氷食の作法
先ほど、YouTubeにて、「俺の友人に美人だが不思議な雰囲気のA子がいた。よく氷を食べていて云々」という内容のショート動画を見た。そのコメント欄には「私も氷食べるよ」という文章が多くあった。そこで、私はこれを記す。
えへん、まず私は氷食のマイスターである。少なくとも十五年は氷を食ってる。昔は必ず白米に氷水を入れて食っていたし、今でも外食したら、氷を食う。この間バーに初めて行き、ミックスジュースを飲んだが、そこでもちゃんと氷を食った。
で、私は言いたい、氷を食うのは楽じゃねえ。そこには厳然とした作法があり、それに則らなければ痛い目を見る。
まず、氷は濡れたものを用意する必要がある。飲み物に入れた氷を食うのなら安心だが、スーパーに売られている氷塊を食う場合は、ちゃんと水道で洗ってから食べよう。なぜならば、濡れていない氷は口にくっつくからだ。唇にピタッと吸い付いて離れなくなる。助けを呼ぼうにも、口が開閉できないのでハガハガ言うことしかできない。無理に剥がすと血が出る。私は何度白米をピンクに染めたか分からない。だから君たちはよく気を付けてほしい。濡れていない氷は表面が白く粉がかっているから、よくチェックしよう。もしそれを失念して、氷が口にくっついた場合は、すぐに手洗い場へ駆け込んで、氷と口の接着部分に大量の流水を当て、溶かしてしまおう。上手くやれば、怪我せずに済む。
次に、氷食は腹を冷やすという事実を、理解しておこう。氷山で遭難した時、やってはならないことの一つに、雪や氷を食べることが挙げられる。それくらい、氷食は急激に体温を奪うのだ。特に胃が冷える。数個氷を食べるだけで、お腹を触ると、胃の部分が冷たくなっていることが分かるほどだ。そうして、ここまでくると、下痢になる可能性は極めて高い。私のように、腸が弱い体質の人は特に用心が必要だ。腹を温めながら、適切な量を摂取しよう。ただし、別に下痢くらい何ともないや、それより氷を食いたいという人がいれば、同志よ、共に腹を下そうではないか!
最後に、氷の噛み方について記す。これも重要だ。私のように、のど飴を三秒で噛み砕いてしまう人間でなくとも、氷を食べていると噛みたくなるものだ。なぜなら、氷は舌の上に置いといたって大して嬉しい効果をもたらさないからだ。冷たくて舌が痺れるくらいのものだ。だから、多くの人は氷を噛もうとするはずだ、しかしちょっと待ってほしい。氷を奥歯で噛み締め、一気に噛み砕くと、尖った断面が口内に突き刺さり、怪我をする恐れがある。ならどうすれば良いかというと、まず氷を奥歯の下にセッティングして、ゆっくり、万力のように徐々に力を加えていく。するとググググ、と氷が軋み始める。そして、氷の限界を越えたところでピシッ!と亀裂が入る。ここまで来ればもう顎の力を緩めていい。舌で氷を弄びながら、甘噛みを数発食らわせば、簡単に割れてしまう。割れた氷が、まだ大きいと思うのであれば、再び奥歯で少しずつ噛み締めよう。忘れてはならないのは、上の歯と下の歯が噛み合うまで口を閉じないこと。氷が割れたらすぐに力を緩めてしまおう。
以上、氷食において気をつけるべき三項目を説明した。慣れれば、無意識にできるようになるから、そう気構えず取り組んでほしい。そもそも氷食というのは、氷室を愛した戦国大名も行っていたであろう日本の伝統文化である。怪我が怖いからと言って、取り組まないようではご先祖様に申し訳ないし、もったいない。我々は、氷が手軽に手に入る現代というものに感謝しつつ、安全に、氷食をするべきである。




