乙女ゲーヒロイン、チャラ男に出会う。
入学式から1週間後。私は放課後の廊下を1人で歩いていた。殆どの生徒は部活に行き、廊下に人気はない。
入部は既に終わり、私は無事に帰宅部になった。これで葵ルートと仙李ルートは回避できた訳だ。特に仙李は他学年だし、このまま会わずに終わっていくのかもしれない。
…と思っていた時期が私にもありました。
「あれぇ?君、咲良莉愛ちゃんだよね?俺とお喋りしてかな~い?」
「水谷、仙李…先輩」
「俺のこと知ってるんだ〜」
「はは…まぁ…」
曲がり角の出会い頭突然ナンパをかましてきたのは水谷仙李。『恋狂』の攻略対象だ。オレンジの長髪を後ろでまとめ、緑の瞳はヘラリと緩んでいる。紅牙ほどではないが着崩された制服に開いたピアス。典型的なチャラ男だ。その派手な女関係は、既に1年生の耳にも入っていた。
「俺さぁ~、さっき女の子にフラれちゃって。このまま帰るのもヤだし、ちょっとお喋りしようよ~」
「はぁ、お喋り…ですか」
どうしよう。ここで断るとゲーム通りになる。出来るだけ恋愛フラグは避けたい。立ち話くらいならいいか?
「ちょっとくらいなら…」
「ほんと?やった〜。じゃあ自己紹介からね。俺は2年2組の水谷仙李。好きな物は可愛い女の子〜!よろしくね!」
えぇ…そんな自己紹介聞いてよろしくなんてできないんだけど。ちょっとくらいならって思ってたけど、もう既に帰りたい。
「1年3組の咲良莉愛です…」
「俺ねぇ、君の事知ってるよ?新入生代表めっちゃ可愛い子だなぁ~って、ずっと気になってたんだぁ」
「そうですか…」
若干げんなりしながら話に相槌を打つ。そこから私達は世間話をし始めた。
「あ、もうこんな時間だ〜」
ふと時計を見た仙李が呟く。時間を確認すると現在17時半程。結構話し込んでしまったみたいだ。
仙李は話が上手かった。流石はチャラ男と言った所。
「そうですね、じゃあ私はこれで…」
「ねぇ、莉愛ちゃん」
突然腰を抱かれる。驚きで動けない私に仙李が続ける。
「この後俺の家来ない?」
コノアトオレノイエコナイ?何の呪文?相手に吐き気を与える呪文とか?
いやいや待て待て。まだ家のペット見に来なよ~の可能性もある。きっとそうだそうに違いない。
「話してて楽しかったしさぁ。もっとイロイロと莉愛ちゃんのこと知りたいな~って」
はいアウト。無理無理キモい。腰抱くな。
触られてる所からジワジワ汚染されるような気がする。ゲームじゃこんな誘いじゃなかった。お茶とかの誘いだったのに。
「彼氏いるんで…そういうのはちょっと…」
腰に回った腕をそっと退けながら言うと、仙李は意外そうに目を見開いた。
「へぇ~、乗って来ないんだ。噂と違うね~」
「噂?」
「莉愛ちゃんが男とっかえひっかえしてるって噂〜。誘えば絶対乗って来ると思ったけど、噂ってアテになんないね〜」
何その噂。知らないんだけど。そんな噂流れてるの?しかもその噂聞いて話しかけて来たって事?
気持ち悪過ぎる。『恋狂』はそんな生々しくなかった。肉欲なんて絡まない純粋な恋愛だった。だからときめいてたのに。
「でもホントにいいの〜?俺の方が絶対彼氏より満足させてあげられるよ?」
「いや無理〜!無理無理キモい!彼氏持ちって言ってるじゃん!何で誘って来るの!?何で琉依と張り合えると思ってるの!?というかまだそこまで行ってないし!全然純愛だし!」
ヤバいと思ったが時既に遅し。心中を全て曝け出してしまった。思わず敬語も忘れて罵倒したが、怒っただろうか。
恐る恐る様子を伺うと、仙李が突然笑い出した。
「ふふっ…ははは、あはははは!!」
何が面白いんだコイツ。
「はぁ~あ。噂とこんなに違うなんて、面白いね君。やっぱり彼氏なんてやめて俺にしない?」
「しません!からかうのも大概に…」
「本気だよ。」
は?いやいやそれはマズい。頼むから冗談であって。
「俺さぁ、略奪愛も良いと思うんだよね~」
仙李がじりじりと近付いて来る。それに対し私は少しでも距離をとろうと後退りするが、背中に壁が当たった。しまった、追い詰められた。私の顔の横に仙李が手を付き、耳に顔を寄せてくる。
ぎゃあ、壁ドン!琉依以外にされても嬉しくないし!キモい!
「絶対…オトしてみせるから」
ゾワッ
「寝取り地雷です!」
半ば突き飛ばすように仙李を押し退ける。走って逃げながら、まだ吐息の感触が残る耳を強く擦る。
鳥肌が止まらない。(一応)初対面の男に耳元で囁かれるとかホラー以外の何物でもない。しかも興味持たれた。大分マズい気がする。調理部入ってないのに何で?
「はぁ~疲れた…」
夜。あの後家に逃げ帰った私は、湯船に浸かって考え事をしていた。
恐らく仙李との恋愛フラグが立ってしまった。仙李からの誘いを断るという点ではゲームと同じでも、ちゃんと彼氏がいる事は言った。それでどうして狙われる事になるのか。
それにこの先どうしようか。アタックされるのは面倒だ。私が仙李に靡く事はありえないけど、あの様子じゃそう簡単には諦めない。
考える事はそれだけじゃない。仙李が言っていた噂の出所が気になる。
心当たりが無い訳じゃない。私は普段葵や他の男子によく話しかけられているし、紅牙にも積極的に話しかけている。見ようによっては男好きに思われなくもない。
だけどそれだけだ。男子と一緒に遊びに行ったとか、2人きりになったとかは無い。というか、秋葉を筆頭に女子にだってよく話しかけている。自分からで言ったら女子の方が多いくらい。
それに早すぎる。いくら噂が広まるのは早いからと言って、他学年にまで広まるか?元々女好きと噂されていた仙李と違って、私は入学してまだ1週間なのに。
誰かが意図的に流している。誰かは分からないけど。
私の学校生活を知っていて流しているならクラスメイトの線が高い。だけど私の1学年上の仙李が知っているという事は、上級生が適当に流している可能性もある。
秋葉である線は薄い。秋葉にそんな人脈はないし、まだヘイトもそこまで高くない。トップの座を手に入れようと、勉強に必死なはず。
じゃあ、一体誰が…
考えている間に随分時間が経っていたようで、のぼせてしまった。風呂から上がって火照った身体を冷まし、部屋に戻ると、丁度琉依から電話がかかってきた。
その後の事はお察し。
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