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ギャルゲ主人公、花見に行く。

 今日は待ちに待った花見デートの日。俺は待ち合わせ場所の桜の木まで向かっていた。100年以上生きているとされているその木は百年桜と呼ばれ、待ち合わせ場所としてよく利用されていた。

 桜の木に着き莉愛を探すが、姿が見当たらない。視界の端に一瞬桜色がちらつき、後ろに回り込むとそこには…



 桜の精がいた。




 もとい、莉愛がいた。流石は乙女ゲーヒロイン、顔が良すぎる。

「見つかっちゃった~」

「子供かお前は」

 2人で歩き出し、花見に丁度良さそうな場所を探す。連休中に花見ができる場所は少ないので、公園は人で賑わっている。家族連れが多く、カップルはあまり見当たらない。 

 空いている桜の木を見つけ、レジャーシートを敷く。2人で座ると、莉愛が弁当を取り出した。

「おお!すげぇ〜!」

 弁当箱の中には美味そうなおかずがぎっしりと。おにぎりにスープジャーもついている。豪華な弁当だ。

「いただきまーす」

 早速食べ始める。リクエストした玉子焼きがあったので、食べてみた。甘めでふわふわしている。中はトロッとしていて、すごく美味い。流石、料理上手を自称するだけあるな。





 莉愛が持って来ていた温かいお茶を紙コップに注ぎ、一服する。花見に来たはずが、いつの間にか弁当がメインになっていた。

「綺麗だねぇ」

「そうだな」

 と言いつつも視線は莉愛に向いている。と言うか、莉愛と桜の組み合わせを眺めていると言った方が正しいか。

 『恋狂』のヒロインである莉愛のモチーフは、名字の通り桜だ。そのキャラデザも桜に合う様になっている。桜色の髪はサラサラと風に靡き、空色の瞳はぱっちりとして澄み切っている。まるで青空に伸びた枝に咲く花の擬人化だ。まさに文句の言いようが無い美少女。俺は幸せ者だ。

 ひらっと花弁が目の前に散ってくる。そのまま俺の紙コップの中へ。

「うわぁ~、春って感じだねぇ~」

 風情を感じる偶然に莉愛が目を輝かせる。しかし俺はそんな莉愛にお構いなしに、花弁を取り除いた。

「あ~!ちょっと琉依!何で取っちゃうの!?」

「だって邪魔だし」

「も〜!ばか!若白髪!」

「白髪じゃねぇし。そういうキャラデザだし。」

 ポカポカ殴って来る莉愛をスルーしながらお茶を飲む。風が気持ちいいな。


「…ん?あれ、もしかして…」

「莉愛、どした?」

「あれ秋葉じゃない?」

 莉愛の視線の先には、長い茶髪に赤い瞳の美少女が立っていた。

 あれが秋葉か。いかにもライバルキャラって感じだ。整っているが、冷たい印象を与える顔立ちをしている。

「やっぱり秋葉だ!ちょっと行ってくる!」

 そう言って秋葉の元に駆け出す莉愛。む、何か取られた感じがする。聞き耳たててやろ。

「楓さん、偶然だね!」

「…あぁ咲良さん、こんにちは。」

「楓さんもお花見?」

「少し散歩しに来ただけ。」

「そっか〜!ここの桜綺麗だよね~!楓さんはよく散歩しに来るの?」

「別に」

 …ドライ!大分ドライな反応されてますけど莉愛さん!?絶対距離とられてますけど!?そんなグイグイ行っていい感じじゃないですけど!!

「そうだ!百年桜見に行こうよ!満開なんだよ~!」

「そう。…アンタの頭みたい」

うわぁ凄い嫌そうな顔してる〜。というか最後。俺には聞こえたぞ。

「いい、遠慮しとく。もう戻ったら?彼氏さん待ってるよ。」

「大丈夫だよ~待たせても。ねっ、琉依!」

 いやそれ断り文句!俺への遠慮とかじゃなくてシンプルに嫌がってるやつ!!

「あ~いや、え~っと」

「ほらいいって!早く行こ!」

言ってない。決して言ってないぞ。






 結局莉愛は秋葉を引きずって百年桜を見に行き、俺は大人しく留守番をすることにした。暫く座っていると、見たことのある顔が目の前を通りがかった。

「あら、橘くん。偶然ね」

「藤堂先輩、こんにちは」

 紫乃が挨拶をしてきた。その後ろには何人かがついている。殆どは知らない顔だが、1人には見覚えがあった。

「先輩も花見ですか?」

「えぇ、生徒会の役員でね」

 という事は…

「おっ、君は新入生代表くんじゃないか〜!1人で花見か?」

見覚えのある1人は生徒会長だったか。確か木下とか言う。相変わらず声がデカくて元気そうだ。

「会長、そんな大声で言っちゃ可哀想ですよ」

と紫乃が嗜める。

「そうか、すまん!!」

 何か勘違いされてる。1人でレジャーシートまで敷いて花見してる悲しい奴だと思われてる。

「いや1人じゃないですよ。今はたまたま1人ですけど」

「いい、皆まで言うな!分かってるからな!」

「いや、だから…あぁ、もう良いやそれで」

何かもう訂正するのも面倒臭い。


「それより、生徒会の皆さんって随分仲が良いんですね。委員会で花見とかって、あんまり聞かないと思いますけど」

「あぁ、もうすぐ選挙だし、このメンバーでの活動も終わりが近いからな!最後に思い出作りしたいって、藤堂が発案したんだ!」

「ちょっ、会長!!」

「へぇ~、そうなんですか〜」

 いつもクールぶってるくせに、割と可愛いとこもあるもんだ。

「もう行きますよ!!」

 

 紫乃は生徒会を引き連れて何処かへ行ってしまった。入れ違うように、莉愛が帰って来る。

「ただいま〜。今の人達誰?」

「俺んとこの生徒会。向こうも花見に来たんだってさ」

「ふ~ん…あの女の人は?先輩?」

「藤堂紫乃。ヒロインの1人だよ」

「へぇ~、あの人が…」

 莉愛が若干不機嫌になる。こうなるとちょっと面倒なので、何とか気を逸らそうと話題を変えた。

「そう言えば百年桜は?どうだった?」

「綺麗だったよ~!秋葉は途中で帰っちゃったけどね」

「あぁ、そうなんだ…」

でしょうね。

「秋葉は桜嫌いらしいよ。何でここ来たんだろうね~」

「嫌いって、秋葉が言ってたのか?」

自分の趣向とか莉愛には言わなそうだけど。

「うん、桜好き?って聞いたら、今嫌いになったって」

「どんな流れでそうなったんだよ」






 秋葉の手を引き、百年桜まで連れて行く。百年桜は満開で私達を出迎えてくれた。

「綺麗だね~、百年桜!」

「…そうだね」

う~ん。やっぱりテンションが低い。大分嫌われてるなぁ。

「楓さんは桜、好き?」

 突然風が吹く。乱れた髪を耳に掛け、秋葉に向き直る。


「…嫌い」

「え?」

「今、この瞬間。嫌いになった。」

「え、どういう」

「じゃあ私はこれで」

「あ、ちょっと…」

…行っちゃった。






「という事があって〜」

う~ん。何と言うか。

「桜見に来た筈なのに、上質な百合を見た気分だわ」

「…?どういうこと?」

「いや、何でもない」

今日はもう帰るか。

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