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第3話 試験対策

「訓練相手…。まぁ、そんなところかな。凛に『雪を任せるので、とりあえず無理させないてください』って頼まれたのよ」


 メルはそう言って、私の方を見て呆れた表情を浮かべる。な、何を言ってくれたんだ、凛の奴…。


「それだけじゃなさそうな感じだけど。メルって、武器使えるっけ」


「使えるわよ?というか知っているでしょうに。…ということで、今の適性からゆっくりと調べていきましょうか、雪ちゃん」


「う…。お願いします…」


 メルに確認の意味を込めて聞くと、メルは当然と言って私の体をまじまじと見る。そして、そんなことを言ってきた。ぶっちゃけ能力に制限を掛けるということをしてこなかったから、今の体がどこまで出来るのか分からないんだよね。軽い武器ならいけそうな雰囲気があるけど…。


「嫌そうね。でも、やらないといけないと思うわよ。雪ちゃん、試験はいつだっけ」


「ら、来週…です」


「そうよね。しかも飛び入りの試験になるから、先生たちのあなたたちに対する視線は厳しいものだと思った方が良いわ。だからこそ、それなりに将来性があることもアピールしないといけないと思うのよ」


 露骨にメルの提案に嫌そうな表情を浮かべたら、メルにそう言われてしまう。来週となると、猶予はそこまでないし。でも、メルの調査とかろくなことにならないという経験が、私を拒もうとしてくる。


「あー、落ちないようにってことか。でも、それこそ調整とか難しいんだけど。私、最低クラス目指さないといけないし」


 何とか逃げ道ないかなとそう言ってみる。


「さっきちらっと見た限りでは十分落ちるギリギリにいると思うけどね。本気で鍛えなければクラスは一番下になるんじゃないかしら?というか、あなたを逃がすわけにはいかないから覚悟を決めなさい」


 あ、これ無理なやーつ。というか、真正面から弱いと言われると心にくるものがある。日頃から強いって自覚あったからかなぁ…。というか、それ以外は無いか。でも、一番苦手な分野で戦おうとしているこの気概は褒めてほしい。かも。


「はーい…。覚悟決めます…」


 しゅんとしたまま私はそう頷く。頷くしかないという方がこの場合正しい気もするけど、こればかりは仕方ないと腹をくくるしかないわけで。


「それじゃあ、始めましょう。まず、あなたが一番使いやすそうな武器を決めないといけないわね。というわけで、この訓練場に置かれていた練習用の武器を一通り持ってきたの」


「多い…。というか、こんなに置かれていたんだ。意外と物資はそろっているよね…。この組織」


「えぇ。…さっき見た感じだと、弓とか銃系は扱えそうよね。後は短剣類かしら…。筋肉つければ大剣でも余裕で持てそうだけど、今はそんなものかしらね」


 山のように積み重なった武器のカゴに手を掛けながら、メルはそう言う。そしてさっきの動きから使えそうな武器をピックアップして、どんどんカゴから出して並べていった。


 弓とか銃に関しては完全な遠距離武器か。うーん、基本ソロで戦ってきたから遠距離攻撃とはあんまり無縁なんだよねー。できるかなぁ。


「なるほど。確かに何個かやってみたけど、軽い物の方が動きやすいし普段の戦闘に近い感覚で戦える気がするもん」


「やっぱりそうなのね。あ、そうだわ。銃と弓に関しては扱えそうなら構造の勉強もしなきゃいけないわね。普通の武器創造は構造を知らないとうまく創造できないのだから」


「えっ。そうなの?初耳…」


 メルの説明に私は思わず首をかしげる。あれ、見たまま創造できるものじゃないんだ。…わお、私の能力、本当にすごいものだったんだ。でも、ただただ皆の能力を一つにまとめた物のはずだから、武器創造の方々もそうできるものな気がするけどなぁ。


「…だと思った。やっぱり、雪ちゃんの能力は何かがおかしいわ。武器創造でも見ただけの武器を作り上げることは不可能に近いって聞いたわよ」


「はえー。初知りだよ。てことはかなり気を付けないとか…」


「そうなるわね。一週間で知識を得られるとは思えないし、まずは剣に絞って入試までに鍛えましょうか。そして、入学した後に興味があれば銃の勉強。とかみたいにした方が効率的ね」


「ラジャ、メル」


 私はメルのこれからの計画に文句をつけることなく、そう返事をする。これは逆らわない方が自分のためだ。体的にも、将来的にも。


「じゃあ、まずは短剣から行きましょ。はい、これ持って切りかかってきて頂戴。雪ちゃんが剣を持って近距離挑むイメージはあまりないけれど」


「確かにね。でも、ナイフぐらいは常備していたよ。近くに接近されても対抗できるように、武術もそれなりにやっていたし」


 メルは私に練習用の短剣を手渡し、自前の武器を手に構えた。そして、ちょっと失礼な発言をかましたメルに、私はそう言い返す。ま、ちゃんと剣を使ったことはあんまりないかも。それでも、それなりに戦えるようになるために教え込まれた技術はあるけど。


 ま、良いや。手に渡された武器を何回か振り、私は範囲と短剣の軽さを確認する。思いっきりぶん回して手からすっぽ抜けるとかは、なるべくしたくないし。


「…それなりにやっぱり扱えるのね…」


「ん?何か言ったー?」


「いいえ、なんでもないわ。それよりもさっさと来なさい」


 メル、今何か言っていた気がするのに。さらりとはぐらかし、メルは武器をひらひらと振って誘う。


 んー、あんまり気にしない方がいいか。時間も勿体ないし。


「それじゃあ、行くね」


 短剣を利き手の右に持ち、私はダッシュでメルとの距離を詰める。そして、姿勢を低くするとそのまま懐に切り込んだ。


「っ。早いわね、相変わらず」


 鈍い金属音がするとともに、私は押し返された。いやー、本物の長剣相手に短剣は不利かー。素早さや身軽さを活かして攻撃したいけど、ベテラン相手にはきついものがありそう。


 そう考えつつ、私は背後を取る方に切り替えて隙を伺おうと、相手の攻撃を何とかかわしていく。す、隙なしか…メルの奴。


「あーもう、すばしっこいわね」


 メルのその文句を聞き流し、私は一度距離を置く。そして、能力を使わない範囲での全力を出し背後を狙いつつ、私は横を狙って武器を右から左手に持ち替えた。


 …脇を狙うのは大ぶりの武器はそこが一番隙ができやすく、分かっても反射で防ぎずらい。…って、そう言えば誰かから教えてもらったっけ。気付いた時にはそう狙うように体が覚えていたけれど。


「…メルー」


 私はそうメルの名前を口にした。なぜなら、攻撃が当たらないから。文句を言いつつ、きちんと避けてくるあたりに余裕を感じてしまう。むかつくー。これぐらいなら問題無いってか。


 そんなことを考えていたら、首筋に硬いものが当たる。あっ。


「…はい、ここまで。雪ちゃんって元々扱っていた経験があったりする?」


「まぁ、一応は。どんな敵にも対応できるように鍛えられてきたから。でも、今のは特に能力使っていないかな」


 メルは私の首筋に当てた剣をしまいながら、そんなことを聞いてくる。私は特にメンバーに隠すものでは無いかなとそう答えた。実際、能力による身体強化や一時的なリミッター解除とかって学校に通う上では使うことはできないからね。あくまで、学校に通う想定で今は鍛えないといけないってわけ。


「能力って言うと、身体強化系か。そう言えば、武器創造だけっていう縛りがあったわね」


「うん。いつもは身体強化を信頼して戦っていたから、やっぱり体の動きは鈍くなるかぁ…。って、メルと戦って感じたよ」


 メルはうんうんと私の答えに納得する。そんなメルを見つつ、私は本音をこぼした。


「雪ちゃんは例外よ…。それは普通より実力あるなって目で見られるわけね。新しく加入するメンバーが、訓練場であなたと出会うと自分がまだまだだって思い知らされるって愚痴を聞く理由が判明したわ。能力を生かした幅広い戦い方の習得…今回の学校も縛りを入れたのは成長を願ったから?」


 え、そんな目で見られていたんだ。心外だなぁ。でも、そんな理由で私を学校に入れるとは思わないんだよなぁ。あの過保護者は。


「あのボスがそんな理由で入れようとしないよ、普通。ただでさえ、おかしいと思われない様に振舞えって言われてるから。今回のは依頼があるから、ついでに苦手分野を克服しとけって魂胆よ。良い理由が出来たってね。じゃなきゃ高校に入学させれない。バレたら国に囲われるってボス、心配していたから」


 私はメルにそう言い放って、「で、次は?」と話を変える。実際、こんな話はあとでいくらでもできるし。何より、あのボスの本意が見えてこない以上、私は憶測でしか話せないんだから。


「あ、そうね。まぁ、雪ちゃんをこうしてメンバーに入れている時点で、その能力が国にどう影響を及ぼすのかっていうのは危機感を抱いていたんでしょう。でも、今回のは依頼があるのだから学校に通わせられる理由が出来たって喜んでいるわよ、きっと」


「そうだと良いけどね」


 メルのそんな話をほぼ聞き流す。そんなの、希望でしかない。


 私のそんな考えが分かるのか、メルは苦笑する。そして、私に長剣の方を渡してきた。


「…雪ちゃんとボスはすれ違っている気がするわね。っと、これも使ってみましょう。長剣が振れるのであれば、きっと槍とかの長物が扱えると思うけど」


「一人でやっていた時は上手く扱えて無さそうだったけど、実戦だとまた変わるもんね。それじゃあ、行くよ」


 長剣を両手で握り、体の前で剣を構える。これは練習用の刃の無い物ではあるけど、本物とそん色ない重さが再現されている物になる。…あれ、重さぐらいは能力で何とかなりそうだけど…。あ、でも重さによってはそのまま手から離れかねないか。じゃあ、この重さが指標かな。


 私はそんなことを思いつつ、メルに切りかかった。さっきの短剣とは全く違い、剣の重さに私は上手く振れず、かなり遅めのスピードになっている。


「…雪ちゃん、ストップ。もしかしてだけど、そんなに筋肉ついてない?」


 私の剣を右手の人差し指と中指で受け止めたメルは、そう聞いてくる。


「うん。身体強化、いつも使っていたから鍛えてない。ボスからもあんまり筋肉つくと悲しいからやめてって止められたし」


 メルの質問に私はコクっと首を一つ縦に振る。うん、あんまり鍛えてないよ。それなりに戦えるようには鍛えてあるけど、基本は能力に頼ることが多いからね。


「な、なるほどね…。じゃあ、筋力を身に着けるところから始めましょう。長物はそれから持つようにした方が良いわね。短剣はスピード重視の動き方で大体何とかなるから、入学試験は短剣で行きましょう」


「…うぇ、筋トレしなきゃなのか…」


 メルは私の方を見ながら考える様子を見せながらそう言ってくる。私は筋トレに嫌な反応を示した。


 能力で何とかなるし、他と違って短期間で中々実感がわかない類のトレーニングは大の苦手な私。メルとは長い付き合いだし、そこらへんは分かってくれると思うけど…。


「雪ちゃん。今回の依頼を考えると、筋力をつけないとお話にならない場合が多いと思う。実際、学校内では常に雪ちゃんは制限を掛けられることになるでしょうから。だから、流石に諦めて筋トレ、しましょうね。メニューはこっちの方で考えておくわ」


「…そっか…。能力に頼れない以上、ノーマルの体で何とかできるようになる必要はあるか…。メル、なるべくお手柔らかに、かつ私が飽きない様なメニューをよろしく」


 私を諭すようにメルは説明してくれる。というか、ボスもこれが分かってて依頼しているんだろうなぁ。もっと強くなれるために。


 基本、身体強化は元の体に影響される。鍛えた分だけ、能力による上昇幅は大きい。それでも、その人の体の限界を超えることはできないって言われているけど。


「そうするわ。とりあえず、短剣の練習を時間いっぱいしましょうか?両手で戦う双剣に慣れれば、とりあえず試験は突破できるはずだから」


「うん、わかった。メル、お願いね」


「えぇ。とりあえず、能力で作ってみて頂戴」


「…そこからか」


 私はメルの提案に頷いて、武器を貰おうと手を出す。すると、メルは首を横に振り、そんなことを言ってきた。


「双剣、で良いんだよね?そこの練習用の短剣みたいなやつを2本」


「そうね。まずは武器を作れるようになること。そして、それを維持しながらそれなりに戦えるようになりましょう。武器創造は、基本5分から1時間の制限が出たり、また本人の集中力だったりが武器の具現化に影響を及ぼすから」


「了解。じゃあ、作るね」


 私はメルにそう説明され、素直にさっき持った武器をイメージして2本作り出す。そして、本格的な訓練が始まった。

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