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3、透明な光の記憶

 次に私たちは射的ゲームをすることにした。

 光、舞、私の順番でゲームに参加することになり、さっそく光が射的銃を手に持ち、標的に向けてコルクを装填し構える。


 私と舞が見守る中、コルクは発射されるが、狙いを定めたジバニャンぬいぐるみは命中してもびくともしなかった。


「やっぱりそれはフェイクじゃない?」


 とても倒れそうにないぬいぐるみを見て舞は言った。


「そうだね……今度はプラモデルを狙ってみるよ」


 光が狙いを定め、発射した一撃は外れ、最後の一発がプラモデルに命中するが倒れそうで倒れない微妙な結末に終わった。


「くそ……アポロ11号が……」


 本当に景品が欲しいとは言わないが、光は実に悔しそうだった。

 これはゲームだ、景品はあくまでおまけで、倒せるか倒せないかを真剣に競うことに楽しみがある。


「じゃあ、今度はあたしの腕を試させてもらうわね」


 握り拳を作り自信ありげに意気込む舞、微妙なさじ加減を調整し、三発目で景品を落とすことに成功した。


「なんとか一つは落とせたわね……」


 舞は安堵してほっと一息吐いたが、結果には満足していない様子だった。舞が落とし景品として手に入れたのはかなり年代物になって色褪せている昔の漫画だった。屋台を開くお兄さんによれば壮絶すぎる漫画家の悲惨な実話が語られたレアものらしいが、私にはその価値が全く分からなかった。


 とりあえず週刊誌で16Pを一人で連載し続けるのは人間がやる仕事ではないらしい。確かに一日中机に向かってペンを入れるのは心が壊れそうだ。


 そうしてついに私の番になり、二人が奮闘する姿を間近でみていたこともあり緊張しながら汗ばんだ射的銃を受け取り、ハンカチで拭きながら構える準備をした。


「お姉ちゃん、あんまり真剣にならなくてもいいからね」


 緊張の色を隠せない私の態度に光は優しく声を掛けてフォローしてくれる。

 私は既にその声が遠く感じるほどに、狙撃に意識を集中し始めていた。


 大きく息を吸い込んでゆっくりと吐く。

 私は光が惜しくも取れなかったアポロ宇宙船に狙いを定め、勢いよく発射した。

 しかし、狙いは完璧で命中したにも関わらず、台から落ちることはなかった。

 二射目、少し高い位置を狙って発射した一撃は、見事にプラモデルを落下させた。

 

 サングラスを掛けた怪しい屋台のおじさんが豪快にベルを鳴らして私の雄姿を褒め称えてくれる。


 三射目、コルクを装填し次の狙いをゆっくりと考える。

 時間を有効に使い、とりあえず狙いやすそうな中央に鎮座したアトムの人形に照準を定め、真っ直ぐに捉えた。


 長い砲身がズレないよう、力を込めて震えを抑える。

 そして、周囲の目をシャットアウトして、意識が研ぎ澄まされた次の瞬間、最後の一撃を私は放った。


 だが、視線の先で発射されたコルクがアトムの人形に命中し、落下する姿は見えているのに、私には恐ろしいくらいに大きい実銃の銃声が耳に鳴り響き、そのまま視界がグラついて意識を保てなくなった。

 

 あぁ……これはいけないと思った。

 身体の制御が効かない、視界が白く染まり、見たくもないフラッシュバックが過去の罪を思い出させようと突き付けてくる。


 恐怖に顔を歪ませ泣き叫ぶ人、鳴りやまない銃声、血飛沫を吐き、力なく倒れ込む人。

 逃げ場はどこにもなく、タバコの煙以上に嫌な匂いが教室を充満していた。


 これは遊びじゃない、誰かがやらなければ死体の山が積み上げられる、地獄のゲームだ。


 私は……その時、自分のするべきことが分かっていた。


 私だけが、悲惨な光景が広がったこの状況で恐れる心を持っていなかったから。人が目の前で死んでいくのはどうしようもなく嫌なことだけど、辛いことだけど、無差別な殺戮を続ける残虐非道なテロリスト達を恐れる気持ちは全くなかった。


 だって……私は自分を恐れても、彼らを恐れることはなかったから。


 覚悟を決めて、引き金を引く。

 テロリスト達が私の動きに追いついてこれるはずがなかった。

 

 ただ、人を守りたかっただけなのに、私のしたことは死体の山をさらに積み上げる行為だった。

 

 これ以上、犠牲者を増やさないよう正義を行った私だけが、人を殺しておいて罪を償わずに生き続けることになったのだ。


 殺人犯の息の根を止め、全てが終わったことを確かめて私は脱力した。


 大学での銃乱射事件の経験を思い出し、意識が一時的に落ちてしまって再び覚醒するのに時間がかかった。


 光と舞には迷惑を掛けてしまった。目を覚ました私は、心配そうに見つめる二人の姿を見て申し訳ない気持ちになった。

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