楽器運送2
「あとどれくらいだ?」
「歩いて45分だ。」
ジョージが言った。
「あくまで楽器のない設定だ。グランドピアノなんて運んだらもっと時間がかかる。」
「ロバート、ちゃんと運んでくれ。」
「いや、何か引っかかってるんだよ。」
ピアノの足を見ると石が引っかかっていた。
「駄目だ。向きを変えるぞ。」
「世話のかかるグランドピアノだな。」
「そっちには岩がある。よく見ろ。」
ロバートは手前側を持っていた。
「後なんて確認できないだろ。」
「今度は何が引っかかったんだ?」
「石だ。」
「持ち上げるぞ。」
2人で持ち上げる。
「また止まるな。」
「これも石なんだよ。」
「どんだけ石があるんだよ。」
「この草原も中々恐ろしいものだな。」
ジェイはプレイヤー達の様子を監視していた。この草原も全てジェイが設定したものだ。
「こんなのが果てしなく続くなんてきりがない。休憩だ。」
3人は休憩した。
「誰か来ないか?」
すると1人のアジア系の男性が3人のもとに向かう。
「チッ、チャイナ野郎か。」
ロバートは男性のもとに近づいた。すると男性はいきなり火のついたたいまつを出してグランドピアノに火をつけた。
「このチンクが!テメー殺すぞ。」
男性を押し倒し何度も殴る。
「ロバート、やめろ!火を消すのが先だろ!」
「やめろ!」
「このチャイナ野郎をとっちないと気がすまないんだよ。」
火はどんどんグランドピアノをおおいつくす。
「ヤバいカバーが燃えつきるぞ。」
男性を殴り続けるロバート、それを止めるディーン、そしてジョージが必死に火を消そうと試みた。
「死ね!このチャイナ野郎!」
「落ち着け!ロバート。この男を殴っても何も解決なんてしないだろ。」
「チンク共に限っては殴っても良いんだよ。」
「チームCが楽器を破損させた為ゲームを最初からやり直しとする。」
ジェイの声が響いた。
「ロバート・バイロン。君は重大なミスをしたようだな。」
「俺は間違ったことはしてない。」
彼は大声で怒鳴る。他のチームのプレイヤーにもジェイの声は聞こえる。
「お前の中の正義なんてどうでも良いよ。正義と言うか欲望だろ。自分の都合の良いように世界を変えたいって言う。だけどここではその信念が不正解だったようだな。」
「ゲームマスター、どういうことだ。」
「この男性はお前が敵対意識を持たなければピアノを運んでくれる親切な男性だった。だけどお前の愚かな考えで恩恵を受けられないどころかゲームやり直しになってしまった。他のプレイヤーまで巻き込んで可哀想だな。」
「だからやめろと言ったのに!」
ジョージはロバートを殴り飛ばす。
「ジョージもやめろ!今は争っている場合じゃないだろ。」
「日頃の行いをもっと改めていればもう少しマシな結果になったのにな。残念だったな。次のセットは3時間後に再開する。」
ジェイが画面から消えた。
「お前何でこんな馬鹿なことしたんだ?お前の自己満さえなければゲームが順調に進んでたんだぞ。」
ジョージはロバートを責めた。
「お前ら頭を冷やせ。こんなくだらないことで争っても何も生み出されないだろ。」
「こいつが先に喧嘩を売ってきたんだ。」
「こいつがあのアジア人男を殴ったのがきっかけだ。それに何でお前は白人にはヘコヘコしていてアジア人にはそんな攻撃的なんだ?雑魚だな。」
「テメー、もう一遍言ってみろ。あいつらは俺達よりたくさんお金を持って高い学歴を望める未来が約束されている。世間でお金を稼いでるのはアジア人ばかりだろ。そんなのは不平等だ。だから少しは痛い目をみれば良いんだ。アジア人を片っ端から殴っても何も問題などない。殴ったところで気にかけるやつはそれが現実だ。」
「結局お前も下に見てるアジア人と同じ俺達白人の都合の良い駒だな。黒人を差別する白人には何もしないのにな。そう言うのが一番ダサいな。」
ディーンが言った。
「俺はあんなアジア連中なんかよりずっと上なんだ。それにお前のように子供を殺すような非道な人間じゃない。」
「それはもう聞いたセリフだから痛くもかゆくもない。だけど相手がアジア人の子供なら?俺には分かるお前は嫉妬で見下して人生を奪うこともいとわないだろ?お前も結局俺と同じサイドの人間。ゲームマスターからも世間からも見下されても仕方ない人間と言うことだ。」
ディーンら開き直っていた。
「話を聞かせて貰ったぞ。」
ジェイがジャージの持ってるタブレットの画面に出て来た。
「さらにゲームマスターから面白いことを教えてやろうか。ロバート・バイロン。君のようにアジア系を見下す黒人に白人達が何を望んでるか知ってるか?」
「何だよ。いきなり現れて。」
「白人優位な世の中にする為にはマイノリティー同士で争って貰えば良いんだよ。君はアジア人を貶めて上にたった気になってるが君も結局世の中の仕組みというものに利用された都合の良い駒の1人でしかない。君のような人が1人死のうが他の都合の良い争ってくれる駒がいれば悲しまない。それが社会と言うものだ。愚かに生きず現実を見ず常に下に見てる存在のせいにして本当に哀れな人間だね。せいぜいゲームで頑張るしかないね。」
ジェイが画面から消えた。ロバートは何も言い返せなかった。
「そういう事だ。ゲームマスターの言ったことが全てを物語っているな。お前は俺達サイドの負け犬の1人でしかないと言うことだ。」
ディーンはそう言ってロバートの隣に座った。
ジェイは事務作業も終わらせイザベルのもとに行った。
「あんたもよくプレイヤーの1人を分析することが出来たわね。褒めてあげるわ。」
「社員として当たり前の事をしたまでだ。」
「グランドピアノだけは中々ハードなコースね。あんたも私と似て鬼畜になったじゃないの。流石私の部下というところね。」
「そうでもない。他のチームの方にはたくさんのモンスターと過酷なトラップを用意してる。難易度はチームによって変えてるわけではない。大変さの種類を変えてるだけだ。」
「確かにグランドピアノのコースはトラップがないわね。モンスターもいないし。」
イザベルにご飯を与えた。
「毎回私に作ってるわけ?」
「簡単なものだけどな。洗い物は専属の奴隷がつければ効率的なんだけどな。」
「専属奴隷?私のランクでもそんなのいないわ。専属奴隷がいるのは社長とかゲーム推進部長クラスの人間よ。あんたまだそんなこと言ってられる成績なんてないでしょ。」
「それならそれくらい上り詰める。」
「それはどんな結果になるか楽しみね。今ケイジとクリスティーナが開発したゲームが話題になってるようね。」
「俺の話題は?」
「そんなものないわ。誰もあんたの話題を出してない。強いて言うなら私があんたの様子を見てると言うところね。」
「そうか。」
イザベルが食べ終わるとジェイは皿を食洗機に入れた。
プレイヤーは何セットかしてるうちにゲームの要領を少しずつつかんでいった。そして日が過ぎて第4セットになった。
「プレイヤー諸君、これから第4セットをはじめる。残念なお知らせだが第4セットで運送する楽器を変更する。」
プレイヤー達の前には楽器が出て来た。
「これ何だ?」
ザックが聞く。
「ジャンベだ。」
「ジャンベ?」
「アフリカの太鼓だ。」
ザックのチームはジャンベを運ぶ。
「ヴィオラだ。お前らは危ない持ち方をするから。俺が持つ。」
サーマンがヴィオラを持った。
「まず楽器本体そのままの運送は危険だ。トラップやモンスターの攻撃をくらったら即アウトだ。それほど繊細な楽器だ。」
音楽プロデューサーになる前に彼はヴァイオリンをやっていた。楽器の持ち方はプレイヤーの中で一番詳しい。
「何としてもケースを見つけないと不味い。」
「ウィル、この近くに倉庫はあるか?」
「歩いて15分のところだ。」
サーマン達はケースを探しに行った。
「またデカい楽器かよ。しかも増えてるじゃないか。」
ロバートが言った。
「これはコンサートチャイムとウィンドチャイムだ。」
ディーンがタブレットを見て言った。
「ウィンドチャイムは備品が取れやすいから運送時は注意するようにだって。」
「コンサートチャイムは俺が持つ。」
「倒れやすいから気をつけろ!」
「ジョージ、ウィンドチャイムを持ってくれ。」
しばらく歩いてると石にぶつかる。
「流石にチャイムがこの道通るのは無理だ。暇なお前が石をどかしてくれ。」
ロバートはディーンに言った。
「暇は余計だ。」
彼は石をどかす。
「こんな時にホウキがあれば良いけどな。ジョージ、お前も手伝ってくれ。」
「借りを作ったな。」
ジョージも渋々と石を拾い続ける。
「何かこの階段全然進ないな。」
ザックのチームは階段があるルートを通った。
「待て!これエスカレーターを逆走してる!」
ジャクソンが言った。
「もっと急速させるか。」
ジェイは階段をエスカレーターにして速度を少し上げた。さらにたくさんのボールを階段に転がした。
「危ない!」
「ボールだ。」
ザック達は必死になって階段を登った。
「私が教えてない操作もいつの間にかこなすようになったのね。今度はどんなトラップかしら。」
別室でジェイの様子をイザベルは見ていた。
「危ない!」
スティーブンは泥を踏んで泥がサーマンの方に飛ぶ。
「このヴィオラが汚れたらどうするんだ!」
「わざとじゃない。そんなに怒るな。」
「何か来るぞ。」
ウィルが異変に気がつく。
「何だあれは!」
泥まみれの謎なモンスターが姿を見せた。
「クソ!こんな時に。」
走って行くと。前にコウモリが数匹飛んでいた。
「囲まれた。」
泥のモンスターは口から泥のビームを出す。
「ウォーターガンであいつを倒すんだ。」
第1セットで入手したウォーターガンで泥のモンスターを攻撃する。
「よしその調子だ!」
ウィルはコウモリを数匹倒す。スティーブンはひたすら泥のモンスターを攻撃する。
「危ない!」
コウモリ達が反撃してウォーターガンを盗んだ。
「あいつ大きくなってくぞ。」
泥のモンスターは巨大化する。
「逃げるぞ。」
逃げようとすると目の前にコウモリがたくさん飛んでいた。
「これでも食え!」
スティーブンが鳥の餌をばら撒いた。
「コウモリは鳥じゃないから意味ない。」
サーマンはヴィオラを抱きかかえて守る。
「来るな!」
泥のモンスターが吐いた泥がヴィオラに付着した。
「チームBが楽器を破損させた為ゲームやり直しとする。次は4時間後の再開だ。」
「俺が破損したわけじゃない。」
「相手が悪かったな。」
全チームがゴール出来ないとゲームは通過できない。
「他のチームと通信できる方法はないか?」
ザックが聞いた。
「そんなことできるわけないだろ。そもそもあのゲームマスターは俺達が団結することを望んでいない。」
ジャクソンが言った。
「表向きな団結は良いけど、ゲームマスターに抗うような団結は絶対に潰しにかかる。俺がゲームマスターならそんなことはしない。」
あれから何度かゲームがリセットされた。そして数日が過ぎた。
「これから第10セットをはじめる。スタートだ。」
「また楽器が変わってる。」
ザックのチームはアイリッシュフルートだ。
「よりによってオーボエかよ。」
サーマンのチームはオーボエだった。
「何で嫌そうなんだ?」
「オーボエはすぐキーが曲がりやすい楽器だ。修理屋を泣かせる楽器とも言って良い楽器だ。」
さらに歩いていくと不運に巻き込まれる。
「草原なのに滑る。」
「ヤバいこれじゃあ歩けない。」
サーマンはオーボエを持ってたので中々前に進めずにいた。
「またコンサートチャイムとウィンドチャイムかよ。」
ディーンのチームは大型楽器ばかりで呆れていた。
「また俺が持つ。障害物があったらすぐに教えてくれ。」
3人は問題なく進んで行く。
「酷い目にあった。」
「それにしてもさっき盗まれたのに何故か元に戻ってたな。」
「そうだな。」
アイテムはそのままリセットされた。
「助けてくれ!」
「スティーブン、どこにいるんだ?」
「ここだ。」
ゲーム開始から早々サーマンのチームではトラブルが起きた。
「だからだどこなんだ?」
「ここだ。」
「嘘だろ。」
スティーブンは落とし穴に落ちていた。
「スティーブンがいなかったら誰が誘導係をするんだよ。」
サーマンは叫んだ。
「落ち着け。考えがある。」
ウィルが言った。
「スティーブンを助けられなくても俺達2人で行ける。スティーブン、タブレットを投げてくれ。」
彼が投げたタブレットをウィルは受け取った。
「俺が誘導すれば良い。それで全て解決だ。」
ウィルが誘導係になった。
「ウィル、サーマンあとは頼んだ。」
さらなるトラップがサーマンのチームを襲うことになる。