【第11話:反響の間】
みわたす限り、白い。
えるものすべてが薄い膜の向こうにあるように、形が曖昧だ。
もとの空間がどうだったのか、ユウタは思い出せなかった。
はじめに聞こえたのは、小さな反響音だった。
ほんの少し遅れて、自分の声が返ってくる。
とうめいな壁がどこかにある気がするが、見つからない。
では、マリはどこだ?
なくしたはずの方向感覚が、急に戻ってきた気がした。
くうかんが少し広がった。
にせものの“合流”ではない、何かがここにはある。
ごく自然に、マリの声が聞こえた気がした。
るすの間を震わせるように、柔らかい音だった。
ものの輪郭がゆらぎ、ユウタの前に一本の“線”が浮かんだ。
ほどけそうでほどけない、細い糸のような線だ。
しんに白く光り、ユウタの目を貫く。
つめたい音がした。
のばした手が、空気を二つに割った。
ほどけたはずの線が、ユウタの指先を避けるように揺れた。
しろい空間の真ん中で、影がゆっくりと立ち上がる。
ん? 影があるということは、光源がどこかに――。
じっと見つめると、影は“ユウタ自身”の形をしていた。
つぎの瞬間、影が口を開いた。
「マリは、まだ気づいていないよ」
ゆっくりとこちらを向いた影は、笑った。
その笑みは、自分より“少しだけ大人になったユウタ”に見えた。
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場面は切り替わり、マリの視界。
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みえない壁が、マリの前に立ちはだかった。
おさえつけられているわけではないのに、先に進めない。
くちびるが震える。
はっきり見えているのに、どこにも触れられない。
にぎった拳がゆっくりと沈んでいく。
ごく自然に、霧が動いた。
るつぼのように混ざり合い、白と灰が渦を巻く。
ものの形がぼやけ、次の瞬間“ユウタの影”が現れた。
ほどけた記憶の断片を掘り返すように、その影が近づいてくる。
しずかに笑いながら、影はマリの前で立ち止まった。
ん? このユウタ、何かが違う。
「ユウタ……?」
影は答えた。
「マリ、もうすぐ“本物”に会えるよ」
その瞬間、白い空間の中心に数字が浮かんだ。
210
空気が一瞬止まった。
白い世界が、音もなくひび割れていく。




