第1話 半額品の争奪戦
家のドアを思いっきり開ける。こうすると今日1日が始まったような気がしてワクワクするのだ。
始めの第一歩を踏み出す。
……よしっ
「今日も頑張ろーな。」
「おうよ!…………僕らの命の為にな。」
そう言いながら、なけなしのお金が入ったがま口財布を開き見つめる。
コイツら実は金欠である。
自宅から出て早数分。
チュンチュンという小鳥のさえずりに爽やかな青空。そして、ガヤガヤと賑わう人の声。
今日も町は平和である。
しばらく二人でのんびりと歩いていると、ふと遠くから八百屋のおっちゃんの安いよ安いよ〜!!という声が聞こえる。
そこからの二人の行動は速かった。
瞬時になけなしの金が入った財布をポケットから取り出し、今にも八百屋を吹き飛ばしそうな勢いで半額になった野菜や果物を奪い合うおばちゃん達の群れに飛び込む。
「あいつ死んだな……。」
この状況を見ていた男が一人そう呟いた。
それを聞いた周りの男共もまたその言葉に頷き勇気ある"一人"の少年に敬服する。
何とかおばちゃん達の群れに割り込めたは良いものの、なかなか目的の半額品を取ることができない。何故なら、取ろうとしたら目の前から瞬時に消えてしまうのだ。
「ああっ!!今の俺が取ろうとしたやつ!……うわぁぁ!それもっ〜」
目の前からどんどんと野菜達がなくなっていく。
もう無理だ…諦めよう……。そう諦めかけた瞬間、アイツの声が聞こえる。
「おいっ!何年この争奪戦に参加したと思ってんだ!次こそ半額品を奪い取るんだ!!」
……そうだ。俺達はこの戦場を生き抜いてきたいわば戦士……いや、騎士だ!!
次こそ半額品を奪い取り、飢え死にを回避するんだ!!
目の前にはもう無い。……ならば、別の場所へ割り込んで行き残り少ない半額品を奪い取るまでよ!
「……っ………!あった!」
やっとの思いで見つけたのは、小さなみかん。
それは、二人で別けるにはあまりにも小さい。だがしかし、何でもいい……少しでも腹に溜まれば!
僅かな隙間から手を伸ばす。
後もう少し…!
後数cm、数mm………っ!!
「…………取ったどぉぉぉぉぉ!!!!!」
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!でかしたハジメー!」
二人で拳をあげ大喜びする。
これで、餓死しなくて済む。
そう思った安心感からか思わず涙が出る。
自分の手のひらには小さなみかんがちょこんと乗っている。
これは夢じゃない、現実だ!
今日はなんて最高の1日何だろう!!
「兄ちゃん凄いじゃないか!それにしても、そんなに喜んでみかんが相当好きなのかい?」
「いえ…まぁ、嫌いでは無いですけど……。」
「ほぉ…?」
少年の曖昧な答えに男は少し困惑する。
「実は俺達、もう3日も何にも食って無いんです……。」
ゲッソリとした顔でそう答える少年――ハジメ――はグゥゥゥゥと鳴るお腹を押さえながら店主へとお代を払い、今にも倒れそうな足取りでトボトボと歩きながらまた見回りと言う名の就活を始める。
「早くどっかの騎士団、入団しなきゃなぁ〜。」
「でもハジメ、何故かどこの騎士団にも受け入れて貰えないじゃん。」
「痛いとこ突くな。……それはホント俺にも謎なんだよな〜。」
何でだろな〜と、ああ言った割には特に気にしてない様子で考えるハジメ。案外図太いのである。
「次は受け入れてもらえっかな〜。」
「まぁ、なんとかなるだろ。」
小さなみかんを二人で分け合い、そう話すのであった。