7、舞の恋心(2)
あたしは留年してみんなとは違う学年の違うクラスになってしまったけど、一年生と二年生の頃はみんなと同じ演劇クラスの一員だった。
その中でも樋坂君は最初からクラスの中心にいた一人だったの。
本人は口が悪いところもありつつ、動じない性格でマイペースだったけど、演劇に注ぐ熱意は誰よりも強くて、彼の書いた学園祭での脚本や、演技指導は実に親切丁寧で本格的なもので尊敬してた。
それは、既に亡くした樋坂君の両親が劇団員で、彼もまた劇団入りを目標に目指している節があったからだと思う。
転機が訪れたのは、一年生の学園祭が終わった後のこと。
あたしは学園生活にも慣れてきたところでアルバイト先を探していた。感謝してもしきれない、あたしや光を育ててくれた両親に報いるためだ。
そんな時に見つけたのが、創作料理店”ファミリア”だった。
美しい緑が映える、落ち着いた雰囲気の外観をしたお洒落なお店。
チェーン店に比べれば価格帯も高く、経営規模も小さいけど、内装は温かい雰囲気があって、時間帯によってはクラシックやジャズもかかるお洒落さもあって、あたしはすぐに気に入った。
それに、お持ち帰りもできる奥さんの作るデザートも美味しくて好きで、あたしのお気に入りになった。
お店は夫婦で経営していて、アルバイトにはクラスメイトの永弥音唯花さんが働いていたの。
アルバイト募集の張り紙が店内に張っていたこともあり、あたしはダメもとで応募した。そして、あたしは不思議と三人に声が大きくて活発なところが好かれて念願のアルバイト先を手にすることが出来た。
髪を金髪に染めていたけど、そのまま働かせてくれたのもあたしにとっては喜ばしいことだった。
こうして学園生活をする傍ら、一から”ファミリア”の仕事を覚える毎日が始まったわ。
あたしはウェイターから始まり、アルバイト第一号である永弥音唯花さんを同じ学年でクラスメイトではあったが先輩と呼び、教育係として仕事の教育を受けながら両親の助けになるために一心不乱に働き汗を流した。
樋坂君はお店の常連さんだった。あの頃は必死過ぎてあまり深く考えていなかったけど、樋坂君は唯花先輩のお隣さんで幼馴染、一緒にいるのが当たり前のような存在だったの。
だから樋坂君は真奈ちゃんを連れて頻繁にお店に来ていた。この頃のあたしは、樋坂君がよく外食をする理由も考えずにいて、樋坂君が両親を亡くし、真奈ちゃんと二人で暮らしていることさえ、知らなかった。
”ファミリア”は忙しい時は忙しいけど、暇な時間もあったから、よくお店に来ていた樋坂君と話す機会も多かった。学園の中では男女で会話することはあまりなかったから、樋坂君との会話は新鮮で楽しかった。
二人でその頃、よくしていたホットな話題は学園祭をきっかけに付き合い始めた、兄妹の光とクラスメイトの神楽さんとの交際話だった。
神楽さんが男装して学園を通っていることも、光と付き合っていることも知っている人はごく僅かだったから、あたしが知ってる情報を基に会話をすると、樋坂君は凄くノリ良くホットな話題を一緒に楽しんでくれた。こればっかりは誰しもが興味を持つ話題を提供してくれる、光に感謝してるわ。
次第に仲良くなっていったあたしと樋坂君は学校帰りにも出かけるようになっていった。
樋坂君はアルバイトを頑張るあたしを誉めてくれて、アルバイトがない日はゲームセンターやラーメン屋に出掛けて気分転換に付き合ってくれた。
丁度あたしは光が神楽さんと交際を始めたことで遊び相手が不足していたから都合がよかったの。
樋坂君の方は、唯花先輩と出掛けるのと同じような感覚であたし個人を意識してなかったのかもしれないけど、あたしは男の子とデートしているみたいでいつもドキドキさせられてた。