苦難
「ジェイ、いよいよ成績発表だな。」
この時は誰が一番実力があるのかはまだ分からなかった。特に当時のケイジとジェイは10期生の中では自分のことをそんなに話さなかった。
「イザベラ、ここの成績は社長とゲーム推進部部長以外誰が決めてるんだ?」
「それは教えられない。」
彼女は答えた。
「知りたければそれなりの役職につけってことだな。」
「少なくとも私は誰かを採用する立場であって誰かを採点する権限はないわ。」
「俺はビリじゃなければ良いな。」
サミュエルは言った。
「成績なんて気にしなくても俺は俺だから。」
「それではゲーム推進部部長エンゾ・ベルモンドから10期生ゲーム推進部社員の上半期の成績を発表する。」
社員が全員彼に注目した。
「まず9位だ!」
「9位?10期生って10人いるよね?何で9位?1人今日で辞めたとか?」
「でもいつの年かそんなことあったの聞いたことあるぞ。」
「さあ分からないな。」
「9位はサミュエル・マルティネスだ。」
「嘘だ!ビリは俺かよ!」
「サミュエル。気にしないんじゃなかったのか?」
「流石にビリとは思わないだろ。しかも皆のいる前で成績発表とか正気か?」
「次頑張れよ。」
ティムがサミュエルに言った。
「次は8位の発表だ。何と8位になった者は今回2人いる。」
「どうせなら8位が良かったけどな。」
「8位、一人目はティム・ウィルソンだ。」
「よし、サミュエル、ビリは逃れたぞ!」
「ティム、俺の前で言うな!」
「何あいつら?意識低い。相手ならないわ。」
カミーユは2人を見ながらフエンに言った。
「もう1人だ。もう1人はジェイ・トンプソンだ。」
「俺とジェイ同じ順位だ。ジェイ、俺と同じでビリを逃れて良かったな。」
ジェイはティムを無視した。その後もずっと黙っている感じだった。
「ジェイ、8位なのね。あなたならもっといくと思ったのに。」
「あっそ。勝手に言えば良いさ。」
イザベラ意外とは話さず無言を貫いた。
「7位の発表だ。7位はフエン・ミラーだ。」
「フエン、残念だったわね。」
「もっといくと思ってた。」
「そうなると1位は私というところかな?」
カミーユは自信満々に言った。
「6位はリ・ビーリェンだ。」
「もしかして本当にカミーユが1位なのかも。」
フエンは言った。
「5位はクラウス・ノイマン。」
会議室は皆ゲーム推進部長と10期生に注目した。
「次は4位だ。4位はカイザー・フォンダだ。」
「そろそろトップスリーの発表だな。」
「すごいカミーユまだ名前呼ばれてないから本当に1位かもしれないわ。」
「クリスティーナ残ったな。」
「当たり前よ。私はあんた達とはレベルが違うの。」
「ムカつかくな。でもそうだな。」
「いよいよベスト3の発表だ。まず3位は…」
「3位はきっとあの女ね。」
イザベラは呟いた。
「カミーユ・ベンシャトリだ。」
「私が3位か。ケイジとクリスティーナの方が上だなんて。」
「カミーユ、あんたベスト3に入るだけすごいじゃん。」
「フエン、これくらい大したことないのよ。」
「プライドが高いやつだな。」
「そうだな。」
「カミーユ・ベンシャトリ、ベスト3に入るのは予想通りだったわね。頭の回転の速さとどんなゲームも瞬時にのみ込む力は中々のものよ。」
イザベラが言った。
「次は2位と1位だ。」
「1位は誰だ?」
「クリスティーナか?ケイジか?」
社員達は誰が1位になるのか予想がつかなかった。
「まず2位だ。2位は…」
「2位はケイジか?クリスティーナか?」
「俺はケイジだと思うな。」
「俺はクリスティーナの方だな。」
2人の直属の上司のベンは2人のことを静かに見ていた。
「2位はクリスティーナ・ブラウンだ。」
「クリスティーナ、惜しかったわね。」
イザベラが彼女に言った。
「1位はケイジ・パーカーだ。」
「ケイジおめでとう!」
サミュエルとティムが大声で言った。
「ケイジおめでとう!」
「良くやったな。」
「予想通りの結果だ。」
ベンがケイジの肩に手を置いた。その様子をジェイはじっと見ていた。
「ケイジ、次はあんたには負けないわ!」
「クリスティーナが俺を超えられるかな?」
彼は彼女に微笑んだ。
「あんたの笑った顔はじめて見るわ。」
「そうか?」
「うん。何と言うか気味の悪い感じね。」
「とにかくお前ら2人ともトップ3に入るなんて中々やるな。俺が上司だからだな。」
「お前がいなくても同じ結果だ。」
「お前らしいな。その強がってるような態度。」
「強がる?思ってることをそのまま言っただけだ。虚栄でもなんでもない。」
「とにかく次はあんたに勝つからね!」
「良いだろう。受けて立ってやろう。」
「ベンのやつの実力なのか新人の実力なのか?」
「どっちもよ。」
「私達も負けてられないわ。ジェイ。」
そして彼女は化粧室に行った。
「イザベラ、お前の部下が5位以内とは異例の事態だな。巻き返す手はあるのか?」
同期の部長エンゾ・ベルモンドが聞いた。
「お前が採用したやつなんだろ?それに自分からジェイ・トンプソンを選んだ。何が狙いなんだ?お前らしくない。」
「あのタイプの経歴を見たら他の10期生とは明らかに違う点があるの。」
「それが今回のこととどう関係あるんだ?」
「例えばあんたは人生で何度か成功した経験はあるでしょ?」
「人間生きてれば成功や失敗もある。この会社に入ってからだとゲーム推進部長になったのが成功と言っても良いな。」
「私も採用担当になれたのが成功よ。だけど彼の経歴をみる限り他の同期が感じたような成功があまり見られないの。もちろん成功しても闇と直面した人物もいたけど、この会社に入って彼にすぐ成功を味あわせたら自分の能力に過信すると思うの。だから私がわざと成功を味あわせないようにしたの。特に何度も挫折して結局生きたくない生き方をした人間だからなおさらそうね。」
「そんなことよく考えたもんだな。だけど彼がそうなる可能性があるのか?確証はできるのか?」
「私の目は誤魔化せないわ。」
「そうだと良いけどな。とにかく頑張れよ。」
その2人の会話をジェイは見ていた。
「イザベラ!」
ダニエルとベンがイザベラに近づいた。
「部下が2人ともベスト3に入った。」
「初任務にしては良くやったわね。おめでとう。」
「今回ので会社の待遇は良くなるな。」
「そうね。」
ベンはこれを機に自分用のヘリコプターが支給されたり寮の部屋もより高級な部屋が割り当てられたり、食品の割り引きが利くなどたくさんの特権を与えられた。
「羨ましくて憎たらしいな。俺もお前みたいに昇給したいもんだな。」
ダニエルはベンのことを叩いた。
「どうせなら可愛い子ちゃんとたくさん遊べる特権もあると良いけどな。」
「くだらない。」
イザベラはため息をついた。
「残念だけどここには社員専用風俗なんてないのよ。性欲をどうにかしたいならAV見るなり、バレないようにデリ嬢でも連れて行くことね。セクハラ行為して給料減給かクビにならないように気をつけな。」
彼女は彼に笑いながら言いかけた。
「女好きなお前だから不祥事でも起こさないと良いけどな。」
「人間誰でも変態だろ。」
「お前がそんなこと言っても説得力がないんだよ。」
「私は用事があるからもう行くわ。」
「どこに行くんだ?」
「部下のところよ。後であんたと話があるから。」
「俺か?」
「あんた以外誰がいるの?ベン、とにかくよろしく。」
そう言って彼女はその場を去った。
「そう言えば、お前の2人の部下はどうなるんだ?」
「それを後でイザベラと話すんだ。」
イザベラはジェイのもとに来た。
「今回は残念だったわね。あんたの上半期の結果を見てまだあんたのことは独り立ちはできないわ。」
「そんなの分かってる。」
「私は分かってるのよ。あんたケイジとクリスティーナや他の同期を見て焦りを感じてるんでしょ。」
「それはない。」
「私の前では強がる必要ないのよ。今後どうするかよく考えることよ。上司としてできることはちゃんとやるつもり。」
ジェイは黙ったままだった。
「今日は明日のためにコンディションを整えなさい。」
イザベラはまたベンのところに言った。
「ベンとアミール、あんた達の部下のことで話すわ。」
「分かった。」
「まずケイジとクリスティーナは文句なしで明日からひとり立ちさせて大丈夫よ。」
「俺も同意見だ。その方が会社としても好都合だろ。」
「カミーユはまだひとり立ちはまだ早い。下半期はまだ共同任務じゃないと駄目だ。」
「そうね。クリスティーナと差がついてるのは明確ね。カミーユはまだひとり立ちさせられないわ。」
「俺から見てもまだはやい。」
3人の話し合いは終わった。
「社長。」
彼女は社長室に入った。
「採用担当のイザベラ・キャンベラです。」
「その名前は何度聞いて耳にタコができたわ。それで今日は何の話かしら?」
「10期生ですが今回の結果でケイジ・パーカーとクリスティーナ・ブラウンの2名が明日以降単独任務することになりました。」
「10人いてまだ2人ね。もう少し単独任務する社員がいても良かったけど今年もこんなもんね。」
「それとゲーム推進部長エンゾ・ベルモンドとも話しました。ケイジ・パーカーのスキル欄に日本語も入ってました。だから次の任務でケイジ・パーカーに日本任務決定しました。」
「やっと我が社初の日本で営業ね。」
東京会場で任務が行われるのはケイジの時で初めてのことだ。東京会場ができたのは9期生が入社した時だった。
「アジア圏の会場いくつか設けてるけど、まだ中国と台湾でしかゲームをしたことなかったわね。良いわ。ケイジ・パーカーの日本任務のことはすぐにベンに伝えといて。」
ジェイは寮のラウンジで飲んでいた。するとケイジとクリスティーナが来た。
「あんたこんなところで飲んでたのね。」
「今日の結果を気にしてるのか?」
「ケイジとクリスティーナには関係ないことだ。」
「そう。それならこれ以上この話はしないけど、ケイジは来週から初の日本での任務よ。」
「半年で海外任務だと!?」
「ベンから言われたんだ。これはまた面倒くさいことになりそうだけどな。」
「私が1位なら私も海外任務にもなると思ったけど。」
「日本での勤務は会社創立史上はじめてのことだ。」
ジェイのお酒を飲むスピードはあがる。
「もう一杯だ。ウイスキーロックで。」
「ケイジ、浮かれてるのも今のうちよ。」
「浮かれてない。予想が当たっただけだ。」
「下半期は私が勝つんだから!私が1位の座を狙うのよ。」
クリスティーナはケイジしか目に入ってなかった。あとの同期のことは相手にならないと思っていた。
「クリスティーナ、あんたに1位の座を取れるのかしら?」
「カミーユ。」
カミーユがクリスティーナの隣に座った。
「どう言う意味かしら?」
「ちゃんと言わないと分からない?あんたは次の勝負では私に勝てないって。」
「ずいぶんプライドが高くて自信家なのね。あんたのこと嫌いじゃないわ。だけどそう言うことはちゃんと結果を残してから行った言ったほうが良いわ。」
「俺は次はビリさえ逃れられれば良いな。」
サミュエルが話に入った。
「お前いつの間に来たんだよ。」
「あんたはもっと頑張らないと駄目よ。それにジェイも成績的にかなり不味いわ。」
「そんなにヤバいことなのか?」
サミュエルがクリスティーナに聞いた。
「当たり前じゃないの。成績が悪すぎる社員は他部署に異動させられるのよ。情報部とかならまだ良いけど最悪名も無い給料の低い部署に左遷させられるのよ。」
「え!?そうなのか。あくまでそれって噂だろ。真に受けないからな。」
「本当のことだ。情報部から手に入れたデータだと過去に5期生の1人が給料の低い部署に左遷させられたんだ。」
ケイジは彼に言った。ジェイは冷や汗を少しかいた。
「マジかよ。ジェイ、俺達異動させられないように頑張ろうぜ。それとこの後ティムにそのこと伝えに行こうぜ。」
「断る。お前と仲良しこよしする為にこの会社に入ったわけじゃない。俺は一人でも行動できる。お前の手は借りるつもりじゃない。」
「ジェイ、そんな強がるな。同じ同期だろ。それに俺達ライバルでもあるだろ。」
「俺はもう部屋で寝る。」
「好きにしろ。」
サミュエルのことを見ることもなく彼は部屋に戻った。
「ケイジ・パーカー…お前が1位か。お前は何者なんだ。」
彼はケイジの写真と知る限りの情報を見ながらひたすら次の任務のことを考えていた。
「次の任務で上位に食い込むにはどうすれば良いか。教育係を変える?それはできない。」
彼は思いついたことをどんどん白紙の紙に書き出す。
「それならケイジ・パーカーとクリスティーナ・ブラウンを抜かす勢いじゃないと勝てる見込みはないな。奴らは俺と違って次から単独任務。俺はまだ上司と合同任務か。こうなるとはな。」
ジェイは考えてるうちに眠りについた。