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第57話:天逆鉾とインドラの矢

 塔の頂上に立つカイは、黄金の光を纏い、燃えるような瞳で「天逆鉾アマノサカホコ」を高く掲げた。その手には人類の希望と祈りが宿り、全身から溢れる力が空間を震わせる。


「——これで終わらせる!」


 カイの言葉が天地に響き渡る。彼は静かに目を閉じ、天逆鉾をゆっくりと塔の中心に向けて突き立てる。


「天地開闢の礎にして創造と破壊の起源たる天逆鉾よ、この地の昂りを静めたまえ——『反転創造』」


 その一言が放たれた瞬間、塔全体が黄金の光に包まれる。天逆鉾を突き立てた地面から、眩い黄金の波動が炸裂した。


 波動は塔から地上へと広がり、火山、洪水、地震——すべての厄災を飲み込みながら、静かにそれらを消し去っていく。


「……おのれ、破壊を創造で反転させるとは」


 ルシフェルの冷徹な表情がわずかに揺らぐ。彼の目に映るのは、天地そのものを沈めていくカイの圧倒的な力だった。


 火山活動が沈静化し、隆起していた大地が穏やかに戻っていく。津波は海へと引き返し、激しい地震が波紋のように静かに消え去る。その光景を目の当たりにした世界中の人々が、画面越しに歓声を上げた。


 カイが天逆鉾を塔に突き立てたまま静かに立つ。その背後で、沈静化した地上の報告が次々と入る。


「火山の噴火が止まりました!」

「地震も収まりつつあります!」

「津波警報が解除されました!」


 テレビの前で戦いを見守っていた人々の間にも、わずかな安堵が広がり始めた。


【これが天地創造の天逆鉾か……】

【カイ、またしてもやったのか!?】

【これで本当に世界が救われたのかも】

【……人間がここまでできるなんて】


 しかし、その静寂は一瞬のことだった。


 突如として、空間が黒い光で包まれる。塔の広間から渦巻き上がる暗黒のエネルギーが、再び天を裂くように立ち昇る。


「——これで終わりではないぞ、カイ」


 ルシフェルが冷笑を浮かべながら、漆黒の光を四肢から放つ。彼の体が闇の波動に包まれると、四堕天使の力がさらなる猛威を帯び始めた。


「我が四堕天を召喚したのは……今回こそ確実に、お前たち人間の命運を絶ち切り、天界の道を開くためだ」


 その声と共に、ルシフェルの四肢から放たれたオーラが、彼の頭上に漆黒の光となって集まり高密な凝縮エネルギーの塊となり天へと放たれた。


 はるか天空でエネルギーがさらに濃縮され、巨大な岩石の塊となって顕現し、その周囲が燃え上がる。


「これで終わりだ……全ての愚かなる命に裁きを下す」


 天地を震わせる声が響き渡る中、空が赤黒く染まり始めた。


「天を裂き、地を穿つ原初の怒りよ!古より大地に刻まれし破滅の矢となり、全てを滅せよ——『隕滅天衝メテオストライク』」


 天高く放たれたエネルギーの塊が、暗黒の渦と共に燃え上がり、隕石へと変わっていく。その巨大な塊は、燃え盛る原初の怒りの炎に包まれ、大気圏を突き破りながら地上へ迫ってきた。


「これが、ラーマーヤナにインドラの矢と記された破滅の兵器。この地上を支配する、あらゆる生命を絶滅に導く大地の神の怒りだ!」


 その岩塊は赤紫に燃えながら空間を歪ませるかのように炎の尾を引き地上へと徐々に迫ってくる。


 カイは天逆鉾を握りしめたまま、赤く燃え盛る空を見上げた。彼の瞳に映る隕石は、直径10キロを超えるほどの巨大さを持ち、その重圧は大気を震わせていた。


「かつて地上を支配していた恐竜を絶滅させた隕石も、大地の神の怒りだったのでしょうか……」


 視界の端でニュース配信のアナウンサーが震える声で報じる。


「専門家によると、この規模の隕石が衝突すれば……地球全土の生命の85%が失われる可能性があるとのことです……」


 配信を見ていた世界中の人々は絶句した。呆然としたアナウンサーの声が切れ切れに響くなか、隕石が落下する速度は着実に増し、燃え盛る軌跡が地球の表面を真っ赤に染めていく。


 その光景に人々の希望は音を立てて崩れ落ち、恐怖と絶望の波が再び広がっていく。


【これ恐竜を絶滅させたやつ?】

【地球が終わる……もうだめだ】

【さすがにカイでも無理だね……】

【隕石なんて人間が止められるわけがない】

【どうやったって助からないじゃないか!】

【終わりだ、もう俺は諦めたよ】



 塔の頂上でカイは息を整え、天逆鉾を握る手に力を込める。しかし、あの隕石を止める術が今の彼にはない。


 そもそも今引き抜いたところで、大地を創造する神の力を持つ天逆鉾が、天空の物体に作用する保証はない。


「まさかルシフェル……ここまで計算していたのか」


「はっははは!さあ、選べカイよ。天と地と、どちらで人間を滅ぼすかをな」


 カイは視線を空に向け、迫りくる隕石の影に歯を食いしばった。空を覆うその燃え盛る巨影は、地上のすべてを押し潰すかのようだった。


 その時、あの『声』が、カイの心に静かに響いた。


『カイよ、このままでは人類が滅び、天界への扉が開かれる』


「天界なんて知ったことじゃない!ボクは無関係な人たちを救いたいだけだ!」


 カイの叫びに、『声』は一瞬途切れた。そして、まるで何かを確かめるかのように低く重い言葉が続いた。


『……信じるかは、お前次第だが、ひとつだけ方法がある』


「方法……?」


 カイの眉が動く。声はさらに深く語りかけた。


『だがそれには、途方もないリスクが伴う。失敗すれば、お前自身が世界にとって新たな厄災となるかもしれない。それでも……その方法を試すか?』


 その言葉に、カイの手が一瞬震えた。だが、すぐに握りしめた拳に力を込め、真っ直ぐに燃え盛る空を見据えた。


「リスクなんてどうだっていい……それで救えるなら!」


『人類最強のストレス耐性を持つお前でも、耐えられる保証はないぞ』


 カイは深く息を吸い込み、黄金の光が彼の体を包み始める。その光景に画面越しの人々はただ息を呑むばかりだった。


「構わない、方法を教えろ……!」


 その瞬間、声が静かに告げた。


『良いだろう。ただし、覚悟しろ。お前は、その一身に全人類の光と影を背負うことになる』


 世界中が不安と絶望が渦巻く中、カイが最後の決断に向けて覚悟を固めた。

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