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16 蜜月

 そう言えば、アニメではもう一人側室がいたわね。

 お色気系悪役キャラのサキュバス。

 確か、名前はグロリアだったかしら?


 彼女とクラウディアは、だいぶキャラが被っていた。

 お色気枠をめぐってのキャラ対決なら、サキュバスの方が圧倒的に有利よね。

 男の願望を具現化したような存在に、ただの悪役令嬢が勝てるわけないもの。

 私が作者でもサキュバスの方を選ぶわ。

 

 アニメの中のグロリアは、夜中にこっそり雲島に侵入して、夢を使ってアークを操ろうとするのだけれど、マリア達の奮闘のおかげで何とか事なきを得る。


 そして、アークを気に入ったサキュバスは「もう悪い事はしないと約束するから、その代わり私を側室にして欲しい」と懇願するのだ。


 アークは、危険なサキュバスを世に放つより、自分の監視下に置いた方がいいかもしれない…と考えて、側室に迎え入れる。


 でも今の雲島って、ぽっちゃりBL王国なのよね。

 王様を誘惑するなら、セクシーな女の子じゃなくて、ぽっちゃりな男性の夢を見せなければならないわ。

 それって、グロリアには無理なんじゃないかしら?


 まぁ、どうでもいいか。

 今の私には関係のない話だものね。

 

「アークは今、どうしているのかしら……?」

 

 きっと、マリアと幸せに暮らしているのだろう。

 確かめる術はないけれど、そう思いたい。

 そんな自分勝手な考え事に浸っていたら、ガシャンと大きな音が部屋に響いた。


「び、びっくりした………グ、グレイ? どうしたの?」


 部屋にはノエルとシエルの姿はなく、代わりに青白い顔をしたグレイが佇んでいた。

 考え事をしていたせいで、全く気付かなかったわ。


「グレイ? 大丈夫?」


 グレイの足元には割れたグラスが散らばり、ほんのり甘く爽やかな香りがする。

 クラウディアの大好きな、オレンジとブルーベリーの果実水の香りだ。


「グレイ? ケガはない? ……ねぇ、大丈夫?」


 グレイは、青白い顔のままゆっくりと私に近づいて、震える指でそっと私の頬に触れた。


「今………貴女は、何を考えていたのですか?」


 グレイのいつもより低い声にドキリとする。

 今、私が何を考えていたかって?

 えーと、サキュバスの事かしら?

 絶対にサキュバスには勝てないって考えていたわ。

 それから、えーと……アークの事?

 アークはどうしているのかな?って考えていたわね。

 しかも……声に出していたかもしれないわ!


 も、もしかして、それで怒っているの?

 ヤ、ヤキモチなの?

 やだ! 可愛いっ!

 でも、確かに良い気分はしないわよね。

 妻が元婚約者の事を考えていたら、普通に嫌だわ。

 

 別に未練とか心残りがある訳じゃないし、むしろその逆なんだけどね。

 本当は全部忘れてしまいたい苦い感情なのだ。

 あるのは罪悪感と、もう関わりたくない拒絶の気持ちと、自分のせいで不幸になっていたら嫌だという身勝手な思いだけなのだ。


 だから、ちゃんと誤解を解かないとね。

 私の心にはグレイしかいないのだから。

 ヤキモチなんて焼く必要がないくらい、貴方の事しか見えてないのだと。


「違うのよ、グレイ! これは違うの。思わず名前が出ちゃったけど、別にアークの事は何とも思ってないのよ 」


 あれ…? 何だろう?

 やましい事なんて何もないのに、何か浮気をごまかすみたいな言い方になっちゃってる?


「み、未練なんて全然なくて、ただ、今どうしているのかなって少し気になっただけなのよ。だって、また領地に戻ってきたりしたら厄介だなって思ったの……」

 

 だからもう、そんな顔をしないで?

 本当に私には貴方だけなのよ。

 仲直りがしたいとお願いすると、グレイは消えそうなほど小さな声で「……少しだけ、血を頂いてもよろしいですか?」とつぶやいた。


「えぇ、いいわよ。お好きなだけどうぞ?」

 そう答えると、キレイな赤い瞳が切なそうに揺れた。


 少し冷たい指が私の首を撫で、まるで壊れモノに触れるみたいにゆっくりと身体を捕らえる。

 私の全身は、あの幸福感を覚えているのだ。

 早くしてとねだるように血管がドクドクと脈を打つ。

 

「クラウディア……愛して…います」

 グレイの甘くかすれた声に、脳が痺れておかしくなってしまいそう。


 ズブリと鋭い牙が首筋に沈む。

 痛みさえ嬉しいと感じる私は変態なのかもしれない。

 彼の与えてくれるものなら何だって愛おしいのだ。

 

 ゴクゴクとグレイの喉が鳴る。

 もっと、もっと、強く私を求めてほしい。

 貴方になら私の命さえ捧げても構わない。


 うっとりと身を委ねていると、急に彼は吸血をやめて意地悪そうに微笑んだ。

 

「少しだけって、約束でしたから」


「イヤ…ダメ! 途中でやめないで!」


 彼は私を抱き上げてベッドまで運ぶと、音を立てずにフワリと下ろした。


「ねぇ、グレイ? お願い…」  


「では、もう少しだけ」


 彼は私にまたがると、まるで手品のようにドレスの留め具を外し、はだけた胸に牙を立てた。

 明るいうちに、こんな事をするのは嫌なのに。

 文句を言おうとしたけれど、力が抜けてもうどうでもよくなってしまう。


 意識を保てないほどの快感が毒のように全身を犯す。

 もっと、もっと、強く私を求めてほしい。

 貴方になら私の命さえ捧げても構わない。


 いつのまにか吸血は終わっていて、赤い瞳が心配そうに私を見つめていた。


「泣いて…いるのですか?」


「そう……なのかしら? おかしいわね。幸せ過ぎて涙が出てしまったみたい」


「本当…に?」 


「本当よ。貴方が大好きでとっても幸せなの」


 そう答えると、グレイは形の良い眉をひそめて、長いため息をついた。


「どうなっても知りません。今のは完全に貴女が悪い」


 意味不明なセリフを言うと、グレイは強く私を抱きしめて乱暴に唇を重ねた。


 私が悪いって、どういう意味?

 理由を聞く余裕はすぐになくなって、再び歓喜の波が押し寄せる。理性と羞恥は身を潜め、自我を忘れた本能がうずく。


 もっと、もっと、強く私を求めてほしい。

 貴方になら私の命さえ捧げても構わない。

 愛おしそうに触れる大きな手に私は指を絡める。

 だからどうか、死ぬまでずっと側にいて。


次回、最終話はグレイ視点です。

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