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(4)――大切な友達のために、足を止める気はなかった。

 保健室を出ると、教室のほうから生徒達の声が聞こえてきた。

 恐らく、六限目が少し早めに終わったクラスがあるのだろう。それがあいつらのクラスでない保証はどこにもない。であれば、チャイムが鳴るまで本当に時間がない。

 教室へ自分の荷物を取りに行く時間はない。

 そう判断した僕は、その身ひとつで学校を飛び出し、自転車を取りに向かった。

 こんなとき、頭は余計なことばかりを考える。不安と恐怖が綯い交ぜになって、あることないことばかりが様々に想像を巡らせてしまう。こんなときばっかり想像力豊かでも、意味がないというのに。

 背後から、六限目の終わりを告げるチャイムが鳴るのが聞こえた。ああくそ、いよいよもって時間がない。

 心臓を誰かに掴まれているような感覚に襲われながら、僕は走る。自転車を隠している場所までは五分とかからない場所なのに、三十分も歩き通したような気分だった。

 果たして、僕の自転車は無事だった。

 先生受けの良さを保とうとするあいつらのことだ、授業が終わってから、べらべらと喋りながら、ゆっくり神社へ向かうに違いない。大丈夫、これなら僕のほうが先回りできるはずだ。それなら確実に少女を神社から脱出させられる。

 鈍い痛みを訴え続ける身体に鞭打って、僕は自転車に跨がり先を急ぐ。

 学校から神社までを繋ぐ道は、三つ。

 国道か、県道か、農道か。

 僕は一瞬だけ迷い、それでも確実性を取って、僕は県道を選んだ。こんなときに一か八かの賭けで農道を選び、変な場所に出てしまったら目も当てられない。

「――わっ」

 道路の亀裂にハンドルを取られ、転倒してしまった。受け身も取れなかった僕の身体は、無様にコンクリートの地面に叩きつけられた。田舎の道路は整備不良のところが多くて、本当に嫌になる。しかしそれは、いつもなら普通に避けられていたものだった。

「くそ、くそ……!」

 悪態をつきながら、倒れた自転車を起こす。

 気持ちばかりが急いだって、ろくなことはない。

 落ち着いて、冷静に。

「――あ」

 ふいに神社のある方角へ目を向けた、その先。

 その木々の隙間から、数人の人影が見えた。

 この距離では顔までは判別できないが、人影は三つ。全くの別人であればと願うが、この状況ではあいつら以外だと思うほうが難しい。

 このままじゃ、あいつらのほうが先に神社に着いてしまう。

 ――アキに一言もなくここから出て行きはしない。

 昨日の約束が、まるで呪いのように頭の中で反響する。それを振り払うように、僕は乱暴に自転車に乗り直した。

 かつて経験したことのない不安と吐き気で、視界が歪むような錯覚を覚える。それでも僕は、先へ進むのをやめようとは思わない。

 あのときああしていれば、なんて後悔は、もうしたくないんだ。

 だから僕は、どれだけの恐怖と不安にまとわりつかれようとも。

 大切な友達のために、足を止める気はなかった。

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