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13依頼内容

 夕食の豚肉の野菜炒めを二人で食べ終え、食器を片付けひと段落すると、考えなければならないことが山ほどあることに気付く。しかし、今一番に考えなければならないことは、翔琉君が私に依頼した内容だ。


 翔琉君から依頼された内容は意外なものだったが、あの男のことを考えるとそうでもないと思えてくる。しかし、あの男のことはわかるが、その相手も同じような人間だとは思いたくなかった。いや、あの男と結婚した時点で同類かもしれない。


 彼が私に依頼した内容について、もっと詳しく聞いてみることにした。


「ええと、さっき私に相談してきた内容だけど、相談っていうか、私への依頼だけどね。その件についてもっと詳しく」


「詳しくと言われても、この件については、先生の方が詳しいかと思います」


「そんなこと言われても、そんな探偵じみたことをお願いされるほど、私たちの間に信頼関係とかあったかな。確かに私は翔琉君のことを事前に知っていて、翔琉君の方も、私が作家だと知っていてファンだから、当然作品のことも私自身のことも多少は知っている。でもさあ、それだけの話でしょ。そこからどうして、君の両親の浮気調査をお願いされることになるのかな?」


 そう言うことなのだ。突然、目の前の男子高校生は、私に両親の浮気調査を依頼してきた。初対面の男子高生(顔は写真で知っていた)をいきなり自分の家に泊めてしまったが、それ以上に彼は無理難題を私に押し付けてきた。


 しかし、どうして彼の中で私に依頼することになったのか興味がわいた。明日は土曜日で、今日は金曜日。多少の夜更かしも許されるというものだ。今日は二人きりで誰にも邪魔されることなく、とことん、話し合おうではないか。おそらく、彼と二人きりでゆっくり話す機会は、もう訪れることはないはずだ。


 私の予測だと、彼と次に出会うことになるのは、そう遠くない未来、柚子が彼を私の家に呼ぶときだろう。なんとなくだが、今回の翔琉君との出会いは、これからの私たちの将来を大きく変えそうな気がした。


「どうしても何も、先生が僕の両親の結婚のきっかけを作ったからに決まっています。先生の作品に両親は声優として、歌手として参加している。それによって、彼らは結婚に至った。お願いするのは不思議ではないでしょう?」


「よくわからない理論だね。確かに私の作品がきっかけで結婚したかもしれないけど、別に私の作品がなくても、結婚はしていたんじゃない?それだけで私に依頼するのは間違っている。こういうのは、両親に直接聞くか、探偵を雇うか。いや、高校生に探偵は雇えないか……」


「どうしても、先生に調べて欲しいんだ。僕の直感が先生に頼んだ方がいいと言っている」


「直感って言われても、私以外にも頼める人はいると思うし、そもそも、なんで両親の浮気調査なんかしなくちゃいけないの?」


 話は平行線をたどっている。あくまで私に両親の浮気調査を依頼したい彼と、その理由を知りたい私で、話は一向に進む気配がない。



「ところで、先生の姪だけどさ、電車の中でも聞いたけど、柚子のことだよね?」


 そんな平行線の話は唐突に終わりをつげ、彼が新たな爆弾発言を私に投げかけた。


「いずれ知ることになるから、隠す必要もない、か。そうだよ、柚子から君の話は聞いている。私の作品のファンが同じクラスに居て、それが君だということはすでに知っている」


 電車の中でははぐらかしたが、なんだか隠し事をしているのが面倒になった。別に柚子が姪だったとしても、翔琉君と柚子が異母兄妹ということがばれるわけではない。素直に柚子との関係を認めることにした。


「やけにあっさり認めるね。どうして柚子って気付いたか、知りたくないの?」


「理由を聞いたところで、事実が覆るわけでもないから、別に興味はないかな」


「ええ、僕は話したくてたまらないよ。なんだか、先生と話していると、不意に柚子の顔が頭に浮かぶんだ。どうしてだろうと考えたとき、あることに気付いた。なんだと思う?」


 興味がないと言ったのに、翔琉君は勝手に話し始めた。話を聞いていると、私に話を振ってきたので、仕方なく思ったことを正直に伝える。


「似ているから、でしょう?そりゃあ、柚子は私の姪だから、少しくらい似ていても不思議じゃない。別に驚くことでもない、と思う」


 柚子と似ていると言われるとつい、私と柚子の本当の関係を知られていないかと疑心暗鬼になってしまう。言葉の最後が尻すぼみになってしまった。


「似ているのは不思議じゃない、か。似ていることは否定しないんだね。ねえ、柚子は先生に僕のことをどんなふうに話しているの?僕たまに、柚子と自分は似ているなと思うことがあるんだよ。なんでだろうね。どう考えても、僕たちに似ている要素なんてないはずなのに」


 やはり、少しでも血のつながりがあると、直感やら本能やらが働いて、自分と同族だと思えるのだろうか。そうなると、彼らが惹かれ合ったのは、恋愛感情ではなく、家族愛からだというのか。


「柚子のことはどう思う?」


 彼女の方は恋愛感情から自分たちが似ていると思い込んでいる。無理やりそのように解釈することにして、彼の方はどうか聞いてみることにした。


「いきなりの質問だね。どうだろうなあ、最初は僕のことを見てキャーキャー言っていたけど、最近は言わなくなって、話しやすくなったかな」


「異性としては?好きになった?」


「ぐいぐい来るね。もし、僕が彼女のことを好きだと言ったらどうするの?姪のことをよろしくとでも言ってくれる?」


 軽い口調で、翔琉君は質問の答えをはぐらかしてくるが、ここはしっかりと答えを聞いておいた方がいい。恋愛感情から彼らは互いを似ていると思い込んでいる。そう思い込んでいると考えたい。


「私は姪であって、彼女の母親ではないから認めるとか認めないとかは、私が決めることじゃない。でもまあ、話しやすい異性ということは、これから恋愛感情が芽生える可能性もあるし、もしかしたら、すでに自分が気付いていないだけで、柚子に……」


 言葉が途中で止まってしまった。もし、彼らが真実を知り、兄妹だと知った時には、彼らはどんな反応をするだろうか。彼らが恋愛感情から惹かれたとしても、それが何になるというのか。ただ、私の心の平穏を一時だけでも穏やかにしたいだけではないのか。自己満足で彼らの思いをゆがめてしまうのか。

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