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8本当の親

「ごめん、お姉ちゃん。柚子の秘密がばれたかも!」


 深波の家に到着して、玄関に上げてもらうと同時に、彼女に玄関で思い切り頭を下げられた。電話の後、妹はSNSアプリに私宛にメッセージを送っていた。今回、私が彼女の家に呼びだされた理由がそこに記されていた。


 電車の中でメッセージの内容を確認していて、あらかたどう言った用事で彼女が私を家に呼んだのかは知っていたが、いきなり謝られるとは思っていなかった。そもそも、今回の件については、内容を読んだ限り、彼女が悪いわけではなさそうだった。


「謝るのはこっちの方だよ。それに、ばれたのは深波が原因ではないでしょ」


「でも、ばれるきっかけを与えたのは私で……」


「だから!深波は悪くない!」


 私は未だに玄関から上がれないまま、彼女と話を続けていた。こちらはただでさえ、CMの打ち合わせで最悪な出会いをしてしまって、精神的、肉体的にかなり疲労している。だんだん、気が立ってきて、つい怒鳴ってしまった。


「ああ、お義姉さん。来てくれたんですね。深波さん、お義姉さんを玄関にいつまでたたせているんだい?話は上がってもらってからでもいいでしょ」


「そ、そうね、ごめんなさい。お姉ちゃん、どうぞ上がって。詳しい話をするから」


 私の怒鳴り声が家に響いたのか、玄関近くの部屋からひょっこり顔を出したのは、深波の旦那さんだった。旦那の声にようやく我に返ったのか、彼女はやっと私を家に上げてくれた。


 リビングに通された私は、部屋の空気がどんよりと重たいことに気付く。部屋には、今回私が呼びだされた原因となっている柚子と、深波の双子の息子がむっつりとした表情で席に着いていた。


「今日、柚子が高校から帰ってくるなり、いきなり、私が本当の母親じゃないって言いだして」


 私の後からリビングに入ってきた深波が、苦笑しながら家で何があったか説明してくれた。


 どうやら、今日、柚子が学校から帰ってくると、深波に自分の出生について問い詰めたらしい。その後、タイミング悪く双子の息子も帰宅してひと悶着あり、旦那も帰宅して大騒ぎになったようだ。


「お母さん、いや、深波は私の母親じゃなかった。だったら、私の母親は一体、誰なのよ……」


 説明を終えた深波の言葉に、ぼそりと柚子が不安そうに口を出す。どういうことか。柚子は母親が誰なのか悩んでいる。深波に彼女の言葉の真意を確認しようと声をかける。


「深波、私はてっきり……」


「私もお姉ちゃんと同じ気持ちなんだけど、理由を柚子が話してくれないの。玲も凜もなにか知っているみたいだけど、口を閉ざしたままで、彼らにもこの状況を説明してもらおうとしたんだけど」


「僕たちは何も知らないよ。帰ったらいきなり柚子が、自分の母親が本当の母親じゃないって言いだして、こっちも驚いているんだ」


「そうだよ。でも、きっと柚子がそんなこと言い出したのは、あいつのせいだろ。柚子、あいつと関わるのはやめろよ」


「なんで、あんたたちにそんなこと言われなくちゃいけないの。そもそも、深波が本当のお母さんじゃないのなら、凜も玲も私のお兄ちゃんじゃないってことでしょ。私の交友関係に口を出さないで!」


 双子が自分たちのせいではないと反論すると、それに対して、柚子が口をはさむ。


 はあと大きなため息をつく妹の顔には、疲れの色が見えていた。柚子に本当のことを伝えるのは二十歳過ぎにしようという、私と交わした約束が守れなかったことに対する苦悩だろうか。とはいえ、まだ柚子は深波が母親でないという事実にしか気づいていない。誰が母親かわからないというのに、私を呼ぶ必要があったのか。


「どうして、家族の話題に沙頼さんを呼んだの?」

「沙頼さんは、柚子の出生について何か知っているんですか?」


 私の疑問とは別に、深波の双子の息子たちは、親戚とは言え、家族ではない私の登場に困惑していた。


「それは」


「俺たちが第三者も交えた方がいいと判断したからだ。どうして、柚子が俺たちの娘ではないと言い出したのか教えてくれないから、苦肉の策だ」


 ここで義弟が口をはさんできた。そして、私と柚子を無理やり二人きりにするため、双子と深波をリビングから追い出し、自分も部屋から離れていく。去り際、深波にこっそりと耳打ちされた。


「きっと、お姉ちゃんになら、柚子は理由を話してくれると思うよ。だから、柚子のことをよろしくね」


「それは、私が柚子の本当の親だから?もしそうだとしたら、私には荷が重い」


 私も彼女にこっそりと返事をしたが、聞こえたのか聞こえていないのかわからない。にっこりとほほ笑まれた彼女の表情からは、心の中を読むことはできなかった。

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