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1 悪役令嬢クラウディア

「 このグズ! 今すぐ私の前から消えなさいっ!」

「も、も、申し訳ございません…お嬢様…」

「 許さないわ! 早く出て行ってちょうだい」

「ご、ごめんなさい…あの、本当にごめんなさい…」


 落ちて粉々に割れた水差しの隣で、何度も何度も頭を下げているのは、新人メイドのマリアだ。

 小柄で華奢な体が恐怖でカタカタと震えている。

 サラサラの銀髪と涙をためた空色の瞳は、妖精のように可憐で儚げで庇護欲を誘う。

 

 あぁ、もう、イライラするわ。

 早く出て行ってほしいのに、いつまで居る気なの?

 これだから役立たずの田舎娘は嫌なのよ。

 舌打ちをしてふと壁に目をやると、大きな鏡に自分の姿が映っているのが見えた。


 目つきが鋭くて、意地も性格も悪そうな娘。

 ん?

 んん?

 あれ? これって………………私よね?


 金髪縦ロールとアメジスト色の瞳、ユサユサと揺れる重量感たっぷりの胸、キュッとくびれた細いウエスト、念入りに手入れされた白磁の肌、異様なほど露出が多いワイン色のドレス。


 これ、怒り狂った悪役令嬢が、立場の弱いヒロインを怒鳴りつけるシーンだ。


 私、今と同じ状況を見た事があるわ…………前世で。

 しかもアニメで!


 深夜に放送していた、エロとギャグがメインのチート冒険ファンタジー『モブキャラの俺ですが、王様になろうと思います』だったかしら?

 

 気弱で地味な主人公が成り上がっていくストーリーで、原作は確か青年マンガだ。

 ギャグが多くて明るい内容ではあったが、性的&暴力的なシーンもガッツリ入っている15R指定。


 ドジっ子聖女、メガネ魔法使い、おバカ獣人、正統派美人エルフ、元奴隷ロリ双子、お色気系サキュバスなどなど、多種多様な美少女が登場して、何故か女性達は全員もれなく主人公を好きになってしまうというハーレムものだった。


 そして私は、一番最初に登場する迷惑系勘違い女。

 意地悪で我儘でプライドは山よりも高い、子爵家令嬢『クラウディア』だ。

 貧乏男爵家の五男坊『アーク(主人公)』を無理やり婚約者に定めて、将来聖女になる予定のドジっ子メイド『マリア(ヒロイン)』をイジメ倒す悪役令嬢である。

 

 クラウディアは、地味で貧乏なアークと結婚すれば、好き勝手が出来ると考えていたのだが、自分の思い通りにならないアークに腹を立てていた。


 アークはクラウディアを褒めないし崇めないし、婚約者になれた事に感謝もしない。

 それどころか、不出来なメイドを庇って慰めて隠れてイチャイチャしたりしているのだ。

 

 クラウディアのプライドはボロボロに崩れた。

 いつもオドオドと失敗ばかりしている役立たずメイドのマリアが憎くて邪魔でたまらなかった。


 だって、マリアはクラウディアの大切にしている物を毎回うっかり壊すのだ。

 母の形見のティーカップも、数少ない友人にもらった手鏡も、数量限定のクリスタルドールも、お気に入りの花瓶も、細やかな細工の水差しも、全て落として割られてしまった。


 マリアに悪気がないのは分かっているが、部屋に入るなと言っても「お嬢様のお役に立ちたいのです!」と言って近づいてくるのだ。

 そして今度は、婚約者まで奪おうとしている。


 改めて思い返してみても、はらわたが煮えくり返りそうになるが、ここでマリアを叱りつけるのは悪手だ。

 屋敷の使用人達は皆、マリアに同情的なのだ。

 一生懸命で健気な新人メイドと意地悪で我儘なお嬢様という構図はもう完成してしまっている。


 それに気付いてゾッとした。

 私、これから何をしようとしていた?

 アニメの筋書き通りに、媚薬を用意してアークに飲ませて既成事実を作ろうと考えていたのだ。

 そもそもアークとは結婚するのだから、媚薬を使おうと何の問題もないと。ただ時期が早いか遅いかだけの違いなのだと思い込んでいた。

 

 別にアークの事が好きなわけではない。

 ただ、思い通りにいかない事が悔しくて、自分に見向きもしないアークが許せなくて、見え見えな態度でアークを想うマリアを苦しめたいだけだった。

 

 アニメではこの後、媚薬を飲まされたアークとクラウディアはベッドインする。が、結局2人は結婚しない。

 やる事はしっかりやるのだが、クラウディアが用意した媚薬は違法品だったのだ。

 怒った父親に糾弾されて、クラウディアはハゲデブの好色爺と結婚させられる。

 そしてアークとマリアは冒険に旅立つのだ。


 その後、アークは冒険で出会った仲間達(全員女性)と共に国づくりを始める。場所は、空に浮かぶ雲島。

 そこに、再びクラウディアは少しだけ登場する。


「私、あの夜から貴方の事が忘れられなくなってしまったの。 責任を取って下さる? 」とか言って雲島に押しかけてくるのだ。

 その時はもう、悪役令嬢というよりは、お色気担当のツンデレキャラって感じだった。


 そして数日間、ハーレム要員としてアークと共に過ごすのだが、新お色気キャラのサキュバスが登場する事によって風向きが変わる。

 お色気枠は2人も要らないのだ。

 クラウディアは用済みキャラとなり、ハゲデブ好色爺が迎えに来て、その後はもう出て来ない。

 

 全身に鳥肌が立った………。

 このままだと私、ハーレム男に処女を捧げたあげくに捨てられて、最終的にはハゲデブ好色爺と結ばれる未来が待っているの?


 無理 無理 無理 無理 無理 無理 無理 無理 無理っ!

 絶対に絶対に嫌なんだけどっ!

 抗ってやる。全力で。アニメや漫画の筋書き通りになんて動いてやるものか。


「私は自分の未来のために、持てる力全てを使って必ずストーリーを変えてみせる!」

 クラウディアは小さく呟いてから、強く拳を握った。


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