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フォレストの洋館

作者: ヒロ

 ぱっと目が覚めた。斜め上のカーテンからは溢れ日がはいっている。僕は体を起こし、一気に開くと日の眩しさに目を細めた。


 アラームは7時半にセットしていたが、それよりも早く目が覚めた、もう少し寝ていたい、急いでスマートフォンのアラームをオフにし、もう一度横になって目を閉じる。

 しばらくして、リビングへ向かい電動ポットのスイッチを押すと洗面台へ向かい手入れをあらかた済ます。

 また、リビングに向かいレトルトの味噌汁をつくり啜ると機械汁のような風味に少し憂鬱な気持ちになる。「はぁ」とため息をつき、飲み干したのちスマホで天気予報をチェックする。今日は夕方から曇るようだが雨は降らないようだ。

 軽く歯を磨き、志度をする。黒いリュックに折り畳み傘を詰める。


 いつもなら駅の方へ向かうのだが、今日はなぜか反対方向へ歩いてみることにした。特に理由はない。空はわずかに霧がかかっていて、善し悪しを判断する気力も湧かない。ただ、そんな空の下を歩く。


 とりあえず、少し先にあるコンビニまで行こうと思った。道沿いには、ところどころに住宅が点在している。特別なものは何もない、ただの、どこにでもあるような道。


 歩いていると、小さな鳥居の祠が目に入った。どうということのない古びた佇まいだったが、何となく立ち止まってしまう。「せっかくだから」と、自分に言い訳のように言い聞かせ、鳥居の前で一礼し、祠の前で手を合わせた。


――ありがとうございます。


心の中で、そうつぶやいた。感謝なのか、赦しを乞うようなものなのか、自分でもよくわからない。ただ、その言葉だけが自然に浮かんだ。


祠の脇に細い道が見えた。不思議と体が引かれるように、そちらへ足が向かう。頭はぼんやりしたまま、足だけが勝手に進んでいた。


 その道には、百日紅さるすべりの木が並んでいた、淡い薄紅色の花が風に揺れ、こちらを誘惑するように咲いている。吸い寄せられるように前進した。


…気がつくと、さっきまでの色彩は消えていた。


 そこには、まるでクリスマスツリーのような大樹の連なる濃密な森に変わっていた。整然と並ぶその姿は、まるで誰かの意思で作られたかのようだ。


 そして、目の先には時に忘れ去られたかのような古びた洋館が建っている。赤茶けたレンガの肌に漆黒の魔女のような帽子を被っている。


 僕は扉の前に立ち、ゆっくりと開けた。ギィーっと軋み、驚くほど素直に開いた。モスグリーンのテーブルクロスの掛かった机の上に、1冊の分厚い本が置いてある。

 最初の(ページ)は白紙、次も白紙。


ーーどういうことだろう。


気になって、最後までめくったが白紙だった。


僕は静かに本を閉じた。


館には心臓の乾いた音が響いた。



 


 

 

 


 



 





 

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