ピッキング1
イザベルとジェイはまた話し合っていた。
「プレイヤー達の間でようやく協力というものが出てきたようね。ゲームの攻略法を掴んだプレイヤー達もいたんじゃないかしら?プレイヤー達それぞれの役割を果たしてるように見えたわね。」
「どうやらそのようだな。」
「ゲーム再開の時間よ。戻りなさい。」
「言われなくても分かってる。」
ジェイは操作室に戻った。
「結局黄金のリンゴを食べたのは誰だ?」
「あいつだよ!」
ザックはスティーブンを指さした。
「お前さえいなければ、俺はリンゴを食べれていた!」
ジョージがスティーブンの胸ぐらを掴んでいた。
「お前ら馬鹿か?ゲームマスターが黄金のリンゴを食べたものは特権を与えると言ってた。つまり俺はパワーを握ってることになる。それに俺の特権を奪うようになればそのぶんお前らのペナルティがかさむだけだ。それでも良いなら俺を殴って良い。」
「何だと?」
「じょうがないよな。暴力を振るうことしか頭がないんだよな?怒った勢いで大事な女房のことを殺したんだろ?自分の思い通りにならないから。ジョージ、お前は単細胞な猿と一緒だな。」
「何だと?こいつ殴らないと分からないようだな!」
「やめろ!」
ロバートが止めに入った。
「何するんだよ!」
「俺もこいつのことは気に食わない。だけどここでこいつを殴っても上手くはいかない。ゲームマスターの考えてることはよく分からんが、こいつに何かしてどんな理不尽な仕打ちをするか分からない。卑劣なのはゲームマスターのほうだ。そいつの為に俺達が争う必要はない。」
「どいつもこいつもうるさいな!お前から殴ってやろうか?」
ジョージはロバートに言った。
「俺は自分から意図的に誰かを殴るのはしない。」
「良い子になったのか?死ぬほど似合わないんだよ!」
「ロバートの奴、何か変わってないか?」
「あんなまともなこと言うやっだったか?」
プレイヤー達の間ではロバートの変化に驚くプレイヤーもいた。
「お取り込み中か?そうだとしても君達に報告することがある。もちろん何のことか分かってるよな?」
「黄金のリンゴのことだろ!それなら俺が食べた!」
スティーブンがにやけながら言った。
「ネタバレか。これだと報告の意味がないな。」
「ゲームマスター、これもペナルティか?」
「こんなことではペナルティは与えない。分かってるようだが俺の方から黄金のリンゴを食べたものを発表する。」
「どうせ分かってることなのにな。」
スティーブンが言った。
「それでは発表する。黄金のリンゴを食べたものは…」
全員ジェイの方を見る。
「どうせ俺だろ。」
「もう結果分かってることだけどな。」
ジェイは少し間をおいた。
「誰もいない!」
「は?」
「いや、俺達黄金のリンゴをあいつに食べられるの見たんだぞ!」
ザックが言った。
「何だ?この結果は?好都合だがどうなってるんだ?」
ウィルがいた。プレイヤー達は思わぬ結果になったので騒然としていた。
「確かにあいつが食べていたよな?」
「ゲームマスターの確認不足か?」
「ゲームマスター、おいどういうことだ!明らかに俺が黄金のリンゴを食べたんだぞ!この結果はおかしい!」
スティーブンは抗議をした。
「落ち着きたまえ。話は終わってない。これ以上暴れるようなら連帯責任として全員に罰を与えるが良いのか?」
ほとんどのプレイヤーがスティーブンを睨んだ。
「分かったよ!聞けば良いんだろ!」
彼はものすごい機嫌の悪い雰囲気だった。
「それでよろしい。スティーブン・ハンソン、君が食べたものは黄金のリンゴではなく、黄金の梨だ。」
「は?梨?どう見てもおかしいだろ。あのシルエットはリンゴだ!」
「ラ・フランスとかそう言うのを考えてるようだが、これはアジアの梨だ。」
「そんなのありかよ!」
「リンゴだと思い込んで梨までリンゴ味だと勘違いしたようだな。」
プレイヤー達は美味しくないパンだけを毎日食べる生活だから味覚が良い加減になるのも無理はない状態だった。
「それじゃあ、黄金のリンゴはどこにあったんだよ?」
「そんなもの最初からなかったんだよ。」
ジェイの笑い声が響く。
「何だよそれ!ゲームとして成立してないぞ。」
「確かに果物収穫をプレイ中に黄金のリンゴを食べたものは特権が与えられる。しかし必ず黄金のリンゴがあるとは言ってない。」
「それも俺達を騙して嘲笑うパフォーマンスだって言うのか?」
「賢いプレイヤーならもう俺の目的が何かってくらい分かってるだろ?確実性がないのに勝利を確信して残念だったな。スティーブン・ハンソン。」
「ふざけるな!お前がこんなことしなければ!」
「そう言えば君は奥さんが浮気してないのに疑って暴力を毎日のようにふっていたよな。疑い深い君なのに梨をリンゴと間違えるなんてそんなこともあるんだな。」
「あんな黄金の梨見れば誰でも間違えるだろ!」
「そう言うことか。自分の妻は疑って梨は疑わない。ようするに自分の都合の良いように判断したいだけなんだな。妻を殺したのも自分は浮気されたからと言うありもしない話を作って自分のした行為を正当化したいだけだろ。お前は自分の都合なら犯罪もいとわないと言うわけだ。」
スティーブンは無言になった。
「それでは第5ゲームに進む。第5ゲームはピッキングだ!」
「ピッキング?工場の仕事か。それなら簡単だな。」
ザックが言った。
「この中でピッキングが分からないプレイヤーもいるようだから説明する。ピッキングとは工場内で出荷の為に指定された商品を指令通りに集めることだ。」
「ピッキングなら俺に任せろ。」
ザックは自信満々に言った。
「だが君達が思ってるレベルのピッキングではない。」
「もしかしてトラップがあると言うのか?」
「5分ごとに棚の位置が大幅に変わる。まさに迷宮のような場所だ。棚の数は120台。それぞれ数字で表記されている。0001のように表記されてる。他に注意点がある。ステージ内には窃盗熊と言うモンスターがいる。やつらはピッキングしたアイテムを盗む。もし盗まれたら最初からやり直しだ。他に麻痺して2分間動けなくなるトラップがある。床にあるトラップだからくれぐれも踏まないように。説明は以上だ。」
「待った!質問がある!」
サーマンが手を挙げた。
「何だ?」
「そもそも俺達がピッキングしなきゃいけない件数はどれくらいなんだ?」
「良い質問だ。今からこれで決めてもらう。」
ルーレットが目の前に現れた。
「ルーレットで決める。5件、20件、34件、40件、60件、73件、80件、100件、120件だ。針がどれかしらに当たる。ルーレットを回すプレイヤーを選べ。」
プレイヤー達は話し合った。
「ここは俺が行く。」
ディーンがルーレットの所に来た。ルーレットは回りはじめた。
「どうか5件になれ。」
そう望んでいたのはディーンだけではなかった。
「来るぞ。」
回る速度はかなり遅くなった。そして針が止まった。
「君達がこなしてもらうピッキングの案件は100件だ!」
「100件だと!?」
プレイヤー達は動揺した。
「責めるならルーレットで良い数字を出せなかったディーンを責めるんだな。」
プレイヤー達は倉庫に移動した。
「第5ゲーム、スタートだ。まずは机にあるカードを引け!」
「これが俺達がピッキングするものか。」
棚番号と段数と商品番号が事細かく書かれていた。
「ピッキングが完了したら完了カートに商品と一緒にまとめて入れるように。」
彼らはカートを持って走りはじめた。
「0057だ。」
「棚が番号順に並んでなくて分かりにくい。」
彼らは倉庫内でかなり迷っていた。
「お、あそこにあった!」
ジョージは目的の棚を見つけた。
「あっ!もう5分経ったのかよ。」
「こっちもだ。あと少しだったのに。」
棚を見つけても移動してしまうことがあった。
「見つけた。何々?キャンディー300個だと?」
ジャクソンはゆっくりとキャンディーの数を数えた。
「全然進まない。」
膨大の数に苦戦をした。
「あっ、待ってくれ!」
棚がすぐに変わってしまった。
「ヤバい、窃盗熊だ。」
早速スティーブンは窃盗熊を見つけた。
「クソ、また棚が変わった。これじゃあ時間が足りない。」
「盗まれた!」
「やり直しだ。」
最初からやり直しになってしまった。
「ゲーム再開だ。」
「ゲームマスター、待ってくれ!作戦会議をする時間をくれ!」
「良いだろう。」
プレイヤーは集まった。
「このままだと勝てない。」
サーマンが言った。
「あのゲームをはやくこなす方法があるのか?」
「はやくこなす事を考えない方が良い。このゲームで一番厄介なのは窃盗熊だ。ピッキングするプレイヤーが多ければ多いほど狙われるリスクが高い。足の速い奴がピッキングした方が良い。」
「サーマンの言うこと一理ある。」
リックが言った。
「だけど残りのプレイヤーがめちゃくちゃ邪魔ではないか?」
「ピッキングしないやつらは戦うんだ。もしくはピッキングする奴らをトラップやモンスターから守るんだ。」
「サーマン、今日は名案を出すな。」
「水鉄砲は一つしかないが使ってくれ。」
ウィル、ロバート、サーマン、リックがカートを弾いて他のプレイヤー達は危険がないかよく確認することになった。ゲームは再開した。
「この商品よく見たら。」
一部のプレイヤーはピッキングするアイテムに何か違和感を感じていた。
「銃?」
彼らは何に使うか分からないアイテムを集め続ける。
「サーマン、さっきからうろちょろしてるやつは何だ?モンスターか?」
ザックが指をさして聞いた。
「あいつは俺達が悪さをしないか監視してるんだろうな。ここに集まらされたのは犯罪者だから無理もない。ゲームマスターも俺達が商品に傷をつけないか警戒してるんだろうな。」
「そうだ!それだ!」
彼は突然大声を出した。
「いきなりどうしたんだ?」
「ここにあるものでアイテムになりそうなものがあるだろ。それを盗んで使ってピッキングをはやく終わらせれば良いんだよ!」
「こう言う悪いことをする時だけは頭の回転が回るな。だけどこう言う話は大声でするもんじゃない。誰が聞いているか分からないからな。」
「良い作戦だろ!」
「今実行するのは自殺行為だ。倉庫内は監視が多すぎる。」
ウィルもピッキングをしていたが中々進まずにいた。
「このボタンは?」
彼は床に不思議なボタンを発見した。
「やめろ!罠かもしれないんだぞ!」
ディーンが言った。
「踏むしかないだろ!」
「やめろ!」
彼はボタンを踏んだ。すると棚が勝手に移動して。他の棚が見えた。
「このボタン棚を動かすだけのボタンか。と言うかあと1分で棚が変わるぞ。」
「ディーン、このボタンを踏みっぱなしにしろ。」
「これは!」
時間が経ってもその対象となる棚は固定されたままだった。
「このボタンはすごい役に立つようだな。」
ウィルはどんどんピッキングして行く。
「よし終わった。ボタンから離れても良い。」
ディーンがボタンから離れるとボタンが消えていった。
「どうやらこのボタンも5分間の間で移動するようだ。押さない限りはずっとこの調子だな。」
「わー!」
「何か叫び声が聞こえたな。」
ジョージとリックとスティーブンは窃盗熊と遭遇していた。
「こいつ手が伸びるのかよ!」
ジョージとスティーブンはリックの身代わりになっていた。
「リック、まだなのか?」
「指定された数が多いんだ!」
そして5分がすぎ棚は移動した。
「まだピッキング終わってないのに!逃げるぞ!」
「逃げるっていっても抜け道は一つしかないんだぞ。」
「お前らがやつの気をひいてくれ!」
「無茶言うな!」
「また手を伸ばしてくるぞ!」
「逃げろ!」
熊の手はカートのところにまで伸びた。
「離せ!」
「アイテムが!」
何とアイテムが盗まれてしまった。
「プレイヤー諸君、ゲームやり直しだ。30分間の休憩とする。」
「休憩時間をもっと欲しい。作戦会議の時間が欲しい。」
ジャクソンが言った。
「そんなに必要か?」
「良いから。」
「作戦会議?良いだろう。」
プレイヤー達は振り出しに戻ってしまった。
「流石に休憩時間30分だったら次のゲーム持たないぞ。ピッキングの件数が何件か分かっているのか?」
「それでどうするんだ?何か分かったことあるやつはいるか?」
リックが全員に聞いた。
「トラップじゃない。ボタンが床にあった。青いボタンだ。踏んでる間は5分過ぎてもその棚だけは移動することない。それに棚をどかすのにちょうど良いボタンだ。ボタンも5分後に移動するが踏んでる間は何もない。」
ディーンが言った。
「なるほど。」
「俺達がピッキングしてるものは中にはアイテムになるものもたくさんある。例えば煙玉なんて普通の倉庫では扱うことはないだろ。」
「言われてみればそうだな。まるで使ってくださいと言ってるようだな。」
「俺からアイデアがあるんだ。」
ザックが言った。
「次のゲームにも活かせそうだから倉庫の商品を奪おう。いやこのままアイテムを使って逃げても良いな。」
プレイヤー達の作戦会議は続いた。