……?)

「……私の負けだ……」と、敵はかなり疲れた様子で言う。

(やった!)

「お昼ごはんについて話してくれ」

「分かった。お昼ごはんはニセコにある」

「ニセコ?」

「そうだ。だがキミはそこには行けないだろう」

「行けない? どうして?」

「それは私のあとに来る男が話してくれるだろう」

と、相手は消えた。

その瞬間に次が来た。

(こいつのことか?)

「ホカゼ、話は知っている」

「何を?」

「キミはニセコに行けないことだ」

(なるほど、仲間だ)

「どうしてだ?」

「私達に協力してほしいからだ」

「協力?」

相手はうなずく。「我々はこの旭川をニセコのように素晴らしいところにしたい。旭川は私達のふるさとだからだ。そのために協力してくれないか?」

ホカゼは首をかしげる。「それでどうして私はニセコに行けないんだ?」

「対価として渡すからだ、お昼ごはん」

「何? 本当か?」

「約束しよう。どうかな?」

「――前払いでもらえるか?」

「それはできない」

「ならニセコに行く」と、ホカゼは撃つ。

(身体が動かないのか)

と、ホカゼは相手の表情からふいに気づいた。と、ビームが相手に当たる。

(さっきのヤツらもきっとそうだ。どうして?)

と、敵は消えた。

「協力しなくてよかったの?」 ワーちゃんが聞く。

「ああ」考えるまでもなかった「どれくらいかかるか分からないからな。アマキ先輩を待たせたくない。ニセコに行ったほうが早いだろう」

「でもアマキさんのところへ戻るのは一瞬だよ?」

「あ……」

「あははは!」

「……ニセコに行ったほうが楽だ。問題ないよ」

「ああそうですね、じゃ行きましょうか」

「けれど足が……」

「まだですか? また試したらどうですか?」

「ああ」と、ホカゼは一歩前に出た「できた……」

「よかったですね、じゃ行きましょう」

「あ、ああ……」


二人は札幌に戻った。二人が消えてまたそこに出た間は一瞬だった。

「アマキ先輩、お昼ごはんゲットしました」と、ホカゼはお昼ごはんを差し出す「けれどすいません、お昼ごはんはコンビニ弁当なんです」

アマキは微笑する。「コンビニ弁当? いいね、むしろ大いに結構だよ。ありがとう」と、彼女は受け取る。

(よかった)

と、ホカゼはほっとした。

「さぞ大変だっただろう?」と、アマキは聞く。

「いえ楽勝ですよ」

「そうか。――キミの分は? 見当たらないようだけど?」

「ありません。私は必要ありませんから」

「そうか。――少し食べてくれないかな?」

「えっ?」

「私は女性だからちょっと多いかな、この幕の内弁当ってものは」

「分かりました」

「ありがとう。じゃちょっと早いけどお昼にしよう。――箸は?」

「横に付いてますよ」

「――本当だ」座ろうか、とアマキは促した。三人は腰を下ろす。

「アマキさん、私にも少し分けてくださーい」と、ワーちゃん。

「いいかな? ホカゼ」

「はい」

「やったー!」と、ワーちゃんは喜ぶ。

アマキはフタを開ける。「美味しいそうだ」と、アマキは弁当を手前に置く。右手で割り箸を持ち、弁当を持つ。

「いただきます」と、アマキは白米を一口食べる「――うん、美味しい」

(よかった……)

アマキは箸で白米をつまみ上げる。と、彼女はその白米をホカゼに向けて、「ホカゼ、ほら、口を開けて」

「はっ!?」

「ほら?」

「ちょっと用事を思い出しました!」

と、ホカゼは消える。


「おかえり」動物園の出口でハナカワはホカゼに言った「――どうした? 焦りが見えるぞ?」心配そうに聞く。

「ああ、でも落ち着いたよ」

「何かあったのか?」

「別に何もないさ」

「そうか? それならいいが。――なぁ、園内もう一周しないか?」

「もちろんだ」


ホカゼは白米の前に戻った。彼が砂漠から消えてまた現れた間は一瞬だった。

「用事は済んだかい?」と、アマキはホカゼに聞く。

「はい」

「じゃ食べて?」

「はい」と、ホカゼは落ち着いて食べる。

「どう?」

「もぐもぐ、美味しいです」

「そうか、よかった。でも食べながら話すのはちょっと感心しないね」

ホカゼは慌てて飲み込む。「すみません……」

「アマキさん、私も食べたーい!」と、ワーちゃん。

「もちろんだよ」と、アマキは白米を少女の口元へ。

「――美味しいですー!」ワーちゃんは笑って言う。

「よかった」

しかし、食後すぐだった。目の前に敵がぱっと現れたのは。それと向かい合うホカゼは答えた。

「分かった、戦う」

(足が動かない!?)

と、ホカゼは驚く。

(ここでも? 旭川だけのことじゃなかったのか?)

「足が動かない!?」と、敵は声を上げた。

(あっちもそうなのか。それも旭川の時と変わらないのか)

(なら――)

と、ホカゼはリボルバーを手に出す。そして撃つ。

(同じだ)

と、ビームが向かう相手の顔を見て思う。

(やはり動けないんだ)

と、ビームが直撃する。と、敵が消えた。

「ホカゼ、今の相手何か様子がおかしいように見えた」と、アマキは言う。

「はい、動けないんだと思います」

「動けない?」

「さっき戦った敵もそうだったんです」

「そうか。――キミは何か変わったこと起きてない?」

「はい、実は両足が動かないです。でも大丈夫です、戦いが終われば」と、ホカゼは右足を少し上げる「ほら」

「よかった。でもどうしてそんなことが?」

「それは分かりません」

「そうか。問題だね。なんとかしないと」

「はい……」

それは確かに問題だった。戦闘時、ホカゼは両足が使えなくなる。敵は全身が動かなくなる。だがそれはこれまでの敵のこと。これから現れる敵は、もしかすると動けるかもしれない。そうなればホカゼは圧倒的に不利だ。それでも以前の彼なら問題はなかっただろう。以前の彼のビームなら問題はなかった。撃てば一瞬で敵に当たるからだ。だが、今の彼のビームはそうじゃない。かわされる可能性がある。かわされるだろうとホカゼは考えている。戦えば圧倒的に不利だ。負けるかもしれない。そうなればアマキはどうなるだろう? ハナカワはどうなるだろう? 分からない。それはホカゼに勝った相手次第。さっき戦った、四人のゲスのようなヤツが勝つかもしれない。そうなったら……。ホカゼは恐ろしい。だが彼はちょっと安心している。現在、この砂漠にハナカワがいないからだ。ずっといないでほしいとホカゼは思う。だがそれはできないことだと彼は分かっている。そんなことはさせられない。そんなことをすればハナカワが悲しむ。彼の好きにさせたい。アマキに対してもそう思う。そうさせるにはどうしたらいいのか? 問題を解決するしかない。だがどうやって? ホカゼは分からない。

「あっ、思い出したかも」と、ワーちゃん「ホカゼさん、色々考えればいいと思います」

「考える?」

「はい、落ち着きながら。試してみてはどうですか? とりあえず」

(とりあえずか――)

「分かった」

(落ち着ける場所か――)

「アマキ先輩、ちょっと行ってきます」

「分かった」

「大丈夫ですよ、すぐに戻ってきます。キミは私が守りますから」

アマキは微笑してうなずく。「うん」

と、ホカゼは消える。


「おかえり」と、動物園の入り口でハナカワはホカゼに言った。

「ハナカワ、ちょっと落ち着ける場所を知らないか?」

「落ち着ける場所? ――確かこの近くに図書館があるな」

(図書館か。ちょうどいいな)

「そうか。一緒に行かないか?」

「行くに決まっている。当たり前じゃないか?」

ホカゼは微笑する。「そうだな」

図書館はすぐ近くにあった。

ホカゼは本を数冊選び、ハナカワと向かい合って机につく。

(さて、読むか)

と、ホカゼは週刊誌を開く。

(とりあえず最初の見出しから――動物園についてか)

それはさっき行った動物園ではない。別の動物園のことだ。ホカゼは内容に目を通す。

(――なるほど)

と、読んで、ホカゼは考え始める。だがすぐにあまり興味が持てない題材だと気づいた。ホカゼはあまり動物に興味がない。もっともさっき動物園に行った時、彼は楽しんだ。ハナカワと一緒だからだ。だから楽しめたとホカゼは分かっているつもりだ。動物園は誰かと一緒に行って楽しむものだ。一方で、一人で行っても問題ないものだとも分かっている。一人で行く人を彼は否定するつもりはない。だが、動物園に対しては否定的な考えも彼は持っている。たった今持った。“そこ”について考えてみようと彼はふと思った。自分は考えることが必要だからだ。

(“そこまでする”必要があるのだろうか?)

(いや、ないな)

ホカゼはすぐに結論を出した。彼は、“そこまでする価値”を見出だせない。代わりに発見したのは、不愉快さだ。理解できない。だが紙面ではその逆だ。さらに勢いがある。不愉快だ。

(――あの男達……)

と、ホカゼはふいに思い出す。ライオンの男、チーターの男、そしてゴリラの男だ。彼らはどうなんだろう? とホカゼは考える。彼らは砂漠に動物園を創ろうとしていた。どういう動物園なのだろうか? きっと悪い動物園だとホカゼは思った。悪い動物園がどういうものか彼は分からない。考えたこともない。だがあの三人が関わるならきっとそうだと思う。三人はホカゼと戦った。動物園を創るために。そのために戦った。ホカゼはそれが気に入らない。だから彼らは悪い。彼らの創る動物園は悪い動物園だ。なら同じだ。彼らも不愉快の対象になる。勝ってよかった。動物園を創らせなくてよかった。ホカゼは満足感を覚える。

(また行きたいな――)

ふいにホカゼは思う。

(ハナカワを誘って――)

(おっと、考え事しよう)

(動物園はもういいな)

と、ホカゼはそのページのほかの記事も読む。

(――不愉快だな)

それは酷い内容だった。ふとホカゼはさっき戦った男達を思い浮かべる。アマキを狙った、あの四人のクズだ。ヤツらも酷い。この内容と同じくらい。ホカゼはそう感じ、また満足感を覚えた。クズ達に勝った、アマキを守れたからだ。

また同じようなクズが現れるかもしれない。ホカゼはふいに思う。もしかしたらまた同じクズが来るかもしれない。それはありえることだ。だがたいした問題ではないだろうと考える。ホカゼは、負ける気がしないからだ。

ホカゼは次の記事を読む。

(――分からないな、やっぱり)

何が楽しいのか? ホカゼは分からない。『やっぱり』と彼は思った。彼は“それ”を知っていた。少しは知っていた。だがその楽しさは分からない。またその魅力も分からない。だからだろうか? いや。彼は“そのほか”は知っていた。その楽しさ、その魅力――それを知っているからだ。絶対にそのほうが楽しい、魅力的だ。ゆえに分からない。“それ”の楽しさ、魅力が。

(でも、やっぱりだな)

と、そう思うのは“それ”について少しは知っていて、その記事で再確認したからだ。

(ハナカワやったことあるんだろうか?)

と、ふいに思う。

動物園――それと同じで一緒なら楽しいんだろうか? とホカゼは考える。きっと楽しいだろう。すぐさま答えが出た。

(今度誘ってみるか)

(よし、次の記事を読もう)


一方、

(なんだ? この世界は……)

と、青年男性は戸惑う。

(ここは札幌のはずだぞ? なぜ砂漠に……)

「やぁ、こんにちは」

背後から挨拶された。青年男性は振り返る。

「キミは……?」

「私はタカツジ。警察官だ。何か困っていることはないか?」


一方、ホカゼはアマキの元へ戻った。彼が砂漠から消えてまた現れた間は一瞬だった。

「ホカゼ、考え事は済んだようだね?」アマキが聞く。

「はい」

「どんなことを考えていたんですかー?」ワーちゃんが聞く。

「色々だよ」

「じゃエッチなこともですかー?」ワーちゃんはさりげなく言う「男の人ってよくエッチなことを考えるって私知ってますよ。どうなんですかー?」

「考えてないよ」

ホカゼが読んでいた本の中にはエッチな内容の記載もあった。しかし彼は読んでいない。飛ばしていた。読む気になれなかった。

「真面目に考え事をしていたからな」ホカゼは続ける「考える気になんてなれないよ」

「そうだね、ホカゼ。不純なことを考えている場合ではない」と、アマキ「偉いね」

「ありがとうございます」

「じゃどんなことを考えていたんですかー?」ワーちゃんは聞く。

「本を数冊読んだ。その内容から考え事をしていたんだ」

「ホカゼ」

背後から呼ばれた。彼は振り返る。

「キミは?」と、ホカゼは聞く「私と戦いたいのか?」

「私は偵察者だ」

「偵察者?」

「さっきそうなった。この世界に疑問があるからな。――だが、倒せるものなら倒す」

(さっきそうなった? 仲間がいるのか)

「戦う理由はなんだ?」

「私に勝ってから聞くんだな」

(そうしよう)

と、ホカゼはリボルバーを出す。そして撃つ。と、偵察者は右に跳んでビームを回避した。

(やるな)

「今度はこちらからだ」と、偵察者は右手の掌をホカゼに向ける。と、掌から赤いビームが撃たれる。

(遅い、かわせる――)

(足が!?)

ホカゼは困惑する。両足が動かない。

(どうして!? 考える時間が足りなかったのか?)

「ホカゼさん、上に飛んで!」ワーちゃんが素早く話しかけた。

と、ホカゼはそうしてビームをかわした。

「何!?」と、偵察者はホカゼを見上げる「飛べるのか? ――なら私も」と、飛び上がる。

二人は空中で対峙する。と、偵察者はビームを撃つ。ホカゼは横を向いてかわす。と、彼は偵察者に向き直って撃つ。

頭の中に鋭い痛みが走る。

「うわっ!?」と、ホカゼは思わず声を上げた。痛みは一瞬で治まった。

偵察者は横に移動してビームを避けた。

(なんだ? 今の痛みは……)

(ビームを撃ったせいなのか……?)

ホカゼはそう思う。だが彼は理解できない。ビームを撃ったら頭痛がした。そんなことは今までに一度もなかった。

(もう一度撃ってみるか)

と、リボルバーの引き金を引く。

その瞬間、再び頭の中に痛みが来る。と、偵察者はさっきの位置に戻る。痛みはまた一瞬だった。

(やはりビームが原因か。どうして……?)

ふいに偵察者はビームを撃つ。ホカゼは少し上に行ってかわす。

(――あっちはなんともないのか)

と、相手の様子から判断した。なぜこちらだけに頭痛が起きる? 考えても原因が分からない。だがそうなっている以上こちらが不利だとホカゼは分かっている。だが戦わなければいけない。偵察者は言っていた。倒せるものなら倒すと。ホカゼは勝たなければならない。そうじゃなければ偵察者は退ひかかないだろう。

(どうする?)

そう思った時、偵察者はホカゼにビームを放つ。ホカゼは偵察者と向き合う位置まで下がってかわす。と、偵察者はまた撃ってくる。ホカゼは上に逃げる。

(このままじゃ駄目だ。――考える時間がほしい)

と、リボルバーが消える。

と、ホカゼは消えた。


「おかえり」机の向こうでハナカワはホカゼに言った「――どうした? 深刻な顔してるぞ?」と、心配そうに聞く「何かあったのか?」

「ああ、実は――」

ホカゼは話した。戦いになると両足が動かなくなること、そして、ビームを撃つと頭痛がすることを。

「――『リボルバー』?」

「ああ。ワーちゃんからもらったんだ」

「なるほど。しかしその状況はまずいな」

「ああ……」

「左手はどうなんだ?」

「えっ?」

「左手のビームのことさ。左手で撃っても頭痛がするのか?」

「分からない。撃てないんだ」

「撃てない?」

「ああ、だから私はリボルバーをもらったんだ」

「ふーん――リボルバーをもらったのはいつなんだ? 今すぐじゃないならもう一度試しに左手で撃ってみれば?」

「なるほど。――だが大丈夫かな……?」

「心配するな。私を信じて撃ってみろ」ハナカワは力強く言う「きっと大丈夫だ」

ホカゼは微笑する。「ああ、ありがとう」

と、彼は消える。


ホカゼは空中に戻る。彼が砂漠から消えてまた現れた間は一瞬だった。

そしてすぐさま彼は左手の指先を偵察者に向ける。その瞬間、指先から紺色のビームが出た。

(出た!)

ホカゼは歓喜する。

(痛みがない!!)

彼はさらに喜ぶ。

そして、ビームは一瞬にして偵察者を貫いた。

と、偵察者は消える。

(勝った!)

と、ホカゼは消える。


「おかえり」

「勝ったぞ、ハナカワ!」戻った途端、ホカゼは笑顔で報告する。

ハナカワは微笑する。「よかったな」

「ああ!」

「――だがここは図書館だ。もうちょっと静かに話してくれ」

「ああ、すまない……」

「ビームは撃てたんだな? 頭痛はどうだった?」

「起きなかった」

ハナカワは微笑する。「完全に復活したな」

「ああ」


ホカゼは空中に戻る。彼が空中から消えてまた現れた間は一瞬だった。それから彼は、アマキ達のところへ降りた。

(足はどうなった?)

と、着地するとホカゼは思った。と、彼は左足の指を動かしてみる。

(――大丈夫だな)

「ホカゼ、やったね」と、アマキは話しかける。

「はい」

「――でも、戦いの最中に様子のおかしいところが見受けられた。キミはうめいていたね? ビームに当たっていないのに。何かあったの?」

「はい、ビームを撃ったら頭痛がしたんです」

「頭痛が? 大丈夫?」

「はい、痛みは一瞬でしたから。それに左手のビームなら頭痛は起きないんです」

「そうなんだ。撃てるようになったんだね、左手」

「はい」

「よかったね」

「えっー? 撃てるようになったんですか?」 と、ワーちゃんは驚きながらホカゼに聞く。

「ああ」

「どうしてですかー?」

「分からない」と、ホカゼはふと微笑む「いや、信じたからかな」

「信じた? そうですかー……」ワーちゃんは残念そうに言う。ホカゼは首をかしげた。

(あっ)

「ワーちゃん、リボルバー返すよ」と、ホカゼはリボルバーを出し、少女に差し出す。

「あっ、そのまま持ってていいですよー。いらないので」

「そう? ――なら持っていようかな」と、ホカゼの手からリボルバーが消える。


一方、札幌の西区――その砂漠の上に人影が二つある。

「戻ってこないな、あの警察官がよこしたヤツ」

「ああ。ただの偵察なのにおかしい。やられたか?」

「かもしれないな。あの警察官の言っていたことは本当かもしれない」

「よし、私が行ってこよう」

「分かった。気をつけろ」

「ああ。――ちょっと驚かせてやるか」

「何?」


一方、ホカゼはアマキに言った。歩きましょうと。彼女は賛成した。だが、ワーちゃんは反対した。そのわけをアマキが聞いた。

「私は戦いが嫌いなんですよー。つまらないから」ワーちゃんは軽い調子で答える「見るのも嫌なんです。でもお二人とは一緒にいたいんです。だから、しばらく休憩しませんか?」

(休憩? けれどそれならいずれ歩くことになるが?)

と、ホカゼは思う。

(その時はどうするんだろう?)

「休憩か、分かった」と、アマキは言った。

「やったー!」

「ホカゼ」アマキが呼ぶ「この休憩はキミのためにある」

「私のために?」

「うん。ホカゼ、キミには休息が必要だと思ってね」

「私は大丈夫ですよ? 休息なんて必要ありません」

「いや、休んでほしい。気にしたいんだ」と、アマキは真剣な表情で話す「迷惑かな?」

「迷惑だなんて全然。分かりました、休みましょう」

「ありがとう」

「ホカゼ」

後ろから呼ばれた。彼は振り返る。

(何か持っている?)

と、ホカゼは男の右手に注目する。

(――雑誌か)

「ホカゼ、この週刊誌が珍しいようだな?」と、男は言う。

(週刊誌なのか)

「キミは? なんの用だ?」

「私と戦え。勝てばこの週刊誌をくれてやる」と、週刊誌の男は週刊誌から手を放した。

(そんなもの――)

(いや、いいかもしれない)

(アマキ先輩の退屈しのぎになる)

「分かった、戦おう」と、ホカゼは左手を敵に向ける。と、その指先からビームが出る。ビームは週刊誌の男に直撃する。と、週刊誌の男は片膝をつく。

つのか)

「馬鹿な……」と、週刊誌の男は疲れた表情で驚く「左手のビーム、撃てるようになっていたのか。話と違う……」

(話?)

(誰かから聞いていたのか? 誰から――?)

(いや、まずは勝利だ)

と、ホカゼは撃つ。当たる。と、週刊誌の男は消えた。

(よし)

と、ホカゼは満足感を覚える。と、彼は週刊誌を拾いに行く。そしてそれを持ってアマキのもとへ。

「アマキ先輩、どうぞ」と、ホカゼは週刊誌を差し出す。

「私に?」

「はい、休憩中の退屈しのぎにぜひ読んでください」

アマキは微笑する。「ありがとう、ホカゼ」と、彼女は受け取る「一緒に読もうか」

「えっ? 分かりました」

「じゃキミが読んで」と、アマキは週刊誌を差し出す。

「分かりました」と、ホカゼは受け取る。

「なんでですか? アマキさん」と、ワーちゃんは聞く「読めないんですかー?」と、なにげなく聞いた。

(ワーちゃん!? なんて失礼なことを)

「ふふふ、違うよ、ワーちゃん」

ホカゼはほっとした。

それから三人は、ホカゼを真ん中にして座った。と、アマキはホカゼの肩に頭を乗せた。

(アマキ先輩!?)

「私は目を瞑って聞いていよう。さっそく読もうか、ホカゼ」

「は、はい」

(落ち着け――)

(よしっ)

と、ホカゼは最初のページを開く。左右のページに多くの記事が載っている。

「スキーのことが書いてありますね」と、ホカゼは最初のページの最初の記事に注目する。

「スキー? スキーって何かな?」

「冬にやるスポーツですよ。専用の靴を履いてそれに細長い板をつけるんです。あとは両手に細長い棒を持って雪山を滑るんです」

「ふーん。――何が楽しいのだろう?」

「さぁ?」

「本に書いていないのかな?」

「どうでしょう――書いてませんね。この記事にはスキージャンプについて書かれています」

「スキージャンプ?」

「雪山の上に設置された台から下に飛ぶんです」

「飛ぶ? どうして?」と、アマキは驚きながら聞く。

「確か飛んだ距離を競うんです」

「楽しいのかな?」

「分かりませんけど、楽しいから飛ぶんじゃないんですか?」

「なるほど、そうか。――次の記事を読んでくれないかな?」

「はい」と、ホカゼはスキージャンプ記事の左隣の見出しを見る「仕事についてですね」と、目を通す「――あまり面白くはないですね」

「どんな内容?」

「介護についてです」

「介護か」

「はい、低賃金でやっていけないと書いてあります」

「それは大変だね。――ねぇ、もし私が介護が必要になった時、介護してほしいと私が頼んだらキミはどうする?」

「もちろんしますよ」ホカゼは即答した「任せてください」

アマキは微笑する。「ありがとう。――もっともその可能性はないだろうけど」

「そうですね」

「次の記事に行かないか?」

「分かりました」

「ちょっと待ってー」と、ワーちゃんが言う「私、ちょっと横になるねー」と、ホカゼに背中を向けるようにして寝た。

「ホカゼ、少し小さな声で話して」と、アマキは楽しげに言う。

「分かりました。――次はソーセージの記事のですね」

「素敵だね」


同時刻、札幌東区の砂漠に一人の男が立っていた。若く、緑色の和服に赤い帯をした身なりの彼は、ふと歩き出した。だが行く当てはない。暇潰しだ。

やがて、彼は立ち止まる。すみませんと背後から声をかけられたからだ。彼は振り返る。不安そうな表情の少女――十代前半から後半。黒髪のショートヘア。白い着物にオレンジ色の帯――が立っていた。

(見覚えがあるな)

と、彼は思った。だが思い出せない。

「あの、ここはどこなんでしょうか……?」少女は不安そうに聞く。

「札幌だ」彼は答えた「札幌の東区」

「札幌?」少女は戸惑う「この砂漠がですか?」

(妙なことを聞くな)

「そうだ」

「どうしてこんな景色になったんですか?」

彼は首をかしげる。

(もしかして――)

彼はふと気づく。「キミは北海道の人間じゃないのか?」

「はい、そうです」

少女は不安そうな表情をしている。始めての土地だからだと彼は考える。

(――北海道以外はこんな景色ではないのか?)

「あの」少女は言う。

「なんだ?」

「私、不安なんです。私を守ってくれませんか?」

「良いよ」彼は快諾した。

「えっ?」

「どうした?」

「その、あまりに早く良い返事をしてくれたから」

「困っているんだろう? なら助けるよ」

少女はぎこちなく笑う「ありがとうございます。お名前は?」

「クラオカだ」彼は名乗る「キミは?」

「それは……」少女はためらう。

「言いたくないならそれでいい。だが仮の名前を考えろ」

「分かりました。――アサミでお願いします」

「アサミか、分かった」誰から守ってほしいんだ? とクラオカは付け加えた。

「守ってほしいと私が思った相手から」アサミはためらいながら答える「駄目ですか……?」

「分かった。守ってほしい時は言ってくれ」

「ありがとうございます。――クラオカさんはどこへ行こうとしていたんですか?」

「別にない。行くところなんてなかった。ただ歩いていただけだ。キミは? 行く当てはあるのか?」

「ありません」と、少女は悲しげな表情で言った。

「そうか。――ならここにいよう」

「えっ?」

「お互い行くところがないんだ。なら動く必要もないだろう? 札幌はどこも砂漠だ」

「そうなんですか。――札幌以外は?」

「札幌以外も砂漠だよ、お嬢さん 」

と、クラオカの背後でそう聞こえた。クラオカは振り返る。

(警察官だと?)

一見してその制服だと分かるものを着た若い男が立っていた。

ふと、アサミはクラオカの後ろに移動する。

(なぜ警察官がここにいる?)

と、クラオカは怪しむ。

(本当に警察官なのか?)

(だとしたらずいぶん熱心なヤツだな)

「キミは誰だ?」と、クラオカは男に聞く。

「私はタカツジ。見ての通り警察官だ」

「警察官がなんの用だ?」クラオカはぶっきらぼうに聞く。

「パトロールだよ。何か問題はあるかな?」

「ない」

「そうか。それならよかった。――そちらのキミはどうだい?」と、タカツジは、クラオカの後ろから自分を見ている少女に聞く。と、タカツジは首をかしげ、「キミ、どこかで……」

「クラオカさん」と、アサミは呼ぶ。

クラオカは肩越しに振り返り、「なんだ?」

「守ってください!」

「分かった」クラオカは快諾した。

「守る?」と、タカツジはアサミを不思議そうに見ながら言う「もしかして私からか? 私は警察官だぞ?」

「それはどうかな?」と、クラオカは言う「警察官の格好をしているだけかもしれない」

「おいおい、そんなことをして何になるというんだ?」

「ファンかもしれないだろ? 警察の」

「そんなファンはいない。惨めになるだけだろう」

「とにかく、私はキミから彼女を守る」

「守るか。私は悪役か?」と、タカツジは肩をすくめる「悪いが全然戦う気にならないな。――何か困ったことはある?」と、アサミを見る。少女はかぶりを振った。

タカツジは、「そうか、なら何よりだ。――帰ろうかな。さようなら、二人とも」

と、彼は消えた。

(なんだったんだ? あいつは――)

(本当に警察官で、ただのパトロールしに来たのか?)

「クラオカさん」と、アサミは呼ぶ「守ってくれてありがとうございます」

「いや、私は何もしてないぞ?」

「そんなことはありません。助かりました」

「そうか。――どうしてあの警察官から守る必要があったんだ?」

「それは……」

「いや、いい。答えにくいなら話さなくていい」

「ありがとうございます」


一方、タカツジは札幌の別の場所へ移動した。

(到着っと)

(しかしあの女の子、何者だ?)

少女を見た時、タカツジは見覚えがあると思った。だが誰なのか思い出せなかった。

(どこかであったか――?)

(思い出せない)

(犯罪者か?)

(いや、そんな嫌な感じはしなかった――)

(まぁ、何者だろうと特に興味はないな)

(連れの男は別かもだが。クラオカとか呼ばれていたな。悪くない感じだった)

(一度戦ってみたいものだ)

(まぁ、悪者扱いされないでだけど)

(――さて、これからどうしよう?)

クラオカは考える。

(パトロールするか)

と、彼は消えた。


同時刻、札幌に二人の若い男――どちらも、着物も帯も灰色の格好――が現れた。

「ようやく来たな、ヒイラギ」と、男は嬉しそうに話す。

「そうだな、ナガサワ」と、答えるほうも楽しげだ。

「よし、じゃ座って話すか」

「ああ」

二人は並んで座る。

「さっそく話そう。何を話す?」と、ヒイラギは聞く。

「そうだなー――好きなレスキューロボットの話でもするか?」

「良いよ」ヒイラギは快諾した「私はやっぱり――が好きだな。知ってるか?」

「もちろん。かっこいいよな」

「ああ。あのシンプルなデザイン、大人びたカラーリング、そして――。たまらないな」と、ヒイラギは興奮しながら話す「キミの好きなレスキューロボットは?」

「私は――が好きだな。知っているか?」

「もちろんだ。いいデザインだよな」

「ああ、カラーリングもいい」

「一番好きなレスキューロボットか?」

「うん」

「なるほど。そうなった一番の理由は?」

「やっぱり被災地での活躍だな。何度見てもかっこいいんだ。――キミは? ――の一番好きなところは? やっぱりデザインか?」

「そうだな。でも被災地での活躍も捨てがたい」

「分かる」

と、二人の前に人影がぱっと現れた。

警察官だと二人は一目で分かった。その格好をしているからだ。

「何か用ですか?」と、ヒイラギは現れた男に聞く。

「私はタカツジ。警察官だ。キミ達、何か問題はないか?」

「問題? 特にはない」

私もないです、とナガサワも答える。

「そうか。何よりだ。では」

と、タカツジは消えた。

「パトロールだろうか?」と、ヒイラギ。

「そうじゃないか? しかし警察官がいるなんてな」

「ああ、不思議だ。――不思議と言えば――」


一方、砂漠の上で彼はため息をつく。

(――よし)

と、彼――灰色の着物にピンクの帯をした青年――はミヤセ。

彼は決めた。

覚悟を。


同時刻、タカツジは砂漠を歩いていた。

と、目の前に人影がふいに現れた。青年男性――灰色の着物、ピンクの帯――だった。

(なんだ?)

と、タカツジは、青年のその真剣な表情が気になった。

(何を考えている?)

(まさか――)

「名前は?」と、青年は聞く「私はミヤセ」

「タカツジだ」

「なぜこの砂漠にいる?」

(何?)

「この格好を見て分からないか? 私は警察官だ。パトロールしているんだ」

「なるほど。くだらないな」と、ミヤセは顔をしかめて言う。

「何? 警察官がパトロールして何がくだらないんだ?」と、タカツジは肩をすくめる「私に何か用かな?」

「消えてもらう」ミヤセはさりげなく答えた。

(やはり戦いたいのか)

ふとミヤセの手にリボルバーが現れる。

(リボルバーか)

タカツジがそう思った瞬間、「消えろ!」と、ミヤセはリボルバーを撃つ。赤い光の弾丸が出る。

(弾丸タイプだと?)

と、不思議に思ったタカツジにの胸に弾丸が直撃――弾丸は彼を傷つけずただその胸の中に消えていった――する。だが彼は微動だにしない。

「――効いてないのか?」と、ミヤセはリボルバーを下げる。

「ああ。これくらい全然。警察官を舐めないほうがいい」と、タカツジは涼しい顔で答える。

「なるほど、さすがは警察官だ。褒めてやる」

「それはどうも」

ふいにミヤセは笑う。「警察官か、面白い。最初のターゲットにしては悪くない」

(何? ターゲット?)

(いや、分かることだ)

(戦いたいんだな)

「なぜ戦う?」

「気に入らないからだよ」と、ミヤセはリボルバーを向ける「死ね!」と、撃つ。

タカツジはびっくりした。

(死ねだと?)

と、タカツジはまた胸に食らった。

「――効いてないか」と、ミヤセ「死ね!」と、また撃つ。胸に当たる。胸を狙うんだな、とタカツジは思った。

「――避ける気はないのか?」ミヤセは聞く。

「避ける? 警察官がそんなんじゃ駄目だろ。違うか?」

「分からない」

「分からないか、なら教えてやる。警察官は絶対的な存在じゃなきゃ駄目だろ? で、それを警察官じゃない人に見せつけなくちゃいけないだろ? だからだ」

「悪者に対してもか?」

「悪者? キミは悪者なのか?」と、タカツジは首をかしげる「まぁ、そうだな、見せつけてやるよ。そうすれば悪者の心はくじけるだろう」

「くじけはしないさ。――死ね!」と、ミヤセはリボルバーを放つ。

「――効かないな」

「なら効くまでだ。死ね」と、ミヤセは引き金を引く。と、その直後に彼は引き金を引く。死ね! と叫びながら。

彼はさらに、「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ぬ死ね!」

(なんだ? こいつは……)

と、全弾もらいながらタカツジは呆れた。

呆れられた相手は、「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」


一方、ホカゼは次の記事に目を通す。

「――勉強のことが書かれていますね」と、ホカゼはアマキに伝えた。

「勉強? どんなことが書かれているの?」

「勉強の仕方についてですね」

「ふーん。――キミは勉強できるの?」

「私ですか? ――普通くらいだと思います」

「起きた!」と、ワーちゃんは起き上がる。

「ワーちゃん、おはよう」と、アマキは微笑しながら言った。

「はい、おはようございます! ――ホカゼさん、勉強できるんですか?」

「えっ? まぁ、普通だと思うよ」

「ホカゼさん、握手!」

「えっ?」

「握手です!」と、ワーちゃんは手を差し出す。

(握手? なんで?)

(まぁいいけど)

と、ホカゼはした。

その瞬間、ホカゼは頭の中に“それ”が浮かんできた――


日本 北海道 札幌

令和八年 夏

朝 晴れ


今日も大勢の人が行き交う札幌駅の出口前で、ホカゼは人を待っていた。

それはすぐに来た。

「やぁ、おはよう」と、アマキはホカゼに挨拶した「待たせたかな?」

「いえ。私も今来たところです」

「そうか。――じゃホテルへ行こうか」

「ホテル?」

「ああ、静かなところで話をしたいんだ」

「なるほど、分かりました」

二人はすぐ近くのホテルへ。

部屋に入ると、アマキはベッドに腰かける。

「ホカゼ、私はキミに秘密にしていることがある」と、向かいに立つ彼にアマキは言った。

(秘密? なんだろう?)

と、ホカゼが思った時、「なんだと思う?」と、アマキは聞いた。

「いえ、分かりません」見当もつかない。

「そうだよね。実は私もなんだ」と、アマキはさりげなく言った。

「えっ?」

「分からないんだ。でも、私に秘密があることは感じている。分かるんだ」

「はぁ」

「そこでホカゼ、キミにはその秘密を探してほしい」

「探す?」

アマキはうなずく。「うん。私はどうしても知りたい。――大丈夫、キミにもメリットがあるよ」と、アマキはベッドに仰向けに寝る。ふと彼女は赤くなる「秘密を見つけて私に教えてくれた時は、私はキミになんでもしよう」

(えっ!?)

ホカゼはどきっとした。

「ホカゼ、どうかな? 引き受けてくれないか?」

ホカゼは答えない。

一瞬間を置いた。

「分かりました、アマキ先輩」ホカゼは答える「必ず見つけます」

アマキは微笑する。「ありがとう」と、彼女は起き上がる「秘密を見つけるには戦ってもらわなければならないが、大丈夫かな?」

「はい、大丈夫です」

「ありがとう。その相手は誰でもかまわない。四人くらいで大丈夫だと思う」

(四人か、楽勝だな)

「分かりました」

「ホカゼ、気をつけてくれ。相手は私の秘密を狙っている。キミが負ければ秘密は奪われてしまう」

「はい、気をつけます」

アマキは微笑する。「ホカゼ、キミには期待しているよ」

「はい、ありがとうございます」


“それ”は消えた。

(なんだ? 今のは――?)

と、ホカゼが思った時、「ホカゼさん、どうしたんですかー?」と、ワーちゃんが聞く。

(この子に話しても――)

(いや、とりあえず話してみるか。自分だけで考えても分からないだろうし――)

「それは――」と、ホカゼは言いかけた「アマキ先輩、ワーちゃんとちょっと二人で話してきます」と、彼は週刊誌を置いた。

「うん、分かったよ」

「いいかな? ワーちゃん」

「はーい」

二人はアマキから少し離れたところで話す。

「話ってなんですかー?」と、ワーちゃん「もしかして愛の告白ですか!? きゃー!」

ホカゼは戸惑う。「違うよ。今さっき思い浮かんだことについてだ。キミの意見を聞かせてほしい」

「なーんだ。はい、分かりました。教えてくださーい」

ホカゼは話した。「――分かるかな?」

ワーちゃんはうなずく。「はい、分かります」

「分かるのか? 教えてくれ」

「はい。そうですね、簡単に言えばそれはアマキ先輩が心の中で求めていることなんです」ワーちゃんは明瞭に答える「そしてそれは本当のことです。だから秘密を探してほしいとキミが頼まれたならしなくちゃいけませんね」

「なるほど、そういうことのか」

「はい!」

(さっきのはアマキ先輩が求めていること――)

(なら叶えないと)

ホカゼは決めた。

(ハナカワにも話を聞いてもらうか?)

ホカゼはふとそう思った。

(――いや、やめておこう)

「教えてくれてありがとう、ワーちゃん」

「はい!」

二人はアマキのところへ戻る。

「アマキ先輩、お待たせしました」と、ホカゼは言う。

「うん」

「アマキ先輩、歩きませんか?」

「休憩はもういいの?」

「はい」

「分かった。なら歩こう」と、アマキは立ち上がる。

「あっ、週刊誌はキミが持っていてください」

「分かった」と、アマキは拾う。

(これから戦いが始まる。相手は四人くらい――)

(やっぱり楽勝だな)

「ホカゼ」と、アマキは左手を彼に向ける。

「はい」と、ホカゼはその手を右手で握る。と、ワーちゃんはアマキの隣へ行く。

「どの方角へ行く?」

「とりあえず今までと同じで行きましょう」

「分かった」

そして、三人は歩き出した。

(対戦相手、早く来い!)

その願いはすぐに叶った。眼前にぱっと現れた。

「ホカゼだな?」男は言う「私と戦ってもらう」

「ああ、分かった」ホカゼは快諾した「私も戦いたいところなんだ」けれど、どうしてキミは戦いたい? キミの戦う理由は? とホカゼは付け加えた。

「この砂漠に動物園を創ることだ」

(動物園? さっき戦ったヤツの仲間か?)

「ホカゼ、なぜ私が動物園を創りたいのか分かるか?」と、男は続ける「私はペンギンが好きだ」

(ペンギンなのか)

ペンギンの男は、「ペンギンを守るために動物園を創りたいんだ。――キミはペンギンは好きか?」

「好きでも嫌いでもない。興味ないな」

「そうか、残念だ。――では戦うか」

「ああ」と、ホカゼは左手をペンギンの男に向ける。と、その五本の指先それぞれから紺色の光の弾丸が一発ずつ出る。

(弾丸だと!?)

ホカゼは戸惑う。

(どうしてビームじゃないんだ?)

(しかも遅い!)

しかし、光の弾丸は全て命中――傷つけず、相手の胸の中に消えていった――した。ペンギンの男は微動だにしない。

(耐えたか)

「どうして避けなかった?」ホカゼは聞く「余裕で避けることができたはずだ」

「避ける必要なんてない」ペンギンの男は断言する「キミの攻撃など避けるものか」と、嫌悪を口にする「今度はこちらから行くぞ」と、その右手にリボルバーが現れる。と、それを撃つ。赤い光の弾丸がホカゼに向かう。 胸に直撃した。だが、ホカゼはなんともない。

「なぜ避けない?」ペンギンの男は聞く。

「私も避ける必要なんてないからだ」と、ホカゼは笑う「まったくな」

「ずいぶん余裕じゃないか? 舐められているのかな?」

「そんなことはない」

「そうか。その余裕、どこまで保つか試してやる」

「キミもな」と、ホカゼは撃つ。当たったが、効いていないようだ。

と、今度はペンギンの男が攻撃する。胸に当たるが、ホカゼも効いていない。と、彼の攻撃。

(効いていないな)

と、感心したホカゼは、「やるじゃないか。そこまでペンギンが好きなのか?」

「もちろんだ。かわいいからな」と、ペンギンの男はリボルバーを放つ。

「――効かないな」

「そのようだな。だがそれは無限じゃない」

「それはキミもだろう?」

「そうだな。だが私のほうが保つさ。私はペンギンを愛しているからな」と、ペンギンの男は自信満々に言う「私はペンギンがいれば戦える。キミを倒せる。私はペンギン以外いらない」

「何?」

「どうかしたか?」

「ペンギン以外いらないだと?」

「そうだが? それがどうかしたか?」

「それは本当なのか?」

ペンギンの男は首をかしげる。「もちろんだ」

(ペンギン以外いらない?)

(それはおかしい。こいつはアマキ先輩の秘密を手に入れたいと思っているはずだ)

だが、ペンギンの男は本当のことを言っている。ホカゼにはそう思えてならない。

(どういうことだ――?)

(こいつは私の求めている敵ではないのか――?)

「どうした? 何を考え事をしている?」と、ペンギンの男は聞く「もしかしてペンギンのことについてか?」

「まさか」と、ホカゼは肩をすくめる「もう一度聞く。本当にペンギン以外いらないのか?」

「くどい。私はペンギンを愛している。私はペンギン以外いらない」

(――確かに本当のことを言っているようだな)

(こいつは違うのか?)

「行くぞ」と、ペンギンの男はリボルバーを撃つ。当たる。

(――とりあえずこいつを倒さなければ。先に進めない)

と、ホカゼは撃つ。

と、弾丸が直撃した瞬間、ペンギンの男は消えた。

(よし、倒した)

(だが、アマキ先輩の秘密を求めている相手ではなかったようだな)

(まぁいい。次だ)

「行きましょう、アマキ先輩」

「うん。――ホカゼ、ペンギン見に行かないの?」と、アマキは楽しげに聞く。

「ペンギン?」

「うん、戦いの最中にまた気になったりしたんじゃないの?」

「ああ、別に興味ありませんよ」

三人は歩き始める。

やがて、また眼前にぱっと男が現れる。

「ホカゼ、私と戦え」

「ああ。――その前に聞かせてくれ」

「なんだ?」

「まず、キミは何を求めて私と戦う?」

「旭川のためだ」

「旭川のため?」

男はうなずく。「ホカゼ、キミは旭川についてどんなイメージを持っている?」

ホカゼは一瞬考える。「動物園だ」

「そうだな、多くの人間はそう答えるだろう。実際旭川は動物園が有名だ。だがそれでは駄目なんだ」

「駄目?」

「そうだ。それだけでは駄目なんだ。旭川はもっと魅力的な街にならなければならない」

(そういうことか)

旭川の男は、「ホカゼ、旭川が魅力的な街になるにはどうしたらいいと思う? 何が必要だと思う?」

「分からない」興味がないから、ホカゼは考えずに答えた。

「まずは住みやすさだ」

「住みやすさ? 旭川はだいぶ住みやすいと思うが」

「住んだことがあるのか?」旭川の男は少し驚いた様子で聞く。

「いやない」

「そうか。ホカゼ、旭川には地下鉄がない。知っているか?」

「ああ、知っている。地下鉄がどうかしたか?」

「旭川は北海道の第二の都市と呼ばれている。なのに地下鉄がないのはおかしい。地下鉄は都市の象徴だ」

「だから旭川は住みづらいのか?」ホカゼはよく分からない。

「ああ、住みづらいな。キミも道民だろう? なら分かるだろう? 地下鉄がないことの不便さが」

「それって――」

「――そうだ。北国だからな。だから分かっただろう? 旭川の住みづらいさが」

ホカゼは鼻で笑う。

旭川の男は首をかしげ、「何がおかしい?」

「キミがくだらないことを考えているからさ」

「何?」

「この景色が見えないのか? 地下鉄なんて必要ないじゃないか」ホカゼは断言する「そう思わないか?」

「思わない」

「何?」

「どのみち必要だからだ、地下鉄は」

「どのみちか」と、ホカゼはふっと笑う「そう言われてみれば分からなくもない」

「だろ? 旭川には地下鉄が必要なんだ」と、旭川の男の右手にリボルバーが現れた。

(またリボルバーか)

と、ホカゼがそう思った瞬間、旭川の男は撃った。赤い光の弾丸をホカゼは胸に喰らう。

だが涼しい顔の彼は、「いきなりだな」と、呆れる。

「すっかり油断していたからな」

「油断? していないよ」

「ならなぜ当たった?」

「避ける必要なんてないからさ」

「それはこちらもだな」

「何?」

「キミの攻撃なんて避ける必要なんてない。そんなことをするのは屈辱だ」と、旭川の男は吐き捨てるように言う。

「いいのか? 避けなくて。旭川のためにならないんじゃないのか?」

「舐めるな。キミの攻撃など受け切って勝利する。それこそが旭川のためだ」

「理解できないな」と、ホカゼは左手の指先を旭川の男に向ける。

(どうやらこいつも求めている敵じゃないようだ)

(ならさっさと倒す)

と、ホカゼは撃つ。話した通り、旭川の男は避けなかった。と、旭川の男は消えた。

(弱いな)

ホカゼは物足りなさを覚えた。

(いや、弱くてよかった)

(次に行ける)

三人は歩く。

“次”もすぐにぱっと来た。

ホカゼは聞く。「私と戦いたいのか?」

「ああ」

「何を求めて? 聞かせてくれ」

「私は建築家だ」

「建築家?」

(こいつも違いそうだな……)

「そうだ。私は旭川に家を建てたい」

(また旭川か)

「どうして旭川なんだ?」ホカゼは気になって質問した。

「私が旭川の人間だからだ」

(なるほど)

建築家の男は、「キミは家ほしくないか?」

「ほしくない」ホカゼは即答する「そんなもの不要だ」

「そうか、残念だ。なら教えてやる。人間というものは家が好きだ。そして家を求める」

「分かってはいるよ」と、ホカゼは肩をすくめる「当たり前のことだな」

「ああ、そうだな。だから私は家を建てたいんだ。そのために私はキミと戦う」

「なるほど。話は分かった」

(こいつも私の相手ではない)

(なら)

と、ホカゼは、「戦おう」と、光の弾丸を放つ。

(――効いてないか)

「私は中古住宅が嫌いだ」と、建築家の男は言った。

「何?」

(急になんだ?)

「なぜだが分かるか?」

「分からない」

「まず汚らしい。どんなに綺麗にしてもだ。そして高い」

「高い? 中古だろ?」と、ちょっと気になってホカゼは聞いた。

「中古でも場所によっては高い。札幌はもちろん、近年は旭川も高くなっている。それはいいことだ。それだけ旭川に魅力があるということだ。だが中古住宅が高いのは許せない」

「なるほど」と、ホカゼはまた撃った。と、建築家の男は消えた。

「ホカゼ」と、アマキが呼ぶ「キミは家いらないのか?」

「えっ? はい。――アマキ先輩はほしいんですか?」

「うーん、微妙なところだね」

「私はほしいです!」と、ワーちゃんは明るく声を上げる「ちょっと住んでみたいです!」

「なるほど、ちょっとか――いいかもしれないね」と、アマキ。

「はい!」

(みんなで住む――)

ふとホカゼは想像する。

(悪くないかもな)

それから、三人は歩く。

と、対戦相手はすぐにぱっと出現した。

「ホカゼ、私はキミと戦いたい」

「ああ。その前に一つ聞かせてくれ。キミはどうして私と戦いたい? 狙いはなんだ?」

「うどんだ」

「うどん?」

(こいつも違うようだな……)

と、ホカゼはがっかりした。

「何を残念そうにしている? うどん嫌いなのか?」

「別に嫌いじゃない」

「そうか。じゃうどん好きなのか?」

「別に好きでもない」

「私はうどん大好きだ。旭川をうどんの街にしたい」

(また旭川か)

「旭川の名物と言えばなんだ?」と、うどんの男は聞く。

「動物園」

「確かにそうだな。ラーメンも有名だ。ラーメンは好きか?」

「興味ない」

「私は嫌いだ。うどんより美味しくない。なのにうどんより人気だ。旭川はラーメンの街でもある。私はそれが許せない」

(どうでもいいな)

と、ホカゼは左手の指を伸ばしてうどんの男に向ける。

そして、その指先から紺色の光の弾丸が放たれる。うどんの男は動こうとしない。と、その身体に命中。効いていないようだ。

(こいつも動かないのか)

(私が嫌いだからか?)

「私は下川しもかわ町出身の人間だ」と、うどんの男は話す「下川町、知っているか?」

「知らない」

「下川町はうどんの町だ。そして下川町のうどんは美味しい。とてもな。――以上だ」

「えっ? 以上?」

(どういうことだ?)

「どうやら私はキミに勝てないらしい」と、うどんの男はなにげなく言う「だからせめてうどんのことをキミ達に伝えようと思う。うどんは素晴らしい食べ物だ。以上だ、撃て」

(潔いな。中々だ)

「分かった」と、ホカゼは撃つ。直撃と同時にうどんの男は消える。

「アマキさん」と、ワーちゃんは呼ぶ「うどん食べたくないですかー?」

「えっ?」

「私は食べたくなりましたよ、あんなに力説されたら!」

「――確かにちょっと気になるね」

「ですよね!」

「でもどうやって食べよう?」

「下川町に行けばいいんじゃないですか? うどんの町ってらしいし。行きましょうよ! お昼ごはんも食べることができたんだから、うどんもきっと食べることができると思います!」

「ホカゼ、どうする?」

「行きましょう」

「分かった。行こう、ワーちゃん」

「はい!」

(――でも、こっちの用事もある)

と、ホカゼはふと思う。

「ホカゼ、下川町がどこにあるか調べてくれないか?」と、アマキは言う。

「分かりました」

と、ホカゼは消えた。


「おかえり」机の向こうに現れたホカゼにハナカワは声をかける。

「ああ。ハナカワ、下川町って知っているか?」

「下川町? 確か道北にある町だな」

「道北か、ありがとう」

「下川町がどうかしたのか?」

「実はみんなでうどんを食べに行くことにしたんだ」

「うどんを? 当てはあるのか?」

「分からない。だがとりあえず行くよ。――キミはどうだ? 行けるか?」

「まだだ。すまない」

「いやいい。気にしないでくれ」

と、ホカゼは消えた。


ホカゼは砂漠に戻る。

「アマキ先輩、下川町は道北にあるようです」と、彼は言った。

「ありがとう」

「アマキさん、ホカゼさん、下川町を目指して歩きましょうよ」と、ワーちゃんは楽しげに提案する。

「うん、良いよ」

「私も」と、答えて、ホカゼはふと用事のことを思い出す。

(まぁ、行くついでに済ませよう)

と、ホカゼがそう思った時、背後から呼ばれた。彼は振り返る。

「ホカゼ、下川町へ行くのか?」と、若い男は言った。

「ああ。キミは? 戦いたいのか?」

「ああ、戦いたい。キミを下川町へは行かせない」

「何?」

「下川町へ行く場合、必ず旭川を通ることになるからな」

(旭川? また旭川に関係するのか?)

「それがどうした?」

「私は旭川をラベンダー畑にしたい。キミはラベンダーという花を知っているか?」

「ラベンダー? ――確か紫色の花だろ?」

「そうだ。ラベンダーは綺麗な花だ。私は旭川を一面ラベンダーの畑にしたい」

「――それでどうして私達の邪魔をする?」

けがされたくないからだ。キミ達に足を踏み入れられて」

「足を踏み入れられて? ラベンダー畑はもうあるのか?」

(まさかな)

「まさか。今からそうするのさ」

(そうだよな。けれど、まだなのに邪魔をする? なんだそれ……)

と、ホカゼは呆れた。

「ほかに戦う目的はないのか?」ホカゼは気を取り直して聞く。

「ない」

(ないのか。こいつも違うのか……)

「ホカゼ、北海道でラベンダーが有名なところはどこか知っているか?」と、ラベンダーの男は聞いた。

「分からない」

「例えば富良野ふらのだ」

(富良野? どこだ?)

「だが富良野はその全てがラベンダーではない」と、ラベンダーの男は続ける「しかし旭川は別だ。私は旭川の砂漠全てをラベンダーにしたい」

「――なぜ旭川なんだ?」と、ホカゼはふと気になった「旭川の人間だからか?」

「旭川の人間だから? 何を言っている? 旭川の人間ならむしろそんなことは望まないだろう。全てをラベンダー畑にするなんてな。――理由が知りたければ私に負けを認めさせることだ」

(別にいいな)

と、ホカゼが思った時、ラベンダーの男の手にリボルバーが現れる。と、ラベンダーの男は撃った。ホカゼは胸に食らうが問題ない。と、彼も撃つ。当たる。と、ラベンダーの男は消えた。

「失敗しちゃいましたねー、ホカゼさん」と、ワーちゃんは言う。

「失敗?」

「理由聞けなかったじゃないですかー? 旭川をラベンダー畑にする理由」

「ああ、別に興味なかったからいいよ」

「そうなんですかー? ならよかったですね」

「ホカゼ」と、アマキが呼ぶ「ラベンダーってどんな花かな? どんな形?」

「えっ? あー……つくしみたいな形です」

「つくしって何?」

「えっ?」

「アマキさん」と、ワーちゃんは呼び、人差し指を立てた「人差し指みたいな形の花ですよー」

「なるほど、人差し指か。ありがとう、ワーちゃん」

「はい!」

「ホカゼ、行こうか」

「はい」

「あっ、ちょっと待ってください」と、ワーちゃん「ホカゼさん、また私と二人で話しましょう」

「えっ?」

「ホカゼ、行っておいで」と、アマキは促す。

「はい」

二人はアマキから少し離れる。

「なんの話だ?」ホカゼは聞く。

「ホカゼさん、実は――」

「ホカゼ」

ワーちゃんの言葉は、ホカゼの背後からの声にさえぎられた。ホカゼは振り返る。珍しいなと彼は思った。黒い長髪の若い女――灰色の着物に灰色の帯をした――がいたからだ。

「キミは? 私と戦いたいのか?」と、ホカゼは聞く。

「そうよ」

(女――もしかしたら、私の求めている敵は女じゃないのか?)

「戦う理由はなんだ?」ホカゼは期待しながら聞いた。

「動物園を創るためよ」

(違ったか……)

ふと女の手にリボルバーが出現する。「私はアライグマのために戦う」

(アライグマか)

アライグマの女は、「行くわよ!」と、リボルバーを撃つ。胸に当たる。「――効いてないようね?」

「ああ」

「どうして避けないの?」

「その必要がないからだ」

「そう、奇遇ね。私も避ける気はないわ。キミの攻撃なんてね」

「なら受けてみろ」と、ホカゼは撃つ。

(――効いてないか)

「アライグマのことは知ってる?」と、アライグマの女は聞く「姿は分かる?」

「なんとなく」

「なんとなくでもかわいいと思わない?」

「微妙だな」

「あら残念、アライグマのかわいさが分からないなんてね」と、アライグマの女は馬鹿にしたように言う「ならますますやる気が出てきたわ、私の目的。早くアライグマを知らない人にアライグマの魅力を伝えたいわ」

(私にも目的がある)

(さっさと終わらせる)

と、ホカゼは撃つ。当たらないうちにまた撃つ。そうやって、さらに撃つ。全弾命中し、アライグマの女は消えた。

「これで話せますね、ホカゼさん」と、ワーちゃん。

「ああ。それで話って?」

「はい! おめでとうございます、ホカゼさん!」ワーちゃんは笑顔でそう言った。

ホカゼは首をかしげる。「おめでとうって何が?」

「はい、キミの目的は達成されたからですよ」

「何!?」ホカゼは驚愕する「達成された?」

(そうなのか?)

「はい、達成されました!」

「でも、誰もアマキ先輩について話さなかったぞ?」

「そうですねー。でもクリアです」

クリアという言葉にホカゼは嬉しくなる。

(クリアか、やった!)

「――でも、秘密は? 私は分かってないぞ?」

「あっ、私が分かってます。分かりました」

「本当か? 秘密ってなんだ?」

「元の世界にしたい、元の世界で暮らしたい――これがアマキさんの秘密、アマキさんの想いです」

「はっ?」ホカゼは唖然とした。

「どうしましたか?」

「ワーちゃん、本当にそれがアマキ先輩の秘密なのか?」

「はい、そうですよ。どうしてですか?」

「ありえないと思って」

「ありえない?」

ホカゼはうなずく。「ああ」

「そうなんですか? へぇー」

それから二人はアマキのところへ戻る。

「ホカゼ、戦っていたようだけど大丈夫?」と、アマキは聞く。

「はい」

「そうか、それはよかった」

「アマキさん、今度の人はアライグマが好きな人でした」と、ワーちゃんは教える。

「アライグマ?」

「知りませんか?」

「うん。どんなクマだろう?」

「しましまで小さくて、手を洗うクマです」

「へぇー」


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」

一方、ミヤセは依然攻撃を続けていた。

(がんばるなぁ、おい……)

と、弾丸を食らい続けるタカツジは呆れ果てていた。

(――あっ、そうだ)

「おい、攻撃をやめてくれ」と、タカツジは言った。

と、ミヤセは言う通りにした。

(素直だな)

感心するタカツジに、「もう終わるのか?」と、リボルバーを向けたままミヤセは聞く。

「終わる? そんなわけないだろ。私の話を聞いてくれ」

「なんだ?」

「私は警察官だ。人を救う職業だ。キミはさっきから死ね死ね言ってリボルバーを撃ちまくっているけど、どうしてだ? 何か問題を抱えているなら相談してほしい」

「問題はキミだ」と、ミヤセは真剣な表情で答える。

「何?」

「まずキミだ。だから消えてもらうのさ」

「どうして私が問題なんだ?」

「キミだけじゃない。この砂漠にいる私以外の人間は邪魔だ。消えてもらう」

「分からないな。なぜ邪魔だと思うんだ?」

「私は人間嫌いだ」

タカツジはふっと笑う。「なるほど」

「分かったならどうする?」

「もちろん邪魔をさせてもらう。だが暴力はしたくない」

「何?」

「警察官がすぐ力に頼るのはよくないと思うんだ。もっとも必要な時は遠慮なく行使するが。――この場合は必要ないな。私を見てそう思わないか? キミの攻撃、全然効いてないだろ? やるだけ無駄なんだよ。だから攻撃をやめてくれ」それがタカツジの邪魔の仕方だった。

「そんなことはない」と、ミヤセは悔しそうに言う「やるだけ無駄なんてことは」

「いや、やるだけ無駄だ。そしてやるだけ絶望感が増すぞ?」

「……ターゲットを変更する。だが忘れるな、私はいつか必ずキミをこの砂漠から消してやる」

と、ミヤセは消えた。

(諦めないか。悪くないヤツだ)

(――しかし、ターゲットの変更か……)

(まぁ、いいか)


一方、ミヤセは札幌の違う場所に移動した。

その瞬間、背後で気配を感じた。彼は振り返り、リボルバーを向ける。

「――先生?」と、ミヤセは口を開いた。

「久しぶりだね、ミヤセ」と、若い男――着物も帯も灰色の身なりの――は言った。

「はい、お久しぶりです」

「その銃は? 物騒だからしまってくれないかな?」

「はい」と、リボルバーが消える「先生はどうしてここに?」

「先生らしいことをしようと思ってね」

(先生らしいこと?)

と、ミヤセは首をかしげる。

「ミヤセ、何か知りたいことはあるかな?」と、先生は聞く「分かることなら答えてあげるよ」

(知りたいこと――)

(そうだ)

(いや……)

ミヤセはためらう。

「どうした?」と、先生。

「いえ。――先生、この砂漠から私以外の人間を消したいんですがどうしたらいいでしょうか?」ミヤセは思い切って聞いた。

「えっ?」と、先生は目を丸くする「ミヤセ、それはできないよ」

「えっ……どうしてですか?」

「どうしてって……キミはこの世界のことをよく知らないようだね?」

「はい。教えてください」

どうしてこの砂漠から自分以外の人間を消すことができないのか――ちゃんとした理由を聞かないとミヤセは納得できない。

「それは――あれ?」

「どうしましたか?」

「すまない、ど忘れした」

「えっ?」

先生は苦笑した。「困ったな……そうだ、ほかの人に聞くといい」

「はぁ……ほかの人は分かるんでしょうか?」

「ああ、きっと大丈夫だ」

(どうする――?)

(探すか)

と、ミヤセは決めた。

(先生の言っていることは本当だろう。残念だけどな……)

彼は先生を信用していた。先生だからだ。

(残念だが、知りたい。すっきりしたい)

「分かりました。探してみます」

「すまないね、ど忘れしてしまって」

「いえ」

と、ミヤセはぱっと消えた。


「先生」ミヤセが消えた直後、後ろから呼ばれた。先生は振り返り、「キミは?」

「ウミノと申します」と、若い男は名乗った「先生なんですか?」

「そうだよ」

「先生、私に勉強を教えていただけませんか?」

「勉強? 良いよ」と、先生は快諾した「あっ、でも教科書とかないな」

「口頭で教えていただいてかまいません。ぜひ教えてください」

先生は微笑する。「分かった」何を勉強したい? と先生は付け加えた。

「先生はどの科目の先生なんですか?」

「一通り教えることができる。国語、英語、数学、理科、社会」

ウミノは微笑する。「素晴らしいですね、先生!」

「ありがとう。――どの科目を学びたい?」

「できれば全部を――あの、お時間は大丈夫でしょうか?」

先生はふっと笑う。「あるに決まっているじゃないか」と、その場に座る「さぁ、始めようか」

「はい」と、ウミノも座る。


その頃、ホカゼ達は下川町を目指して歩いていた。

「――ってわけなんですよー」

「ふふふ、面白いね」と、アマキは隣のワーちゃんと談笑している。

「ですよねー。――あっ」

「どうしたの?」

「はい、ホカゼさんと話をしたくなりました」

「私と?」

「はい、二人で」

三人は立ち止まる。

「ホカゼ、話しておいで」と、アマキは勧める。

「分かりました」と、ホカゼは彼女の手を放す。

二人はアマキから少し離れると、「ホカゼさん、私と戦ってください!」と、ワーちゃんは楽しげに言った。

「戦う?」ホカゼは驚いた「どうして?」

(ワーちゃんは戦うのが嫌なはずなのに)

と、ホカゼは思う。

(戦いがつまらないんじゃないのか? なのに戦いたい? どういうことだ?)

「なんか戦いが見たくなったんですよ。そういうことありませんかー?」

ホカゼはうなずく。「分かる」

「よかったです。なら戦ってくれますよね?」

「いや、戦わない」ホカゼはきっぱり答えた。

「えっー!? なんでですかー? いいことありますよー?」

(いいこと?)

「キミがいなくなればアマキ先輩が悲しむ」ホカゼは答える「そうは思わないか?」

「確かにそうだと思いますけど。でも、戦ってほしいです」ワーちゃんは食い下がる。

(どうしてこんなに戦いたいんだろう?)

「駄目だ。――戦いが見たくなったって言ったな?」

「はい」

「なら私と誰かの戦いを見ればいいんじゃないのか?」

「うーん……あっ、なるほど。それでもいいかもです」と、ワーちゃんは考えて答えた。

「よかった」

二人はアマキのもとへ戻る。

「ホカゼ」

と、右から呼ばれた。

「さっそく来ましたね!」と、ワーちゃんは喜ぶ「見せてください、戦いを」

「ああ」と、ホカゼは男を見る「私と戦いのか?」

「そうだ」

「理由は?」

「お金だ」

「お金?」

「ああ、キミと戦えばお金がもらえるんだ」

ホカゼは呆れた。「お金のために戦うのか? くだらない」

「くだらない? どうしてだ? お金は素晴らしい。持っているだけで幸せになる」

(あっ、そういうことか)

「キミもそう思わないか?」と、お金目当ての男は聞く。

「思わないな。お金なんて不要だ」

「残念だ」と、お金目当ての男はリボルバーを手に出す。そして撃った。赤い光の弾丸はホカゼの胸に当たった。

「効かないな」

「そのようだな。さぁ、キミの番だ」と、お金目当ての男は両腕を広げた「撃てよ」

「ああ」と、ホカゼは左手の指先を相手に向ける。と、その先から紺色の光の弾丸が現れる。それは相手に直撃した。と、相手は消えた。

と、その瞬間にまた別の男が現れる。

「ホカゼ、私と戦え」

「いいけどその理由は?」

「お金だ」

(お金? またか?)

と、ホカゼは呆れた。

(つまらない相手だ。さっさと倒そう)

と、ホカゼは撃つ。食らう。と、相手は消える。

と、また別の男が瞬時に来た。

「私と戦いたいのか?」ホカゼは聞く。

「ああ」

「理由は?」

「私もお金目当てだ」

(私も?)

(三人は仲間なのか)

ふとホカゼは気づいた。

と、お金目当ての三人目は両腕を広げ、「撃ってこい」

「何?」

「さぁ」

(何を狙っている――?)

(まぁいい。撃つしかない)

と、ホカゼは光の弾丸を食らわせた。と、相手は消えた。

(消えた? 何かを狙っていたわけではなかったのか?)

「ホカゼさん、やりましたね!」と、ワーちゃん。

「ああ。満足した?」

「はい! ――あの、ホカゼさん、また二人で話したいです。いいですか? アマキさん」

「うん」

再び二人になる。

「話ってなんだ?」ホカゼは聞く。

「はい、これからのことです」と、ワーちゃんは楽しそうに答える。

「これから?」

「はい。ホカゼさん、キミはこれから有意義なことをします」

(有意義なこと?)

「どんなこと?」

「少女を守ることです」

「私は守らないよ」ホカゼは断言した。

「えっー!?」ワーちゃんは驚愕した「どうしてですかー?」


一方、

「――だからこの問題は――」

「先生」ウミノはさえぎった。

「なんだね?」

「すみません、ちょっと用事を思い出しました」すぐに戻ってきます、とウミノは付け加えた。

「そうか。分かった」

「ありがとうございます」

と、ウミノは消えた。


「理由は答えたくない。けれど私は少女を守る気はない」と、ホカゼは断固として答えた。

「えっー? そんなー」と、ワーちゃんは不満を口にする。

ふと、ホカゼはアマキのほうを見た。

(無事か……)

と、彼はほっとした。

(まぁ当たり前か)

と、彼は消えた。


「おかえり」と、また机の向かいに戻ったホカゼにハナカワは言う。

(こっちも当たり前か……)

「ホカゼ、どうした?」

「いや、なんでも。――本でも読もうかな?」

夕方になって、二人は図書館を出た。

「これからどうする?」ハナカワが聞く。

「戻って歩くよ」

「大変だな」

「全然。――行ってくる」

「いってらっしゃい」


「もう、ひどいですよー!」と、一瞬姿を消したホカゼにワーちゃんは怒る「話の途中でいなくなるなんてー!」

「悪かった」

「分かったらいいです」と、ワーちゃんは笑って言う「少女の件は分かりました。アマキさんのところへ戻りましょう」

「ああ」

戻ると、「ワーちゃん、どうしたの?」と、アマキは聞く「何か不満そうだね」

「はい、聞いてくださいよー、ホカゼさん、話の途中でいなくなっちゃったんですよ。ひどいですよねー?」

(えっ? 分かってくれたんじゃないのか?)

と、ホカゼは不思議に思う。

「そうだね、ワーちゃん」と、アマキはホカゼを見る「いけないことだよ、ホカゼ」

「すみません」

「気をつけてね」

「はい」

「さぁ、行こうか」と、アマキはホカゼに左手を差し出す。

「はい」と、ホカゼはその手を右手で握る。

「ワーちゃんも」と、アマキはもう片方の手を少女へ。

「わーい!」と、ワーちゃんは喜んでその手を握る。

三人は歩き出した。

やがて、三人は足を止めた。左のほうから声をかけられたからだ。見ると、

(少女だ)

と、ホカゼは思った。

視線の先には若い男――緑色の着物に赤い帯の格好――と、少女――十代前半から後半、白い着物にオレンジ色の帯をした――がいた。

(さっきワーちゃんが言っていたのはもしかしてこの少女のことか?)

(――うん? この少女、見覚えがある気が――)

(――思い出せないな)

「キミ達は?」と、ホカゼは聞く「私と戦いたいのか?」

「違う」男のほうが答える。声をかけてきたのはこいつだなとホカゼは思った。

「私はクラオカ。キミ達のことが知りたいんだ」と、男は続けた。

「私達のこと? どんなことをだ?」

「キミは私達の敵か?」

「分からない」

「分からない?」

「ああ、私は今キミ達と戦う気はない。だが理由があれば戦うだろう。もっとも、その場合でもキミ達が戦いたくなければ戦わないだろう。そこまでして戦う気はない。どうなんだ? キミ達は私と戦いたいのか?」

「私達はキミと戦う気はない」

「なら私はキミ達の敵じゃない」

「よかった。――キミ達はどこへ行く気だ?」

「下川町だ」

「下川町?」

「ああ、うどんを食べにな」

「うどん? 智恵文ちえぶんじゃなくてか?」

「智恵文? どういうことだ?」

「うどんは智恵文にあるぞ?」

「何? それは本当か?」

「確かだ。証拠はこの目だ。この目を見てほしい。――どうだ? 嘘をついている目か?」

「いや、違うな。分かった、信じよう」

「ありがとう。――迷惑じゃなければキミ達に同行させてもらえないだろうか?」

「同行? キミ達もうどんが食べたいのか?」

「私は違う。この子を守るには人数が多いほうがいいと思うからだ」と、クラオカは一緒にいる少女に手を向ける。

ホカゼは首をかしげる。「守る? どういうことだ? その子に何かあるのか?」

「分からない。守ってほしいと彼女が言うんだ。――同行させてもらえないだろうか?」

「同行してもいいが、私は守る気はないぞ?」

「えっー? どうしてですかー?」と、ワーちゃん「ホカゼさん、ひどいですよー」と、なにげなく言う。

「そうだね、ワーちゃん」と、アマキは同意する「ホカゼ、どうしてその子を守る気がないの?」

「それは……」

「何?」

「……万が一のためですよ」ホカゼは気まずそうに答えた。

「万が一?」

「そうです。ひょっとしたら守り切れなくなるかもしれません」

「大丈夫だよ」と、アマキは答えた「キミはそんなつまらない人間ではないよ。もしそうなら私はキミに失望してしまうよ。――キミはそうじゃないだろう?」

「はい」ホカゼは微笑して答えた。

「いいね」

ホカゼはクラオカを見る。「分かった。協力する」

「ありがとう」と、クラオカは手を差し出す。

二人は握手する。

「なんて名前ですかー?」と、ワーちゃんは少女に聞く。

(分からないのか?)

「アサミです」

「私はワーちゃんです。よろしくねー」

「はい」

「私はアマキ。よろしくね」と、彼女も自己紹介した。

「はい、よろしくお願いします」

「羨ましいな」

と、右のほうからそう聞こえた。ホカゼ達はそちらを見る。

ウミノがいた。

「ホカゼ、キミがだよ」と、彼は言った。

(羨ましい?)

「何が羨ましいんだ?」と、ホカゼは聞いた。

「女性と手を繋いでいること。そして余裕そうだからだよ」

「余裕?」

「ああ、手を繋ぎながら戦うなんて余裕じゃないか?」

「見ていたのか? いつから?」

「さっきお金目的の男三人と戦っただろう? 彼らは私が雇ったんだ。今のキミの力を知るために」

「力を知る? なんのために?」

「私の邪魔になるかどうか見極めるために」と、ウミノは答えた「彼らは役に立ったよ。どうやらキミは私の邪魔にはならないようだ」

「何?」

「私はリフレッシュしたいんだ」と、ウミノは言う「やることをやって今は勉強している。だけど勉強は中々疲れるんだ。だからリフレッシュしたいんだ。少女を使ってな」

「少女? どういうことだ?」

「ちょっとちょっかいをかけたい。一発殴らせてもらう」

「はぁ?」

「それで私は満足する。リフレッシュできる」

「ふざけるな!」と、クラオカは怒鳴る「そんなことはさせない!」

「誰だ? キミは。まぁ、キミもホカゼと同じで私の邪魔にならないだろう」

ホカゼはむっとして、「どうして私はキミの邪魔にならないんだ?」

「簡単さ」と、ウミノは右手の指先をアマキに向けた。

(しまった!)

「動くなよ」と、ウミノはホカゼに言う「動いたらどうなるか分かるな?」

(くっ……)

「キミもだ」と、ウミノはクラオカに左手を向ける「動いたら撃つ。それでキミは終わりだ」

「ホカゼ、撃て!」

(アマキ先輩!?)

「私は大丈夫だ」と、アマキは落ち着いて言う「だから撃て」

(しかし……)

「そこまでする価値が少女にあるのか?」と、ウミノはホカゼに問う。

(価値? それは……)

「……あるさ……」

「ふっ、まぁいいさ。殴るだけだ。それ以上のことはできない。駄目か?」

「ああ……」

ウミノはにやりと笑う。「そうか、残念だ。なら戦おう。撃ってこいよ」

(くっ……)

「どうした? 撃って――」と、ウミノは言いかけて消えた。

その向こうには人影があった。

「ハナカワ!?」ホカゼは驚く。

ハナカワは彼に歩み寄る。「やぁ、ホカゼ」

「どうしてキミがここに?」

ハナカワは笑う。「戻ってきたんだよ」

「あっ、そうか」

「そして敵を倒した」

「何? ウミノを倒したのはキミか?」

「ああ」

ホカゼは感激した。「ありがとう、ハナカワ」

「うん」

(あっ)

ホカゼはふいに気づいた。「すみません、アマキ先輩。キミをあんな目に遭わせてしまって……」

「気にすることはないよ、ホカゼ」と、アマキは答える「でも私の呼びかけにためらったのは問題かな。キミは私を見くびっているのかな?」

「そんなことはありません!」ホカゼは即答する「キミがやられる姿を見たくなかったからです!」

「ふふふ、冗談だよ。私もキミに少し酷な真似をさせようとしてしまったね。許してくれ」

「いえそんな。別に気にしてませんから」

「ホカゼ」と、ハナカワが呼ぶ。彼は険しい顔をしている。

「なんだ?」

聞くと、ふとハナカワはなにげない表情になり、「彼らは?」と、クラオカ達を見る。

「ああ、一緒に智恵文へ同行することになったクラオカとアサミだ」

「そうか。――よろしく、二人とも」

「ああ」

「はい、よろしくお願いします」

「智恵文?」と、ハナカワはホカゼに聞く。

「ああ、そこにうどんがあるからだ」

「なるほど」

「私はワーちゃんです!」と、少女はハナカワに言う「よろしくお願いします!」

「ああ、よろしく。ハナカワだ」

「はい。でもひどいですよ、ハナカワさん! 私を後回しにしてー!」と、ワーちゃんは楽しそうに言う。

「後回し? いやそんなつもりはないよ」

「本当ですかー? ならよかったです」

それからホカゼ達は歩き始める。

しばらくして、目の前に人影がぱっと出現した。それは白い着物に青い帯をした若い男だった。

「ホカゼだな?」

「そうだ。キミは? 私と戦いたいのか?」

「私はイイダ。私はその少女に用がある」

(少女? アサミのことだな)

と、ワーちゃんとの会話からホカゼはそう思った。

「その少女を渡してもらおう」と、イイダは続ける「私はその少女が必要だ」

「なんのためにだ?」と、クラオカが聞く。

「殺すためだ」と、イイダは答える「それが私の目的だ」

「殺すだと?」怪訝な表情でクラオカは言う「どうして殺したいんだ?」

「それが運命だからだ」

(運命?)

クラオカは眉をひそめる。「運命だと?」

「ああ、運命だ。少女は殺される運命。そういう運命だ」と、イイダは微笑する「この世界はいい世界だ。私の考えが通用するんだからな。だから少女は私の目の前にいる」と、楽しそうに語る。

「通用なんかしない」クラオカはきっぱりと言う「私達が阻止するんだからな」

「阻止? それはできないよ。その少女はこの世界にとって悪い存在だ」

(何?)

「どういうことだ?」

「いずれ分かるだろう。そしてその時はキミ達がその少女を消すことになるだろう」

「わけが分からない。もっと詳しく話せ!」

「そうしたいが、それはできないようだ」と、イイダは肩をすくめる「私は早くその少女を殺したいんだ。勝手されて不安になったからな」

「キミの思い通りにはさせない!」

イイダはふっと笑う。「私を倒しても誰かがその少女を討つことになる。その少女に自由はない。ならなるべく早いうちに殺すべきだと思わないか?」

「黙れ!」

(戦うことになる)

と、ホカゼはクラオカに思った。このままだとクラオカは戦う。

(そんなことはさせない)

(戦うのは私だ)

その瞬間、イイダの前に、止まった、虚空から出る五本の紺色のビームが現れる。

「なんだと!?」イイダは驚愕する。

その瞬間、ビームは彼に直撃した。と、彼は消えた。

「これは――ホカゼ、キミがやったのか?」戸惑いながらクラオカが聞く。

「ああ、そうだ」と、ホカゼはアサミを見る「好きに生きればいい」

「えっ?」

ホカゼはうなずく。「この世界はそういう世界だ。イイダの言った運命なんてものはない」

ふとアサミは微笑む。「はい。ありがとうございます」

(キミのことなんてどうでもいい。けれど言っておかないとな)

「さすがはキミだな」

と、ホカゼの背後でそう聞こえた。見ると、黒い着物に黄金の帯をした青年男性が立っていた。

「さすがって?」と、ホカゼは聞いた。

「キミのことだよ、ホカゼ。しかし私には理解できないな」

「何がだ?」

「この砂漠のことだ」と、男は肩をすくめる「私にはこの砂漠の魅力が分からないな。教えてほしいものだな、ホカゼ」

(私に言われても)

と、ホカゼは肩をすくめた。「キミの名前は? そしてキミの目的はなんだ?」

「私はタカイ。私の目的はこの世界を変えることだ。この砂漠を終わらせ、元の日本を取り戻す」


同時刻、人を探すために当てもなく歩いていたミヤセは、ふと右を見て、二人の男を近くに見つけた。彼らは座って何か話をしている。

ミヤセは彼らに近寄り、「こんにちは。聞きたいことがあるんだがいいかな?」

「良いよ」

「私も」

二人は快諾した。

「私はヒイラギ」

「私はナガサワ」

「ミヤセだ」

「聞きたいって?」ヒイラギが聞いた。

「この世界のことだ」

「この世界の?」

「ああ、この砂漠から人を消し去ることはできないと聞いたがどうしてなんだろう?」

「そりゃ例外がいるからさ」

「例外?」

「ああ、ずっと元気なヤツ」

ふとミヤセは、あの警察官――タカツジを思い浮かべた。

「羨ましいよな」と、ナガサワはヒイラギに言う。

「ああ、羨ましい。チャージしないで済むんだからな」と、ヒイラギはミヤセを見る「ほかに聞きたいことは?」

「この砂漠はどうして誕生したんだ?」

「えっ? そんなことも知らないのか? 情報を遮断しているのか? まぁいい。それは一人の人物がそうしたんだ」

「一人で?」ミヤセは驚く。

「ああ。一人の願いを聞いてな。――あれ? その願いを言ったほうの性別ってどっちだったっけ? ナガサワ、分かるか?」

するとナガサワは苦笑して、「いや、分からない。寝ぼけているのかな? それか単に忘れたか。――そういえば確か別の世界も創ったんだろ?」

「ああ、そうらしい。すごすぎるよな、嫉妬しちゃうよ」

「嫉妬? ならまたずっと眠っていれば? 時間が解決してくれるだろう」と、ナガサワは笑いながら言う。

ヒイラギは苦笑して、「いやいや、その大勢にはならない。もったいない。キミと話しているよ。そうすれば忘れるだろう。おしゃべり大好きだから」

(例外――)

「その例外をこの砂漠から消し去る方法はないのか?」ミヤセは聞いた。

「ない」ヒイラギは断言した「当たり前だろ?」

(そんな……)

ミヤセは絶望した。

(……『眠っていれば』……)

(……私も……)


その頃、リボルバーから放たれた紺色の光の弾丸を、ホカゼは胸に食らった。しかし彼はなんともない。

「これで八発目だ」ホカゼはタカイに言う「私は効いていない。諦めたらどうだ?」

「それはできない。私は本物の日本を見せてやりたいんだ。――キミは元の日本が恋しくならないのか?」

「ならない」ホカゼは断言する「それはそうと、一つ指摘することがある」

「何?」

「情報についてだ。私と戦っても意味はないよ」と、ホカゼは左手の指先をタカイへ「誰だってな」と、ビームを撃った。

直撃し、タカイは消えた。

「行こう、みんな」ホカゼは言った。

みんなはうなずいた。

そして、彼らは歩みを始めた――


〈了〉

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