雪山温泉での接近遭遇は、綿帽子へと続く。
拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。
雪山×温泉×スノーリゾート。
鉄板冬のお楽しみを満喫しようと友人に誘われてきたが、あこや的メインは温泉である。
ふやけるんじゃないのと呆れられたがいいじゃないか。昼と夜では別の味わいがある。
特に、深夜の独り占めは格別だ。
だがお目当ての露天風呂に入ってまもなく。
物音に顔を上げれば、タオル以外にも抱えた男性が立っていた。
「っきゃ」
悲鳴が詰まったのは、やんでいたはずの雪が口に飛び込んだせいだ。
「ちょい待って!俺痴漢でも変態でもないから!てかここ深夜帯は混浴だから!」
「え」
「めったに誰も来ないからのんびり雪見酒しに来ただけ!……ごめん、そっち見ないし端っこでいいから入らせてくださいお願いします身体洗ってきたらマジで寒すぎ」
「あ、はい」
震えた声の勢いに押され、あこやはかくかく頷いた。
「ありがとう!…あ゛~~、生き返るぅ」
水音に続いて聞こえた溜息は、心底本音が漏れていて緊張を溶かした。
「ごめんね。なるべくすぐ出るから」
「わたしも混浴って初めてだったので、気づかなくて。男女一日交替とかよくありますけど」
「……ここの混浴って、人と妖もなんだけど、それは大丈夫?」
「え?」
思考停止。もう一度悲鳴を上げかけたあこやの喉へ、またも大きな牡丹雪がストライク。
「だから悲鳴は待ってって。……といっても、正体不明な相手は怖いか。雪男って言ったら、少しは安心してくれる?」
「雪男」
「類人猿系じゃないからね言っとくけど!雪女の一族だから!あと約束破らない限り氷づけとかしないから!」
なるほど、雪の妙な動きも納得だ。でも雪男が寒がりって。
「雪を降らせたり止ませたりはできるけど、寒さ耐性ってないの。ねーさんなんか、おしゃれは根性!とかいいながら、雪の中でも単衣で過ごしたりするんだけど、俺にゃ無理。てか、信じてくれたんだ」
雪男って言っても、何それ冗談ならいい方で、酒の銘柄?とかな……と、しょんぼりした声に交じって、かたりと音がした。
「ああごめん、早くあったまって出るのに呑んでる。『六華の雫』っていってね、雪の結晶を丁寧に漉して作る酒。超絶端麗辛口なんで、甘党のねーさんは大嫌いなんだけど」
「あの、わたし和菓子職人なんです。雪饅頭作りの。その酒種使ってます」
「へえ?」
やがてあこやの店に体格のいい青年が住み込んだ。あこやが青年のために綿帽子をかぶり、『とろけそうなほど甘い和菓子店』として有名になるのは、また別の話である。
雪女や雪童子がいるのなら、雪男がいたっていいじゃないか。
もちろん、類人猿系UMAではなくて。
……というところから書き始めたはずなんですが。
なんで雪男末永く爆発しろになっちゃったんでしょうね?
なお、童謡のせいで、雪の積もった様子の表現という意味でとられることが多い気がしますが、『綿帽子=角隠し』です。和装花嫁さんのかぶる帽子。
冬らしさも出るかなと、ダブルミーニング的に使用。
文中には出せませんでしたが、女性主人公の名前はフルネームで決めてました。
『水無月あこや』といいます。
水無月もあこやも和菓子の名前から採っています。
あこやの友人や雪男君は名前なし。あくまで主人公はあこやですから。