【第10話:銀の反射】
◆ 右ルート:黒の深層
ふたりの足音が、いつのまにか一つに聞こえ始めた。
たしかに後ろから誰かがついてきているはずなのに、気配は揺らいでいる。
つよい重圧が、空気ごと押しつぶしてくるようだった。
はじまりの黒い道とは違う。ここでは“形”が意志を持っている。
なにかがユウタの肩をそっと押した。
らくがきのような影が床に伸び、ひらひらと形を変える。
べつの形に変わるたび、音がひとつ鳴る。
ても触れないのに、影だけが跳ねていた。
もとの道より狭くなっている。
まがった壁が左右から迫り、ユウタは思わず立ち止まった。
ざらつく黒い粉が、足元から立ち昇る。
なにかが“前にいる”と確信した瞬間、闇の奥に白い線が走った。
その線は、ユウタが見覚えのある“マリの輪郭”だった。
マリは静かにこちらを向いた。
「ユウタ、こっち」
だが次の瞬間、ユウタは直感した。
――これは“マリではない”。
その証拠に、影が地面に落ちていなかった。
そこに浮かび上がる数字は、
208
黒い空気の中で、数字だけが白く光った。
◆ 左ルート:灰の記憶
ふわりと霧が広がり、マリは何かの気配を感じて振り向いた。
たんたんと続く足音が、まるで“ユウタと自分”のものに聞こえる。
つよい既視感が胸を掴んだ。
はっきり思い出せないのに、“前にもここを歩いた”ような気がする。
なめらかな灰色の霧が割れ、細い線が道を描いた。
らせんのように揺れるその線は、マリの動きに合わせて形を変える。
べつの色はなく、全部が淡い灰。
てを伸ばすと線が小さく震えた。
もやの向こうに影が立っていた。
まるで“ユウタ”の輪郭に見える。
ざっと霧が揺れ、影の輪郭がはっきりし始める。
あれは本当にユウタなのだろうか?
マリは胸に手を当てた。
記憶がざわつく。
まるで“記憶そのものが嘘をついている”ようだった。
ユウタに見える影は口を開いた。
「マリ、待たせたね」
だが次の瞬間、マリは悟った。
――これは“ユウタではない”。
その証拠に、影が足元から少し浮いていた。
霧の中、数字が浮かび上がる。
209
霧が震えた。




