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第20話:原初の色を知る者

 リサの頭上に燃え盛る火球が迫る。その灼熱のエネルギーは、ただでさえ熱に満ちた空間をさらに苛烈なものへと変えていく。


『儚き命に幕を引いてやろう』


 イフリートが冷酷に呟き、火球をゆっくりリサへと落下させる。

 

 それはまさに、逃げ場のない死の宣告そのものだった。


「リサさん!」


 カイは再び壁を突破しようとするが、炎の壁は頑なにその道を塞ぎ続けていた。


 焦燥感が彼の心を苛む中、リサの魔法をきっかけに記憶の奥底で封じられていた何かが揺れ動くのを感じていた。


(思い出せ!リサさんの水の魔法を見たときの、あの感覚——)


 その瞬間、カイの中で何かが弾けた。


 カイの視界が一瞬暗転し、様々な色の塊が収縮し、爆発し、混ざっては散り、また収束していく。


 そして各々の色から風、火、水、地が生まれ、調和する静かな世界。


 それは、彼がかつて1000年間も修練した三界の記憶そのものだった。


 ——自然との調和……全ては循環し、相反しながらも一つに溶け合う。


 広大な自然の中で、彼が体得した感覚が蘇る。耳を澄ませば、炎の怒りに隠れた空気の震え、地の震動、水のさざめきが己の肉体と溶け合い響きあっていることを智覚する。


 その瞬間、カイは手を伸ばし、空を掴むようにして呼吸を整えた。


「そう、ボクは……原初の色を知るもの——」


 カイがゆっくりと目を開けると、炎の壁がまるで彼を歓迎するかのように道を開けた。


 リサを守るべく火球の進路に立ちはだかるカイの姿に、イフリートは僅かに目を見開く。


『これは……一体なんだ?』


 カイは火球に向けて手をかざした。すると、その全身が淡い青い光に包まれ始める。その光は冷たくも温かく、空間に調和をもたらしていく。

 

 その光が火球の縁に触れた途端、まるで蒸発するかのように一瞬にして炎が消滅した。


【きたぞカイの覚醒ターン!】

【俺は最初からこうなると思ってた】

【やばい!やばいがやばい】

【カイくゅううううんすきすきぃぃ】

【おまえらうるせえ!】


「え?カイ……?」


 リサがかすれた声で彼を呼ぶ。カイは振り返り、優しく微笑んだ。


「もう大丈夫。リサさん、少しだけ休んでて」


 つぎに、カイの手の上で眩い蒼い光が大きくうねり、渦潮のように回転しはじめる。それは一瞬のうちに巨大な水の槍へと姿を変え、カイの手に収まった。


『我の炎を鎮めるとは……人間の力を超えているな。何かに覚醒したか?……だがこれで終わりではない』


 イフリートの瞳が赤黒く輝き、空間全体が再び揺らぎ始めた。溶岩の湖面が激しく沸騰し、無数の炎の槍が生み出される。それらはカイに向かって一斉に放たれた。


 しかし、カイは微動だにしない。


「ボクにはわかるよ。この炎は暴れているだけだ」


 カイがもう一方の手をかざすと、空間に蒼い渦が現れ、炎の槍の群れを打ち払った。その余波が生じた風が空間を駆け巡り、さらに湖面から水蒸気を引き寄せる。


 リサはその光景に目を見張った。その戦いっぷりは、これまでのカイとはまるで別人のようだった。


「カイ……そんな力、いつの間に……」

「リサさんのおかげで、思い出したんだ」



『ほぉぉ……その力、興味深い。しかし人間よ、その程度では我を屈するにはまだ足りぬわ』


 そう言うとイフリートの周囲の空気がまるで発火したかのように灼熱の炎へと変わる。さらにそれらを竜巻の様に回転させ自身へと取り込んでいく。


するとその赤く燃えるような体躯が、明るさを増し、高熱の光の塊へと成長してく。


 さらに溶岩湖のマグマが湧き立ち、その体へ吸い込まれ、赤から白に近い灼熱の光を纏ってゆく。


【これなんていう核融合?】

【温度が高いほど炎は白くなるらしい】

【1万度超えてるとか?】

【もはや光の魔人やんけ】


 次の瞬間、イフリートの全身から凄まじいエネルギー波が放たれる。


『この地の炎を全て糧とし、貴様らを塵に還す!』


 全域を覆う白炎の嵐が巻き起こり、その光で空間が明るく染まる。リサはその威圧感に膝をつきそうになるが、前に立つカイの背中を見て踏みとどまった。


「カイ……私も……」


 リサが弓を手に再び立ち上がろうとしたその時、カイは振り返り、静かに首を振った。


「リサさん、ここはボクに任せて」


 彼の言葉には、揺るぎない自信と優しさが込められていた。それはリサに、無理をせず身を委ねる勇気を与えた。


 カイが再びイフリートへ向き直る。彼を包む青白い光がさらに凝縮し、青い水晶球のようになってリサの周囲を包み込んでいく。


『不思議な力をもつ少年よ。その身に秘められた力、我に見せてみよ』


「わかった……その代わり、その炎の怒りを鎮めたら、ボクに従ってもらうよ」


 カイは青い槍を掲げ、白炎の嵐の中心へと歩み寄った。その姿にイフリートの瞳がさらに輝く。


『おお、我が覇炎に挑むか。ならばその命、灰も残らぬまで燃やし尽くしてやろう!』


【カイいけ!お前ならやれる!】

【もう炎じゃなくて太陽やん……】

【カイくんのヘタレ攻めきゅんきゅん】

【おれの母性が暴走ちゅcぅぅう】

【おい!興奮を抑えろ】

【たまらんこのライブ感!】


 同時接続数はついに——200万人を超えている。


 燃え盛る白炎と、蒼い光がぶつかり合おうとするその瞬間、配信は最高潮の盛り上がりを迎えていた。


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