乙女ゲーヒロイン、逃げ帰る。
仙李が来て少し経った後、私は席を外した。外に出て自販機に向かい、琉依に電話を掛ける。事情を説明し、しっかり怒られてから電話を切った。
「お、いたいた莉愛ちゃ〜ん」
突如背後から聞こえた声に驚く。
「水谷先輩…びっくりさせないでください」
「はは、ごめんって」
私はこの人がどうも苦手だ。ゲームをプレイしていた時は格好良いと思ってたけど、初対面がアレだったし、今では良い印象が無い。毎日来られるのは良い迷惑だ。
「…莉愛ちゃんってさぁ」
「はい」
「やっぱり男好きなの?」
「…は?」
何故そうなる。
「今日もそうだけど、いつも男子に囲まれてるよね~」
「今日は只の偶然ですよ。いつものは…私だって不本意なんです」
「でも…会長とか、日向くんだっけ?あの子とも仲良いよね」
「花野先輩は生徒会に勧誘してくるだけだし、葵とは幼馴染みなので」
まぁ疎遠気味だったけど。
「ほんとに…狙ってないのかなぁ?」
「狙ってないです。彼氏いるのに何で他の男狙わなきゃなんないんですか」
「ふ~ん…」
いい加減しつこい。違うって言ってるし、もし私が男好きだったとしても仙李には関係ない。
「あの2人と普通に仲良くしてるならさ、俺とも仲良くしてよ」
「嫌です」
「え~何で?あの時の事まだ怒ってる?ごめんって〜」
「毎日来るのやめたら考えます。女子の目が怖いんですよ」
「ん~、やだ♡」
「はぁ、もう戻りますよ。…あ、そうだ先輩」
「ん?なになに?」
「私が男好きって噂、誰から聞いたんですか?」
噂の出所について何か知れたら良いんだけど。
「俺は1年女子から聞いたよ~。その子達も他の子から聞いたらしいけど」
「そうですか…ありがとうございます」
結局大した情報は無しか。何とかしないと、友達出来ないんだよな~。
仙李と館内に戻る。そこからは普通の勉強会だった。仙李は勉強道具なんて持ってきていなかったので、図書館の本を読んでいた。読書なんてしなさそうなのに、本に向き合う横顔はしっかりイケメン。意外に様になっているのは、流石攻略対象と言った所か。
丁度良い時間になり、何となく解散となった。紫陽はバスで、仙李は何処かに乗り捨てて来た自転車を回収してから帰るらしい。私と葵は自転車で来ていたので、途中まで一緒に帰る。葵と2人きりになるのは随分と久し振りな気がする。
2人で海沿いを走る。夕陽が海を朱に染めていて、何だかロマンチックだ。
葵が自転車を停める。
「莉愛、何か最近仲良い男子多いよな」
「そう?」
「だって、紫陽先輩とか水谷先輩とかよく話しかけて来てるし」
「水谷先輩とは仲良くないけど…」
「そうか?仲良いと思うけど」
「良くない」
葵は食い気味に否定する私に若干引く。
「お、おお…そうか。あ、それにさ、鳳ともよく話してるよな」
「まぁ隣の席だし、お互い友達少ないからさ〜」
嘘、ちょっと見栄張った。同学年には葵と紅牙以外に仲良い人いない。少ないと言うよりいないの方が正しいかも。
「そうなのか?鳳は兎も角、莉愛ならできそうだけど」
「う~ん、なかなかねぇ…はは…」
誰のせいだと。
「…莉愛、あのさ」
「なぁに?」
葵の方を振り向くと、その後ろにオレンジの影が見えた。自転車に乗ってこちらに向かって来ている。
一応ペダルに掛けた足に力を入れる。
「俺達…昔は仲良かったよな。家だって近かったし、よく遊んでた」
「そうだね」
あの影、何やら見覚えがあるような。というかさっきまで一緒にいたような。
「でもいつの間にか疎遠になって、高校入ってからまた話すようになって…」
「うん…」
いや、気の所為。こっちに手を振っているけど気の所為。髪がオレンジに見えるのも夕陽のせい。
「でも莉愛は、他の男子とも同じように話してる。俺さ…何かそれが嫌で…」
「そっか〜」
あれが仙李のはずがない。他人の空似とかだ。そうに違いない。そうであってくれ。
「俺、それが何なのか考えて…気付いたんだ」
「うんうん」
「俺…莉愛の事、ずっと好…」
「…愛ちゃ~ん!!」
葵が何か言っていたが、最後まで聞き終える前にペダルをぐっと踏む。そしてそのまま全力で漕ぎ出す。まるで競輪のように曲がり角をドリフトして逃げる。
「え、莉愛!?」
「あ~、莉愛ちゃん行ってっちゃった」
「水谷先輩!!」
「一緒に帰りたかったのに…残念」
全力で逃げ帰ると、家の前に琉依がいた。綺麗なお顔が怒りに歪んでいるけれども、今はそれすら安心できる。途轍もなく息切れしてる私の様子に、琉依の顔が怒りから困惑に変わっていく。
「…何、どしたの?」
「はぁ、はぁ…。いや、ちょっと…ゲホッ」
咳き込む私の背中を擦ってくれる。私の彼氏、優しい。
取り敢えず私の部屋に入り、事情を説明する。全てを聞き終わった琉依は、何とも言えない顔をしている。
「あー、何と言うか…お疲れ」
「ほんとに…疲れた…」
まさか仙李が来るなんて。偶然にしろ追いかけて来たにしろ、一緒に帰るなんて御免だ。
「あれ、琉依は何で此処に?」
「説教」
ですよね~。
「男3女1はマズいって。何かあったらどうすんの。特に仙李とか」
「はい…ごめんなさい…」
ちゃんと正座してありがたーいお説教を聞く。
「偶然なのは分かるけどさ…もうちょっと気ぃつけよ、狙われてるかもしれないし。特に仙李とか、前科あるじゃん」
また仙李だ。琉依は仙李が嫌いらしい。
「でも周りに人いたし…。仙李とも、2人きりでも大丈夫だったよ?」
「は?……大丈夫、ねぇ」
突然、視界に天井と琉依の顔が映る。背中には床の感触。
…私は琉依に押し倒されていた。
「こんな事されても大丈夫だって言えるか?」
琉依が冷たい目で見下ろしてくる。腕は押さえ付けられていて、振り解こうとしてもびくともしない。
うわ、男の子ってやっぱり力強いな。こうなったら抵抗すら出来ない。…成る程、琉依の言いたい事が分かった気がする。確かに迂闊だったかも。
「琉依…分かった、今度から気をつけるから離して」
無駄に綺麗な顔が近くて心臓が保たない。ギャルゲーの主人公って皆こうなの?
「…分かったなら」
ガチャ
「莉愛〜今日のよ、る…」
突然ドアが開き、お母さんが顔を出した。全員固まり、暫く沈黙が続く。
「…あらやだ、お邪魔しちゃった~」
「ちちち違うんです、これは」
「ごめんなさいねぇ、どうぞ続けて?」
そう言ってお母さんはドアを閉め、私と琉依が取り残された。
「…あ~、俺も…帰るわ…」
「そ、そっか…じゃあね…」
その日はそのまま琉依を見送った。
「あら、琉依くんとはもう良いの?お母さん気にしないのに」
「そういうんじゃないから!そこまで行ってないから!!」
…今はまだ。
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