表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/65

第25話:迫り来る大国の影

 装甲車両が街の喧騒を抜けて静かな山間の道に差し掛かると、アヤメは何も言わずに外を眺めていたカイの横顔に視線を向けた。

 リサは眠そうに頭を窓に寄りかからせ、メイはじっとカイを見つめたまま、何かを考えているようだった。


「到着するわよぉ」


 アヤメが短く告げると、車両は小さな施設の前で停まった。無機質な鉄製のゲートに囲まれた建物で、周囲に人影は見当たらない。


 外壁はひび割れたコンクリートと錆びた金属が剥き出しで、ところどころ苔が生えており、一見して廃墟のように見える。しかし、その隙間から覗く警備用カメラの赤い点滅が、ただの廃墟ではないことを物語っている。


 内部に足を踏み入れると、外観の荒廃した印象とは一転、壁一面に配置されたタッチパネル式のモニターや、光沢のある金属製の機材が整然と並んでいる。


 床はクッション材が敷かれており、長時間の活動にも適した設計だった。

 部屋の隅には自動防衛機構を彷彿とさせるタレット型の装置が鎮座しており、その存在感が不穏さを際立たせている。


「ここって……なんですか?」


 カイが疑問を口にすると、アヤメがゲートを操作しながら、ふと微笑む。


「ここは、昔ちょっと世話になった組織の施設よ。いまは独立してるけど、恩情ってやつで貸してもらえるの」


「その組織って?」リサが首を傾げる。


 アヤメは答えず、鍵を回しながら軽く笑うだけだった。


「ここに所属しているわけじゃないけどぉ、私が使える安全な場所。少なくとも、記者や余計なスパイが嗅ぎつけるには時間がかかるわねぇ」


「スパイって……そんな大げさな」


 カイは困惑しながら答えるが、リサが割り込む。


「カイ、もうその辺は諦めなさい。あなたの知名度は今日で爆上がりしたんだから、もう静かに暮らすなんてのは無理よ」


「え?この後、家に帰ろうと思ってたんだけど……」


「さっきの記者連中が、たぶん君の家の前に張り付いてるわよぉ……ゆっくりできそう?」


「えー、あんなのに囲まれた家に居るのは嫌だな……」


 カイが肩を落とす中、メイが不意にカイを見つめ真剣な表情で尋ねた。


「カイ様、許可を頂ければ……私がご自宅の周囲をクリアにしますがいかがでしょうか?」


「だから、それはダメなんだってメイ……」


 カイは両手を振り、メイを制した。その隣でリサが小さく笑いを漏らす。


「ねえ、メイの中を見ていい?元々S級の大蜘蛛が進化したんだから、人間の姿でもかなり強そうだよね?」


「中をですか?……これを脱衣すればよろしいのでしょうか?」


 そういうと突然メイが服を脱ぎ始めたので、慌ててリサが制止する。


「何やってんのメイ!アナライザーで見るって意味よ!……ちょっとカイ!こっち見るな!」


 メイが首を傾げると、アヤメは苦笑しながら言葉を濁した。


「この子ってあれ?ダンジョンで見つけたのぉ?顔が整いすぎててどこか人形のような雰囲気ねぇ……あ、悪い意味でなくってねぇ」


 すると解析を終えたリサが呟く。


「メイの強さはS+か……ていうか、私のアナライザーの解像度がめちゃあがってるんだけど」


 -------------------------------

 名前:メイ

 種族名:アラクネ・ナイト(人型進化種)

 ランク: S+(SS級に迫る強さ)


 特徴:人間の数十倍の筋力。片手で岩を砕けるパワーを持つ。鋼より硬質で絹のように柔軟な超硬糸を生成し自在に操る。外殻は圧倒的耐久力を誇り並の攻撃では傷一つつかない。毒・物理攻撃への耐性が非常に高い。


 属性: 主属性「防御」+副属性「器用」「治癒」

 防御能力が中心だが、器用さを活かした糸による支援や妨害、さらに治癒能力も持つ万能型。糸や毒などの「蜘蛛由来の特性」に加え、タンク役として敵を引きつけ、仲間を守る能力に長ける。


 弱点: 純粋な魔力攻撃(特に火属性)、毒無効以外のステータス異常への耐性がやや低い。


 -------------------------------


 リサはメイの能力値の高さに驚いていた。かろうじて炎に弱そうだから、自分が本気になれば制圧できるとは思うが、仮に肉弾戦となれば対抗できるのはカイくらいだろうと。


「メイ……あなた、さすが人間じゃないわね。ていうか、気軽に人を叩いたりしないように注意してね……」


「それは褒めてくださっているのですか?……私は心も体も人間のつもりです」


 アヤメはそんなやり取りを軽く聞き流しながら、施設の奥のドアを開ける操作を始めた。


 中に入ると、部屋は意外と整然としていて、最低限の家具や機材が備わっていた。リビングスペースには数脚のソファとテーブルがあり、その隣には簡易なキッチンも見える。壁にはいくつかのモニターが設置され、外部の状況を映し出している。


「ここで少し休んでねぇ。君たちも疲れてるでしょう?とりあえずゆっくりしなさいな」


 アヤメがそう言いながら冷蔵庫からペットボトルを取り出し、カイたちに渡す。


「ありがとう……けど、アヤメさんは?」


「私は少し情報を整理するわぁ。どうせここに来る途中で面倒な動きも見えたし」


 アヤメが不穏な言葉を残して隣室へ向かうと、カイたちはソファに腰を下ろした。


「……なんかすごいところに来ちゃったね」


 カイが呟くと、リサはペットボトルの蓋を開けながら苦笑した。


「ま、無事に寝られるだけいいんじゃない?今日は色々ありすぎたし、カイもまだ全快してないでしょ?とりあえず寝ておきなさいよ」


 そのとき、メイが真剣な顔で立ち上がり、リビングの隅をじっと見つめた。


「……メイ?」


 リサが不思議そうに声をかける。


「申し訳ありません。この空間、最適な防御配置を考える余地があります。角にある鉄の家具を移動させれば、万が一の場合に遮蔽物として利用できます」


 そう言うと、メイは数百キロ以上ありそうな鉄のロッカーをひょいと持ち上げ、淡々と入り口の前に運び始めた。


「ねえメイ、リラックスしていいのよ!?そんな戦闘準備しなくていいから!」


 リサが慌てて止めるが、メイは首を傾げたまま答える。


「リサ様、私は今現在、リラックスしている状態です」


「……ああ、もう好きにして」


 リサが困惑する横で、カイは思わず吹き出した。


「メイってなんか面白いね。まあ……慣れるしかないよ」


「……面白い?とは具体的にどの部分でしょうか?」


「もう、いちいち考えるの疲れたわ」


 リサが頭をふって項垂れてると、隣室から戻ってきたアヤメが、カイたちに静かな声で語り始めた。


「さっきも言ったけど……君たちがS級ダンジョンを攻略したことで、日本国内だけじゃなく海外も動き出してる……はっきり言うとUSAとChinaね」


「アメリカと中国?」


 カイが驚いた声を上げると、アヤメは頷いた。


「ええ。大国は、カイ君の力をどう捉えるべきか、これから議論を始めるでしょうね。そして……もし君が脅威だと判断されれば、手を打ってくるかもしれないわ」


「手を打つって……それって、攻撃してくるってことですか?」


 カイの顔が引きつる。


「場合によってはね。でもそれだけじゃない。君を味方につけようと接触してくる者も現れるでしょう。そしてその背後には、必ずと言っていいほど別の思惑が潜んでいる」


「じゃあ、ボクはどうすれば……」


 カイが困惑した声で尋ねると、アヤメは冷静に答えた。


「簡単よぉ。自分を見失わないこと。それだけ!」


 アヤメは真剣な瞳でカイを見つめ、続ける。


「君は自分が何者かを知るべきよ。自分の力量、その由来、根源とかね……無自覚な力は、いずれ誰かに利用されるだけだからねぇ」


「無自覚な……力」


 カイは拳を握りしめながら、静かに俯いた。


 アヤメの言葉が重く響く中、メイが無表情で手を自分の胸に当て、カイに跪く。


「カイ様は私が、この命に代えてお守りしますのでどうかご安心を」


「……ありがとう、メイ。でも君も無茶はしないでね」


 カイが少し苦笑すると、リサが呆れたように手を広げて頭を振る。


「はぁ、いい天然コンビよね……あんたたち」


「そうかもね……頼りにしてるよ、リサさん」


 カイがリサを見つめて微笑むと、彼女は照れ隠しのように軽く咳払いをし「あ、あたりまえでしょ」と言ってそっぽを向く。


 その和やかな雰囲気の中、アヤメは微かに笑みを浮かべつつも、心の中に緊張を抱えていた。


 彼女にはすでに、カイたちを狙う海外勢力の影がすぐそこまで迫っていることがわかっていた——。


(次回へ続く)






---------------------------登場人物紹介



挿絵(By みてみん)

名前: 神楽 アヤメ (Kagura Ayame)


年齢: 28歳

性別: 女性

身長: 168cm


外見:

銀髪をポニーテールにまとめ、赤い瞳と鋭い目元が印象的な美人。普段は動きやすい革のジャケットの下にボディスーツを身に纏い、腰に複数の剣を携える。鍛え抜かれた体型と冷静な表情から、一目で只者ではないと分かる雰囲気を持つ。


性格:

冷静沈着で合理的。しかし、皮肉や冗談を混ぜた軽い口調を使うことが多い。表面的には飄々としているが、根は真面目で責任感が強い。必要とあらば冷酷な判断も辞さないが、基本的には人間味のある判断をする。


ハンターランク: S級

フリーランスのS級ハンターとして活動しており、組織や国に縛られない自由な立場を取っている。ただし、過去に政府や特定の組織と関わりがあった様子が見え隠れしており、その詳細は不明。


現在の目的:

カイの異常な力に興味を抱き、彼を保護しつつその正体と力の背景を探ろうとしている。彼に対して敵意はないが、その力が引き起こす可能性のある国家間の問題に懸念を抱いている。




挿絵(By みてみん)

名前: メイ


種族名: アラクネ・ナイト(人型進化種)

年齢: 外見年齢は17歳前後(実年齢は不明)

性別: 女性

身長: 159cm


外見:

艶やかな黒髪と蒼い瞳が特徴的で、その完璧に整ったルックスはどこか人間味が無い。本人も純粋な人間ではないことに少し劣等感を抱いている。黒を基調とした装いを好み、繊細なレースや優美なデザインの衣装を纏うが、それらは全て超硬糸で編まれた自作のもの。その糸の強度は異常で、通常の弾丸や刃物では破壊不可能な防御性能を持つ。まるで装甲を纏ったかのように耐久性が高いが、軽量でしなやかなため、彼女の動きを妨げることはない。


性格:

基本的には寡黙で、感情表現が控えめ。ただし、カイに対しては絶対的な忠誠を誓い、彼を守ることを最優先とする。彼女の天然な言動が周囲に和やかな空気をもたらすことも多いが、戦闘時には冷徹な一面を見せ、必要ならば非情な判断を下すことも厭わない。特技を駆使して仲間の防御力を高めることにやりがいを感じており、「役に立つこと」に強い喜びを見出している。


特技:

元々が蜘蛛である彼女の器用さは卓越しており、仲間たちの防御装備や衣装も超硬糸で作り出すことができる。今後、仲間の衣装を彼女が手がけることで、チーム全体の防御力が格段に向上することが期待される。


戦闘スタイル:

近接戦闘を得意とし、圧倒的な筋力と身体能力で敵を圧倒する。生成した「超硬糸」を使った拘束や防御も得意で、戦闘では攻守のバランスに優れる。加えて、蜘蛛由来の特性である「毒の爪」や「治癒糸」を使うことで仲間の支援も可能。

・得意武器: 自身の爪や生成する糸

・属性: 防御(主属性)、器用/治癒(副属性)

・特徴: 圧倒的な耐久力を持つ「外殻防御」と、鋼よりも硬い糸で戦闘区域をコントロールする。


背景:

元々はダンジョン内に生息していたS級モンスターのレッサー・アラクネだったが、カイと出会い魅了され陶酔したことをきっかけに「進化の魔石」で人型へ進化。人間社会の感情や文化には不慣れだが、カイを主として強い忠誠心を示し、彼を「守護する存在」として活動を誓う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ