【第9話:左右の底】
◆ 右ルート:黒の深層(読むと世界が“収縮”するルート)
くろい道は、最初の一歩で空気が変わった。
ろうそくの火が消えるように、背後の光が吸い取られていく。
のばされたはずの廊下が、いつのまにか細く縮んでいる。
ふかい闇が、ユウタの肩を掴むように寄り添ってくる。
かすかな足音が左右からついてきた。
さけび声ではない。
はいる前からそこにいた者が、歩調を合わせてくるような音だった。
かたちのない気配が、ユウタの歩幅と同じ速さで動く。
えんのように丸い影が前に現れた。
せまい道の中央で、影がひとりでに揺れている。
ばらけた黒い粉が影の周囲に落ちていた。
もとは何かの形だったのかもしれない。
どこかで見たことのある輪郭に思えた。
らせん状の黒い線が足元を這った。
ぬるい風が頬を撫でた。
前方の闇の奥に、数字が浮かび上がった。
206
その瞬間、ユウタの背後で“何か”が動いた。
◆ 左ルート:灰の記憶(読むと世界が“広がる”ルート)
はいろの霧がユウタとマリを包んだ。
いちぶ視界が曖昧になり、足元の石の感触だけがはっきり残る。
のばされた線が霧の中で揺れ、記憶の一部のように鮮やかに光った。
きおくではない何かが思い出のふりをしている。
おだやかな風が通り過ぎた瞬間、ユウタは“自分の声”を聞いた。
くうかんの奥から、別のユウタが話しているような錯覚。
はっきり言葉は聞こえない。
きれぎれの音だけが届く。
えんぴつのような細い線が霧を割り、道を示した。
ても触れていないのに、線が勝手に動いている。
もやの向こうに、ぼんやりとした光の塊が見えた。
あれは……人影だろうか。
しずかに近づくと、影がこちらを向いた。
あしもとに灰色の紙片が落ちている。
あとで拾えばいいと思った瞬間、紙片に文字が浮かんだ。
207
霧が震え、ユウタの背後から別の足音が近づいてきた。




