第八話 水界に飛ばされたと思ったら現実に戻ってきたんだが・・・
「誰がゴミだよ」
俺は黒服の男の酷いゴミ呼ばわりに反応する。
「決まってるだろ?お前だよ。勇者の力はお前には相応しくない」
黒服の男は前に会った時と同じように余裕のある感じでそう言った。
(そんなのわからねぇだろ!)
「そんなのわからねぇだろって言いたそうな顔してるな。分かるんだよなぁ俺には」
おもっきりバレてた……
そう思った直後だった。男は武器を虚空に掲げた。
何をするつもりだ?
バイって呼ばれてた鎌巫女が割り込み話し出す。
「やっちゃうんだ♡バイバイ秋橋くん♡」
やっちゃう?どういう意味だろう……?
そう思った俺のあとにサテラが焦ったように口を開く。
「まさか……転移魔法!?」
「そのまさかさ」
男が意気揚々とそう言い放ち、武器はなにやら厳ついメタリックな装飾が施される。その後に円を描いたフラフープのような形に変形する。
その直後、その間0.4秒くらいだろうか。
俺の眼前には青い光がほとばしっている。
「ぐわぁ!?」
俺は叫んだ。眩しい!
そしてふと目を開けるとそこには……
見覚えのある景色……学校への通学路だった。
突然の出来事に動揺を隠せない。
「……は?」
あれ?戻ってきた……?サテラは?カプセルは?
転移魔法ってまさか……現実世界への転移ってことか!?
俺は放心状態になり一分くらいポカンとそこに立ち尽くしていた。
「と、とにかく戻ってきたのか俺!やったぜ!!」
そしてスイッチが入る。
複雑な感情だが、現実世界に戻れたことは何よりも嬉しい。もう異世界なんて懲り懲りだ。
しかし、懸念要素はある。
「でも……サテラ達が大丈夫な訳がない。しかもまた突如水界に飛ばされるかもしれない」
俺は独り言をぶつぶつと喋り出す。
ふと目をやると通りすがりが引いた顔でこちらを見ていた。
(やべ……変人だと思われてる)
いや実際変ではある。別世界に行って帰ってきた人間なんて変人を通り越してもはや奇人だ。
(とりあえず家に帰るか……)
そう思って歩き始めて俺は気付く。
「そういえば今何時だ?空は明るいし10時くらいだろうか」
空を見ながら俺はそう呟く。
その時、女の子の声……それも聞き馴染みのある声がした。
「遅刻!遅刻〜!!あ、鈴秋!?」
そいつは制服姿でまさに登校中って感じのなりをしていた。
茶髪のボブヘアーがユサユサと揺れ、あんまり言いたくはないが制服の赤いリボンがよく似合う。
「桜井……ってか相変わらず鈴秋って呼ぶのなお前」
その鈴秋とか人の名前を簡略化……というには出来てないし、呼びやすい訳でもない変なネーミングで俺を呼ぶ同クラスの女の子。名前は桜井 祈。
相変わらず遅刻してるんだな。
「今10時だろ?平田先生もお怒りだろうな」
その俺の発言に桜井は笑い出す。
「何言ってるの!鈴秋なんて無断欠席……それも三日間連続!行方不明で捜索願いも警察に出されてるよ!」
「全然笑えねぇよ!」
嘘だろ……現実だとかなりヤバい事になってるみたいだな。
「そうだよ!笑えないけど笑っておいた。と、とにかく!もう行くね私!」
意味わかんねぇ。いつもの事ではあるが……
桜井はそのまま自転車で駆け出す。「平田先生に鈴秋いたって伝えとくね〜」
っとか言って早々に行ってしまった。
「マジかよ〜。なんか色々と面倒なことになりそうだぜ……特に家に帰ったら親になんて言やいいんだ?」
別世界に飛ばされて、そのまま三日間あっちの世界で〜……
なんて言えるわけない。
そう辟易しながら俺はトボトボと帰り道を歩き出す。
隣には金網の中に線路が見える。
……ん?
俺は目を疑う状況を見た。
「イノリンは学校に行っちゃうし。つまんな〜い!でも面白い物見つけちゃったし私ってばついてるぅ!」
……
(というかイノリン?まさか桜井のことじゃないよな……?)
イノリンというのは、祈から取ったあだ名だろうか?
俺は何となく聞いてみなきゃいけない気がして桜井とイノリンが同一人物であるのか聞いてみた。
「あの〜イノリンって桜井祈であってる?西夢高校の」
線路の上を歩く変人に俺は話しかけてしまった。てか線路から降りろよ危ないな。
降りろよ危ないな。
「そうだけど……イノリンの知り合いかな。面白い物発見!!」
そういうとそいつ……じゃなかった。その人は金網の上をジャンプで飛び越えて俺の所まで来た。金網は高さ二メートルはあった。
俺は目の前の光景に開いた口が塞がらない。
それとさっきまでちょっと距離があって姿がよく分からなかったが……
こいつ桜井に顔がそっくりだ。茶髪だし髪型もそっくりだ。目の色も同じくピンク色をしている。
こいつ呼びになったのは高校生くらいの女の子だったからだろう。
「あ!その服、イノリンの通ってる学校……えーとたしか西馬高校?のやつじゃん!」
「西夢高校な!」
俺の鋭いツッコミにそいつは「あーそうだったわ」と軽く謝る。
「ってことはさ、イノリンと同じ高校かな?」
「そりゃな。それがどうした?」
何が言いたいのか……
そう俺が思った次にそいつはまたもや謎めいたことを言う。
「じゃあ私と同じクラスの可能性出てきたね!」
当然のようにそう言うオルナンに俺は疑問の声をあげた。
「は?」
声を漏らす俺。
(こんな奴いたっけ?)
「まさか……転校生?」
西夢高校なんてレベルは低いし誰でも入れるし……
尚更あり得る。
「まぁそうなるかな。あ、今思い出したけど秋橋君って聞いたことあるかも!」
わっははってな具合でその子は笑う。
「え?」
俺は困惑の声を上げ、その子は話を続けた。
「秋橋君は欠席続きの不登校人って噂されてたような」
俺は引いた目で見ていたがハッと気づく。
耐え難い現実に頭を抱える俺。
その様子を見てそいつは口を開いた。
「いきなりだけど私の名前は……オルナン。オルナン・レアメタル!
とある世界の英雄となった女!そしてこの世界でも英雄になってやるつもりなの!」
「な、なんだよいきなり……き、気持ち悪い」
しかもオルナンって外国人か何か?
ふざけてんのか。
俺はそう思い少し苛立つ。
「ふざけてるつもりなのか?俺は今結構キツイ状況なんだよ。冷やかしなら帰ってくれ」
そう冷たく言い放ち俺は早々に家に帰ることに決めた。
(なんだよホント)
「イノリンの友達なら、私の友達ってことでもある。悩みがあるならこのオルナン様に話してみなよ!」
後ろからグワッとオルナン(絶対嘘だろ)って名前の変人が着いてくる。
「しつこいな〜!祈のやつ、変な友達を持ちやがって」
そうイライラしながらそいつの方を振り返ると俺は驚く発見をする。首元にペンダント……そう"勇者の形見"を付けている!!
「お、おい!お前それどこで見つけた?」
俺はペンダントを指差しオルナンに迫る。
急なことにオルナンはビックリしたのか後退りをする。
「ど、どこって線路の近くだよ?危うく列車に潰されそうだったから英雄の如く救出したまで!」
女の子特有の高い声でオルナンは高らかにそう豪語した。
「ナイス!!ちょっとそれ返してもらうぜ?所持者は俺だ!」
俺はオルナンからそのペンダントを返してもらおうとした。
しかし……というかやはりと言いますか。
オルナンは嫌そうにする。
「証拠がないから渡せないねぇ」
「っ……!」
オルナンに核心をついたことを言われて俺は怯んだ。
確かにそうである。証拠などない。
俺はどうしよう……と汗を流す。オルナンはニヤニヤして勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
その時だった。
ペンダントが光を放つ。
「私の持ち主は秋橋さんですよ!!」
聞き覚えのある声で喋り出し、ペンダントはオルナンの首元から俺の首元へキラキラ光りながらワープした。
突然の出来事に両者は目を丸くする。
「あ、例の女の子か!待ってたぜ!」
と俺。
「す、すっごー!!ワクワクする物発見!!」
続けてオルナンが叫ぶ。
二人の大きな声が住宅街に響く。
通りすがりが変な目で俺たちを見ていた。
でもそんなことはどうでもいい!
とにかく水界と関係する物に出会えて俺は嬉しかった。