【第7話:紫の結び目】
むかし図書館の奥に“もうひとつの層”があるという噂を聞いたことがある。
らせん階段のさらに下、地図にも載らない洞のような空間。
さっきまで閲覧室だった場所が、今はまるで違う建物のように見えていた。
きり裂かれたような静けさが漂っている。
のばされた床板の下から、微かに風が吹いた。
しずかな音だが、誰かの呼吸のようにも感じる。
るすの建物が生きているようだった。
しろい粉が舞い、灯りに反射して淡く光った。
がらんどうの部屋の中央に、四角い穴が開いた。
つい先ほどまでは確かに何もなかった場所だ。
なぜだかわからないが、穴の縁がほのかに紫色を帯びていた。
ぐっと胸が締めつけられ、ユウタは一歩下がった。
もの音ひとつせず、階下の闇が静まっている。
はっきり形は見えないのに、奥へと続く“道”だとわかる。
いくつもの線が重なって一本の帯になったような気配。
まるで誰かがそこへ誘っている。
きっとこの先に答えがある。
みちびきのように紫光が揺れる。
あの青い線とは違う、深く沈む色だ。
けむったような淡い影が穴の底で動いていた。
あらわれた光景は、想像していたものとは違った。
けっして地下室のような閉塞感がない。
るり色と紫色が混ざったような空間が広がっていた。
閲覧室と地下の境界はどこにもなかった。
床すべてが黒い石に変わり、冷たい空気が足元を撫でる。
扉らしいものもなく、ただ広がるだけの闇。
空気の層が何枚も重なり、遠くで光が揺れた。
巨大な輪が奥に浮かんでいる。
地面に接していない、宙に浮く円環だ。
線が絡み、紫色の文字のようなものが淡く光っている。
周囲は静かで、音が吸い込まれているようだった。
影のような存在が円環の前に立っていた。
目が合った気がした。
裏返るような感覚が胸に走る。
垂れ下がる光が、影の輪郭をゆらゆら揺らす。
指を伸ばすと、円環の表面の線が反応した。
奥の空間がわずかに震え、石畳の隙間に光が走った。
印が並ぶ。
色の違う線が集まってゆき、やがて円が閉じようとする。
消え入りそうな紫色に、突然白い光が混ざった。
霧のように広がり、視界を奪う。
記憶の深いところをなぞるような錯覚があった。
人の影が複数、遠くで揺れた。
都の明かりのようにも見える。
光が収束し、円環の中心が開いた。
その奥で――
《次の数字》が光っていた。
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…続く。




