第61話:堕天終結〜神を超えた少年〜
カイの創生した核融合の光がさらに輝きを増し、ルシフェルを正確に捉えた。
「本当に救えない奴だね……もう恐怖を与える程度じゃ済まさない」
カイの声は静かだが、広間全体に響き渡るほどの力を持っていた。
「ま、待て!我は死なんのだ、娘だけが死ぬことになるぞ!」
ルシフェルの声には、かつてないほどの焦りが混じっていた。しかしカイは動じることなく、エネルギーを手のひらに集め続ける。
「堕天の王……」
その時、リサが口を開いた。
「あんたは熱いでしょうけど……わたしに炎は一切効かないのよ」
その声は確かな強さと嘲笑を含んでいた。
カイは右手を掲げ、ゆっくりと前へと突き出す。
「ボクの仲間を利用しようとしたのが……最悪の選択だったね」
その言葉には、呆れと怒りとが込められていた。
ルシフェルの表情が恐怖で歪む。
カイは凍るような冷たい目で堕天の王を見据えると最後の言葉を放つ。
「太陽と同じ灼熱の牢獄で、延々と悶え苦むがいい」
その瞬間、カイの手から放たれた核熱球が、閃光を伴いルシフェルを包み込んだ。青白い炎が渦を巻き、激しい轟音とともに彼の体を焼き尽くしていく。
炎に飲み込まれたルシフェルの四肢の四堕天使が、一体また一体と崩れ落ち、宿していた力が灰となり魂の核だけが剥き出しとなった。
「ぐああああああっ!」
ルシフェルの絶叫が響き渡る。その声はこれまでの冷酷さを失い、ただ恐怖と苦痛に満ちていた。彼の黒い翼は炎に燃え裂け、漆黒の体は溶けるように崩壊していく。
その肉体が光とともに蒸発し、残されたその核だけが高熱に耐えるように呻き声をあげ続けた。
「熱づい!……あぎゃあああ…あちおおぉぉぉあああ…あぢぃぃあああ……」
ルシフェルの声が途切れ途切れになりながらも、最後の抵抗を試みる。しかし、その言葉さえ炎に飲まれ、次第にかき消されていく。
次の瞬間、輝く白炎の渦となったリサの体がルシフェルから抜け出した。
「いいわよ!カイ!」
その声を合図に、カイは両手を合わせ光を圧縮するように動かす。
すると凄まじいエネルギーの収縮が始まり、光と炎が一つに凝縮され、爆発的な熱が周囲を押し広げたかと思うと、一気に静寂が訪れた。
そこに残ったのは、小さな太陽——青白く輝く恒星のような光球だった。
その中で、わずかにルシフェルの残骸から漏れる小さな声が響いていた。
それは怒号ではなく、何かに縋るような弱々しい呻き声だった。やがてその声すら消え、青白い光球はただ静かに輝きを放ち続ける。
「メイ、太陽の温度と寿命ってどれくらいだっけ?」
「およそ摂氏1500万度、寿命は100億年といわれています」
「ルシフェル。その炎は、お前の魂を糧に燃え続ける。星の寿命が尽きるまで焼かれ続けるがいい」
カイの冷静な言葉が響き渡る中、小さな太陽のような光球が青白い光を放ち、広間に浮かんでいた。
その中心に閉じ込められたルシフェルは、もはや叫び声を上げることすらできなかった。彼の存在は、光球の中で燃え尽きながらも、魂を糧に永遠に苦しみ輝き続ける運命を背負わされたのだ。
その瞬間、塔の周囲で暴れていた堕天の眷属たちが、まるで糸が切れたように動きを止めた。
「どうした……?」
気力だけで刀を構えいた島津連司が息を詰める。だが、眷属たちは反撃するどころか、その形状を保てなくなり、音もなく崩れ落ちていく。燃え尽きた灰が風に乗り、空へと舞い上がり消えていった。
「……消滅した……終わったのか?」
疲れ果てた彼の声は低く震えながらも、戦いの終結を悟るようだった。周囲の仲間たちも次第に武器を下ろし、互いの顔を見合わせる。
「堕天が終わった……勝ったんだ!」
次の瞬間、歓声が湧き起こる。喜びの声が波となり、その場にいた戦士たちを包み込んだ。誰もが手を取り合い、勝利の瞬間を分かち合う。
0級のメンバーたちも、ようやく肩の力を抜いた。誰も彼もがすでに体力の限界を超えていて、崩れるように地面に倒れ込み、仰向けになって空を見つめ息を整えていた。
その中で、神楽アヤメは一人、立ったまま輝く塔の頂を見上げていた。そこには、光球の輝きに包まれるカイたちの姿があった。
「……やったわね、あなた達、最高よ……」
アヤメは小さく呟くと、剣を天に掲げて静かに祈りを捧げた。それは彼らのミッション達成を称える祈りであり、同時に戦いの中で失われた多くの命への鎮魂でもあった。
彼女の頬には、自然と涙が伝っていた。だが、その涙は悲しみだけではなかった。自分も含め、絶望の淵から立ち上がり、奇跡を掴んだ仲間たちへの誇りが込められていた。
各地のモニター室でも、堕天との戦いの終結が告げられると同時に歓声が上がった。画面越しに塔の頂が輝く光景が映し出され、人々は次々に抱き合い、喜びを分かち合った。
「やったぞ……終わったんだ!本当に助かったんだ……!」
リポーターが歓喜に震える声で伝える。
「隕石は消え去り、堕天も鎮圧されました!地球は救われました!……地球は……救われました!」
その言葉に、人々は涙を浮かべながら互いを抱きしめた。見知らぬ者同士が手を取り合い、街角では歓喜の輪が広がっていく。
一方、休憩所のモニター室の片隅では——
佐藤フブキが椅子にもたれかかるように、力が抜けたようにその場に崩れ落ちていた。モニターに映る塔の頂で光を放つ息子の姿を見つめ、何度も目をこする。
「……カイ……ほんとによく頑張ったね……」
その声は、涙にかき消されてしまうほど弱々しかった。彼女の手は震えており、肩で息をするように涙を流し続ける。
その肩にそっと手を置く者がいた。同僚たちだ。
「よかったな……佐藤君」
「あなたの息子……本当にすごかった」
「あの集中力……母親譲りだな」
言葉に詰まりながらも、彼女を支える同僚たち。その言葉に、フブキはただ何度も頷いた。
「……ありがとう……本当にありがとう……」
目を閉じ、息を整えながら、フブキは心の中で何度も息子の名を呼んだ。
そして勝利の後の静けさが漂う、堕天の塔の頭頂部——
リサは白熱の光を収めながら、そっとカイの隣に立った。その瞳には、戦いを終えた者だけが持つ静かな安堵が宿っていた。リサは小さく笑みを浮かべる。
「ありがとう……カイ」
「おかえり、リサさん」
カイの声は穏やかで、彼女が戻ったことに対する純粋な喜びが滲んでいた。リサの肩に優しく手を置くメイも、心からの安堵を感じさせる声を漏らす。
「本当に無事でよかった、リサ」
「メイ……ありがとう」
それぞれの顔に浮かぶ微笑みは、大きな戦いを終えた後だからこそ感じられる静かな信頼と絆を物語っていた。
互いに多くの言葉を交わさなくても、三人の心は通じ合っていた。
そんな勝利の余韻を感じる中、メイはふと自分の腹部に手を当て、真剣な表情でリサを見つめる。
「ねえ、リサ。あなたに大事な話があるの」
「……?どうしたの、メイ」
リサは不思議そうに首を傾げる。
「あなたは友達だから隠し事はしたくない。私……カイ様の子供を宿してる」
「えええっ?!」
リサの驚愕の声が響き渡る。彼女はメイとカイを交互に見つめ、その目は驚きに見開かれていた。
「ちょっと待って、どういうこと?!カイ!あんた何やってんのよ!最低、このクズ!バカ!」
「えっ?!何の話?意味がわかんないんだけど!」
カイが両手を振り、弁解しようとするも、リサの怒りは止まらない。一方で、メイは頬を赤く染めながら自分を落ち着けるように手を胸に当てた。
「カイ様が選んだのだから仕方がないのよ、リサ……私だけ先に進んでごめんね」
「ちょ、待って!メイ、君、頭でも打ったの?!」
カイの必死の叫びにメイが真剣な目で応える。
「カイ様、おっしゃったではないですか。『君の中にボクの分身がいる』って!」
「……?!ああ、ああ!それはね、君の回復を早めるためにボクの細胞を移植したって意味だよ」
「えっ……?」
リサはそのやり取りに肩を震わせると、やがて小さく吹き出した。
「あははは!メイ、それってカイと兄妹になったってことじゃないの?じゃあもうイチャイチャできないわね!血が繋がっちゃったんだもんね!」
「なっ、そんな!なんで!たとえ兄妹でも想いがあれば……」
顔を真っ赤にして反論するメイ。だが、リサのからかいは止まらない。
「ダメよ、人間の兄妹でそういうのは禁断なんだから!」
「でも私が読んだカイ様の部屋の本には……兄妹でもそういう関係になってる話がいっぱいありました!」
「えぇっ!?隠してたあの棚の本を勝手に読んだのか?!もう……やめてよぉ、プライバシーの侵害だ……」
その場はカイの叫びと二人の女性の言い争いで大いに盛り上がったが——彼らはその騒ぎが世界に配信されていることに気づいていなかった。
【カイ……その気持ちわかりすぎる】
【それキツいな、俺なら死にたい】
【やっぱお前も人間だったんだな、親近感わいたわ】
【それでもカイきゅんは尊い】
【兄妹展開きたこれ】
【なんかこの三人てぇてぇな】
【ところで、堕天は終わったってことでいいの?】
【あんなにいた眷属たちも消えたみたいだからね】
【でも、これからどうなるんだ?】
コメントの流れに気づき、ふと冷静さを取り戻したリサがカイに問いかける。
「ねえカイ、これで堕天は終わった……ってことでいいの?」
その問いにカイは一瞬考えた後、首を横に振る。
「いや……まだ終わらない。次は天界がどう動くかだ……場合によっては、もっと激しい戦いになるかもしれない」
その時、カイの耳に再び『声』が響いた。
『カイよ……天界からお前に、大事な提案がある』
「……提案?」
『そうだ。人類の未来と……お前の対処についてだ』
広間に響き渡る静寂の中、カイの眉が僅かに動いた。
これから始まる新たな波乱を予感させるその言葉は、彼にとって予想外の展開を示唆していた。




