【第13話:二つの時刻】
ふかく響く音が、地面から伝わってきた。
たりない何かを埋めるように、金の光が揺れている。
のびた影が二つ、地面に落ちていた。
といっても、影の形はどこかズレている。
きづかぬうちに、二人の足元の光の角度が違っていたのだ。
はるか上で、白い天井がひとつ震えた。
そとから吹く風に似た揺れが、空間全体をかすめた。
ろうそくの炎のように、視界がわずかに揺れる。
わずかな時間差で、マリとユウタの視界が二重になった。
ないはずの音が聞こえる。
たしかに同じ世界に立っているのに、耳に届く残響が違う。
「ねえ、ユウタ……いま、聞こえた?」
「何が?」
そう、二人は“同じ音を聞いていない”。
ふりかえったユウタの前に、細い線が浮かんだ。
たえず震えているその線は、どこかで見た“時計の針”に似ていた。
めを凝らすと、線がゆっくり回り始めた。
はっきりと円を描いている。
ユウタは息を呑んだ。
「……これ、時計、なのか?」
そのころ、マリの視界。
ふと足元に影が落ちた。
たれ落ちた影が、ゆっくりと伸びていく。
のぞきこむと、影は数字のように見えた。
211――さっき見た数字だ。
と、思った瞬間――
マリは気づいた。
“その数字は、マリの見た211ではない”
線が太さを変え、形を歪め、
211 のはずの数字が
21|1 に割れた。
「……え?」
マリが振り返ると、ユウタは別のものを見ていた。
ユウタの前には、金の針のような線が、
ゆっくりと形を変えていく。
針が一周するごとに数字が浮かぶ。
211
212
213
「……動いてる?」
ユウタの時計は“進んでいた”。
だがマリの数字は――
211
211
211
“止まっていた”。
「ユウタ……今、いくつに見える?」
「213」
「え……私は、211のまま……」
時間が揃っていない。
たった二つの数字のズレなのに、
空気が急に冷えた。
その瞬間、足元が割れた。
黒い線がユウタの足元から広がり、
白い亀裂がマリの側へ伸びる。
世界そのものが、
“二人の見ている時刻の差”
に耐えられなくなっていた。
地面の中心に、蒼い光が滲む。
音が跳ねた。
214
声にならない息が、ふたりの喉から漏れた。
蒼い時刻が、静かに始まる。




