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11 始まりの村【Side アーク】

 数日待ったが、マリアは戻って来なかった。

 いっその事、ロージの家に乗り込んでやろうかと考えたが、家の近くまで行ってやめた。

 

 ロージの家の庭には大きな焼き釜がいくつもあって、その周辺には山のように皿が積まれていたのだ。

 これだけの皿があったら、マリアがどれだけ割っても少しも困らないだろう。

 

 窓の隙間からは、何やら旨そうな匂いがした。

 これは、マリアの得意料理の根菜と肉団子がたっぷり入ったクリームシチューの匂いだ。

 もう二度とあのシチューを食べる事はできないのかと思うと、少し泣きそうになった。


 今すぐ旅に出よう!

 やっぱり俺には冒険が性に合っているんだ!

 もっと強くなって、魔物とか倒しまくって、困っている人とかも助けまくって、伝説に残るような凄い冒険者になってやる!

 俺は再び『始まりの村』を目指す事にした。

 

 クラウディアにもらった金は、ほとんど残ってない。

 俺は山越えをしながら獣を捕まえて、途中の村で毛皮を売ったりした。

 木の実とか薬草とか売れるものは何でも売った。

それでも全然足りなくて、荷物運びや畑仕事なんかの手伝いをして路銀を稼いだ。


 冒険には金がいる。

 水や食料や薬は絶対に必要だし、服や防具や武器はすぐボロボロになるので、定期的に修理や手入れをしなければならない。


 冒険をするよりも、労働をしている時間の方が長いような気がする。

 魔物討伐で稼ぐには、もっと北の方に行かないと金になる魔物はいないらしい。

 そもそも単独で北に向かうのは無謀すぎる。

 パーティを組まなければ強い魔物討伐は無理だ。

 

 パーティを組むには冒険者登録が必要で、もうその辺のギルドで登録してしまおうかと少し投げやりな気分になってしまう。

 始まりの村は、とんでもなく遠いのだ。

 あと山を9つも越えなければならない。


 遠いなー…いや、でも、やっぱり登録するなら始まりの村がいいんだよな。

 冒険者の聖地。伝説の勇者が生まれ育った村だ。

 ご利益ありそうだし、あやかりたい。


 足の裏のマメは何度も潰れて皮が硬くなった。

 何日も風呂に入らなくても平気になったし、どこでも短時間で火起こしができるようなった。

 野宿も山歩きもだいぶ板に付いてきたと思う。


 マリアの真似をして野草のスープを作ってみたが、とんでもない激マズ料理できてしまった。

 何度もチャレンジしてみたが、全然ダメだ。

 やっぱり、マリアは料理上手だったんだな。


 マリアのいない旅は味気ないけれど、こんなハードな体験をさせなくて済んで良かったと思う。

 獣の肉は硬くて不味いし、食いもんがなくてその辺の虫や草を食う事だってある。

 体は常に臭くて痒いし、服はボロボロで泥だらけ。


 でも、浄化魔法を使えるヤツとパーティが組めたなら、かなり快適な旅になるかもしれないな。

 それと治癒魔法が使える僧侶は絶対に必要だ。

 俺は、剣の腕はそこそこだが魔法は使えない。


 始まりの村に着いたら、まず仲間を探そう。

 向上心があって一緒に上を目指せるヤツがいい。

 困ってる人を見捨てる事ができない正義感の強いヤツもいいな。

 可愛い女魔法使いとかも大歓迎だ。

 そんな子がパーティにいてくれたら、それはもう絶対に旅が楽しくなるだろう。


 途中で仕事をこなしながら山を越えて、半年近くかけてようやく始まりの村に着いた。

 へんぴな田舎の村だが、異様に冒険者が多い。

 やっぱり、みんな考える事は同じなんだな。


 ギルドの規模も、小さな村にしてはだいぶ大きい。

 中に入ると依頼ボードと受付けカウンターがあって、さらに奥には酒が飲めるバーが併設されていた。


 念願の冒険者登録を済ませてから、依頼ボードを眺めてみる。

 もう昼過ぎなので、依頼はほとんど残っていない。

 仲間はどこに行けば見つけられるのだろう?

 やはり、バーだろうか?

 奥に目をやると、昼間から飲んでる輩が数人いた。

 

「よう!兄ちゃん、新入りかい?」


「はい。今日村に着いたばかりです」


「だろうな。ギルドの裏に共同の風呂があるから、後で入るといい」


「す、すいません……臭いますか?」


「まぁな。とりあえず座れよ。一杯おごってやる」


 中年の男は、氷の入ったグラスを差し出しながら、隣の席を指差した。


「今日、冒険者登録をしたのか?」


「あ、はい」


「そうか……なら、夢がいっぱいだな」


「はぁ、まぁ、そう…なんですかね?」


「兄ちゃんは、剣使いか? 魔法は?」


「剣使いです。魔法は使えません」


「そっか、なら俺と同じだな。まぁ、あれだ、気を落とさずに、そこそこにやればいい。依頼は早朝に来ないと良いのは無くなるぞ。オススメは木材運びだ。給金がいい。ドブさらいもいいが、臭いが付くから女に嫌がられる。女を抱きたくなったら、共同風呂の右手にある売春宿に行け。ブスとババァしかいねぇけどな」

 

 男はそう言うと、グビリと酒をあおった。

 何なんだ? 木材運び? ドブさらい?

 この男は何を言っているんだ?

 俺は冒険者になるために、ここまで来たんだぞ?

 

 男は軽く手を上げてから、ギルドを出て行った。

 とにかく今日は、風呂に入って早く寝てしまおう。

 グラスを傾けて一気に酒を流し込むと、喉が痺れるような安いバーボンの味がした。


次回12話も、アーク視点が続きます。

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