【第12話:金の時刻】
ふかい静寂が、突然やってきた。
たった今までひび割れていた白い世界が、音もなく閉じていく。
りゆうはわからないのに、ユウタは“誰かに呼ばれた”と感じた。
はっきりと耳に届く声ではない。ただ、胸の奥が揺れた。
おとがひとつ、遠くで跳ねた。
なにかがユウタの視界を照らし、細い“路”が金色に浮かび上がった。
じぶんの影が路の上にまっすぐ伸びている。
ついさっきまで黒かった影が、わずかに金を帯びていた。
とつぜん風が吹いた。
きを取られた瞬間、ユウタは誰かを見つけた。
みえる距離に、マリが立っていた。
りかいが追いつく前に、胸が熱くなった。
なにかが重なるように、視界が震えた。
そのころ、マリの視界。
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ふしぎなくらい静かだった。
たったひとつの音が、霧を割るように響いた。
りゆうもなく、マリは顔を上げた。
はるかな場所から金色の光が差していた。
おもわず手を伸ばす。
なぜか、そこに“ユウタがいる”と確信していた。
じっと見ると、金の粒が宙に舞っている。
つぎの瞬間、霧が割れた。
みちの先に、ユウタがいた。
りょうてを下ろし、静かに立っていた。
あれほど曖昧だった姿が、はっきりと見える。
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そして同じ瞬間、ふたりの視界が“完全に重なった”。
……ように“見えた”。
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「ユウタ……」
「マリ……」
声が交わった。
ふたりの間の空気が、わずかに金色に軋んだ。
それはまるで、時間そのものに触れているような感覚だった。
その時――
マリの視界のユウタと、ユウタの視界のマリが
ほんの一瞬ズレた。
マリには、“ユウタが右足を踏み出した”ように見えた。
ユウタには、“マリが左足で踏みしめた”ように見えた。
完全に同期しているはずの姿が、
ほんの一瞬だけ、揃わない。
その僅かな違いが、この世界に深い亀裂を走らせた。
あたりの空間が震え、ふたりの足元に数字が刻まれた。
211
風が止まり、金の光が一気にしぼんだ。
ふたりは確かに“同じ瞬間”を共有した。
だが、その瞬間に見ていた世界は
――“まったく別物”だった。
金色の時刻が、静かに終わる。




