表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/21

【第2話:青い視線の廊下】

地下街に入ると、空気は地上とまったく違っていた。

湿り気が多いのに、どこか冷たく、乾いた埃の匂いが鼻をくすぐる。

マリは腕をさすりながら、足元を確かめるように歩いた。


照明が途切れた場所では、遠くに青い灯りが揺れている。

点滅を繰り返すその光は、まるで誰かが息をしているみたいだった。

ユウタは思わず足を止め、光の奥を見つめる。


「監視カメラかな。」

マリが言ったが、声に確信はなかった。

地下街にカメラがあったとしても、こんな不規則な明滅はない。


「行ってみよう。」

ユウタは歩を進め、ゆらゆらと揺れる青色に近づいていく。

光源は廊下の曲がり角にあったが、近づくほど光の温度が低くなる気がした。

気のせいではない。肌が冷える。


角を曲がった瞬間、ユウタは息を呑んだ。

青い明滅が、壁に映った人影の形を作っていた。

実際には誰もいないのに、影だけが揺れている。


「なに、これ……?」

マリがユウタの腕を掴む。

影はゆっくりと形を変え、輪郭が滲むように揺れた。


ユウタは影の中心へ視線を向けた。

そこには古い鏡があった。

縁がひび割れた、長方形の鏡。

まるで捨てられたように壁に立てかけてある。


鏡の表面から、青い光が漏れていた。

光源は鏡の向こう側にあるように見える。


「異常だよね、これ。」

マリの声は震えている。

ユウタは鏡に手を伸ばしかけ、そこで止まった。


鏡に映る自分の後ろに、ぼんやりした影が立っていた。

形は人に似ているが、輪郭が曖昧だ。

ユウタはゆっくり振り返る。

だが、誰もいない。


鏡を見ると、影はまだそこにいる。


「なあ、マリ……」

ユウタが口を開こうとした瞬間、スマホが震えた。

また例の匿名メッセージ。


見えるか。


短い一言。

ユウタは鏡へ視線を戻す。

影が、さっきよりもはっきりしていた。

ゆっくりと腕を挙げているようにも見える。


まるで“こちらを指している”ような動きだった。


マリがユウタの腕を強く引いた。

「行こう!ここ、やばいよ。何か見てる。」


二人は鏡から遠ざかる。

距離を置くにつれ、青い光は弱まり、影の形も崩れていった。

元の暗がりに戻ると、ただの古い鏡にしか見えない。


マリは早歩きで進み、ユウタは後ろを何度も振り返った。

青い光は消えたはずなのに、背中に視線が貼りつくような感覚は続いている。


「さっきの影、絶対普通じゃなかった。」

マリが呟く。

ユウタも同じ思いだった。

影は自分たちを“知っていた”。

あの動きは偶然ではなかった。


出口への通路に入ったとき、上から冷たい風が吹いた。

天井の換気口は止まっているのに、風だけが通り抜けていく。

ユウタは無意識に振り返る。


遠くに置かれた鏡が、わずかに揺れた気がした。

人影はもう映っていない。

しかし青い光が、鏡の向こうでまだ呼吸しているようだった。


二人はそのまま出口へ向かった。

背中に残る気配は、階段を上がっても消えなかった。


地上へ出ると、夕陽が街を赤く染めていた。

だがユウタには、青い光の残像だけがはっきりと焼きついていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ