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4、三人姉妹の残り火

 意識を取り戻し、再び屋台を回った後、りんご飴を舐めながら神社の本殿近くまでやってくると遠くから見知った巫女服姿の女性が駆け寄ってくるのが見えた。


「あら~満喫しているようですね~!」


 眠くなってしまいそうになる柔らかな癒しボイスを放ち登場した女性、望月実椿(もちづきみつば)さんだ。彼女の足元には可愛らしい猫が二匹引っ付いて来ていて、それを見ていると不思議な光景でもある。


「ごきげんよう、実椿(みつば)さん。お忙しいところ恐縮です」

「もうっ! 遠慮はなしですよ~! ご案内すると約束しましたよ」


 目のやりどころに困る豊満な胸元を揺らしながら抱き付いてくる積極的な実椿さん。私もまだ会ったことは二度しかないので、ボディタッチが激しいのは天然でやっているんだろう。実に困った人だ。


「お姉ちゃん、この人は?」


 光は近寄りがたい空気を感じ取って距離を取っているのか、遠慮がちに声を掛けてくる。そうなってしまうのも仕方ない、実椿さんと私では身長差があるせいで私は完全に実椿さんの巨乳に押しつぶされている。


「知枝はヤバい人を引き寄せ過ぎじゃないかしら……」


 猫を引き連れ、胸を顔に押し付けてくる常識の通用しない相手を前にして、舞は諦めを感じているような表情になってしまっている。


「実椿さん……さすがにそろそろ離れて頂けますか? 息が出来ないです……」


 このままでは”幸せな永遠の眠り”に堕ちてしまうと危機を感じ、何とか実椿さんの身体を離す。

 歓迎してもらえることは嬉しいが、これでは何の説明も出来ないまま時間だけが失われかねない。私は呼吸を整えてから、舞と光に実椿さんのことを説明しようと口を開き、かいつまんで説明をした。


 神代神社には野良猫が住み着いている。

 実椿さんは神主さんの娘さんで生まれた時から長年ここで暮らし続けながら神社での家業を続けている。


 実椿さんは三人姉妹の末っ子で長女の望月麻里江(もちづきまりえ)さん、次女の望月千尋(もちづきちひろ)さんは厄災の発生時に犠牲となって亡くなっている。その原因が魔法使いとしてゴーストとの度重なる戦闘で傷つき力尽きたことを私は14少女漂流記の実録映像の中で知っていて、手記の探索の際に実椿さんと出会い、様々な思い出話を聞かせてもらっていたのだった。


「それで……実椿さんとは灯篭流しを案内してくれる約束をしていて。

 こんなに混雑すると知らなかったのですが、大丈夫なのですか?」


「いいのよいいのよ、お手伝いさんが自治体からもたくさん来てくれてますから。それに、あの時から三十年ですもの、私だって灯篭流しに参加して祈りの時間を過ごしたいですから」


 包容感のある優しい物腰で実椿さんは頬に手を置きながら話す。やんわりとした空気感を持ちながら、大人としての芯の強さも持っているのが実椿さんの特徴だった。


 この街で暮らす人には、厄災によって犠牲となった人々があまりにも多い。現に実椿さんも二人の姉を亡くしている。神社を管理する者でありながら、家族を失うこと、友達を失う痛みを誰よりよく知っているのだ。


 光と舞にも事情が分かったところで、私たち四人は灯篭(とうろう)流しが行われる河辺へと向かって歩いていくこととなった。


「少し細い道が続きますから、足元に気を付けてくださいね」


 すっかり陽が沈んだ夜空の下、実椿さんが提灯(ちょうちん)を手に持ちながら林道の中を入っていく。


「猫も一緒に付いて行ってる、本当に猫に懐かれてるんだね……」


 実椿さんの後ろ姿を眺めていた光は言った。

 確かに不思議な光景だ、猫も光り物が好きなのかもしれないが、実椿さんの不思議な包容力に包まれているのかもしれない。


「さぁ、私たちも行こう! 立ち止まっていられないよ!」

「そうね、人混みに巻き込まれる前にいきましょう」


 私の言葉に呼応され、先導する実椿さんに付いて行く私に二人も一緒になって追いかける。


 夜になっても蒸し暑さは続き、生温い空気が漂う中、私たちは夜の林道を歩いた。


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