【第15話:蒼の最深部】
かすかな光も、ふたりの足元には届かない。
げんじつの輪郭が消え、空間は蒼に沈んだ。
だれも触れられない世界。
けれど、影だけが形を残している。
たえず揺れる霧の中、ユウタは手を伸ばした。
しかし届くのは、自分の影だけだった。
影はまるで、ふたりの本当の足跡をなぞるように動く。
マリも同じだった。
あたりを見回しても、ユウタの姿は歪む霧の中。
げんじつはすれ違ったまま、影だけが正しい動きを示していた。
影が重なる瞬間、床に数字が現れた。
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数字は止まらず、淡く揺れる。
ユウタの視界で見る数字は、かろうじて順序が保たれている。
マリの視界では、数字は部分的に欠落している。
「……影だけか」
ユウタは小さくつぶやいた。
「影だけが本当を知ってる……」
蒼い霧が足元から立ち上り、世界を包む。
霧は静かに回転し、影の輪郭をさらに明瞭にする。
深い蒼の中で、ふたりは手を伸ばした。
しかし届くのは影だけ。
それぞれの手が、相手の存在に触れられないまま、
影だけが“正確な位置関係”を示していた。
影は動き、形を変える。
まるで、ふたりの記憶のずれを補完しているかのようだった。
蒼い世界の奥に、数字がひとつ光った。
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数字はさらに光を帯び、
霧を割るようにふたりの影を映す。
ユウタは気づいた。
「影が、すべてを知っている……」
マリも同じことを感じていた。
「影だけが、私たちの世界の真実……」
蒼の最深部、影の記録は
静かに、しかし確実に物語の核心を読者に示していた。




