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(2)――全く、本当に都合の良い夢だ。

 それが夢だということは、すぐにわかった。

 だって僕が見ている光景は、半年前に失ってしまった日常だったから。

 それが今となっては、嘘くさく感じてしまう。

 だからこれは、僕がみている、僕の願望が詰まっただけの夢なんだ。

 父さんと、母さんと、兄さんと、ばあちゃんと、僕。

 いつもの五人で夕飯を囲って、クイズ番組を観ながら、ああだこうだと会話する。

 こういう番組で一番に答えをひらめくのは大抵の場合、兄さんだ。次に母さん、僕と続いて、父さんは最後の最後まで首を捻る。そんな父さんを見て、ばあちゃんが微笑む。

 半年前までは、この光景が当たり前だった。

 この生活に変化が起こるとしたら、兄さんが大学進学で県外に出るような、ずっと先のことだと思っていた。それだって兄さんのことだから、連休の度に帰って来てくれるに違いない。だから僕は、この団欒がなくなることはないと信じていた。

 けれど、変化はある日突然、暴力的に訪れた。

 今から半年前の三月。

 無遠慮に、残酷に、僕ら家族の生活は一変させられた。

 あの日を境に、世界は確かに反転した。

 なにもかもが反対で、逆さまで、息苦しい。

 団欒が崩壊し、目の前が真っ暗になる。

 前も後ろもわからないまま、それでも僕は家族を探して歩き出した。

 不安に駆られながら進んでいくと、ずうっと先の最果てに人影を見つけた。

 遠くからでもわかる。

 あれは父さんと母さんと兄さんだ。

 三人とも僕に背を向けていて、こちらには気付いていないようだ。

 ――ねえ、僕のこと、怒ってる?

 その背中に向かって、思わず問いかける。

 ――だって僕の所為だ。だから、前みたいに叱ってよ。

 答えはない。

 ――代わりに僕がそっちに行く。だからお願い、戻ってきて。

 一縷の望みに縋りついて、僕は続ける。

 だけど、頭の隅ではもうわかっていた。

 叶いっこないことを言っていることくらい、僕が一番理解している。

 あの日のことは僕が居なければ起こらなかったことなのに、誰も僕を責めようとしない。

 どころか、遠巻きに距離を取って、腫れもの扱いする始末だ。

 それが寂しくて、怖くて。

 ――僕がそっちに行くべきなんだ。

 ――みんなはそっちに行っちゃ駄目だ。

 声が届かないのなら、直接その手を掴んで止めなければ。

 そうして一歩踏み出した、刹那。

 ――ワタシはこの神社の狛犬の化身、コマである!

 と。

 聞き慣れない声が響いて、僕は反射的に足を止め、振り返る。

 そこには、昨日出会った自称狛犬の少女が立っていた。

 夏用の制服を身に纏い、日曜の女児向けアニメのお面を被った、季節外れで常識外れな格好の少女を見て、僕は思い出す。

 そうだ、僕はこの少女にハンカチを返さなきゃいけないんだ。

 ――アキは素敵な目をしているんだ、もっと自信を持って良いと思うぞ。

 アニメ絵のお面で、顔は全く見えないというのに。

 僕には、少女が満面の笑みを浮かべているように見えた。

 全く、本当に都合の良い夢だ。

 自分の夢に呆れて、僕は失笑した。

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