主人公以外全員ばか! いや…主人公もたいがいバカだけど。もとい!全員馬鹿!全員ヒーラーの地獄パーティー。俺、回復魔法に殺される前に魔物を叩き潰す!
※短編バージョン
異世界に転生してから、俺はずっと戦っている。
敵と。運命と。そして、最も恐ろしい仲間の「回復魔法」と。
【真に恐れるべきは有能な敵ではなく、無能な味方である】
「前衛は任せましたッ、ボケ太さん。 背中は、万全の治癒魔法で私が守ってあげますッ!」
ホイミーナの朗らかな声に、俺の胃がきりきりと痛む。守る? 違う。お前らは、よりにもよって回復魔法で、俺を地獄の底へと陥れる。それがこの地獄パーティにおける日常定型文だ。
ゴブリンの群れが、土煙を上げながら迫りくる。俺は錆びた大剣を握りしめ、肩を震わせる。敵が怖いからではない──仲間がポンコツすぎるからだ!
「……行くぞ」
奴らの棍棒が飛び交う。俺は盾で弾き、返す刀で一体の首を刈った。生温かい返り血を浴びる。だがそんなこと気にしてはいられない。
「よし!みんなー、早く回復してくれー!」
ステータス画面のHPゲージは、既に危険を知らせる黄色信号だ。
ここで「普通」なら、暖かな治癒の光が包み込み、安堵のため息をつくはず。だが、このパーティーでは──。
「ヒール!」
ふわふわのローブを纏った、少女ヒーラー・ホイミーナが叫んだ。声だけ聞けば王道ヒロイン。
……だが、俺の体は光らない。
「おかしいよな? なっ?今、ヒールって言ったよね?」
俺はゴブリンの突進を躱しながら、汗で張り付いた前髪を拭いつつ、問うた。
「うん! ちゃんと『ヒール!』って、声に出して唱えたもん!」
「ハァァァァ??? 声に出すだけじゃ意味ねぇんだよ!」
敵の刃が俺の肩甲骨に浅く食い込む。HPゲージはオレンジに沈む。やばい…。
「ケアーる!」
今度は丸眼鏡の知性派ヒーラー、ケアリーナが詠唱。眼鏡の奥の瞳に、狂気じみた光が煌めく。
直後。俺の背中に、ぞっとするような緑色のエフェクトが走った。
「…………これ、毒だよな? 絶対に毒だよな?!」
「えっ!? でも私、ちゃんと『ポイズン』って唱えたよぉ?!」
「だから! それが毒魔法なんだよぉぉぉ! 」
腹の底からこみ上げる強烈な吐き気。寒気すら覚える。
「戦闘中に味方から毒盛られて『毒死する前衛』なんて、聞いたこともねーわ!」
HPがさらに削られ、毒のスリップダメージがじわじわと上昇。
「我が癒しの力よ、時の流れを超え、傷つきし者に安らぎを──」
聖職者枠のヒーラー、レスタんが、異様に壮大で長い詠唱を両手を掲げて開始する。
……その間に、ゴブリンの棍棒が盛大なSEとともに、俺の脇腹を抉り取った。
「ッッ痛ッ!! 間に合ってねぇぇぇ! そもそも詠唱が長すぎるんだよぉー!!」
そして、最後のヒーラー、ヒールン。
「ごめん、MP切れた……」
「お前…、なにしに来たの!?」
俺は剣を振るい、血を流し、また振るう。背後では仲間たちが、ただ「回復」という単語を叫び続けるだけ。
(ハア…ハァ……ぁ………も無理)
俺のHPは真っ赤なまま。毒のエフェクトが体温を奪い、命を削っていく。
そこへ、この地獄パーティーのお色気担当兼メインヒロインが、颯爽と駆け寄ってきた。
ランジェ・グラドール。長い金髪をなびかせ、見るからにぱっつんぱっつんの胸元を揺らしながら、きらきらとした瞳で俺を見つめている。
「すごーい! ボケ太さんって、今日も血まみれでかっこいい! 守られている私、ドキドキしちゃいます!」
彼女の特殊スキルは──ズバリ! 王道ヒロインが、脈絡もなくただ連呼するだけの、あの名セリフ『すごぉーい!』
ただ、それだけだった…。
「ランジェさん、危ない! 避難してください! 俺は今それどころじゃ──」
「だって、みんなを守るボケ太さん、まるで伝説の勇者みたいだよ!」
「守ってねぇし! 守られてもねぇよ! 俺一人だけ毒と棍棒で削られてんだよ!(全部お前らのせいでな!)」
さらに追い打ちをかけるように、ケアリーナが瓶を差し出してきた。
「ポーションをどうぞ!」
あれ……? 今回はまとも……? 奇跡か?
とりえず命だけは落とさずに済みそうだ。
と安心するのは素人だ。
おれは味方から常にデバフを受ける、プロのデバフ請負人だ!
「ポーションは、瓶の蓋を開け、中の液体を口に含むことで効果を発揮します。その認識でよろしいでしょうか? 使用方法をご説明します」
(AIかよ!)
「それ、今じゃねぇぇ!」
ゴブリンの一撃を盾で弾き返し、その衝撃で敵の頭を叩き割る。鮮血が飛び散る。視界が真っ赤ににじみ、血の鉄臭さで腹の底がひっくり返りそうだ。
後ろではヒーラーたちが、自分の「才能」を相変わらずアピールし合っている。
「私の“ヒール”は、理論上は世界最速なんだよ!」
ホイミーナが胸を張る。
「でも、効果が出ていませんよ?」
「だから、理論上は、ね!」
(このパーティーの、どこに「理論」なんて存在するんだよ!)
俺は最後の力を振り絞り、なんとか生き残ったゴブリンをタコ殴りにして、血反吐を吐きながらギリ辛勝を収めた。
戦闘が終わった。俺の鎧は血と泥で真っ赤に染まり、HPゲージは残りわずか。
仲間たちは無傷。当然だ。誰も傷ついていないのだから。(俺以外はな!)
「今日も勝利ですね! ボケ太さん、お疲れ様です!」
ホイミーナが心底明るい笑顔で、手をパッチパチ叩く。
「誰が勝利だ! 俺だけ毎回瀕死だろ!」
毒のダメージで胃液が逆流する。
俺はすねて、焚き火の横で泥のように倒れ込んだ。その頭上に、ケアリーナがそっと手をかざす。
「ケアーる!」
……再び、緑の毒エフェクトが俺の全身を襲う。
「だぁぁかぁぁらぁぁー! やめろってのぉぉ!!」
レスタんは焚き火の前で、延々と長文の呪文を唱え続けている。
「我が癒しの光よ、千年を越え、彼の者に──」
「もう寝ろ! 明日になっても終わってねぇわ!」
ヒールンは寝袋に包まって震えていた。
「あ、あたし、明日はちゃんとMP節約するから……」
「お前はまず、遠征前にポーション100個買っとけ!」
俺は頭を抱えながら焚き火を見つめる。
──どうしてこうなった?
転生したらチート能力サイコー! 俺最強ー! そんな夢を見ていたのに。現実は、全員が自分の無能さに気づかない、地獄のヒーラーパーティーだ。
そして何よりも……。
「すごーい! ボケ太さんって、今日も血まみれでかっこいい! 血まみれでも立ち上がる姿に、力をもらえる!」
ランジェが俺に微笑みかける。
……やめてくれ。本当に死にかけてるんだ。
(つか、その「すごーい!」は俺を殺す呪文か何かか?)
*
翌日。
俺たちはダンジョン最深部に到達した。現れたのは、巨大なリッチロード。アンデッドの王。
「人間どもよ……命を差し出せ……!」
「よしッ、全員、ヒールかけますよー!」
ホイミーナが丸い尻をぷりぷり振って詠唱する。
(まだダメージ負ってないんだが…)
「ヒール!」
はいはい…言うだけ詐欺ね。
「ヒール!ヒールヒールフールへール!」
「呪文…途中で変わってねェ?」
こんなポンコツに構ってられねー!と、俺は盾を構え、突撃する。だが、敵の火球が直撃。HPゲージが即座に真っ赤に染まる。
背後から、四人の声が重なる。
「ビールぅ!」
「ホイミン!」
「ケアーる!」
「レスタん!」
(ビールってなんだよ…)
……だが、やっぱり治らない。むしろ、ケアリーナのせいで「麻痺」が追加された。
(それを敵にかければいいんだよッ!)
「ぐ、ぐぬぬ……!」
全身が痺れる。そんな俺に、リッチロードの杖が振り下ろされる。
その瞬間──。
「すごーい! ボケ太さんって、死にかけなのに立ち上がるなんて!」
ランジェの、一切の雑念がない、純粋な感嘆の声。
……なぜか、体が動いた。
麻痺を振り切り、全身の理不尽を怒りに変え、俺は渾身の一撃でリッチロードを斬り伏せた。
剣が深々と胸に突き刺さる。リッチロードは、この世の地獄を見たかのような絶叫を上げ、崩れ落ちた。
静寂。
「やったぁ! 勝ちましたね! わたしのおかげだぁ!」
「いや、私のケアーる(麻痺)が効いたのでは?」
「いやいや、詠唱の速さならアタシが──」
……勝因は、どれでもなかった。
この地獄で生き抜くために鍛えられた、俺の肉体と精神力。そして、ランジェの「すごーい!」という名の、無自覚なドーピング。ただ、それだけのこと。
ダンジョンを出た後。仲間たちは無傷で、俺だけが瀕死。
ランジェが駆け寄ってきて、心底から感激した満面の笑みで言った。
「すごーい! ボケ太さんって、もう伝説級の勇者だよ! 私たちを守ってくれてありがとう!」
……俺は、ただ吐き気をこらえていた。
英雄? 伝説? そんなものになりたくて、転生したんじゃない。
ただ、普通に回復してほしかっただけだ。
それでも俺は、今日も剣を取る。
狂った回復魔法に殺される前に、魔物を全て叩き潰すため。
地獄パーティーとともに、明日もまた、理不尽な戦場へ赴く。
次回予告
次回、『毒の詠唱は仲間に向けて』
ボケ太、ついに対回復魔法耐性を覚える!?
そしてヒロインの「すごーい!」は、さらにボケ太を追い詰める方向へ進化する──!
作者「しねーーーよ! もう二度と書くか!勝手に動き回りやがって!」
─おすまい─




