戦略
会社の寮にも平等に日がさしていく。日はどんな人間にも平等にさしていく。そして1人成績のことを気にする我が社の社員にも平等に。
「朝か。」
彼は備品開発部のオフィスから何かを調達した様子だった。スーツケースに必要最低限の荷物をまとめイザベラの車にそれを乗せた。
「また君と任務か。」
「今度はノースカロライナ州の会場よ。」
「専用のヘリコプターがあるのに何でそれを使わないんだ?」
「新人との任務での移動は基本的に車よ。距離によっては一緒に空港まで行って飛行機乗るけど。新人との合同任務は基本的に海外ではやらないの。アメリカ国内よ。」
車を何時間も走らせる。
「また会場についたらプレイヤー集めよ。」
ジェイはスタンガンを当てようとした。
「何してるの?私と戦うならあとよ。特訓はいつでも付き合うから。」
ジェイはしばらく無言のままだった。
「会場についたわ。」
「この会場も立派な会場だな。」
「ここが建てられたのは…」
「イザベラ!!イザベラ!!」
イザベラは突然電気が全身に走って倒れてしまった。
「イザベラ、しっかりしろ。」
彼は彼女の名前を呼び続けたが彼女は何も反応がなかった。電気耐性があるはずなのに何故か彼女は倒れてしまった。我が社の社員は電気術の習得の時に攻撃だけではなく電気に対する防御の訓練もする。これくらいの電気で倒れるはずがない。
「イザベラ!イザベラ…はは…」
ジェイは少し笑った。
「俺の思うようになってくれた。」
ジェイは彼女の靴に電気装置を入れていた。彼が持っている連動ボタンを押せば電気が流れる仕組みだ。しかしその程度のものでは倒れないはずだ。
「これから会場に入るか。」
ジェイは彼女をかついで、真っ白な部屋に入れて出れないように頑丈に施錠した。その部屋にはモニターしかない。
「ここはいったい…ジェイ!あんたどこにいるの!あの時の電気でなんで私が…と言うことはジェイも別の部屋に閉じ込めれたんだわ。」
彼女は部屋を出ようとしてもドアが全く反応しなかった。
「いったいどう言うこと?何が目的で私のことを閉じ込めてるわけ?騒いでも出れるわけないわね。他の手段を探すわ。」
すると部屋にあるモニターが勝手に起動した。
「あんたがなんで!」
モニターに映っていたのはジェイだった。
「ジェイ、あんたどう言うつもりなの?はやくここから出しなさい。」
ジェイは口を開いた。
「俺が君を軟禁した。君は察しが良いね。流石採用担当をやるだけあるよ。」
「こんなことをしたらクビじゃすまないわよ。私を解放した方があんたの身のためよ。」
「そうですね。確かにそうかもしれません。」
「分かってるなら何故そんなことするわけ?」
「この会社は実力主義を重視してますよね?」
「そうよ。経歴よりも現場でどれくらい実力を出せるかよ。」
「結果を出してしまえば君を軟禁しても問題ない。それにケイジとクリスティーナは1人任務。俺は奴らと対等に戦いたい。だからあんたを軟禁したんだ。」
「やって良いこと悪いことがあるのよ。」
「それは十分分かってる。でも君は言っただろう。この会社には驚くべきことがたくさんあるって。だから俺は驚くべきことを起こしたんだ。」
「あんた1人でやるなんてめちゃくちゃよ。はやくここから出しなさい。」
「無理だ。一度決めたことは変えない。安心しろ。人道的に君のことを軟禁する。決して上司をプレイヤーと同じような虫けらとして扱わない。ちゃんとした食事は用意するしあんたのいる部屋は酸素が確保されてる。それに水も飲みたい時に飲める。好きなワインやカクテルだって用意できる。寝たい時にはそっちに寝具を設置することもできる。悪くないだろ?他に何かリクエストあるか?用意して欲しいものは何でもそろえる。」
「あんたの意思はよく分かったわ。大人しくここはあんたに軟禁されてく。だけど今回の企画書に書いてあるゲームの構成とか理解しきってないでしょ。それに機械の操作もまだ私がいないと危ないところがあるけどあんた一人で本当に大丈夫?」
「君が書いた企画書は素晴らしいものだけど、俺は俺で新しくゲームを作ったんだ。」
「いつの間にそんなこと。」
「あの結果が出た日から寝る間も惜しんでずっと企画書をねったり、機械の操作の仕方を復讐した。それにあんたに衝撃を与えた電流は備品開発部が発明した機械の電流。」
「備品開発部とちゃんと交渉もできるようになったのね。」
「その電流は地球から少し離れた星の電流。地球の電流とは違うものだから俺達が制御できる電流ではない。まさか備品開発部の不良品がこんなところで役に立つとはな。」
「スタンガンで私を狙う時から何かおかしいと思ってたわ。」
「プレイヤー集めも俺のやり方で集める。」
「プレイヤー集めはプレイヤーを直接確保しなければいけないのよ。」
「ルールがそうでも俺のやり方でもきっと大丈夫だ。」
「そう。あんたの好きなようにすれば良いわ。だけど結果はちゃんと出すのよ。」
「心配いらない。ケイジとクリスティーナより上の座を狙うならアクションを起こしたほうが良い。」
「どうなることか楽しみね。」
一方、彼女の同期のセレナ・アスカムは彼女に何度も電話をかけていた。
「おかしいわ。電話にすぐ出るイザベラが全く音信不通になるなんておかしいわ。現場で何か起きたのかしら?」
特に急用ではないが彼女はイザベラのことで気がかりになっていた。
「ねえ、イザベラはどの会場にいるか分かる?」
「知らないな。これから任務があるから話してる時間ない。」
「変ね。」
セレナの他にも彼女に用事があって電話した人が異変を感じた。
「もしもし、変身遅れてごめん。この前言ってたデータを送るわ。」
「ありがとう。」
電話がきれる。
「これは便利だ。」
ジェイが使ったのは備品開発部から借りたAIだ。どんな人物にも変身する高性能なAIだ。
「いよいよ時間か。」
ジェイはゲーム会場付近のパーティー会場に言った。会社とは全く関係のない施設だ。
「まず一人目は逃亡犯のウィル・ムーアだ。」
彼はウィルの番号に電話をかける。
「もしもし、母さんよ。」
「母さん!何でだ!どうして電話なんて。」
「理由は何でも良いの。今どこにいるか分からないけど母さんが今から言うところに来て!殺されそうなの。」
「何だか分からないが行くよ。今から住所を教えて。」
彼は通話を終わらせる。ウィルの母親の声はシステム部に依頼したAIを使って再現した。
「次はリック・ウィザースプーン。こいつは刑務所から逃亡したやつか。」
ジェイは彼に電話をかけた。
「数日前、メールしたアリシアよ。」
彼は数分間無言になった。
「あなたの出所をずっと待ってた。私もあなたが殺した女性達と同じように殺して欲しいの。」
「写真も中々悪くないな。それにビデオ通話でも悪くない顔だな。良いだろう。」
ビデオ通話ではジェイの顔を女性化して、声はウィルの母親の声を使った。
「リック・ウィザースプーン、案外単純だな。次はジョージ・クレモンズ。」
彼はジョージの履歴を見た。彼も過去に殺人を起こしたものだ。
「こいつにはこれだ。」
ジェイはジョージに偽のセックスパーティーの招待状を送った。
「参加費無料、高級なシャンパンも用意してる言えばついてくるはずだ。」
彼は数日間彼とも連絡を取っていた。
「次はスティーブン・ハンソンだ。」
スティーブンも同じく殺人犯だ。出所したが反省の様子が全く見られない男だ。
「こいつにはこれだな。」
同じ手口でスティーブンを誘い込もうとした。
「次はザック・マグワイアだ。」
彼は殺人じゃなくても、特定の人を傷つける行為をしている。法では裁けない人間だ。
「こいつにはこれだな。」
偽の愛国者の為の集会のフライヤーを送った。内容は移民排斥をうたったものだ。
「次はこいつだ。」
次のターゲットはロバート・バイロン。彼は差別的な言動や暴行を行っているがまだ法の裁きを受けていない。ジェイは彼にアジア人暴行パーティーと言う偽の招待状を送った。
「次はディーン・スターキーだ。」
彼は過去に殺人を起こしたものだ。
「こいつにはこれだな。」
彼には死人と会えるセミナーを行うと嘘をついて会場に誘い込んだ。
「次はジャクソン・ストレイス。」
彼は過去に犯罪を犯し、今もまた同じような犯罪を犯している。
「もしもし、犬が欲しいとメールしたマックスです。」
「あんたかうちのところまで来てくれ。」
ジャクソンを何度も誘い込もうとしたが何度も同じ住所に誘い込まれた。
「ちくしょう。こいつは上手くいかないか。最後はサーマン・ゴンザレスか。」
サーマン・ゴンザレスは音楽プロデューサー。過去にたくさんの暴行事件を起こしてたくさんの被害者にトラウマを与えた人物。今もまだ容疑を否認している。
「こいつにはこれだな。」
男子児童の面倒を見てくれるかと言う嘘の依頼をした。
「これで全員か。」
会場にどんどんプレイヤーが集まる。
「お前ら誰だ?パーティーは?」
「私は死んだ母親に会えるセミナーに参加したつもりだ。」
「俺はアジア人暴行パーティーだ。」
プレイヤー達が騒ぐ中、モニターにジェイが映る。
「パーティー?そんなもの最初から嘘だ。お前らをここにおびき寄せる為だ。意外と簡単に騙せたな。おかげで助かった。」
彼らは出口に出ようとした。
「駄目だ。どんな力技を使ってもここから出ることは不可能だ。これからお前らにマジックショーを見せてやる。」
「俺達をどう言う目的でここで集めたんだ!」
ジェイは黙ったまま画面から消える。
「ちくしょう!」
すると部屋から不思議な煙が流れ込む。紫色の煙だ。
「何だか眠くなった。」
プレイヤー達はどんどん寝て床に倒れてしまった。
「これで車に積むだけだな。あと来てないのはスティーブン・ハンソンとジャクソン・ストレイス。」
彼は寝たプレイヤー達を車に積んで会場まで運んだ。そしてゲーム会場に彼らは寝かせられた。
ジェイはジャクソンの家まで言った。一軒家にはものすごい数の犬や猫の鳴き声がした。
「犬を見に来たマックスです。」
ジャクソンが扉を開けるとすぐに電気で彼を気絶させた。
「ジャクソン・ストレイス、捕獲完了。あとはハンソンだ。」
位置情報ツールを頼りに彼はスティーブンのところまで行った。
「動くな!」
彼はスティーブンの隙をついて彼の頭に銃口を向けた。そしてスタンガンを当てて彼を気絶させた。
「スティーブン・ハンソン、捕獲完了だ。」
彼はスティーブンを車のトランクに入れた。もちろんジャクソンを気絶している状態だった。
「全員確保だ。」
全員をゲーム会場に入れた。
「イザベラ、今日は全員プレイヤーを確保した。」
「あんただけで良くやったわね。だけどあんた一人でゲームの運営は務まるのかしら?」
「何度も言うが俺は何も考えなしでこんな行動を取っているわけではない。こんなことをして業績が残せなければ左遷される未来があるのは十分に分かってる。それくらいの覚悟はできてる。」
「あんたの覚悟は薄っぺらいもんじゃないのね。面白いわ。あんたはどんなゲームを企画するつもりなのかしら?」
「それは見てからの楽しみだ。理不尽なゲームをたくさん開発した。」
「そう。楽しみにしてるわ。」
「一つあんたに伝えることがある。」
「あんたが報告することって珍しいわね。プライベートなことかしら?」
「俺は会社の人間にもプライベートのことは話すつもりはない。」
「そう。それで話って何なのかしら?」
「プレイヤー集めは従来のやり方と違うやり方で集めた。今までやり方はとても原始的だ。」
「入社1年目はそういうやり方をするのよ。」
「そう言うルールと違うやり方だ。プレイヤー達を一つの会場に集めるやり方でやったんだ。」
「そのアイデアは悪くないわ。」
「それに一部のプレイヤーは一人で誘拐した。」
プレイヤーの集め方は相変わらず誘拐するやり方だ。犯罪者や前科のある者を裁くなら犯罪になろうがいとわない。それが我々の会社のやり方だ。
「あんたも少しはここの社員らしくなったわね。」
「これからだ。これからは俺の成績の見どころだ。」
「自信があるようね。」
「気持ちだけでも強くいないとここのゲーム運営は乗り越えられない。それに今回も殺人犯のような救いようのない奴らだ。奴らを死なせずに更生させるのはかなり難しいことだ。」
「そう。ゲーム開始は明日よ。あんたの実力たくさん見せつけてやりな。」
「分かってる。」
そしていよいよゲーム開始日になった。
「プレイヤー諸君、これからゲームをはじめる!」
新たなゲームがはじまる。