新入社員
今年は20人と多くの新入社員が入社して来た。
「ケイジ、採用担当としては今後人員を増やす予定か?」
ジェイがケイジに聞いた。
「年々我々の組織の応募者は増えてる。ゲーム推進部長と話して採用枠を増やしてもらうつもりだ。」
「次は俺も採用担当か?」
「どうだかな。」
「これからお前の教育係になるジェイ・トンプソンだ。ゲーム推進部10期生だ。よろしく。」
「俺はデイブ・ハリス。知っての通り13期生だ。よろしくな。」
2人は握手をした。
「話は聞いてる。元子役か。平凡な生活に飽き飽きとしてるようだな。」
「子役を辞めてから俺の人生は平凡そのものだ。何でもかんでも人並みの人生だから。刺激を求めにここに来た。」
「一つ言うがここの会社に合格できるやつは平凡なやつはいない。悪趣味な連中の集まりだ。」
「平凡な俺はつとまらない仕事だと?」
「深く考えるな。辞めたければいつでもこの会社は辞められる。平凡じゃない人生はそう楽しいもんじゃない。平凡は成功もしなければ大きな失敗もしない。」
「俺と違って波乱万丈な人生か?それともどん底の連続の人生か?」
「俺のことを知りたければ自分で調べろ。俺の口からは話すつもりはない。」
「この感じは平凡な人生じゃないのか。闇を抱えた人生か。」
「これから俺がこの会社の案内をする。ここが会議室だ。」
「広いところだな。」
「年に数回他部署と合同の会議や臨時会議がここで行われる。現場にいない時は会議室で直接会議をする。」
ジェイは私達の会社の施設を紹介した。
「ここはトレーニングジムだ。そして隣が銃術室、その隣が弓道場、その隣がバトルルームだ。」
「色々あるんだな。」
「次行くぞ。」
「もしかしてこの会社何かトラップでも仕掛けてあるのか?」
デイブは興味津々だった。
「そんなことはしない。会社の施設はゲーム推進部だけのものじゃないからな。」
2人は他の所に移動した。
「ここは情報部の部屋だ。研修でも紹介があっただろうが俺からも説明する。情報部はこの会社の社員やこれから俺達が受け持つプレイヤー達の情報を管理してる。」
「もしかして受け持つプレイヤーの住所とかも分かるのか?」
「当たり前だ。住所だけじゃなくて、個人番号、出生地、学歴、職歴、病歴、犯罪歴、クレジットカードの情報、口座情報、パスワード、家族構成、身長、体重、経済状況、特技、SNSのアカウントなど情報部にかかれば全てが分かる。毎日プレイヤーになるものの情報を色んな手をつかって彼らは調べてる。」
「尋常じゃない事をしてるんだな。と言うことは鍵をかけてるアカウントでも見れるということか。」
「情報部の情報は確実だ。すごいスピードで更新する。頭脳派集団とも言っても良いな。」
「それで情報部はどうやって情報を入手してるんだ?もしかしてこれも情報部の守秘義務って言うやつか?」
「そうだ。奴らは自分達の仕事内容を他の部署の人間に話すことはない。話すとしたら社長や幹部くらいだろうな。」
「ジェイ、ちょうど良い所にいたわ。頼んだ人の情報調べて置いたわ。」
「ありがとう。お金は後で振り込む。」
2人は情報部の部屋を離れた。
「あんな広い部屋使ってるのか。」
「次は会計部だ。情報部のオフィスと比べれば狭い所だ。それに人数もそんなにいない。」
また違う部署に行く。
「ここはシステム部のオフィスだ。」
「システム部は何をやってるんだ?」
「我々の会社は色んなところに拠点を置いてる。各会場の機械のシステムを遠隔操作で管理してる。もし現場で不具合があればシステム部と電話する。ゲーム推進部だけじゃゲーム運営は成り立たない。」
「君達、ゲーム推進部の社員か?」
「そうだ。」
「俺はシステム部の部長のロバート・コウだ。」
2人はシステム部の部長と握手をした。
「次はここだ。備品開発部だ。」
「ものが多いな。」
「ここの部署では我々が現場で使う備品をたくさん管理してる。それと新しい画期的な備品をどんどん開発してる部署でもある。」
「お、ジェイじゃないか!何だか久しぶりだな。同じ部署じゃないから中々会わなくなったよな。」
「そうだな。」
「サミュエルの奴も情報部に異動させられたけどすぐに別の部署に異動されたな。」
「そんなこともあった。」
「隣がお前の受け持つ部下か?」
「そうだ。デイブだ。」
「元子役やってたデイブだ。よろしく。平凡な人生に飽きてここに来た。ここはとても刺激的だ。」
「面白いやつだな。気に入った。何か使い道具とかあればいつでも俺に言って良いからな。」
2人は情報部のオフィスを出る。
「さっきのティムとはどう言う関係なんだ?昔からの知り合いか?」
「元々やつとは同じ部署だった。だけどゲーム推進部での成績が悪くてゲーム推進部長の判断で備品開発部に異動した。それからは直接関わる機会はかなり減ったが、現場でのやり取りではやつとよくすることが多いな。」
「成績次第でゲーム推進部を抜けないといけないのか?」
「この部署はそう甘い部署ではない。ただ成績が良ければ特別な仕事を特別な給料で任されることはある。それはお前の成果次第と言うところだな。次の部署に案内する。」
「次の部署って?うちにある部署は情報部、ゲーム推進部、会計部、システム部、備品開発部だけなのに何故?」
「表向きはそれらの部署がある。ホームページにもそうしか書いてない。だけど最後のゴミを掃除してくれる部署がある。これからそこに連れて行く。」
2人は移動して行く。
「お、ジェイが何でここにいるんだ?」
10期生のサミュエルが彼に声をかけた。
「新人にここの会社のことを紹介してるんだ。俺の直属の部下のデイブだ。」
デイブとサミュエルは握手をした。
「ここの部署は名前もない部署だ。」
オフィスの中に入る。
「ここは何かの工場か?」
「ここで問題だ。ここにいる労働者はどんなものか分かるか?」
「普通に考えればうちの会社の社員だろうな。」
「残念だが不正解だ。ここにいるのはこの会社で更生されられなかった元プレイヤー達が働いてる。」
「給料はどうなんだ?」
「給料?何言ってるだ?こいつらは死ぬまで無給で働く奴隷だ。更生出来なかった奴にはこうするしかない。」
「奴隷か。」
「デイブ、驚いてるのか?ここの会社では違法な手段を使ってまで世の中のゴミども裁いてくんだ。俺達はマフィアとかと同じような裏社会の人間だ。お前はここでそんな刺激を求めていたんだろ?」
「平凡じゃない。悪趣味だけど新鮮だ。」
「労働者の管理してるのはゲーム推進部や情報部から左遷された社員達だ。名も無い部署だからここ部署の社員は注目されることもない。給料も低いし更生の余地ゼロの手に着けられない奴らを管理するからゲーム推進部での仕事よりは面白くないだろうな。それに労働者を威嚇するのに常に大声で怒鳴るか何なりするから喉を痛める可能性もある。」
「威嚇ってまるで動物みたいじゃないか。」
「だがここの工場はまだ良いほうだ。もっと罪の重いものはこれより酷い労働させられる。」
「そもそもこの工場で作ってるのは?」
「ゲームで集められたプレイヤーには食事として味のない美味しくないパンを一人一人に支給しなければならない。このパンを作ってるのがこの工場だ。」
「元プレイヤーがゲーム会場にいるプレイヤーの為に奴隷となって働いてるってわけか。」
「そういう事だ。こいつらはゲーム会場にいるプレイヤー達の更生しなかった未来を描いたような存在だ。」
「まだどれくらいの悪を扱うのか分からないな。」
「他の製造ラインでは備品開発部が命令した備品を作ってる。パンを作ってる奴らよりも酷い労働だ。」
「何でだ?」
「備品開発部の発明した備品は労働者達にはそう簡単には作れない。だとするとどうするんだ?分かるか?」
「より優れた機械を使って生産する。」
「そう。正確に言うと労働者達を機械や「ロボット」にするんだ。ロボットの語源はチェコ語で強制労働と言う意味だ。つまり彼らの体内に製造マニュアル装置を挿入して意思に反して身体が製品を作るようにするんだ。たとえ休みたくても意に反して動き続けるんだ。こいつらは死ぬまで働いてもらう。」
「やってることが中々クレイジーだな。権利の剥奪もいとわないんだな。」
「それなら他にもクレイジーな労働現場を見せてやろう。」
彼らは下水処理場に行った。
「臭すぎる。」
「当たり前だ。だけどこの会社で出る下水はここで処理してる。ここの会社のテクノロジーでは下水を分解してリサイクルすることができるがあえてそうしない。更生出来なかった奴の「居場所」と言うものを作るためにな。」
「つまり下水処理の作業をここの労働者がやってると言うわけだな。」
「それと感染症にかからないように薬は投与してる。薬の副作用は出るだろうが。それと衣食住も一生この下水処理場で行う。」
デイブは吐いた。
「気持ち悪いことするな。」
「おい、番号4番、嘔吐物を今すぐ処理しろ。」
社員が労働者に命令した。
「特にここに左遷された社員は別室で監視してるが中々疲れる仕事だ。」
「ここには左遷されたくないな。」
「次に行くぞ。」
2人はあちこちの現場を視察した。
「最後はここだ。一番大変と言っても過言じゃない所だ。」
その現場には色んな動物がいた。
「ここは動物園か何かか?」
「ここにいる動物は全て人工知能だ。」
「よくできた人工知能だな。」
「ここではたくさんの動物を管理しなきゃいけない。ここではたくさんの人体実験が行われてる。例えばクマに追いかけまされた中読書はできるか検証したり、動物の力はどれくらい強いか再確認したりするためだけに労働者がいる。労働らしい労働ではないが実験台としては最適だ。」
「ここを抜け出そうとしたらどうなるんだ?」
「これよりもっと酷い罰がある。死ぬより酷い罰がある。何と言ってもここにいる奴らは一番重い罰に値する奴らだからな。」
「こんな誰が考えたんだ。」
「それに関しては俺にも分からない。少なくとも俺のいた時にはすでにあった。だがここの存在を知らない社員も普通にいる。俺が上司のかぎりはここのことを教える方針だ。これで館内の案内はこれで終了とする。急遽変更で俺のもとにもう1人部下がつく。お前の同期だ。」
彼らは移動した。
「私はイボンヌ・マッケンジーよ。イギリスから来たのよ。」
ミディアムヘアの赤毛の女性だ。
「これから2人の教育係をする。」
ジェイも新入社員の時とは違う。
「太一、今ゲーム中か?」
「そうだ。俺の受け持つプレイヤーは大企業の社長達だ。新しい取り組みを任されたからこの案件は何としても成功させる。それにこれは俺の使命だ。大企業の息子だった者として。それで新しい新人はどんな感じだ?」
「1人は平凡を抜け出そうとしてる自分に酔ってる部分があるな。もう1人はプライドめちゃくちゃ高くてこだわりの強いやつだ。」
「大変な新人を任されたんだ。」
「大変?そんなことどうでも良い。俺がそうしたかったから。採用担当にそう言ったんだ。2人新人を受け持ちたいとな。」
「これも昇進を狙うためなのか?」
「そうだ。俺にかかれば手に負えないような部下ではない。」
「流石だ。」
ジェイは電話を切った。
「待たせたな。これからゲーム会場に向かう。」
ジェイとデイブとイボンヌが向かうのはニューオリンズにあるゲーム会場だ。
「まずは館内のチェックだ。それが終わったらプレイヤーの招集を行う。」
3人は一通りの作業が終わり休憩する。
「ジェイ。」
「何だ?」
「ジェイが新人だった時どんな感じだったのか?」
デイブが聞いた。
「さあな。」
「これも教えないのか?」
「何度も言うが俺の過去を知りたいなら自分で知ることだ。分かったか?」
「あんた過去を知ろうとするなんて悪趣味よ。」
ジェイは話す2人に目を背けてぼんやりと自分が新人時代の時のことを思い出した。
「ジェイ・トンプソンの新人時代ね。今とはだいぶ違うわ。」
私はジェイの新人時代の写真を見ながら言った。そして私も彼と同じようにぼんやりとそのことを思い出していく。
時は3年前だ。その時はゲーム推進部には10人と多くの社員が入社した。特に特別すごいと言われる社員はその時はいなかった。特別な肩書きを持っている社員はいなかった。
「今年の新入社員は10人。新入社員を担当する社員のリストは?」
「社長、こちらです。8期生のトップ、ベンは初の直属の部下を持ちます。さらに2人の教育担当をします。ケイジ・パーカーとクリスティーナ・ブラウンの2人です。」
そして10期生は入社する。